15.相棒との出会い③
「コレット様、私商会を立ち上げようと思うのだけれど、一緒にやりませんか?」
目の前の彼女の顔から笑みがすっと消えた。真剣に品定めをする目つきで私を見据える。
「……なぜ私に声をかけたか、聞いても?」
「私に足りないものを持っていると思っているからです」
男爵家の跡継ぎとして貴族会にも顔が利き、実際に実家の商売に関わって貿易商にも面識がある。なおかつ、平民にも対等に接し、広く情報を仕入れるコレットの力は単純にすごいと思った。
「貴族相手に商売をしようと思ってないので、私ではまた視野が狭いと思っています。まだ考えてる段階ですが、商会を女性のために立ち上げようと思ってるので、広く人脈があり、広い視点で判断ができる女性と仕事がしたいのです」
「お褒めいただきありがとうございます」
「あと……」
小さい頃から色んな思惑に取り巻かれてきた。そんな私だからこそ分かる。私の立場を利用しようと近づいてきた人間とは違うと確信している。
「単純に好きだからよ。貴女が欲しいの」
彼女の手を両手で包み込み、真っ直ぐに目の前の赤い瞳を見つめれば、彼女は目を見開き、そして数秒後、諦めたようにため息を1つついた。
「リリアーヌ様は変わったお方ですね。……分かりました、ひとまず3年間という約束でどうですか?」
「もちろん、3年で絶対に成果を上げてみせるわ! コレット様!」
思わず握っていた手を離し、彼女の身体を抱き寄せる。淑女らしからぬ、と言われるかもしれないが、私の未来に彼女が必要だ、と思ったからこそ、本心で嬉しかった。腕の中から悲鳴があがったのは無視して腕に力を込める。
「……リリアーヌ様が商会長となるのですから、私のことはコレットとお呼びください」
「コレット、これから頼りにしてるわ。……周りの目がある時は無理だけれど、2人の時は私のこともリリアーヌ、いえ、リリィと呼んで頂戴」
身体を離し、そう伝えたら、再び彼女は驚いたように目を見開いた。
「2人でいるときは、遠慮せず意見をしてね」
「……リリアーヌ様、いえ、リリィは、家柄や地位を気にしないのですか?」
彼女は将来家を継ぐことになるとはいえ、男爵家の息女。対して私は、公爵家跡継ぎの婚約者がいる侯爵令嬢。普通に考えれば、彼女が私に対して遠慮なく意見を言うことなどありえない。
「今まで私に家を出て生きる術を教えてくれた先生たちは、貴族の者だけじゃなかった」
そもそも、ただのリリアーヌとして生きるために、貴族としての矜持など不要なのだ。私個人の生きる力を誇れるようにならなければ、独立など夢のまた夢。
「独立しようと思ってるのだし、貴女の力を貸して欲しいと願っているのは、リリアーヌ個人なのだから、そんなこと気にしてられないわ」
「そうですか、変わった人ですね。リリィは」
貴族らしくないです、と笑いながら、コレットはカップを傾けた。ともすれば、不敬罪だと言われてもおかしくないような言葉だが、私を貶めるような雰囲気は一切ない。目の前の彼女との距離が縮まったように感じて、少し嬉しくなった。
「それで、リリィは、何から始めようと思ってるのですか?」
「私、欲張りなのよね。好きな人全て幸せになって欲しいの」
特に私の現在に影響を与えている、2人の姿を思い浮かべて、コレットに人となりを説明する。
アルノルト様。
勇者パーティに所属している、魔法剣士。勇者様も、パーティの皆様も危険を冒して魔物から街を守っている。ただ、冒険者ギルドは危険や装備にかかる値段の割に儲からないのが悩みの種だ。実力のある人間の多くは、王国軍へと志願し、軍人として国に仕えることを望む。その方が儲かるからだ。どちらも同じように大切な仕事のはずなのに、冒険者ギルドは下に見られがちだ。
マリー先生。
軍に従軍する今年24歳のとても優秀な女性だ。本人は自分の力で食い扶持を稼ぐための実力を備えているが、女性として生きていく難しさを私に教えてくれたのは彼女だ。女なのだからそろそろ結婚してはどうだと、毎週のように実家から送られてくる見合い写真を見てはため息をついている。この国は、まだどうしても結婚したら女は家庭に入るものという意識が根深い。結婚した女性は、旦那の給料で暮らせるのがステータスと思われているから、結婚してから稼ごうと思うと、家政婦や雑用として安い賃金で働くしかない。
「だから、女性を雇って商会を立ち上げて、冒険者ギルドの力になれるような仕事を始めようと思って」
「? これは?」
私は、机の上にスッと1枚の紙を差し出した。コレットが、それを手に取るのを確認してから口を開く。




