14.相棒との出会い②
コレット・ハイネンという少女は、平民に対しても、貴族に対しても、驕らず、気後れせず、平等にコミニュケーションをとる人物だった。その姿からは、人に擦り寄らず、自分の力で立場を確立しようとしているのを感じた。恐らく彼女の父親も、そうして貿易商人としての立場を築いてきた人物なのだろう。
「お隣、空いてるかしら?」
講義室で、1人座っているコレットに声をかける。
「え、ええ。もちろんです。リリアーヌ様」
突然声をかけたことに対するものだけではなさそうな、驚きように首を傾げる。気まずそうに、聞くか聞くまいか思案しているようだ。ここ数日観察したところ、良くも悪くも彼女は思ったことを素直に口に出すタイプのようだったから意外だ。
「どうしたの?」
「あの、リリアーヌ様。不躾かと思いますが、ご質問してもよろしいでしょうか?」
隣に腰をかけながら、もちろん、と返せば、彼女は意を決したように口を開いた。
「リリアーヌ様は、なぜ経営学の授業を受けていらっしゃるのですか?」
質問を聞いて、何を聞きづらそうにしていたかを理解した。今からこの講義室で授業があるのは経営学だ。この授業をとるのは大抵が貴族の子息。講義室内にも女生徒はほとんどいない。稀にコレットのように、家を継ぐことが決まっている者もいるが、……私はそうではない。この国では、貴族としての領地経営は、男子がやるものとして認知されており、兄がいる私が何故ここにいるのかと彼女は聞いているのだ。
「……貴女に言いづらいことは何もないのだけれど、ここで話すべきではないわね。もし気になるなら後で話しましょうか?」
「ええ、差し支えなければぜひ」
「私、最近気になってるカフェがあるの。コレット様は、今日の放課後空いてるかしら?」
彼女になら包み隠さず話しても良いが、流石にこの教室で話すようなことではない。いずれ公にする話でも、準備ができるまでは変な邪魔が入らないように、なるべく隠しておきたい。
◇ ◇ ◇
「まさかリリアーヌ様に、平民に流行りのカフェに連れてこられるとは思ってもみませんでした」
紅茶を傾けながら、そう言う彼女の言葉に嫌悪の色はない。自分がカフェを利用することに対しての嫌みではなく、単純に私がここにいることへの驚きのようだ。
「気になっていたのだけれど、ここに付き合ってくれるような友人がいなかったの。貴女なら嫌味に思わず付き合ってくれるかしらと思って声をかけたのだけれど、正解だったわね」
ケーキをフォークで取り分けて口に運ぶ。程よい甘さが口の中に広がる。家で出るような高級な茶菓子とは違うが、これもまた幸せだ。向かいを見れば、彼女もケーキを口に運んで笑顔になっている。気に入ってくれたようでよかった。
「ついでに、学園や貴族の耳がある場所では話しづらかったから一石二鳥よ」
「授業を受けてらした理由は、話しづらいことですか?」
無理に聞き出そうとは思ってませんよ、と遠慮がちに言ってくるコレットに対して首を振る。
「いいえ、私が言いたくないわけではないの。広まっても得はない、が1番近いわ。……私、家を出ようと思っているの」
「えっ!!!」
口まで運びかけていたケーキをこぼして、大声をあげる。貴族の娘らしからぬ姿を見る限り、相当な驚きようだ。
「あ、いえ失礼しました。……それは、その、他の貴族の方の家を継ぐ予定だとかそういう?」
「いえ? 単純にリリアーヌ・ベヒトルスハイムとして独立して生計を立てようと思っているの」
「ええ!?!?」
コレットは、目をパチクリさせて、全身で驚きを表現している。侯爵家に生まれた娘がそんなことを言うなんて思ってもみなかったのだろう。私もそんなこと言う貴族には出会ったことがない。
「リリアーヌ様は、フォイエルバッハ公爵家のシルヴィエ様とご婚約されてますよね?」
「ええ、でもシルヴィエお兄様にも、家を出たいとは伝えているの。卒業までに独立する算段が立たなければ大人しくフェイエルバッハ家に嫁いで貴族として生きるわ」
「……なぜ家を出るのか聞いても?」
紅茶を飲むことも、ケーキを食べることもすっかり忘れている様子のコレットは、遠慮がちに私に訊ねる。
「憧れている方がいるの。その方は貴族ではないから、私自身の力でその方と結婚できるようにするためよ」
「あら、素敵ですね。……リリアーヌ様の行動力もとても素晴らしいです」
殺伐な理由ではないことを聞くと、彼女は安心したように紅茶に手を伸ばした。私が経営学の授業とっている理由は理解してもらえたようだが、今日の本題はそこではない。私も紅茶をひと口いただいで、心を落ち着ける。たぶん、ここが1つ目の関門。
私はカップを置いて、真っ直ぐに彼女を見つめると、口を開いた。
「コレット様、私商会を立ち上げようと思うのだけれど、一緒にやりませんか?」




