13.相棒との出会い①
「行ってまいります」
学園へ向かうための馬車へ乗り込み、車内で彼に出会った当時を思い出す。幼かった私は、アルノルト様に出会って、まさに人生が変わった。侯爵令嬢に対して、損得なしに手を差し伸べてくれる人に初めて出会い、その優しい笑顔に初めて恋をした。
私が誘拐されたあの事件から、6年と少しの歳月が経っていた。この春から、当時のアルノルト様が通っていた王立学園の中等部へ進学する。
家庭教師のマリー先生や、紹介していただいた先生のもとで一生懸命勉学に励んだ私は、各国の情勢や、貴族社会の立ち回り方、商会を立ち上げるための知識など多岐に渡るさまざまな知識を身につけた。世間知らずの娘ながら、精一杯彼の元に近づく努力をした結果、家を継いでみるか、と父親に冗談を言われるまでには成長できた。
――ただ、お兄様は、それを阻止するため私以上に知識を吸収しているけれど……。
勉強するということは時として残酷な現実を知ることにも繋がる。侯爵家の令嬢が家を出ることの難しさ。超特級の特殊能力を持ちながら国に利用されない立場を確立することの難しさ――私の力は軍事利用すればかなり有益な力だが、私個人ではアルノルト様が所属する勇者パーティの力にはならないことも特訓の中で痛感させられた。
「この3年が勝負よ……」
貴族の子どもが社交界へデビューするのはおおよそ十六から二十歳。お父様に大人社会へ入っても問題ないと認められたときがデビューの時だ。お兄様は昨年十七になる歳で正式に社交会へと参加した。
私がただのベヒトルスハイム侯爵令嬢としてデビューしてしまえば、独立はかなり難しくなるだろう。長く見積もれば、あと7年……短ければあと3年。お父様にとってみれば、わざわざ家から私を出すようなリスクを冒す必要はないのだから、あと3年以内に結果を出せなければ、アルノルト様の近くへ行く未来はない。
とはいえ、何もせずに諦めるようなお淑やかな性格ではない。この負けず嫌いの性格は、父に似たのか、それとも母に似たのか。いずれにせよ、3年間全力で足掻いてやる。
◇ ◇ ◇
入学式も滞りなく終わり、教室で担任を待つように案内された。座席はどうやら自由のようだ。事前に名簿で同じクラス内に自分よりも身分が高いものがいないことを確認していた私は、最後尾の窓際の席へ最初に腰を下ろした。
その様子を見て後を追うように、貴族の子息や令嬢が席を埋めていく。学園内で身分の差を作らないと国の方針はあるが、理想と現実は異なるようだ。
「お隣、空いてますか?」
侯爵令嬢である私の様子を伺いながら、皆が少し離れた席に座っていくのをぼんやり眺めていると、突然隣から声がかかった。顔を上げるとそこには1人の少女が立っていた。
「ええ、もちろん。どうぞ」
「ありがとうございます。助かります!」
快諾すれば、赤毛の髪をふたつに結んだ彼女は、少しそばかすの浮いた顔に笑顔を浮かべた。人に好かれるような懐っこい笑顔を浮かべる人だ。今まで見たことない顔だから、中等部からの編入組だろうか。
「初めまして、コレット・ハイネンです」
「ハイネン……西の国境沿いの町ね。最近は益々貿易で栄えていると聞くわ」
席へと腰を下ろす彼女を見ながら、記憶の引き出しから情報を引き出す。元々国境沿いにあり貿易で栄えた町だが、ここ十数年で一気に発展したはずだ。町を治める現ハイネン男爵が優秀なのだろう。
「ご存知ですか? 私特殊能力は大してないんですけど、人脈づくりのためにも中等部からは王都にやってきたんです」
「あら? 貴方がお家を継ぐの?」
「はい、一人娘なので。……本当のことを言うと、せっかく同じクラスになったので、リリアーヌ様ともお知り合いになれたら嬉しいなと思って声をかけました」
あっけらかんと笑う姿は、打算的な発言をしても嫌味な感じが全くない。侯爵家の令嬢という立場だと、恩恵の傘下に入ろうと胡麻を擦り近寄ってくる人間もたくさん見てきた。彼女のお知り合いというのは、良き商売相手になりたいという純粋な気持ちだろう。
「恐ろしい方だったどうしようかと、ドキドキしていたんですけど、安心しました」
「あら、まだ出会ったばかりじゃない。恐ろしい方だったらどうするの?」
「こうしてお話ししているだけでも、リリアーヌ様が聡明でお優しいのは伝わってきますよ」
私人を見る目はある方なんです、と胸を叩くしぐさは、貴族令嬢らしからぬ姿だが、緊張感を与えない目の前の相手に好感を抱き、感心した。商売の相手は貴族だけではないだろうし、男性相手に舐められもせず、上手く女性であることを利用した最適なキャラクターだ。




