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12.魔法剣士、兄との遭遇



「アルノルト・エーベルハルトはいるか!?」


座学の授業後、講義室の扉が勢いよく開かれ、顔の綺麗な男子が乗り込んできた。突然乗り込んできた見ず知らずの人物に、いきなり自分の名前を大声で呼ばれて、嫌な気配しかない。


――いや、まぁ相手が誰かは流石に知ってるけど……。


ベヒトルスハイム侯爵家のご子息。2個年下だが、特級の雷特殊能力を持っていて、とても優秀との噂をよく聞く。同級生の女子達が、将来の夫候補としてロックオンして、互いに牽制している。貴族社会はそういうところが苦手だ。


「お前が、アルノルト・エーベルハルトか?」


返事をしていないはずなのに、講義室内の同級生に俺のことを聞いて、ジルベールはずんずんと近づいてきた。


「はぁ……」

「お前か、リリィを誑かした男は……っ!!!」


侯爵家のご子息にこの態度はまずいかなぁ。不敬罪だって言われるかなぁ、とある意味思考停止しながら適当な返事をしたところ、目の前の男が鈍い音共に突然沈み込んだ。


「失礼な態度を取るんじゃない、ジルベール」

「……あっ、シルヴィエ様」


突然視界から消えたことに驚いて、下を除けば頭を押さえて悶絶しているジルベールの姿。そしてその後ろには、同級生のシルヴィエ・フォイエルバッハが立っていた。どうやら状況を見るに、思いきり頭を殴ったようだ。


「すまないな、アルノルト。……ここでは、騒がれそうな気もするから少し外に出ないか?」

「……シルヴィ、エ……お前何する……」


恨めしそうな顔をしてシルヴィエを見上げるジルベールは、頭の周りにパチパチと雷が光る。さっきまでこちらに向いていた負の感情が、全部ジルベールに向かっている。


「うるさい騒ぐな。凍らせるぞ」


目の前の同級生を取り巻く空気が、格段に冷たくなった。脅しではなく、本気のその言葉に不服そうにジルベールは口を噤んだ。


これ以上、講義室で騒ぎになるのも嫌だったので、俺も大人しくシルヴィエの後についていくことにした。



◇ ◇ ◇



連れてこられたのは生徒会室の一室だった。

誰もいないその部屋で同級生のシルヴィエ・フォイエルバッハは、もてなしの紅茶を入れていた。公爵家の子息だというのに、そんなことするなんて変わり者なのかもしれない。


「で、なんの用事があったんですか? シルヴィエ様」

「同級生なんだから敬称はいらないよ。単にシルヴィエと呼んでくれ」


ではお言葉に甘えて、と返せば、気を良くしたように笑みが浮かべた。女子に騒がれても表情ひとつ変えず、誘いは全部断る。『氷の貴公子』なんて呼ばれる彼がこんな顔をするなんて知らなかった。そして、隣に座るジルベールを見れば、不服そうに顔を背けていた。


「おい、ジル。きちんとアルノルトに謝りなさい。アルノルトのおかげでリリィが無事だったんだぞ。……リリィに宣言通り絶交されても知らんぞ」

「……すまなかった」


絶交という言葉が聞こえた瞬間に、ぴくっと反応を示して、心底嫌そうに謝罪の言葉を漏らした。全くもって謝る態度ではない。まぁ、大して気にしてもいないので、シルヴィエが淹れてくれた美味しいお茶を口に含む。


「すまんな。度が過ぎるシスコンだから、リリアーヌがアルノルトと結婚すると言っているのが気に食わないらしい」


聞こえてきた衝撃の言葉にむせ返る。気管に入った。


「……ちょっと待て、記憶違いじゃなければ、リリア、ーヌ嬢は、シルヴィエの婚約者じゃなかったか?」


シルヴィエが、寄ってくる女子達の誘いを断るのに、婚約者がいるからと断っているのをよく見る。シルヴィエとジルベールが従兄弟だということは学園内で有名だし、シルヴィエの婚約者が従妹だというのも聞いたことがあるので、名前までは知らずとも、彼の妹であるリリアーヌ嬢が婚約者と思ってたんだが。


「ああ、……でも小さい頃から一緒にいるし、ジルもリリィも自分にとって家族なんだ。本人が幸せならそれでいいさ」

「……俺は認めないいいい」

「いや、俺も初耳だから、そんなこと言われても」


親の仇かというレベルで、ジルベールに睨まれているが、そんなこと言われても。結局、お茶を飲んで、シルヴィエと話をしている間、ジルベールはずっと俺に敵意をむき出しだった。


――手負いの獣かな。


後に友になる男2人との出会い。

初対面が最悪だったのは、もはや笑い話だ。




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