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11.少女は将来を考える



特殊能力の訓練が終わって、マリー先生にお茶を出す。


「マリー先生、……私家を出たいと思っているのです」


あら、とお茶を口に運びながら、目の前の彼女は驚いた顔をした。ベヒトルスハイム侯爵にもお伝えしたんですか?、と聞かれたので、同じようにティーカップを傾けながら頷く。


「はい、一応相談しましたが、軍はやめておけと言われました」

「あら残念。リリアーヌ様とお仕事できたら楽しいと思いますわ」

「そう言っていただけて光栄です。……今勉強してる教科以外にも授業を増やしていただきたいのです」


経理、経営……、と自分が思いついた科目をあげて、目の前の彼女に伝える。1人で独立するためにはお金の勉強が必要だ。


「リリアーヌ様は、商売をするおつもりですか?」

「はい、自分を守れるように力を磨くことは続けたいですが……。軍やギルドで力を公にすることは、得策ではないと思いまして」

「ところで、なぜお家を出たいのか伺っても?」


彼女に疑問はもっともだろう。侯爵家の令嬢がわざわざ家を出たいと思うこと自体珍しい。本来であれば、他の家に貴族の嫁として嫁ぐのが普通の人生だ。


「……先日、私が誘拐されたことはお耳に入ってますか?」

「はい、犯人を捕らえて、尋問中です。怖い思いをさせてしまって申し訳ないです」


軍が不甲斐なくて、と頭を下げる先生を慌てて止める。謝らせたかったわけではないのだ。軍が悪いとは全く思っていない。治安の悪さは、国を治める王族、貴族の責任だ。


「軍が悪いなどと思っておりませんので、頭をあげてください。……そのときに、助けていただいた冒険者ギルドの方と結婚するにはどうしたらいいかと考えてまして」


私の言葉に対して、あらあら、と先生は微笑んだ。もうすぐに立派なレディね、と私が報告したときに笑ったお母様みたいな顔だ。実際、ずっと親しくしてもらっているマリー先生は歳の離れた姉のような感覚なので、そんな表情になるのも頷ける。


「エーベルハルト子爵家のアルノルトさまと言う方なんですが、ご存知ですか?」

「アルノルトならば、今は勇者のパーティにいますね。それならば、勲章を受ける可能性も高いですし、リリアーヌ様の夢も現実になるかもしれません」

「勇者……?」

「ご存知ないですか? 軍が国の治安を守るように、冒険者ギルドが魔物から国を守っているのはご存知ですよね?」


軍は国を守る。軍は敵対諸国や、犯罪者から国民を守る存在だ。……『人』から守る。

それに対して、冒険者ギルドは国の北から東に位置する森、魔物が住む未開拓の森から国を守るのが仕事だ。……『魔物』から守る。


「勇者というのは、冒険者ギルドの中でも特に魔物と戦う力に秀でた人間のことをそう呼ぶのです。力の強い魔物があれば、勇者が派遣される。そして、力の強い魔物と戦うには、独りでは無謀ですからパーティを組むのです」

「そのパーティに、アルノルトさまはいらっしゃると」

「ええ、危険な魔物と戦う機会が多いので、陛下に活躍を認められる機会もあると思います。そうすれば、リリアーヌ様が嫁ぐこともできると」


失礼かと思ったが、話すマリー先生の言葉を遮った。


「先生、私は自分の意思で好きな方といられるような力を持ちたいと思って、そのために勉強しようと考えているのです」

「そうでした、私が古い価値観に縛られてしまいました。すみません。……とても素敵なお考えだと思います、私は応援します」


最初申し訳なさそうに頭を下げたが、そのあと続いた言葉には本心から私を応援してくれる気持ちが伝わってきた。彼女は子爵家の生まれで、娘が一人だったため良家へ嫁ぐことを期待されていたと聞いたことがある。自分の意思で軍へ入ったとき、反対もあったのだろう。そんな彼女が応援してくれることは、心強い。


「特殊能力や貴族社会のルールなら私からリリアーヌ様にお教えできますが、商いに必要な能力については不安がありますね。……軍の同僚で、比較的大きな貿易商の家の息子がいますのでご紹介しましょうか?」

「よろしいのですか!? ぜひ!」


新しいことを学ぶことはワクワクする。今まで見えていなかった道が広がって、できることが増える。


どうやったら、私はアルノルトさまと結婚できるかしら。

早くてもデビュタントまであと10年ある。それまでに、家を出る算段をつけて、アルノルトさまを振り向かせれば、私の勝ちだ。



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