10.少女は特殊能力について学ぶ
この1週間待ちに待った。
今日は、家庭教師のマリー先生の授業の日だった。
マリー先生は、国王陛下とお父様が、私の特殊能力制御のためにつけてくれた先生のため、本職は王立軍の軍人だ。風の特級能力の持ち主で、容姿端麗、文武両道、おまけに子爵家のお生まれで社交会のルールやマナーにも詳しい。
――私も、将来はマリー先生のような自立した女性になりたいわ。
「ごきげんよう! おまちしておりました、マリー先生」
「ご機嫌よう、リリアーヌ様」
王立軍の軍服を着た家庭教師のマリー先生が、お部屋に訪ねてきたので、今日は体を動かす授業の日だ。基本的に、社交のルールやマナーを教えてくれる日はドレスで、それ以外の日は王国軍の軍服でやってくる。ただダンスのお稽古の日などは、軍服でやってきて相手役のステップを踏んでくれることが多い。元々スカート自体があまり好きではないらしいが、彼女はドレスでも軍服でもいつも素敵に着こなしている。
「今日は特殊能力の訓練をいたします。まずはいつも通り座学から始めますので、座りましょう」
「はい、先生」
書き物をするための机に座って、勉強用のノートを広げる。いつもマリー先生は、隣に座ってときに実演を交えながら教えてくれる。私も重要だと思った内容や後から調べたい単語はノートに取るが、それ以外は疑問点を質問したり、実演をよく見るようにしている。
「特殊能力の魔力の器は、本来身体の成長と同じように20歳まで成長をしていきます。ただし、その成長スピードや量は人によって違います。そして、技ごと、人ごとに消費する魔力量や燃費も異なります」
まずは、器の話をしましょうか、と隣に座ったマリー先生が手のひらを差し出してきた。
「リリアーヌ様は魔力譲受がお上手で、使用魔力も安定しているので、魔力量を測ることは、かなりお得意だと思います。私の魔力量を測ってください」
手のひらを重ねて、マリー先生の魔力の流れを感じる。
「私の場合、今年18歳になるので、まだ成長は止まっていません。ただ、私は従軍してから、かなり一気に魔力量が成長したので、もうほとんど打ち止めであることを本能的に感じています。……リリアーヌ様は、まだ6歳なので真面目に訓練してゆけば、この先どんどん魔力量が増え、出来ることも増えます。頑張っていきましょうね」
マリー先生は、軍服の胸ポケットから虹色に光る拳大ほどの石を取りだした。
「魔力測定石です。見たことはありますか?」
「はい、王城で能力を報告したときに一度だけ」
「きっと陛下がお持ちの石ですね。これより大きくて、精度の高いものです。これは、少し精度は落ちますが、おおよそ10刻みで魔力量が測れるものです」
確かに陛下のもとで測った時は、占い師が持った水晶玉よりも大きなサイズの石で、その石に触れると表面に数字が浮かび上がる不思議なものだった。そのサイズはなかなか無いらしく、次にそのサイズにお目にかかるのは、王立学園の入学式と教えてもらった。
「実践です。私の魔力量は、リリアーヌ様よりどれくらい多いでしょう?」
「えーっと、私の5〜6倍くらいですか?」
マリー先生が、私の手から離れ、石に手を当てると『1210』と数字が浮かび上がった。リリアーヌ様もどうぞ、と石を渡されたので石に手を当てる。石の表面には、『200』と数字が浮かび上がる。
「だいたい合ってますね。すばらしい。リリアーヌ様は、魔力量を測る時どのようなイメージでしょうか?」
特殊能力自体、個性が強いものなので、魔力の感じ方や魔力量の測り方はかなり感覚的なものらしい。同じような能力を持った人間だと、似通った感覚になるそうだが、教科書的に誰にでも当てはまる指導はないそうだ。
「私は、だいたい自分が移動できる距離で測ります。この魔力を使えばこのくらい移動できるなっていうのが魔力の量からわかるので。魔力源を繋げば、移動距離が一気に広がる感じです」
「なるほど、自分の能力に基準があるんですね。数値がパッと浮かぶという方もいて、いろんな方に話を聞くと、中々面白いですよ」
「マリー先生はどうですか?」
「私は、魔力譲受が苦手で、自分の魔力量の最大が能力の最大なので、人の量を測ることはほぼ出来ないです。ただ、自分の中にさえ魔力があればほぼ数値で浮かびます。風をコントロールするときも、数値で管理してますよ。次は、魔力の消費量について話しましょうか」
マリー先生は、魔力測定石を自分の風の力で、ふわっと浮かせた。
「私の場合、魔力1消費して、この石なら1時間程度浮かせられるいう塩梅です。もちろん、やりたいことによって、量や風を起こす範囲を変えるので、あまり消費量に直感的な規則性はないです。リリアーヌ様の力は、千里眼と瞬間移動が使えると思いますが、魔力消費はいかがですか?」
「王城の研究者の方と実験したことがありますが、千里眼の場合は魔力量によって見ることができる距離は広がりますが、消費はしていないみたいです」
「では瞬間移動の能力を使う上での副次的な能力のようですね。……リリアーヌ様は瞬間移動をどのように行なっているか教えていただけますか?」
私は机の引き出しから、王国の地図と王都城下町の地図を取り出した。まずは目の前に王国の地図を広げる。
「今千里眼で見られるのはこの範囲です」
自分の家から半径おおよそ20キロメートルの円を地図上に指で描く。城下町は軽く超えて、場所によっては王都を超えて、貴族の領地になっている場所もある。その円の中で、王城に近い当たりを指し示す。
「このあたりに行きたいとするなら」
次に王都城下町の地図を広げる。先ほど指し示した位置を拡大した地図だ。
「見る範囲をこの程度まで絞ります。この大きさになれば、どの屋敷どの道まで大体見えるので、ここで決めてしまうこともあれば、屋敷内のどの部屋といったところまでさらに絞ることもあります」
「目的地を地図から探す感覚ですね」
もう一度、王国の地図に戻って先ほど描いた半径20キロメートルの半分ほど、およそ半径10キロメートルの円を指で描く。
「今自分で移動しようと思ったら、この辺りまでなら行けます」
「興味深いですね。先ほど俯瞰した地図の上に、どこまで行けるか見える形ですか?」
「はい、移動させる対象に触ったら見えます。目で見える範囲は広いけど、自分の手が届く場所はそれより狭い、みたいな感じでしょうか……? 先に千里眼で場所を決めてから移動させるので見える範囲より外には、人やものを移動させることはできません」
そのあとマリー先生は、魔力を譲受した状態、運ぶ対象を重くした状態など、何パターンかの質問をしてきた。私がそのそれぞれを試すと、マリー先生は、消費魔力量のパターンを私のノートにまとめてくれた。
――自分の実力を知ることはとても大切だ。
お父様が何度も口にしていた。今できることを知ることは、出来ないことをできるようになる一歩だ。
自分には一体何ができるだろうか。
アルノルト様のお役に立つ仕事はできるだろうか。




