相棒
アローと出会ったのは2ヶ月前。入団の本試験だった。ワイバーン隊に入るには、もちろんワイバーンと信頼関係を築ける者でなければならない。
訓練場では無く、近くの広い草原で試験は行われた。草原の真ん中に一際目立つ大木があり、その枝一本一本にワイバーンがとまっている。
木の幹は何十歩も歩いてやっと一周できるほど太い。養成部隊が指揮を取り、試験を進めて行った。
一列に並ぶ受験生に、養成部隊長が声をかける。
「これから試験を始めるが、これだけは覚えておけ!!この試験はお前達がワイバーンを選ぶのではない!ワイバーンがお前達を見定めるのだ!!」
そう言われ、ざわざわと皆んなが喋り始めた。ワイバーンが俺たちをどうやって選ぶというのか。
さすがに兄も本試験の詳しい内容までは教えてくれなかったので、何で判断されるのか検討もつかない。
「順番に名前を呼ぶので、呼ばれたものはあの木の根元に行きなさい。そこでワイバーン達がお前達を見て、反応が無ければ不合格。襲ってきたり、懐いたら合格だ」
「部隊長!襲われても合格なのは何故でしょうか?」
気の弱そうな茶髪の少年が質問した。
「良い質問だ。襲ってくるやつはお前を脅威として見る、つまり自分が倒される危険があると思うほどに、お前に実力があるという事だ。逆に無関心なのは、下に見られている、襲うまでも無いやつと判断されたという事になる。分かったか?」
襲われても襲われなくても俺たちにとっては怖い話だ。皆んなそう思ったようで、青ざめた顔を何回も縦に振った。
「よし、では始めよう!まず最初の〜」
部隊長が次々に名前を呼んで行く。最初に呼ばれたのは、先程質問した茶髪の少年だった。少年は、怯えながら木の根元に歩いて行き、キョロキョロと辺りを見回す。ワイバーン達の方を見ないようにしているようだ。襲ってきた時咄嗟に反応出来ないから注意した方がいい気がするが、、。
そう思っていたが、心配は無かったようだ。彼が近づいて行っても、ワイバーン達はそちらを見ようともしない。チラッと見るやつもいるが、すぐ寝る体勢に戻った。
彼は襲われずに済んだのが嬉しかったのか、試験におちたのが悲しいのか、涙目で皆んなの所へ帰ってきた。
「そう気を落とすな。この試験に落ちても騎士団に入団することは出来る」
部隊長が彼の肩を叩いて励ます。
次に、黒髪のガタイの良い少年が名前を呼ばれ木に近づくと、青くくすんだ色のワイバーンが彼目掛けて飛び降りる仕草をした。
「危ない!!」
俺たちは叫んだが、部隊長達は動かない。俺たちも恐怖が勝り、一歩も動けなかった。
ワイバーンが翼を広げ、逞しい脚で木の枝を蹴る。
ガシャーン!!
硬い鎖の音が鳴り響く。
何人かは目を逸らしていたが、俺は目を見開き、先行きを見つめていた。
黒髪の彼を見た受験生達から驚きの声が漏れる。彼は傷1つなく、呆然と立っていた。
枝から飛び降りたワイバーンは逆さ吊りの状態になり、羽根をバタバタさせている。脚には枷が付いており、太い枝と繋がれていた。さすがに、危険は無いよう対応されていたようだ。
受験生の騒めきが収まるや否や、次々と名前が呼ばれていく。
枷が付いているのが分かったので、皆ほとんど堂々とした態度で木の根元に立った。
しかし、受験する態度はワイバーンに認められるかどうかに関係はしない。50人程居た受験生も、今や3分の1は不合格だ。
俺の名前はいよいよ最後まで呼ばれなかった。1番最後らしい。それはそれで少し緊張する。
「次!アラン・ルーミス!」
周りでコソコソと噂話をする声が耳に入った。本試験以外を受けずにここまで来たことは、あっという間に他の受験生まで広がっていたようだ。
突き刺さるような視線を気にせず、俺は木の根元まで歩いた。緊張で少し足が震えている。
上を見上げると、ほぼ全てのワイバーンに見つめられている気がした。
途端に、彼らは翼をバタつかせ、すぐにでもとまっている枝から飛び立とうと暴れ出した。
「ギャーー!!ギャォーー!!!」
鎖のガシャガシャ言う音と、恐怖心から来る情けない鳴き声が耳に刺さる。
襲いかかられなければ不合格とは聞いていたが、この反応はどう捉えればいいのだろう?
不安になり後ろを振り返ると、部隊長たちも呆然としている。こんな事は初めてらしい。
もう一度木の方を向こう、と振り返った時、ドスン!と地面が揺れた。
俺の目の前に立っていたのは、自分の体長より2、3倍はある、灰色の立派なワイバーンだった。
自分に実力があっても無くても、これは絶体絶命だ。ワイバーンは鼻をヒクつかせながらこちらに近寄ってくる。
ワイバーンが近くにいる時の対処法など教えられていない。が、まずは自分を知ってもらう為に匂いを嗅がせるのが最善の方法だろう。ダメなら食べられるまでだ。
俺は刺激しないようにゆっくりと右手をワイバーンの鼻面に近寄せた。
彼は、俺の顔を見てから右手に集中し、ひとしきり匂いを嗅いだ。たまに当たる鼻は湿っているような、冷たくて滑らかな感触だ。
これから食べられるかもしれないのに、ワイバーンに触ったことに少し興奮する。
灰色のワイバーンは、俺の匂いを気に入ったようだ。右手の下に頭を持っていき、撫でて欲しそうにしている。
恐る恐る頭を撫でると、クルルルルと鳴き、俺の右手を舐めた。
「ぐぅッ!!?」
手に激痛が走った。ワイバーンの舌には毒があるのか!?痛さで半ばうずくまる。
遠くで見ていた部隊長達が、自分のワイバーンに乗り、俺の近くまで飛んできた。
「アラン!お前は何てことを、、ワイバーンを手なずけた奴を見るのは初めてだ!」
そんなこと良いから、手が痛いのをどうにかしてくれ。そう思ったが声には出なかった。涙目で目線だけを送る。
「あぁ、それは契約の証だ。それでお前とこいつは相棒ってこった。ほら」
そう言うと部隊長も自分の右手を見せた。黒っぽい痣の様な物が見える。その色は部隊長が乗っているワイバーンの色と同じだった。
「おめでとうアラン。ワイバーン部隊にようこそ」
自分の右手を見てみると、手のひらの左の方を灰色の痣が覆っていた。
こうして、俺とアローは相棒になった。
ちょっと長くなっちゃいました。




