歓迎会
俺が隊に入って2ヶ月ほど経っただろうか。なにかと忙しくて出来ていなかった新人歓迎会を開いてもらうことになった。
普段から隊員達が利用している酒場を貸し切りにしているが、なにぶん人数が多いのでギュウギュウだ。
「アラン、お前気に入られてるんだから隊長の横座れよ、な」
そう先輩隊員に言われ、隊長が座っているところを見やると、彼の周りだけ見事に席が空いている。
「え、いやっすよ。飲むとどうなるんすかあの人」
「だーいじょうぶ大丈夫!殴られはしないから!!」
「いや"殴られは"って何すか!?!?」
抗議の声も虚しく、複数の隊員に背中を押され無理やり隊長の隣に座らせられた。
「おぉ、アランか。歓迎会が遅くなってすまなかったな」
まだ飲み始めて時間が経っていないからか、普段通りの隊長だ。
「いえ、開いて貰えるだけありがたいっすよ」
その後も気まずくなることもなく、会話とお酒を楽しんでいると、隊長の顔が少し赤くなってきた。
「アラン。騎士団と言うのはな、国から銘を受けたとても素晴らしい、誇りある仕事なのだ。市民の安全を守り、平和を維持する。これがどれほど重要なことかわかるか!なぁ!」
そう言って彼は俺の肩をガッシと掴んできた。
おっと、なにか始まった。少し遠くに座って飲んでいた先輩達を見ると、親指を立ててニッコリしている。
グッドラック!じゃねぇんだよ、、。
隊長の話は途切れることを知らなかった。普段は言葉が少ない人がこんなにも喋れるとは、、。日頃溜まっているものがあるのかもしれない。
半ば放心状態で隊長の話を聞いていると、楽しそうに飲んでいた隊員達がざわめき出した。皆入口の方を見ている。
話し続ける隊長を置いておき、俺も入口から入ってきた人を見た。
彼は後ろに数人竜騎士を従えている。そう、フィル・デリントンだ。騎士服に身を包み、格好からして場違いのような気がした。
なぜこんな所に、、。
「たまには安い酒でも良いだろう。いつも高いものだと飽きるしな」
明らかに俺たちに聞こえるように話している。
隊員達も不快に思ったらしいが、さすがに竜騎士に楯突く人はいない。
皆んな彼らのことを気にしないように決めたようだ。先ほどまでの賑やかさが徐々に戻ってきた。
フィル達は俺と隊長が座っているテーブルから、少し離れた所に座ったが、かろうじて話し声が聞こえてくる。
俺も彼らのことは気にせず、隊長の話を聞くように努めた。
騎士団に入って良かったことは、あいつを倒すための訓練が出来ることは勿論だが、あいつに合うことで復讐心を忘れずに済むことだ。
彼らが来てから数十分経っただろうか。
竜騎士達も酔いが回ってきたようで、かなり大きい声で仲間達と話していた。
「あの町はショボかったけど、あれほどタイプの子は未だに現れないよ。惜しいことをしたなぁ」
「団長が口説いて着いてこなかったんですか?すごいですね、その子」
取り巻きの騎士がフィルを持ち上げる。
「俺が王家の人間だと知っても、『大切な人が居るからごめんなさい』だとよ。見た目は良いが、性格はブスだったな」
「それで、大人しく引き下がったんですか?団長らしくないですね」
「いや、相棒とちょっとばかし遊ばせてやった。五分と保たなかったがな」
そう言うとあいつらは腹を抱えて笑った。
俺の耳はすでに隊長の言葉を拾っていなかった。いつのまにか膝の上で拳を握り、下を向いていた。彼を睨みつけるわけには行かない。あっちは覚えてないだろうが、何をキッカケに思い出すかわからない。
彼らの話が終わるまで、俺は身動きが出来なかった。拳に爪が刺さる。本当は今すぐ殺してやりたいが、まだだ。準備が足りない。
適当な理由をつけて帰ろうかと思ったその時、俺の手に大きい手が重なった。




