黒い鱗
「アミー。あなたの事いつまでも、愛してる、、」
最後の言葉を伝えて、彼女が横たわっている棺の中に私の一番のお気に入りのネックレスを入れた。小振りだが、銀細工が美しく、私よりアマンダに似合いそうだといつも思っていた。
私がそっちに行ったときに帰してね。
お葬式は速やかに行われた。アマンダの死体はとても見せられなかったので、棺は親族とルーミス一家の前でしか開かれなかった。
棺は深く深く掘り返された地面へと埋められた。彼女が安らかに眠れるようにと、輪になっていた人たちで別れの歌をささげる。高く低く、朗々と歌われたそれは彼女の元まで届いているだろうか。
***
彼女のお葬式から何日か経ち、私は森の中に来ていた。一気に気温が下がり初雪が降っていたのがきっかけか分からないが、彼女が居たところまで来てみようと思ったのだ。
正直まだアマンダがいなくなった実感はあまりない。いつ後ろから抱き着かれても良いように腹筋に力を入れてしまったり、綺麗な夕日を見て、アマンダにも見せないと!と立ち上がりかけて、もうこの世に居ないことを思い出す。
「アミー、あなたが居ないと毎日がとっても長く感じる。ショーンとあなたのお母さんもいつも泣きそうな顔をしてるしね。あなたはとんだ親不孝者だわ」
川辺に腰掛け独り言ちていると、少し雪が積もった地面に何か落ちていることに気づいた。アマンダのものかもしれない。そう思い拾い上げてみると、手触りから石か何かかと思った。
黒くてつやつやしている。形は平べったい三角形。どこかで見たような、、。
そう思った瞬間あいつの顔が思い浮かんだ。寒さで少し震えていた体が一気に熱を持つ。周りの音が消え、自分の心臓の鼓動しか聞こえない。怒りにどくどくと脈打っている。目の前が赤く染まったような気さえした。体中の毛が逆立つ。
「殺してやる」
そうぽつりと呟き、私は町へ、アマンダの家へと走り出した。
***
「ショーン、アマンダを殺したのはあいつよ。竜騎士団団長のフィル、あのくそ野郎」
家に飛び込んでくるなり、不穏な発言をした私をショーンとアマンダの母は目を見開いて見つめていた。口がポカーンと開いている。
「ノラ、アマンダは動物にやられたんだよ。なんで竜騎士なんて出てくるんだよ?」
確かにアマンダは動物の牙によって殺されていた。町の医者によってそう診断されたのだ。
「今日アミーが死んだところに行ったの。そしたらこれを見つけた。彼のドラゴンの鱗よ。絶対そう。
きっと襲われたとき暗かったから、彼も鱗が落ちてるのに気づかなかったんでしょうね」
そう言いながら、拾った鱗を二人に差し出した。彼らはそれを一目見て、私が言っていることが本当だと分かったようだ。瞳に怒りの炎が燃えた、と思ったが、その炎は長続きしなかった。
「彼のドラゴンがアマンダを殺してたとしても、他の動物が殺してたとしても、何も変わらないよノラ。アマンダは帰ってこないんだから」
そう言った彼と母の目には明らかに脅えが含まれていた。
ああ、そうか。彼らは竜騎士が怖いのだ。ましてや団長は王族の血筋だ。人を殺しただろうと訴えたところで、返り討ちに会うか、もみ消されるのが分かっている。彼らに復讐するように言っても無駄だと分かった。
ショーンには妹のために敵を討つと言ってほしかった。ただのわがままだが。
「、、そうだね、、アマンダは帰ってこない」
彼らがやらないなら私がやる。アミー、あなたの敵は私が討つ。彼を殺したところであなたが返ってこないのは百も承知。だけど、あなたを殺した奴がのうのうと生きているのが許せない。一秒でもこの世の空気を吸っていてほしくない。
我が家に帰り、私はすぐ便箋を用意し、手紙を書いた。あて先は王都にいる兄だ。兄は家族との繋がりが薄く、滅多に連絡をしてこない。父も跡を継がせるきが無いようだ。兄が18になるとき、王都に行き騎士団に入ると言っても止めなかった。
家族も兄を嫌っているわけではない。むしろ愛してはいるのだが、扱いに困っている、という感じだ。兄妹の中で一番仲が良いのは私だろう。年に1,2回は個人的に手紙のやり取りをしていた。
兄は竜騎士団内のワイバーン部隊に所属している。討伐部隊に入り、魔獣を殺すことを仕事にしている。魔獣を殺すことに快感を覚えてしまったらしい。そういう部分も家族には理解しがたい所なのかもしれない。悪い人ではないのだが。
さて、私が現在書いている手紙の内容はというと、私も騎士団に入団したい。という旨だった。
***
「たいちょー、手合わせおねがいしまーっす!」
黒髪短髪の少年は、彼より頭何個分も大きい男にそう声を掛けた。隊長と呼ばれた人は体格がいいだけでなく、厚みも相当ある。顔は、優しそうとはお世辞にも言えない。こめかみから耳の方向へ一本大きい傷跡がついていて、余計迫力を増している。
恐れる風もなく声をかけた少年に隊長は呆れた様子で返事をした。
「アラン、もう何度目だと思ってる。たまには休んだらどうだ」
顔に似合わず、その声音は優しいものだった。
「だってたいちょー部隊で一番強いじゃないですか!俺強くなりたいんですよ!」
そう言われたら彼も満更でもなさそうだ。少し口角が上がったのを見逃さなかった。
「仕方ない。少しだけだぞ」
練習場まで歩いていく背中を追いかける。
おっと、彼を呼ぶのを忘れていた。
「アロー!おいで!」
空に向かい声を掛けると、地面に大きい影が落ちた。一陣の風が吹きつける。ほぼ音を立てることなく、それは横に着地した。体高は少年の身長より高く、翼を広げたら3メートルは優に超すだろう。体表は灰色の鱗に覆われているが、滑らかに動き、逞しい筋肉を覆っている。まだ若い個体だが、優秀な飛び手のワイバーンだ。
俺は、アラン・ルーミス。ワイバーン部隊で騎士をしている。
この部隊に入った目的は、奴を殺すこと。
「待ってください、たいちょー!」
すっかり先に行ってしまった隊長の背中を私は、いや、俺は小走りで追いかけた。
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