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復讐は竜の味  作者: 猫殿
3/23

帰宅

「お手をどうぞ、お嬢さん」


 団長はそう言いながらアマンダに手を差し出した。まるで馬車にでも乗るような気軽さだ。

  

 彼とアマンダの隣には、家より一回り程小さいドラゴンが伏せの状態で待機していた。体は横に向いていたが、顔はこちらの様子を隙無くうかがっている。体表は真っ黒の鱗で覆われており、太陽光にキラキラと輝いていた。宝石を身にまとっているようにも見える。

  

 私と父は離れた場所で見守ることしかできなかった。かろうじて会話が聞こえるほどの距離だ。


 アマンダは数秒ためらっていたようだが、何とか手を取るとドラゴンの背中に備え付けられている鞍に乗り込んだ。そのすぐ後に団長も乗り込み、後ろから腰を引き寄せた。

 

 近すぎる、変な真似されませんように。


 団長が何か一声合図をすると、ドラゴンは脚の筋肉を張り詰めさせ、体長より大きな羽根を広げた。気を付けてね!と声を掛ける間もなく、ばねのように勢いよく跳ね、彼らはあっという間に見えなくなってしまった。

 

 後ろに並んでいた彼の部下たちがため息と共に私たちに話しかける。


「フィル団長の悪い癖が出ましたね。申し訳ありません」


 彼らも慣れっこなのだろう。引き留めたのは最初だけで、途中からあきらめムードが漂っていた。


 きっと女の子をドラゴンに乗せたのはアマンダが初めてじゃない。彼女が色んな意味で無事に町に着くことを私は地上から祈ることしかできなかった。



***



 町に着くころには、団長たちはもう男爵家、我が家に入っていた。庭にも彼の竜の姿はない。


 父と客間に入る。


「アマンダ、とても素敵な響きだ。ずっと呼んでいたい、、」


 壁ドンをしているのは幻覚だろうか。一度殴っても家族は黙秘してくれるか、、と真面目に考えていた時、父が咳払いで彼の注意を引いた。


「ごほっ!んん!!」


 やっと私たちが来ていることに気づいたようだ。こちらをちらっと見て


「ああ、もう着いてしまったのか」


 とのたまった。


 やはり殴ろう。蹴りも追加で。


 私たちがいる部屋には他にも人がいた。いきなり家に尋ねてきた訪問者に戸惑っている母と姉と妹だ。きっと挨拶さえされていないのだろう。身分が高い人なのは分かっているが、怪しむ目を隠せていなかった。


「フィル団長、こちらが私の妻のモリーと長女のメイズ、三女のサティアです」


「おっと、自己紹介がまだだったな。私は竜騎士団団長、フィル・デリントンだ」


 騎士然とした姿勢で自己紹介した団長は、私から見てもかなりかっこよかった。母たちも団長と聞いた瞬間目の色が変わったようだ。


「日が落ちる前に魔獣退治をお願いしたいのですが、、」


 私たちが到着するのを待っていたので、あと数時間で日が暮れる。そうなったら竜騎士でも一人では行動しにくいだろう。


「森までの道を教えていただければ一時間とかからず終わります。森までの案内を、、」


 フィルの目線がアマンダに向かうのが分かったので、先を言わせないうちに遮った。


「父が馬で森まで向かいます。ね、父さん?」


 いきなり話を振られた父は驚いているが、必死な私の目に気づいたようですぐ首を縦に振った。


「、、、ふむ、それを空から追うという事ですね。良いでしょう、すぐにでも準備を」


 彼の気が変わらないうちに出発してもらわねば。私は父を急かすように背中を押した。


 フィルと父を家から追い出す最中、アマンダの顔を見ると心底安心して胸をなでおろしていた。彼氏でもない人に言い寄られることは、いくらイケメンでもきついものがあるのだろう。


 いや、彼氏がいない私でもきつい。


***



 結果だけ言うと、やはり竜騎士、と言うべきか。宣言通り一時間とかからず帰ってきた。馬を駆った父の方が疲れている。


 団長も疲れているだろうと、母がフィルを家に引き留めた。感謝に菓子折りでも渡してすぐに帰せばよかったものを。


「アマンダは、もうこちらには来ないのか?」


 アマンダが居ない場所では敬語が外れている。ここまであからさまだと怒る気にもならない。


「彼女も用事がありますので。それに彼女は男爵家の人間でもないのです」


 普段なら男爵だから、庶民だからどうこう言ったことはない。しかしこの人にはわからせておいたほうが良いだろう。下手に手を出されたら溜まったものじゃない。


 「ほう、男爵の血筋ではないのか。それにしてはとても、、美しい」


 彼には早急に帰ってもらおう。父に目配せをすると察してくれたらしい。


「フィル様、もうすぐ日が暮れてしまいます。お早めに帰ったほうがよろしいでしょう」


「もうそんな時間か、まだイードン町から出る時間には早いが、部下たちも待ってることだし。早めに帰ってやるか」


 そう言うなり彼はがばっと立ち上がった。机の向こうで母たちが残念そうな顔をしていたが、無視をした。


***



 団長が町を去った二日後、男爵家にショーンが尋ねてきた。朝食の準備をしていた私はスプーンを持ったまま対応する。

 


「おはようノラ。アマンダはいるかい?」


 朝からショーンが現れたことに動揺して、質問の内容を理解するのに時間がかかった。


「え、アミー?うちにはいないけど、、、」


「、、え?ここには居ないって、何で?、、」


 何でと言われても、、。


「アミーならイードン町から帰ってきてすぐ家に帰したわよ?今頃彼氏のところに居るんじゃない?」


 まだ私は問題を軽く考えていた。しょっちゅう彼氏の家に泊まりに行っていたので、家族に伝え忘れて泊まりに行った可能性もある。


「それが、朝アマンダの彼氏がうちに来て、アマンダがデートの時間になっても家に来ないって迎えに来たんだ、、。それで、僕たちはノラの家に泊まってると思ってて、、、彼氏は今日プロポーズ、、するつもり、、だって、、、」


 彼の目が徐々に見開かれていき、言葉が詰まって息がしづらいように見えた。私の心臓も動き方を忘れてしまったようだ。


 二人の間で時間が止まった。


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