翼
痛みで喘ぐフィルは、もうこちらの言っていることも良く分からないらしかった。
「はぁ、、何を期待してたんだか」
少しでも相手からいい返事が来ることを望んでいたのか。本当に愛する人が居たら許す気になったのか。虚しい自問自答を繰り返した。
「あーー!!!もう!!考えるの終わり!!」
頭をグシャグシャとかき回し、雑念を飛ばす。
「これでさよならです、団長さま」
身体中痙攣させながら、フィルはどこか空を見つめていた。ほぼ意識はない。
俺の復讐劇はここで幕引きだ。そう心の中で呟き、アランは剣を振り下ろした。
すぐに血飛沫があがり、断末魔が聞こえる、かと思ったが、剣は団長の首元まで届かなかった。
「、、、なんでここに、、?」
アランが振り下ろした剣を阻んでいたのは、トーマスだった。悲しそうな、悔しそうな目でアランを見つめている。
「フィル・デリントン、あなたを殺人罪で逮捕する」
「おい、邪魔だよ。退け」
トーマスを押し退けトドメを刺そうとするが、彼は頑として動かなかった。
「アラン・ルーミス、お前は殺人未遂で逮捕だ。大人しくしろ」
押しのけようとした左腕を強く掴まれる。
「は??何でトーマスにそんな権利があるんだよ?警察でも無いくせに!」
掴まれていた腕を振り払い、怒鳴りつけた。
「俺は国に雇われてる傭兵だ。こいつの尻尾を掴むために騎士団に潜入してたんだ」
「、、ちょっと待って、ここに居るのが分かったって事は、、後を着けてた?最初から俺がこうする事を分かってた?そうなのか?」
それが真実だと信じたくなくて、トーマスを見つめるが、彼は目を伏せるだけだった。肯定の意味だろう。
「知ってて俺にここまでさせたのかよ、、。なら、最後まで放っといてくれ!!」
「隊長!手伝ってください!」
トーマスが空に向かって声をかけた。闇の中から現れたのは、苦い顔をしている隊長と、状況を理解しきれていない数人の隊員たちだった。
「すぐに連行を。ドラゴンも頼みます。早くしないとどちらも死んでしまう」
テキパキと指示を飛ばし、フィルとスニークはワイバーンの背に括られ、空へと消えていった。
残ったのは俺と隊長だけ。
「こんな終わり方あるかよ、、、」
頭を抱えてしゃがみこむ。目の前で仇を攫われ、アランはホッとしたような、虚しいような感情に襲われていた。不思議と怒りは無い。彼らも仕事をしたまでだ。
「、、お前の兄から聞いていた。お前が何かやろうとしているから、見守っていてくれないか、と」
あのバカ兄貴、いらん事を。
「知っていたんなら何故止めなかったんですか?こうなる前に」
アランは血に塗れた両手を広げてみせた。
「あいつ、デリントンだがな、前々から嫌な噂が沢山あった。だが一向に証拠が掴めず半ば諦めていたんだ。だが、お前が来た。、、お前も、誰か大事な人を無くしたんだろう?」
「大事な人。えぇ、そうです。俺はあの子を守れなかった。昔からずっと一緒に居たのに、、、。」
「愛していたんだな」
そう隊長が言った瞬間、アランの頭に激しい痛みが走った。
「ーっく!!?そうだ!!俺は!!あの子の事を!、、っ」
「違う!!!私は!そんな目であの子を見てなんかいない!!!」
まるで2つの人格が殴り合いをしているかの様だった。片方がもう片方を体から追い出そうとしている。
「お、おい!アラン大丈夫か!?」
グレイ隊長が駆け寄るが、強い力で振り払われた。
「私はアランじゃない!!!私は!!いいや俺が!!、、っぐぅう!!」
自分の足で立っていられなくなり、地面に蹲ってしまった。
「助けて、、助けて、誰か、、」
蚊の鳴くような声で呻く。目的も果たせず、中途半端に生まれたもう1人の自分。完全に消し去ってしまうには、大きくなりすぎた。
「お前が誰かはどうでもいい。ただ、やった事に対しての責任は取るんだ」
しばらく見守っていた隊長は、そう言いアランを抱き上げた。側に待機させていた自分のワイバーンに乗り、都まで飛ぶ。
ぐったりとしているアランの中では、終始2人の思考がぐるぐると回っていた。
****
独房に入れられたアランは、簡素なベッドに腰掛け、処分について正式な決定が下されるのを待っていた。
今、自分がどちらなのか、自分でも分からない。アランでもあるし、ノラでもあった。独房の中で、歩き回ることもせずただ悶々と、どっちが本当の自分なのか、ひたすらに考えていた。
そうして何時間、いや何日が経っただろう。独房の扉がガチャンと音を立てて開かれた。
「アラン・ルーミス、出ろ」
短く命令され、久し振りに足を動かし立ち上がる。
連れていかれたのは、裁判所の様だった。特に何も聞かされていないので、判決を下されるのを黙って聞いていればいいのだろう。
後ろをちらりと見ると、傍聴席には竜騎士団の隊員達が勢揃いしていた。
もちろん隊長も。
「アラン・ルーミス、其方は無防備な竜騎士団団長、フィル・デリントン及び、所有しているドラゴンを傷つけ、一生残る傷を負わせた。殺人の意思もあったと言う証言も出ている。よって、其方を殺人未遂容疑で懲役、、、5年とする」
「、、、は?」
思わず間の抜けた声が出た。殺人未遂とはいえ、幾ら何でも刑が軽すぎる。
「いやいやいや、短すぎませんか?流石にそれじゃ、、、」
「発言するのは許可があってからにしなさい。えー、この処置については、騎士団に所属していた物が、止められたはずの事件を止めなかった、また、アラン・ルーミスを利用して事件解決を図ったと言う点から、特別に刑を軽くすることが決定している。そして、この件に関わった隊員にも処罰を与える事とする」
呆気に取られ、開いた口が塞がらない。声にならない声を出そうと口をパクパクしていると、後ろに座っている隊員達が一斉に拍手をし出した。ワァワァと何やら叫んでいるものも居る。
処刑でも甘んじて受ける覚悟で来ていたので、拍子抜けして笑いながら、何故か涙が溢れた。




