カタコト
アローはスピードを緩めることなく、一直線に練習場まで飛んでいった。誘導隊のワイバーンでは珍しく滞空だけでは無く、速さも鍛えていた為、相当のスピードが出ている。目を開けるのがしんどいくらいだ。
ゴーグルを持ってくれば良かった。
そう思ったがもう遅い。そもそも今日は飛ぶ予定がなかったのだ。
滑る手で必死にしがみついていると、地面に降りた衝撃が体に伝わってきた。目的の場所に着いたらしい。スピードを出してたからか、そこまで遠くではないみたいだ。
周りを確認するのも忘れ、背中から飛び降りたアランは、アローの体をチェックし始めた。
「どこか怪我したのか?痛い所は無い?」
全身をくまなく調べたが、血が付いているだけでアロー自身は怪我をしていなかった。
何か食べた後の返り血か、と思ったが、背中に付いていたのはどう考えても不自然だ。体を調べている間も、アローはアランをどこかへ連れて行こうと腕を甘噛みしてくる。
怪我が無いことを確認しホッと肩を撫で下ろすと、ようやく周りの声が耳に入った。
「落ち着けトーマス、やり返しても無駄だ!」
アローが連れてきたかったのは訓練場だったらしい。先輩隊員達がトーマスを囲んで、彼が飛び出そうとするのを宥めている。
周りには同期たちもいて、皆一様に空を見上げていた。
釣られてアランも空を見ると、ドラゴン達がツバメの様に何かを狙って行ったり来たり飛んでいる。時々小さく笑い声や、叫び声が聞こえた。ドラゴンには竜騎士が乗っているのだ。
目の上に手をかざし見つめていると、狙われていたものが追い立てられ、地面スレスレまで飛んできた。
竜騎士たちの狙いの的は、、、ワイバーンだ。
「くそっ!!黙って見てろって言うんですか!?ホークスが死んじまう!!!」
トーマスが目に涙を溜めながら必死に駆け出そうとしている。だが竜騎士と問題を起こそうものなら、ワイバーン隊まで危うくなってしまう。先輩たちも必死だ。
「今出て行ってもどうしようも無いんだよ!お前も返り討ちに会う。俺らもな」
自分だけ犠牲になって済むなら、彼は直ぐにでもホークスを助けに行っただろう。しかし、歯向かえば隊全体に迷惑がかかる。それだけは避けたい。
どうにか出来ないか、ひたすら空を見つめていると、頬にポタッとなにかが落ちてきた。指で拭うと、それは今流れたばかりの血だった。
その瞬間、アランの中で何かが弾けた。
「アロー、行くよ」
そう言い終わらないうちに、アローの背中へ飛び乗ったアランは、あっという間にドラゴン達に追いついた。先輩達は静止する暇も無かったようだ。
近づいてくるワイバーンに気付いたのか、竜騎士達もドラゴンを落ち着かせその場に滞空していた。人数は3人。
「何だ?文句でもあるのかお坊ちゃん??」
先に声を掛けてきたのは何処かで見たことのある竜騎士だ。竜騎士団長の取り巻きに居た気がする。金髪をサラサラとたなびかせ、嫌に下睫毛の長い軟派な顔をしているそいつは、挑発的な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
ホークスから気がそれた。今のうちに逃げてくれと思うが、ホークスの翼はもうボロボロで、飛ぶのがやっとだ。
「おい、用が無いならどけ。俺らは訓練中なんだよ」
ニヤッとして言い放つ。周りのやつらも何がおかしかったのか、ギャハハと笑った。
ふざけるな。
そう言おうとしたが、言葉が出ない。腹の奥でマグマの様にグツグツと何かが湧きたつ。今まで感じたことのない感覚。体は熱いのに頭は冴えていた。
「なんだ、ここまで来といて怖気付い、、おい、こいつの目おかしくないか、、、?」
「フーーッ、、フーーッ、、、」
荒い息を吐いているアランの目は、今や人間のものではなかった。瞳孔が細く縦長に裂け、虹彩は琥珀色、まるでトカゲの目の様だ。
周りで何か喋っているが、その声はアランの耳には入っていなかった。聞いていたのは全く別の声。
『、、ナカ、マ、、、ケガ、、ユル、、サ、、、』
頭の中に直接響いてくる。誰の声だろう。片言で、拙い。聞いたことはないのに、聞きなれた様な、、、。
その時やっと気付いた。
これはアローの声だ。
ドラゴンと竜騎士が意思疎通を取れると聞いたことはあったが、ワイバーンとも出来るとは。
アローの声が聞けたことに感動していると、体の熱さに思考が引っ張られた。
「グウゥウ"ぅ、、、ナカまに、、テヲだすなぁあぁあ"ぁ"ァアあ!!!!」
やっと声が出たと思うと、半ば吠え声の様なものが口から飛び出す。アランの叫びと同時にアローも吠えた。
体から熱が引いていく。
「ひっ!!?な、何だよこいつ!!おいお前ら!行くぞ!」
ひいぃ!と、金髪野郎と他2人は情けない声をあげ逃げていった。彼らが乗っていたドラゴン達も、『ママー!!』と泣いて飛んでいく。
「ワイバーンと小僧1人にビビったって知られたくなかったらもう手は出すなよーーー!!!」
小さくなっていく3つの背中にそう叫んだ。何とも爽快な気分だ。
「、、あれ?ドラゴンの言ってることが、、分かった、、?」
『ヤッツケた。ナカマ。ケガだいじょうぶかな』
「あーー!!そうだホークス!どこ行った?」
急いで辺りを見渡すと、ホークスは既に地面に降り立ち、トーマス達の治療を受けていた。
隊員達の半分ほどはまだ空を見上げていて、アランが降りていくのを待っている様だ。
その中に、たった今来た隊長も居た。顔がめちゃくちゃ険しい。
「これは怒られるかな、、、はぁ」
先程までとは打って変わって憂鬱な気持ちを抱えながら地面へと向かった。
『イッショに、オコられル』
「そっかー、ありがとな」
「、、、えっ、ちょっと待っておれアローと会話出来てる!?!!!?えぇえええええ!!!?!」
遅れてやって来た衝撃は、アローの羽ばたきにかき消された。




