ちょっと休憩
ほっぺたに濡れた物が当たる感覚で目が覚めた。それは何度も顔の上を往復し、何かを拭っているようだ。
うっすらと目を開けると、俺の顔を拭いている隊長が目に入った。
ここは、宿舎の医務室のようだ。
「おはようございます、、」
掠れた声で言う。
「おぉ、起きたか」
そう返されるが、隊長が手を止めることはない。何を必死に拭いているのだろうか。そう考えたが、ふと自分の手を見て納得した。爪の間に血や泥が詰まっている。俺の顔にも血がこびりついているのだろう。
「たいちょー、もういいですよ、自分でやります」
「そうか」
それを聞いてようやく手を止めてくれた。自分で顔や手を拭いていると、ふと疑問が湧いた。
「あ、たいちょー、アローは?無事ですか?」
彼の顔が曇っていなかったので、悲しい知らせは無いと判断して、そう質問する。
「あぁ、幸い大きな怪我はない。すぐに飛べるようになる」
「良かった、、」
相棒も奇跡的に大丈夫だったようだ。
「会いに行きます」
持っていた手拭いをポイっと放り投げベッドから降りようとすると、ガシッ!と肩を掴まれた。
「まだ動くな!骨は折れてなかったが、打撲が数カ所あるんだぞ」
「大丈夫っすよ〜。もうピンピンしてます」
「ダメだ。隊長命令だ。アローはトーマスが面倒を見てくれてるから、安心しろ」
またベッドに押し込まれ、布団を被せられた。心配性のお母さんのようだ。
「え、何でトーマスが?」
観念して布団をかぶり直し、またベッド横の椅子に座った隊長に問う。
「お前が落ちた後な、トーマスがアローを見つけたらしいんだが、肝心のお前が見つからなかった。それで俺を呼んだって訳だ」
「でもどうやって見つけたんですか?さすがにたいちょーでもあの森の中で探すのは難しいでしょう?」
「さあなぁ、自分でもよく分からん。勘で見つけた。血の匂いがしたのかもな」
何だ勘って。
トーマスにも隊長にも借りが出来てしまったようだ。
「はぁ、、たいちょー、今回はありがとうございました、、」
誰かに借りを作るのは好きじゃない。目を合わせず、仕方なーくお礼を言った。
「何だその渋々と言った態度は。お前を抱えて運ぶのも大変だったんだぞ」
「いやその筋肉なら楽々でしょう、、、」
呆れて隊長の腕を眺めていると、ハッと重要なことに気づいた。顔から血の気が引き、胃の中がぐるぐるする。
「あ、のー、、、俺の治療ってもちろん、服を脱いでやりました、、よね、、?」
何を呑気にお喋りしていたのか。もしかしたら自分の性別がバレているかもしれないというのに。
「お前覚えてないのか?酷かったんだぞ。医療班が服を脱がせようとしたら暴れて暴れて手がつけられんかった。これだけ暴れるんだから重症じゃ無いと判断されたみたいだけどな。だが、どこか違和感があればすぐ言えよ」
意識がない時の俺グッジョブ、、!思わず布団の中で小さくガッツポーズをしてしまった。
「そんなに体を見られたくなかったの
か?」
「最近の子は見られるのを嫌がるんすよ。たいちょーと一緒にしないでください」
年齢差を利用した嘘だが、隊長はそういうのに疎いから通じるだろう。
「ん、そうなのか、、それは治療の時困るな」
やはり信じ切って本気で悩み始めてしまった。悩んでる顔も怖い。少し悪いことをした気がする。
「俺いつから訓練出れますかね?」
話題を変えて復帰までの日にちを訪ねた。
「最低でも2日だな」
「え、1日で良いっすよ」
「ダメだ。本当なら3日は休ませたい所だ」
「イヤです」
「1週間に延ばすぞ」
「2日休みます」
心配性もここまで来ると過保護と言わざるを得ない。
「俺はもう行くから、何かあったら医療班の奴に言え」
「はーい」
ちゃんと休むことを約束すると、満足げに医務室から去っていった。
「おやすみママ」
ドアが閉まると同時に小さい声で言い、布団を顎まで引き上げた。さっきまで寝ていたのに、また抗えない眠気に誘われる。隊長との話で体力を使ってしまったようだ。
トーマスに後でお礼を言わないと。
そう考えた所でアランの思考は夢の中へと沈んでいった。
****
1日目はほぼベッドの上で過ごし、2日目は自室で休むようにとの事だった。
「じっとしてるのって苦痛、、」
1人、部屋でそう呟く。1日ベッドの上と言うのもなかなか辛いものだ。
「俺は部屋に居ますよ〜」
そう小声で言いながらアランは、そこに人が居ると見せる為、ベッドに膨らみを作った。
医務室からはそこそこ距離があるので足音を消す意味は無いが、雰囲気から必然的に忍び足になる。かっこ悪い体勢のまま、音を出来るだけ立てないように部屋を出た。
向かった先は、いつもアローと来ている訓練場の裏の丘だ。まだ日も高くポカポカとしていて気持ちが良い。
「アローも休憩中か、気付いたら飛んでくるかな」
そう呟いたと同時に、大きい翼が風を叩く音がした。さっそく来たようだ。
あっと言う間に目の前に着地したアローは、何か急いでいるようだった。撫でようとした腕を甘噛みし、早く背中に乗れと言いたげだ。
「おいおい、どうした?まだ空を飛ぶ体力は無いよ」
落ち着かせようとするが、しきりに後ろを気にして言うことを聞いてくれない。
「もしかして、緊急事態?」
そう聞くと、意味が分かったのかグオゥ!と一声鳴いた。
「分かったよ、、」
アローの背に飛び乗り、手綱をしっかりと握る。しかし、手がヌルヌルして滑った。
「うわっ!」
アランの手を染めていたものは血だった。
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