季節外れ
「危ない!!」
そう声が聞こえて来たときには、上と下どちらが空か分からなくなっていた。
アローの顔に大きいコウモリのような物がへばりついている。上空の雲の中から現れたようで、咄嗟に反応ができなかった。落ち着かせようと手綱を握るが、パニックになっているようで、体勢を整えることができない。
必死にコウモリを引き剥がそうともがいたが、どうしても手が届かず、そのまま枯れ葉のように地面に落ちて行った。
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ガサガサガサ!!バキッ!
葉や木の折れる大きな音がして、落下していたアランの体は止まった。
「、、、いっっっったぁ」
痛みがあると言うことは、まだ死んではいないらしい。体から骨が突き出ている気がして目を開けるのが躊躇われた。
おそるおそる目を開けると、葉っぱと枝にまみれてはいるが、正常な体が目に入った。骨が折れたりはしていないようだが、身体中擦り傷や切り傷だらけでヒリヒリする。
どこかしらが打撲しているのは容易に想像出来た。このままじっとしていると、痛みが増して動けなくなるだろう。
「とりあえず降りるか、、」
アランがかろうじて留まっているのは地面から数メートル離れた木の上だ。慎重に降りないと今より怪我が酷くなりそうだった。
地面に降りると足元が少しフラついた。
アローが近くに見えないことで一気に寂しさが襲って来る。
「アロー!!おーーい!!」
今出る限りの大声で呼ぶが、鳴き声1つ返ってこない。怪我をしてなければ良いが。
戦闘の音が聞こえるかと思い耳をすますが、聞こえてくるのは木々の葉ずれの音ばかり。戦闘の気配を感じてか、鳥達すら息を潜めているようだ。
下手に動けば危ないので他隊員の助けを待とうと考えていた時、背後の藪の方からガサガサと音がした。音からして大きいものが近づいて来ているようだ。
「アロー?」
期待混じりの声でそう呼びかけ振り向いた。が、それはアローではなかった。
「な、んでこんな所に、、、」
藪の中から飛び出して来たのは、体長が3メートル程もあるウボー。群れは全部討伐隊が相手をしていると思ったが、漏れがあったようだ。追い立てられて気が立っているのか、目が血走っている。
刺激しないように後ずさりをするが、彼(彼女?)はこちらを見逃してはくれない。前足で地面を掻きはじめ、突進する準備を整えている。
背中を向ければ確実に殺されるだろう。
「まだ死ぬわけには行かないんだよね」
覚悟を決めたアランは1つ大きく息を吸い、使う機会が無いと思っていた剣を構えた。
もしもの時のために剣術は皆習っているが、討伐隊に比べれば練習量も技術も劣る。9:1で殺される確率が高い。
「ってゆーかさぁ、、」
アランは唐突に話しはじめた。目の前の魔獣を見ていると、怒りがふつふつと湧いて来たのだ。
「お前らが来なければ、アマンダはあいつと合わなかったし、殺されなかったんじゃ無いの?」
まだこちらを警戒しながら地面を掻いているウボーを憎々しげに睨む。
「ほら!かかって来いよ!!殺してやるから」
その声が引き金になったのか、ウボーはゴムまりが弾けたようにこちらに突進してきた。
猪は走り出したら曲がれないと言うが、あれは嘘だ。
真っ直ぐ突進して来たウボーをヒラリと躱したが、避けた方向に直ぐに曲がって来た。危うく牙に当たる所で剣で斬りつけたが、表皮が固くてとてもじゃないが刃が通りそうに無い。
半ば体当たりされ、反動で少し離れた木の幹まで吹き飛ばされた。ウボーはまたこちらを真っ直ぐ見据え、フーフーと息を整えている。
「来い、ブタ野郎」
言葉を理解したのかは分からないが、憤慨したような表情で、荒々しく吠えながら走りはじめた。
このまま行くと確実に牙が腹に大穴を開けるだろう。だがアランはその場から一歩も動かなかった。
「おらあぁああああーー!!!!」
ウボーの地面を揺らす足音と鳴き声に負けずアランも叫ぶ。
ズドォン!!!
森全体に響き渡るような音だった。息を潜めていた鳥達も、驚いて空へと逃げ出す。
木が鳴らすメキメキ、、と言う音以外は何も聞こえなくなった。
少し間を置いて、大きい物が落ちるようなドスン!と言う音がした。
「はぁっ、はっ、、、」
アランは肩で息をして、目の前に転がるウボーを見ている。ウボーの目には剣が深々と突き刺さっており、体がまだビクビクと痙攣していた。
突進してくるウボーを避けることはせず、牙と牙の隙間に体を滑り込ませ、1番柔らかいところに剣を突き刺したのだ。
「どうだ、、!お前なんか!!お前なんかなぁ!!」
自分でも何を喋っているのかよく分からなくなっていたが、体は勝手にウボーの目から剣を引き抜き、まだ暖かい体にザクザクと突き刺していた。
「お前らが来なければ!!!あの子は!!あの子が何をしたって言うんだよ、、、!!!くそ!!!!殺してやる!殺す!殺す!!」
何分そうやっていただろうか、ふと手の冷たさに気づき空を見上げると、雪が降っていた。ウボーの死体にもうっすらと雪が積もっている。
「あ、、あぁ、、」
その光景はあの日見た物に似ていた。真っ白な雪と、それに抗うかのような真っ赤な血。
「違う、、俺が殺したんじゃない、、、俺じゃない、、、」
アランは頭を抱え、その場に崩折れてしまった。
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雪の冷たさの次に感じたのは、暖かいものに包まれている感覚だった。抱き上げられ、どこかに運ばれている。それだけは分かったのだが、意識は朦朧としていて、暖を取る為に誰かのとも分からぬ胸ぐらをギュッと掴み身をうずめた。




