ワンワン
練習場に降り立つも、周りからの視線がとても痛い。気まずくて俯いていると、目の前に隊長が歩み出て来た。
「あの、、余計な真似してすみませんでした。皆んなに迷惑がかかることは分かってたんですが、、、」
地面を見たままそう言うと、ホークスが助かって良かったという安堵と、これから起こることの不安で、少しだけ涙目になってしまった。
スンスンと鼻をならし、隊長の言葉を待つ。
「、、謝るのは、俺の方だ。遅れてすまない」
「へ?、、、」
「お前が威嚇で追い払ってくれて助かった。俺だったら実力行使してたかもしれない」
「あの、、怒らないんですか?またあいつら仕返しに来るかも、、」
恐る恐る顔を上げると、隊長はなんとも満足げな顔をしていた。
「お前みたいな小僧に追っ払われたんだ。恥ずかしくて顔も見せられないだろうよ」
「なっ!小僧って、、」
言い返す言葉を探していたが、咄嗟に良い言葉が出てこなかった。
会話が途切れた瞬間、周りで聞いていた隊員たちが一斉にアランを胴上げし始めた。会話が途切れるのを今か今かと待っていたらしい。
「うおーー!!アランがやったぞー!!!」「チビのくせにー!!」「さっすがーー!!」「カッコよかったぞー!!」
「ちょっ、痛い!!痛いっす!!まだ打撲治ってなっ、、!!っ痛ぁーーー!!」
体が軽いのもあってか、その後しばらくは胴上げが続けられた。
部屋で大人しくする時間が増やされたのは、言うまでもない。
****
自室で休んでいると、トントン、とドアがノックされた。
まだお昼だ。誰だろう?
「はーい、どうぞ」
一応身だしなみを整え返事をした。
扉の隙間から顔を出したのはトーマスだった。
「悪い、今良いか?」
「うん、大丈夫だけど」
許可を出されてようやく部屋に入ってきた。真面目と言うか、律儀と言うか。
「どしたの?」
特段話す事も無かったと思い、頭の上にハテナが浮かぶ。
「あのー、あれだ。先日はホークスを救ってくれて、、、有難う」
きっちり腰から曲げるお礼をされてしまった。アランは慌てて立ち上がり頭を上げさせた。
「い、いやいやいや!あれは俺の自分勝手とゆーか、そのー、あ!!俺トーマスにお礼言ってなかったよな!俺が空から落ちた時隊長に知らせてくれたのトーマスだろ?」
こちらこそ有難う。とお礼をする。
「ほら、これでおあいこ!」
「だが、それでも何かお礼をしたい」
どうしても譲らないらしい。どこまでもお人好しだ。
「んーー、じゃあさ、今度の休みになんか奢ってよ!どーしてもって言うなら奢らせてやらん事もない!」
ふんぞり返り偉そうに言うと、トーマスがプッと吹き出した。
「ふっ、分かった。そうしよう」
笑った顔を始めて見たかもしれない。普段は真面目系のイケメンという感じだが、笑うとあどけなさが出てなかなか可愛い。
「あ、ホークスは?怪我はもう大丈夫?」
「あぁ、あれぐらいすぐ治るさ。まだ飛ぶのは控えてるが来週には全快するだろう」
「そ、良かった。」
血が沢山出ていたので心配していたが、どうやら思ったより軽傷だったらしい。
「ほら、もう昼休み終わるから戻らないと」
「そうだな、また今度の休みにな」
邪魔したな、と部屋を出て行くトーマスの背中を見送る。今度の休みが楽しみだ。
「タダ飯やっほーーい!!」
アランは背中からベッドに倒れこんだ。
****
体の調子も大分良くなり、訓練にも何回か参加した。まだ本調子、とまでは行かないが、以前と遜色なく動ける。
そして、問題のアローはと言うと、、
『アラン!!!イマ!スゴカッたでショ???』
俺に言葉が通じるとわかるや否や、前にも増して元気いっぱいになってしまった。
「はいはい、凄かった凄かった」
落ち着かせるために頭を撫でてやっていると、訓練場の向こうから隊長がやって来た。
「アラン、体調はもう大丈夫そうか?」
隊長も他の隊員も、しょっちゅう体調を気遣ってくれる。少々過保護が過ぎるようだ。
「だーいじょうぶですって!何回聞くんすか」
同じことを聞かれすぎてゲンナリしていると、横に居るアローがまた喋り始める。
『タイチョー、アランのコト、シンパイ!アラン、あったかいカラ』
「俺があったかい?あったかいと心配になるのか?何だそれ?」
隊長の存在を忘れて喋っていると、話を遮るように隊長が割って入った。
「おっ、おい!お前、、、話せるのか?、ワイバーンと、、?」
そうだ、この現象について隊長に質問したかったんだった。
「あっ、そうなんすよー。何で突然話せるようになったんすかね?てゆーか隊長は話せるんすか?」
「はなっ!、話せる訳無いだろ!!本来なら竜種と意思疎通が出来るのは王族の血筋のみだ。一般人でも、本当に限られた人しか無理だ」
「まさかお前が、、、」
お前が、、と言った後の顔のまま、隊長はフリーズしてしまった。
「おーい、たいちょー?グレイたいちょー?おーーーい!!」
意識がどこかへ飛んで行っているらしい。瞬きもしないので少し怖くなった。
アローは飽きて隊長の相棒とじゃれ合っている。
「ウゥーー!ワンワン!!ワンっ!!!」
犬の鳴き真似をするとようやく目が覚めたらしい。ビクッと体を震わせてアランに焦点を合わせた。
「あ、戻ってきた。たいちょーこれってヤバイですか?俺どうなります?」
「どう?、、いや、考えてみればお前が話せるのはワイバーンだろ?なら、このままこの隊に居ればいい。前と変わらんさ」
「特に問題無いってことっすね!良かったぁ〜」
ホークスを助けた時、ドラゴンの声も聞こえていたことは伏せていたほうが良さそうだ。
「ただ、他のやつに気づかれないようにしろよ。無駄な厄介ごとが増えそうだからな」
「はーい!了解です!!」
明日はトーマスとご飯に行く日だったので、お疲れ様でした!と元気よく叫び、早めに寮に戻った。




