初任務
「何でお前が謝るんだ?」
さっきまで険しい顔をしていた隊長が慌てて俺の肩を掴んで正面を向かせた。
「え、俺がなんかやらかしたんじゃないですか??」
「なんだ、思い当たる事があるのか?」
「えーーと、裏でたいちょーの事ワンちゃんって読んだこととか、勝手に昼飯の肉もらった事とか???あれ?確かに俺怒られるような事してないっすね!!」
例を挙げていくほどに、隊長の顔が元どおりを通り越して血管が浮き出てくる。
「アラン、、、1発殴らせろ」
「は!?嫌っすよ!俺が怒らせたわけじゃないんすよね??殴られる意味が分かりません!!」
本当に殴る気なのか、拳を握りしめアランの頭上に掲げはじめた。彼の拳はかなり硬い。しばらくはコブに悩まされるだろう。
経験上それが分かっていたアランは、くるりと背を向けて部屋を出て行こうとした。
「夜分遅くに失礼しました!!お、おやすみなさいーー!!!」
ガシッ!
「グぇッ!」
寝間着の襟をぐいっと引っ張られ、喉が閉まりカエルの様な声が出てしまった。
「まだ話は終わってないぞ?なぁ?」
アランのふざけた罪の告白で先ほどまでの怒りは幾らか収まった様だ。アランを見る目がイタズラを企む子供の様にキラキラしていた。
「ゆるしてつかぁさい〜悪気は無かったんす〜」
悪さをした子猫さながらに襟を掴まれぶらぶらとしていると、頭上から質問が降ってきた。
「ん、、お前いつもネックレスなんか付けてたか?」
いつも隊の制服を着ているため、首元の革紐には誰も気づかなかったのだが、今は寝間着だ。隊長も違和感に気づいたらしい。
「あぁ、これはネックレスじゃなくてお守りっすよ」
とりあえず隊長のゲンコツが飛んでくる心配が無くなり、俺は話す必要もない事を話しはじめた。
「前に黒い鱗を拾ったんすよ、たぶんドラゴンのだと思うんすけど」
胸元に手を突っ込み、袋から鱗を出し見せる。隊長は顎に手を当て、髭をじょりじょりさすりながら鱗を見つめた。
「、、、。ドラゴンの鱗か、それは珍しい拾い物をしたな」
手に乗せた鱗は、あの日から変わる事なく、ヒンヤリとしていて干からびた様子は無い。鱗を見つめていたアランは、沈黙の間の隊長の顔を見逃した。
「珍しいんですか?」
「あぁ、ドラゴンの鱗はそりゃあ頑丈に出来ていてな、剥がれるのは何年に一回とかそんなもんだ」
「へぇ〜、売ったら高いかな、、」
「売っちまった方が良いかもな、ドラゴンの血液や肉は人間にとっちゃ毒だ。その鱗も袋に入れてるからまだ大丈夫だが、直に触り続けていると肌が荒れるぞ」
「えっ、そーなんすか?こわ〜」
肌が荒れると聞くや否や、慌てて袋に鱗をしまう。
「ほら、もう部屋に帰って寝ろ。明日もビシバシ訓練するからな!」
おもむろに手をあげたので、殴られるかと思って目を閉じたが、頭をポンポンと撫でられただけだった。先ほどまで機嫌が悪かったのもすっかり忘れてしまったらしい。
「はーい、おやすみなさーい」
機嫌がまた悪くならないうちにと、ササっと部屋を出た。
****
新人たちにとって初めての任務の日、気持ちよく快晴、とは行かず、生憎の曇り空だった。何層もの雲が重なり、辛うじて雨を留めているようだ。
「天気悪いね〜」
空を見上げながら、隣に居た黒髪の少年に声を掛けた。入隊試験の時に一番最初に襲われていた男の子だ。名前はトーマス、だったか。
「そうだな、だけど様々な状況で戦えるようじゃなきゃ」
「なるほどね〜」
出立の準備も整い、上司からの号令をダラダラと待っていると、背後から怒鳴り声がした。
「ボーーッとしてんじゃねえ!!!」
トーマスとアランの体がビクッと跳ねる。2人同時に後ろを振り向くと、隊長が腕組みをしてこちらを睨みつけている。
「す、すみません隊長!」
震え上がったトーマスはすかさず頭を下げた。しかし、隊長の顔を良く見ると口角が少し上がっている。ふざけて驚かしたようだ。
「もう行く時間っすか?」
謝る気配も無くアランがそう問うと、横に居たトーマスが何をやっているんだとばかりにアランの裾を引っ張った。
「あぁ、やっと全員の準備が整ったらしい。お前らも配置に付け」
先ほどまで怒っていた隊長が上機嫌に去っていったので、トーマスは釈然としないようだった。
「さ、行こ!」
まだ隊長の方を向いていたトーマスの腕を取り、隊員たちが集まっている所まで走った。やっと初任務が始まる。この任務は俺の計画に役立つだろう。
早く任務行ってください、、




