十二日間の仕事
第二章 灰境
第48話 十二日間の仕事
前書き
大きな仕事は、
大きな力だけでは終わりません。
石を運ぶ人。
釘を打つ人。
食事を作る人。
記録する人。
危険を見張る人。
そして、
壊れた場所を見つける人。
誰か一人が英雄になるより。
皆が少しずつ、
自分にできることをする。
町や村というものは、
たぶん。
そうやって作られていくのでしょう。
⸻
翌朝。
アルフレッドが目を覚ました時。
窓の外は。
すでに明るかった。
「……」
少年は。
天井。
見る。
瞬き。
一回。
二回。
「寝過ごした」
「正解」
横。
マルタ。
薬草。
潰す。
「起こしてくださいよ!」
「起こさなかったんだよ」
「今日は第二浄化塔の――」
「知ってる」
「じゃあ!」
「昨日、倒れる寸前まで力を使った十二歳を」
「夜明け前に叩き起こして山へ連れていくほど」
「わたしゃ鬼じゃないよ」
「でも」
「皆もう仕事してる!」
「だから何だい」
「僕も領主です!」
「領主は寝ないのかい?」
「……寝ます」
「なら寝た」
「はい」
「問題なし」
「そんな簡単に……」
⸻
寝台。
反対。
セルマ。
椅子。
座る。
「アルフレッド様」
「セルマからも言って」
「十分に休息を取るという約束でした」
「敵だった」
「裏切られた気分です」
「私は最初からこちら側です」
「マルタさん側?」
「常識側です」
「僕が非常識みたいじゃない?」
二人。
沈黙。
「何で黙るの」
⸻
結局。
朝食。
食べる。
体調。
確認。
頭痛。
なし。
吐き気。
なし。
手足。
問題なし。
熱。
なし。
「よし」
マルタ。
「行っていいよ」
「本当!?」
「ただし」
「《清掃》と《修繕》」
「今日は?」
「原則一回ずつ」
「一回ずつ」
「不満?」
「……使いどころ考えます」
「それでいい」
⸻
外。
出る。
村。
朝。
以前とは。
少し。
違う。
柵。
新しい。
部分。
増えた。
屋根。
穴。
塞がった。
井戸。
周囲。
泥。
減った。
そして。
領主館。
西棟。
窓。
一枚。
入っている。
「……おお」
アルフレッド。
立ち止まる。
「窓!」
「昨日入れた」
エッダ。
木材。
抱える。
「僕いない間に!?」
「あなたがいなくても仕事は進みます」
「……」
「どうしました?」
「ちょっと寂しい」
「なぜです?」
「僕がいなくても進むんだなって」
エッダ。
呆れる。
「それが普通です」
「領主一人が寝たら止まる村なんて」
「三日で潰れます」
「確かに」
「むしろ」
エッダ。
窓。
見る。
「あなたが寝ていても進むようになった」
「それを喜んでください」
アルフレッド。
少し。
考える。
「……そっか」
笑う。
「うん」
「嬉しい」
⸻
広場。
ノエル。
巨大。
板。
立てていた。
「何ですかこれ」
「工程表です」
「こうていひょう?」
「第二浄化塔復旧計画」
板。
縦。
十二。
区切り。
一日目。
二日目。
三日目。
……
十二日目。
「本当に十二日で?」
「C―12の推定です」
「ただし」
「必要資材」
「人員」
「作業時間」
「侵食状況」
「未知の故障」
「これらによって変動します」
「つまり?」
「十二日で終わるとは限りません」
「じゃあ何で十二日って」
「目標がないと皆困るからです」
「なるほど」
⸻
さらに。
横。
仕事。
並ぶ。
第一日。
安全区域確保。
残留菌糸除去。
排水経路確認。
資材搬入。
第二日。
主循環機構点検。
第三日。
浄化槽第一層。
第四日。
配管交換。
……
「いっぱい」
「はい」
「僕の仕事は?」
アルフレッド。
探す。
一番下。
小さい。
文字。
――管理者判断。
――高難度修繕。
――侵食除去。
「三つだけ?」
「三つもあります」
「もっと」
「駄目です」
「運搬」
「駄目です」
「縄」
「駄目です」
「掃除」
「普通の掃除なら許可します」
「スキルなし?」
「箒で」
「……」
「不満そうですね」
「《清掃》持ってるのに箒……」
「普通の人は全員そうです」
⸻
第一日。
第二浄化塔。
アルフレッドたち。
到着。
C―12。
補助保守口。
前。
待つ。
『管理者』
「おはよう」
『時刻――午前八時十二分』
「うん?」
『予定到着時刻』
『午前七時』
「……」
ガルド。
横。
笑う。
「怒られてるぞ」
「寝かされてたんです!」
『体調』
『回復確認』
「……シーさん」
『確認』
「心配してた?」
『保守作業効率上』
『管理者の健康維持は必要』
「エーナナと同じ言い方する」
『A―07より学習』
「学習するんだ……」
⸻
作業。
開始。
まず。
安全区域。
補助保守口から。
主通路。
第一機械室。
そこまで。
菌糸。
除去。
「アル坊」
ガルド。
「出番じゃねぇぞ」
「分かってます」
A―07。
刃。
切る。
C―12。
前脚。
菌糸。
剥がす。
B―03。
大きな。
塊。
運ぶ。
人間。
火。
焼却。
「……」
アルフレッド。
見ている。
「暇?」
ヘルマン。
「ちょっと」
「覚えろ」
「何を?」
「やり方」
⸻
ヘルマン。
壁。
指す。
「全部」
「スキルで消したら」
「早い」
「うん」
「でも」
「お前がいなくなったら?」
「……」
「誰も」
「できなくなる」
「だから」
「俺たちでもできる方法」
「先に作る」
アルフレッド。
菌糸。
切る。
A―07。
見る。
焼く。
村人。
見る。
「僕がいなくても」
「できるように?」
「そう」
「それ」
「エッダさんにも」
「言われた」
「皆同じこと考えるんだね」
「大人だからな」
「ガルドさんも?」
「たまに」
「おい!」
⸻
昼前。
安全区域。
確保。
次。
排水経路。
C―12。
先導。
地下。
降りる。
そこ。
大きな。
水路。
だが。
水。
流れ。
弱い。
『排水路』
『閉塞率――63%』
「何が詰まってる?」
『堆積物』
『崩落石』
『侵食組織』
「三種類」
「面倒だな」
ガルド。
⸻
「ここ」
アルフレッド。
覗く。
「《清掃》したら」
「一発?」
『推定』
『閉塞率』
『18%まで低下可能』
「すごい」
「使う?」
アルフレッド。
ガルド。
見る。
以前なら。
もう。
手。
出していた。
「……」
ガルド。
少し。
笑う。
「C―12」
「どう思う」
『本日工程を考慮』
『管理者能力使用』
『推奨』
「よし」
「アル坊」
「一回目」
「うん!」
⸻
アルフレッド。
水路。
前。
座る。
直接。
全部。
ではない。
「どこまで?」
『侵食組織のみ』
C―12。
『石材除去は』
『物理作業推奨』
「どうして?」
『管理者負荷軽減』
「……」
「機械にまで」
「気遣われてるぞ」
ガルド。
「人気者?」
「そういう問題じゃねぇ」
⸻
「《清掃》」
白。
光。
水路。
走る。
泥。
少し。
剥がれる。
だが。
狙う。
灰色。
菌糸。
だけ。
壁。
隙間。
水中。
石。
裏。
びっしり。
絡む。
「……多い」
アルフレッド。
眉。
寄せる。
「でも」
「昨日より」
「分かる」
何を。
消す。
何を。
残す。
選ぶ。
「ここ」
「ここ」
「これも」
白。
進む。
灰色。
崩れる。
水。
少し。
速く。
なる。
ざあ。
「流れた!」
ヘルマン。
『閉塞率――41%』
「18じゃない」
『崩落石』
『堆積物』
『残存』
「じゃあ」
「ここから皆の仕事?」
『肯定』
アルフレッド。
笑う。
「お願いします」
「任せろ」
⸻
石。
運ぶ。
泥。
掻き出す。
B―03。
大石。
持つ。
『搬出』
「ビーさん便利だな」
ベルン。
『当機』
『保守用ではない』
「嫌?」
『……』
『任務受諾済』
「ちょっと嫌なんだ」
アルフレッド。
「感情あるの?」
『定義不能』
「エーナナは?」
『回答不能』
「シーさん」
『保守作業を継続してください』
「逃げた」
⸻
午後。
排水路。
閉塞率。
11%。
『正常範囲』
「終わった!」
アルフレッド。
両手。
上げる。
誰も。
倒れていない。
怪我。
なし。
スキル。
一回。
だけ。
「第一日」
ノエル。
板。
小さい。
携帯記録。
「予定より」
「二時間早いです」
「本当?」
「はい」
「じゃあ次の作業――」
「しません」
「え」
「予定より早く終わった場合」
「帰還」
「なんで!?」
「余裕を残すためです」
「まだ明るいよ」
「だから」
「明るいうちに帰るのです」
アルフレッド。
衝撃。
「仕事って」
「終わったら」
「次やるんじゃないの?」
大人たち。
妙な。
沈黙。
ガルド。
アルフレッド。
肩。
掴む。
「その考え」
「今のうちに捨てろ」
「そんなに?」
「村を潰すぞ」
⸻
帰り。
村。
近づく。
煙。
見える。
炊事。
匂い。
「今日は」
「早いね!」
リーナ。
走る。
「仕事終わった」
「もう?」
「うん」
「じゃあ遊べる?」
アルフレッド。
止まる。
「遊ぶ?」
「うん」
「……」
最近。
考えていなかった。
十二歳。
遊ぶ。
普通。
なのかもしれない。
「何するの?」
「石投げ」
「川に?」
「違う」
「缶」
「缶?」
「ない」
「じゃあ何に投げるの?」
「木!」
「危なくない?」
「領主様」
「怖がり!」
「危ないものは危ないよ!」
リーナ。
笑う。
走る。
アルフレッド。
追う。
「待って!」
「走るな!」
ガルド。
反射。
叫ぶ。
でも。
止まる。
アルフレッド。
普通に。
走っている。
仕事。
ではない。
誰か。
助けるためでもない。
ただ。
子どもと。
遊ぶため。
「……まあ」
「今日はいいか」
⸻
セルマ。
家。
前。
その姿。
見る。
アルフレッド。
石。
投げる。
外す。
「下手!」
「初めてだから!」
「領主様なのに!」
「領主関係ないよ!」
子どもたち。
笑う。
アルフレッド。
笑う。
セルマ。
少し。
眩しそう。
見る。
「行かないのかい」
マルタ。
「私は」
「もう子どもでは」
「何歳だい」
「十四です」
「子どもだよ」
「働けます」
「それとこれは別」
「……」
「行ってきな」
「ですが」
「石投げくらい」
「片腕でもできる」
セルマ。
左手。
見る。
「……」
「できないと思ったかい?」
「少し」
「なら」
「試してから決めな」
⸻
「アルフレッド様」
声。
アルフレッド。
振り返る。
「セルマ!」
「私も」
左手。
小石。
「一度」
「やってみても?」
「もちろん!」
「じゃあ」
「あの木!」
リーナ。
指す。
「当てたら勝ち!」
「距離」
「遠くありませんか?」
「怖い?」
「……」
セルマ。
目。
細める。
「投げます」
左腕。
引く。
投げる。
石。
飛ぶ。
かん。
木。
当たる。
「……」
アルフレッド。
「え」
リーナ。
「すご!」
「初めて?」
「はい」
「嘘!」
「本当です」
セルマ。
自分。
左手。
見る。
ほんの。
少し。
驚く。
「できた」
「できたね!」
アルフレッド。
笑う。
「もう一回!」
「はい」
⸻
夕方。
村。
笑い声。
響く。
第二浄化塔。
十二日間。
仕事。
始まった。
でも。
それだけではない。
村。
直す。
水。
直す。
施設。
直す。
そして。
もしかしたら。
人も。
壊れたところだけを見て。
生きなくても。
いいのかもしれない。
⸻
夜。
第二浄化塔。
C―12。
一人。
『第一日工程』
『完了』
『排水機能――回復』
水。
流れる。
その音。
地下。
伝う。
深く。
さらに。
深く。
そして。
昨日。
灯った。
古い装置。
再び。
反応。
『第二浄化塔』
『回復率――21%』
『水系接続――部分復旧』
次。
表示。
『地下主幹線』
『流量検出』
『接続先検索』
第一。
第三。
第四。
そして。
第五。
だが。
もう一つ。
これまで。
表示されなかった。
場所。
現れる。
『中央浄化中枢』
『状態――不明』
『管理権限――封鎖』
さらに。
『暫定管理者』
『権限不足』
そして。
最後。
文字。
一行。
『正式管理者資格』
『取得条件――』
表示。
乱れる。
『五基の浄化塔』
『再接続』
暗転。
⸻
同じ頃。
灰境から。
何百里も離れた。
街道。
三人。
馬。
走る。
先頭。
外套。
男。
「間違いないのか?」
「はい」
「ヨーレリヒト家の者が」
「灰境へ向かったあと」
「二名が消息不明」
「もう一名も戻っていません」
「そして」
「開拓局から」
「妙な報告が上がった」
「妙な?」
「新領主が」
「古代遺構を」
「起動させた可能性がある」
男。
黙る。
「名前は」
「アルフレッド・ヨーレリヒト」
「十二歳です」
「十二歳」
男。
鼻。
鳴らす。
「また」
「面倒な場所が」
「目を覚ましたものだ」
三騎。
灰境。
方向。
走る。
彼らの胸。
銀色。
紋章。
開拓局ではない。
ヨーレリヒト家でもない。
王国。
古代遺構。
専門。
調査する。
組織。
その名を。
灰境の誰も。
まだ。
知らなかった。
⸻
第48話 十二日間の仕事 了




