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男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

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48/53

十二日間の仕事

第二章 灰境


第48話 十二日間の仕事


前書き


大きな仕事は、


大きな力だけでは終わりません。


石を運ぶ人。


釘を打つ人。


食事を作る人。


記録する人。


危険を見張る人。


そして、


壊れた場所を見つける人。


誰か一人が英雄になるより。


皆が少しずつ、


自分にできることをする。


町や村というものは、


たぶん。


そうやって作られていくのでしょう。


⸻


 翌朝。


 アルフレッドが目を覚ました時。


 窓の外は。


 すでに明るかった。


「……」


 少年は。


 天井。


 見る。


 瞬き。


 一回。


 二回。


「寝過ごした」


「正解」


 横。


 マルタ。


 薬草。


 潰す。


「起こしてくださいよ!」


「起こさなかったんだよ」


「今日は第二浄化塔の――」


「知ってる」


「じゃあ!」


「昨日、倒れる寸前まで力を使った十二歳を」


「夜明け前に叩き起こして山へ連れていくほど」


「わたしゃ鬼じゃないよ」


「でも」


「皆もう仕事してる!」


「だから何だい」


「僕も領主です!」


「領主は寝ないのかい?」


「……寝ます」


「なら寝た」


「はい」


「問題なし」


「そんな簡単に……」


⸻


 寝台。


 反対。


 セルマ。


 椅子。


 座る。


「アルフレッド様」


「セルマからも言って」


「十分に休息を取るという約束でした」


「敵だった」


「裏切られた気分です」


「私は最初からこちら側です」


「マルタさん側?」


「常識側です」


「僕が非常識みたいじゃない?」


 二人。


 沈黙。


「何で黙るの」


⸻


 結局。


 朝食。


 食べる。


 体調。


 確認。


 頭痛。


 なし。


 吐き気。


 なし。


 手足。


 問題なし。


 熱。


 なし。


「よし」


 マルタ。


「行っていいよ」


「本当!?」


「ただし」


「《清掃》と《修繕》」


「今日は?」


「原則一回ずつ」


「一回ずつ」


「不満?」


「……使いどころ考えます」


「それでいい」


⸻


 外。


 出る。


 村。


 朝。


 以前とは。


 少し。


 違う。


 柵。


 新しい。


 部分。


 増えた。


 屋根。


 穴。


 塞がった。


 井戸。


 周囲。


 泥。


 減った。


 そして。


 領主館。


 西棟。


 窓。


 一枚。


 入っている。


「……おお」


 アルフレッド。


 立ち止まる。


「窓!」


「昨日入れた」


 エッダ。


 木材。


 抱える。


「僕いない間に!?」


「あなたがいなくても仕事は進みます」


「……」


「どうしました?」


「ちょっと寂しい」


「なぜです?」


「僕がいなくても進むんだなって」


 エッダ。


 呆れる。


「それが普通です」


「領主一人が寝たら止まる村なんて」


「三日で潰れます」


「確かに」


「むしろ」


 エッダ。


 窓。


 見る。


「あなたが寝ていても進むようになった」


「それを喜んでください」


 アルフレッド。


 少し。


 考える。


「……そっか」


 笑う。


「うん」


「嬉しい」


⸻


 広場。


 ノエル。


 巨大。


 板。


 立てていた。


「何ですかこれ」


「工程表です」


「こうていひょう?」


「第二浄化塔復旧計画」


 板。


 縦。


 十二。


 区切り。


 一日目。


 二日目。


 三日目。


 ……


 十二日目。


「本当に十二日で?」


「C―12の推定です」


「ただし」


「必要資材」


「人員」


「作業時間」


「侵食状況」


「未知の故障」


「これらによって変動します」


「つまり?」


「十二日で終わるとは限りません」


「じゃあ何で十二日って」


「目標がないと皆困るからです」


「なるほど」


⸻


 さらに。


 横。


 仕事。


 並ぶ。


 第一日。


 安全区域確保。


 残留菌糸除去。


 排水経路確認。


 資材搬入。


 第二日。


 主循環機構点検。


 第三日。


 浄化槽第一層。


 第四日。


 配管交換。


 ……


「いっぱい」


「はい」


「僕の仕事は?」


 アルフレッド。


 探す。


 一番下。


 小さい。


 文字。


 ――管理者判断。


 ――高難度修繕。


 ――侵食除去。


「三つだけ?」


「三つもあります」


「もっと」


「駄目です」


「運搬」


「駄目です」


「縄」


「駄目です」


「掃除」


「普通の掃除なら許可します」


「スキルなし?」


「箒で」


「……」


「不満そうですね」


「《清掃》持ってるのに箒……」


「普通の人は全員そうです」


⸻


 第一日。


 第二浄化塔。


 アルフレッドたち。


 到着。


 C―12。


 補助保守口。


 前。


 待つ。


『管理者』


「おはよう」


『時刻――午前八時十二分』


「うん?」


『予定到着時刻』


『午前七時』


「……」


 ガルド。


 横。


 笑う。


「怒られてるぞ」


「寝かされてたんです!」


『体調』


『回復確認』


「……シーさん」


『確認』


「心配してた?」


『保守作業効率上』


『管理者の健康維持は必要』


「エーナナと同じ言い方する」


『A―07より学習』


「学習するんだ……」


⸻


 作業。


 開始。


 まず。


 安全区域。


 補助保守口から。


 主通路。


 第一機械室。


 そこまで。


 菌糸。


 除去。


「アル坊」


 ガルド。


「出番じゃねぇぞ」


「分かってます」


 A―07。


 刃。


 切る。


 C―12。


 前脚。


 菌糸。


 剥がす。


 B―03。


 大きな。


 塊。


 運ぶ。


 人間。


 火。


 焼却。


「……」


 アルフレッド。


 見ている。


「暇?」


 ヘルマン。


「ちょっと」


「覚えろ」


「何を?」


「やり方」


⸻


 ヘルマン。


 壁。


 指す。


「全部」


「スキルで消したら」


「早い」


「うん」


「でも」


「お前がいなくなったら?」


「……」


「誰も」


「できなくなる」


「だから」


「俺たちでもできる方法」


「先に作る」


 アルフレッド。


 菌糸。


 切る。


 A―07。


 見る。


 焼く。


 村人。


 見る。


「僕がいなくても」


「できるように?」


「そう」


「それ」


「エッダさんにも」


「言われた」


「皆同じこと考えるんだね」


「大人だからな」


「ガルドさんも?」


「たまに」


「おい!」


⸻


 昼前。


 安全区域。


 確保。


 次。


 排水経路。


 C―12。


 先導。


 地下。


 降りる。


 そこ。


 大きな。


 水路。


 だが。


 水。


 流れ。


 弱い。


『排水路』


『閉塞率――63%』


「何が詰まってる?」


『堆積物』


『崩落石』


『侵食組織』


「三種類」


「面倒だな」


 ガルド。


⸻


「ここ」


 アルフレッド。


 覗く。


「《清掃》したら」


「一発?」


『推定』


『閉塞率』


『18%まで低下可能』


「すごい」


「使う?」


 アルフレッド。


 ガルド。


 見る。


 以前なら。


 もう。


 手。


 出していた。


「……」


 ガルド。


 少し。


 笑う。


「C―12」


「どう思う」


『本日工程を考慮』


『管理者能力使用』


『推奨』


「よし」


「アル坊」


「一回目」


「うん!」


⸻


 アルフレッド。


 水路。


 前。


 座る。


 直接。


 全部。


 ではない。


「どこまで?」


『侵食組織のみ』


 C―12。


『石材除去は』


『物理作業推奨』


「どうして?」


『管理者負荷軽減』


「……」


「機械にまで」


「気遣われてるぞ」


 ガルド。


「人気者?」


「そういう問題じゃねぇ」


⸻


「《清掃》」


 白。


 光。


 水路。


 走る。


 泥。


 少し。


 剥がれる。


 だが。


 狙う。


 灰色。


 菌糸。


 だけ。


 壁。


 隙間。


 水中。


 石。


 裏。


 びっしり。


 絡む。


「……多い」


 アルフレッド。


 眉。


 寄せる。


「でも」


「昨日より」


「分かる」


 何を。


 消す。


 何を。


 残す。


 選ぶ。


「ここ」


「ここ」


「これも」


 白。


 進む。


 灰色。


 崩れる。


 水。


 少し。


 速く。


 なる。


 ざあ。


「流れた!」


 ヘルマン。


『閉塞率――41%』


「18じゃない」


『崩落石』


『堆積物』


『残存』


「じゃあ」


「ここから皆の仕事?」


『肯定』


 アルフレッド。


 笑う。


「お願いします」


「任せろ」


⸻


 石。


 運ぶ。


 泥。


 掻き出す。


 B―03。


 大石。


 持つ。


『搬出』


「ビーさん便利だな」


 ベルン。


『当機』


『保守用ではない』


「嫌?」


『……』


『任務受諾済』


「ちょっと嫌なんだ」


 アルフレッド。


「感情あるの?」


『定義不能』


「エーナナは?」


『回答不能』


「シーさん」


『保守作業を継続してください』


「逃げた」


⸻


 午後。


 排水路。


 閉塞率。


 11%。


『正常範囲』


「終わった!」


 アルフレッド。


 両手。


 上げる。


 誰も。


 倒れていない。


 怪我。


 なし。


 スキル。


 一回。


 だけ。


「第一日」


 ノエル。


 板。


 小さい。


 携帯記録。


「予定より」


「二時間早いです」


「本当?」


「はい」


「じゃあ次の作業――」


「しません」


「え」


「予定より早く終わった場合」


「帰還」


「なんで!?」


「余裕を残すためです」


「まだ明るいよ」


「だから」


「明るいうちに帰るのです」


 アルフレッド。


 衝撃。


「仕事って」


「終わったら」


「次やるんじゃないの?」


 大人たち。


 妙な。


 沈黙。


 ガルド。


 アルフレッド。


 肩。


 掴む。


「その考え」


「今のうちに捨てろ」


「そんなに?」


「村を潰すぞ」


⸻


 帰り。


 村。


 近づく。


 煙。


 見える。


 炊事。


 匂い。


「今日は」


「早いね!」


 リーナ。


 走る。


「仕事終わった」


「もう?」


「うん」


「じゃあ遊べる?」


 アルフレッド。


 止まる。


「遊ぶ?」


「うん」


「……」


 最近。


 考えていなかった。


 十二歳。


 遊ぶ。


 普通。


 なのかもしれない。


「何するの?」


「石投げ」


「川に?」


「違う」


「缶」


「缶?」


「ない」


「じゃあ何に投げるの?」


「木!」


「危なくない?」


「領主様」


「怖がり!」


「危ないものは危ないよ!」


 リーナ。


 笑う。


 走る。


 アルフレッド。


 追う。


「待って!」


「走るな!」


 ガルド。


 反射。


 叫ぶ。


 でも。


 止まる。


 アルフレッド。


 普通に。


 走っている。


 仕事。


 ではない。


 誰か。


 助けるためでもない。


 ただ。


 子どもと。


 遊ぶため。


「……まあ」


「今日はいいか」


⸻


 セルマ。


 家。


 前。


 その姿。


 見る。


 アルフレッド。


 石。


 投げる。


 外す。


「下手!」


「初めてだから!」


「領主様なのに!」


「領主関係ないよ!」


 子どもたち。


 笑う。


 アルフレッド。


 笑う。


 セルマ。


 少し。


 眩しそう。


 見る。


「行かないのかい」


 マルタ。


「私は」


「もう子どもでは」


「何歳だい」


「十四です」


「子どもだよ」


「働けます」


「それとこれは別」


「……」


「行ってきな」


「ですが」


「石投げくらい」


「片腕でもできる」


 セルマ。


 左手。


 見る。


「……」


「できないと思ったかい?」


「少し」


「なら」


「試してから決めな」


⸻


「アルフレッド様」


 声。


 アルフレッド。


 振り返る。


「セルマ!」


「私も」


 左手。


 小石。


「一度」


「やってみても?」


「もちろん!」


「じゃあ」


「あの木!」


 リーナ。


 指す。


「当てたら勝ち!」


「距離」


「遠くありませんか?」


「怖い?」


「……」


 セルマ。


 目。


 細める。


「投げます」


 左腕。


 引く。


 投げる。


 石。


 飛ぶ。


 かん。


 木。


 当たる。


「……」


 アルフレッド。


「え」


 リーナ。


「すご!」


「初めて?」


「はい」


「嘘!」


「本当です」


 セルマ。


 自分。


 左手。


 見る。


 ほんの。


 少し。


 驚く。


「できた」


「できたね!」


 アルフレッド。


 笑う。


「もう一回!」


「はい」


⸻


 夕方。


 村。


 笑い声。


 響く。


 第二浄化塔。


 十二日間。


 仕事。


 始まった。


 でも。


 それだけではない。


 村。


 直す。


 水。


 直す。


 施設。


 直す。


 そして。


 もしかしたら。


 人も。


 壊れたところだけを見て。


 生きなくても。


 いいのかもしれない。


⸻


 夜。


 第二浄化塔。


 C―12。


 一人。


『第一日工程』


『完了』


『排水機能――回復』


 水。


 流れる。


 その音。


 地下。


 伝う。


 深く。


 さらに。


 深く。


 そして。


 昨日。


 灯った。


 古い装置。


 再び。


 反応。


『第二浄化塔』


『回復率――21%』


『水系接続――部分復旧』


 次。


 表示。


『地下主幹線』


『流量検出』


『接続先検索』


 第一。


 第三。


 第四。


 そして。


 第五。


 だが。


 もう一つ。


 これまで。


 表示されなかった。


 場所。


 現れる。


『中央浄化中枢』


『状態――不明』


『管理権限――封鎖』


 さらに。


『暫定管理者』


『権限不足』


 そして。


 最後。


 文字。


 一行。


『正式管理者資格』


『取得条件――』


 表示。


 乱れる。


『五基の浄化塔』


『再接続』


 暗転。


⸻


 同じ頃。


 灰境から。


 何百里も離れた。


 街道。


 三人。


 馬。


 走る。


 先頭。


 外套。


 男。


「間違いないのか?」


「はい」


「ヨーレリヒト家の者が」


「灰境へ向かったあと」


「二名が消息不明」


「もう一名も戻っていません」


「そして」


「開拓局から」


「妙な報告が上がった」


「妙な?」


「新領主が」


「古代遺構を」


「起動させた可能性がある」


 男。


 黙る。


「名前は」


「アルフレッド・ヨーレリヒト」


「十二歳です」


「十二歳」


 男。


 鼻。


 鳴らす。


「また」


「面倒な場所が」


「目を覚ましたものだ」


 三騎。


 灰境。


 方向。


 走る。


 彼らの胸。


 銀色。


 紋章。


 開拓局ではない。


 ヨーレリヒト家でもない。


 王国。


 古代遺構。


 専門。


 調査する。


 組織。


 その名を。


 灰境の誰も。


 まだ。


 知らなかった。


⸻


第48話 十二日間の仕事 了

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