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男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

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44/53

山から来た水

第二章 灰境


第44話 山から来た水


前書き


変化には、


音があります。


壊れる音。


始まる音。


そして。


長い間止まっていたものが、


再び動き始める音。


その音が、


良い知らせなのか。


悪い知らせなのか。


分かるのは、


たいてい少し後なのです。


⸻


 翌朝。


 アルフレッドが目を覚ました時。


 最初に見えたのは、


 天井だった。


「……」


 古い。


 木。


 梁。


 マルタの家。


「朝?」


「昼前だよ」


「えっ」


 身体。


 起こそうとする。


「寝てな」


 マルタ。


 即座。


「でも」


「寝てな」


「もう大丈夫」


「誰が決めた?」


「……マルタさん」


「分かってるじゃないか」


 アルフレッド。


 諦める。


 再び。


 枕。


「みんなは?」


「働いてる」


「井戸は?」


「まだある」


「水は?」


「ある」


「エーナナは?」


「外」


「ビーさんは?」


「外」


「セルマは?」


「外」


「……僕だけ?」


「寝てる」


「領主なのに」


「領主だからだよ」


⸻


 マルタ。


 薬草。


 刻む。


「昨日」


「倒れたんだろ」


「倒れてはいません」


「ガルドが受け止めたから」


「それを倒れたって言うんだよ」


「……はい」


「頭は?」


「少し重い」


「吐き気」


「ない」


「手」


 アルフレッド。


 開く。


 閉じる。


「動く」


「目」


「見える」


「食欲」


「あります」


「それは結構」


「じゃあ起きて」


「駄目」


「食欲関係なかった……」


⸻


 外。


 村。


 昨日まで。


 少し違う。


 井戸。


 水位。


 低い。


 だが。


 水。


 透明。


 朝一番。


 A―07。


 測定。


『侵食因子濃度』


『前日夕刻比――さらに低下』


 ノエル。


 帳面。


「飲用は?」


『煮沸後――可』


「生では?」


『非推奨』


「では」


「昨日と同じです」


 村人。


 頷く。


 不満。


 ない。


 水。


 使える。


 それだけで。


 大きい。


⸻


「一人二杯!」


 エッダ。


「朝の分!」


「子どもから!」


「仕事組は水袋を持って!」


 リーナ。


 小さな。


 木杯。


 両手。


「昨日より少ない」


「我慢」


「分かってる」


 飲む。


「……普通」


「普通?」


「灰の味しない」


 母。


 少し。


 笑う。


「それが普通なのよ」


⸻


 村。


 西。


 柵。


 B―03。


 立つ。


 巨大。


 身体。


 村人。


 もう。


 少し。


 慣れた。


「ビーさん!」


 子ども。


 一人。


『確認』


「ここ持って!」


 木材。


『了解』


 ひょい。


「うわ!」


「軽そう!」


『重量――軽微』


「俺ら三人で運んだんだけど」


 ベルン。


「古代の機械」


「便利すぎないか?」


 ヘルマン。


「でも」


「家には入れんぞ」


「床抜ける」


『注意事項として登録』


「登録するのかよ」


⸻


 A―07。


 井戸。


 水。


 測る。


 その横。


 セルマ。


 立つ。


 今日は。


 杖。


 なし。


「歩けるようになったのか」


 グレゴール。


「短い距離なら」


「傷は?」


「マルタ様から」


「許可をいただいております」


「本当か?」


「……家の周辺まで」


「ここ井戸だぞ」


「家の周辺です」


「お前」


「領主様に似てきたな」


「それは」


「困ります」


「そこまで嫌がる?」


 後ろ。


 声。


「本人に聞かせたら」


「落ち込むぞ」


 セルマ。


 少し。


 口元。


 緩む。


⸻


 その時。


 A―07。


 突然。


 顔。


 北。


 向ける。


『検知』


 セルマ。


 反応。


「何ですか?」


『水音』


「水?」


 グレゴール。


 耳。


 澄ます。


 何も。


 聞こえない。


「俺には」


『距離――推定三千七百』


「三千七百?」


「何が?」


『大量流水』


 A―07。


 北。


 指す。


『山側』


⸻


 数分後。


 ガルド。


 ノエル。


 バルド。


 集まる。


「川か?」


 ガルド。


『既存河川位置と不一致』


「じゃあ何だ」


『不明』


「昨日から」


「不明ばっかりですね」


 ノエル。


『謝罪』


「責めているわけではありません」


『了解』


 バルド。


 北。


 山。


 見る。


「水の音」


「昔」


「聞いたことがある」


 全員。


 老人。


 見る。


「いつ?」


「子どもの頃じゃ」


「五十年くらい前?」


「もう少し前じゃ」


「何があった?」


「大雨」


 バルド。


「三日三晩」


「降った」


「山から」


「水が出た」


「川じゃない」


「岩の間から」


「大量に」


「湧いた」


 ノエル。


 すぐ。


「場所は?」


「北の古道」


「今は使わん道じゃ」


「どうして?」


「崩れた」


「それに」


 老人。


 顔。


 少し。


 険しくなる。


「昔から」


「あの山へ」


「近づくなと言われておった」


⸻


「理由は?」


「知らん」


「知らない?」


「わしが子どもの頃には」


「もう」


「そう言われておった」


「誰に?」


「爺さんじゃ」


「その爺さんは」


「誰に聞いた?」


「知らん」


 ガルド。


「つまり」


「何世代も前から」


「近づくなって場所」


「そうじゃ」


「そこから」


「昨日」


「水が出始めた?」


『可能性――高』


 A―07。


⸻


「アル坊には」


「まだ言うな」


 ガルド。


「寝てる」


 マルタ。


 いつの間にか。


 後ろ。


「起きたら?」


「寝かせろ」


「無理だね」


「なんでだ」


「もう起きてる」


 全員。


 振り返る。


 マルタの家。


 扉。


 少し。


 開く。


 アルフレッド。


 顔。


 半分。


「……」


「アル坊」


「……」


「何してる」


「外の空気を」


「嘘つけ」


「水って聞こえた」


「耳だけ元気だな!」


⸻


「戻れ!」


「でも」


「戻れ!」


「話だけ」


「寝ながら聞け!」


「それなら」


「いい?」


「よくねえ!」


 しかし。


 結局。


 話し合い。


 マルタの家。


 移動。


 アルフレッド。


 寝台。


 その周囲。


 大人。


 集まる。


「これ」


「僕の家みたいになってない?」


「領主館が壊れてるからね」


 マルタ。


「直したら?」


「追い出す」


「そんな」


⸻


「山から」


「水」


 アルフレッド。


 聞く。


「第二浄化塔?」


 ノエル。


 頷く。


「可能性は高いです」


「昨夜」


「第二浄化塔へ」


「緊急排圧が始まりました」


「そのあと」


「水が出た」


「位置は?」


「おおよそ」


「一致します」


「じゃあ」


「第二浄化塔」


「動いたんだ」


「一部は」


 ノエル。


「ただし」


「応答はありません」


「エーナナ」


『確認』


「第二浄化塔って」


「何をするところ?」


『記録検索』


 一瞬。


『第二浄化塔』


『主機能――』


 音。


 乱れる。


『生活水系』


『地下貯水』


『水圧調整』


「水?」


『肯定』


「第一は?」


『浄化統括』


「第四は?」


『下層汚染隔離』


「じゃあ」


 アルフレッド。


 起き上がろうとする。


 マルタ。


 押す。


「寝たまま」


「はい」


「第二を直したら」


「井戸の水」


「戻せるかも?」


『可能性あり』


「行こう」


「駄目」


 全員。


 同時。


「まだ最後まで」


「言ってない!」


「行こうだろ」


 ガルド。


「……はい」


⸻


「今日は」


 ノエル。


「調査だけです」


「誰が?」


「私」


「ガルド隊長」


「A―07」


「グレゴール」


「それと」


「村の地形を知る者」


 バルド。


「わしが」


「駄目だ」


 ガルド。


「脚」


「若い者より」


「道を知っとる」


「七十年前の道だろ」


「地形は」


「そう変わらん」


「崩れてるって」


「言ったの爺さんだぞ」


「……」


「ベルン」


「俺?」


「行け」


「はい」


⸻


 アルフレッド。


 不満。


 顔。


「僕」


「領主なのに」


「留守番?」


「療養」


 マルタ。


「留守番」


 セルマ。


「療養」


「二票」


 ガルド。


「療養」


「三票」


「ノエルさん」


「療養です」


「四票」


「エーナナ」


『療養推奨』


「五票……」


「ビーさん」


『療養推奨』


「六票」


 アルフレッド。


 布団。


 引く。


「多数決って」


「こういう時」


「嫌だ」


⸻


 昼前。


 調査隊。


 村。


 出る。


 ガルド。


 ノエル。


 グレゴール。


 ベルン。


 A―07。


 五人。


 北。


 古道。


 進む。


 村から。


 少し。


 離れる。


 景色。


 変わる。


 木。


 太い。


 岩。


 多い。


 道。


 ほとんど。


 消える。


「これ」


「道だったのか?」


 ベルン。


「石」


 グレゴール。


「見ろ」


 苔。


 下。


 平たい。


 石。


 規則的。


 並ぶ。


「舗装されてた?」


 ノエル。


 しゃがむ。


「かなり古い」


「でも」


「人工物です」


⸻


 さらに。


 進む。


 水音。


 人間にも。


 聞こえる。


 ざああああ……。


「本当に」


「水だ」


 ガルド。


 坂。


 上。


 登る。


 そして。


 木々。


 抜ける。


「……なんだ」


 ベルン。


 足。


 止まる。


 山肌。


 巨大な。


 石壁。


 半分。


 岩。


 埋まる。


 中央。


 割れ目。


 そこから。


 水。


 大量。


 流れ出している。


 滝。


 ほどではない。


 でも。


 小川。


 一本。


 作るには。


 十分。


「昨日まで」


「なかったんだよな?」


 ガルド。


「村から」


「見えなかっただけでは?」


 ノエル。


 地面。


 見る。


「いいえ」


「この水路」


「新しい」


 泥。


 削れ。


 草。


 倒れる。


 水。


 通った。


 ばかり。


⸻


「エーナナ」


『確認』


「第二浄化塔?」


 A―07。


 石壁。


 近づく。


 青い。


 瞳。


 走査。


『構造照合』


『……』


『第二浄化塔』


「当たり」


「入口は?」


『正面搬入口』


「どこだ」


 A―07。


 水。


 流れ出す。


 割れ目。


 指す。


『あちら』


「……水の中?」


『肯定』


「入れねえだろ」


『現状』


『困難』


⸻


「別の入口」


『保守口検索』


 A―07。


 歩く。


 右。


 山肌。


 草。


 苔。


 手。


 払う。


 金属。


「ここ」


『補助保守口』


 ガルド。


「開く?」


『管理者権限必要』


「アル坊」


「必要か」


『暫定管理者認証』


『または』


「または?」


『保守個体による』


『緊急開放』


「お前?」


『可能』


「なら」


「開けろ」


『警告』


「何だ」


『内部』


『生体反応――なし』


「それは」


「いいだろ」


『保守個体反応――一』


「……」


 ガルド。


 A―07。


 見る。


「仲間?」


『識別不能』


「昨日」


「起動したやつか」


『可能性』


「敵?」


『不明』


「またそれか」


⸻


「開ける?」


 ベルン。


 槍。


 握る。


「いや」


 ガルド。


 止める。


「今日は調査」


「アル坊に」


「そう言った」


「珍しい」


「何がだ」


「隊長が」


「約束守るなんて」


「俺は守る!」


「アル坊と一緒にするな!」


⸻


 ノエル。


 石壁。


 記録。


 寸法。


 水量。


 周辺。


 見る。


「隊長」


「何だ」


「これ」


 水。


 流れ。


 脇。


 何か。


 引っかかる。


 灰色。


 糸。


「菌糸」


 グレゴール。


 弓。


 構える。


 だが。


 動かない。


 水。


 流され。


 外。


 出てきた。


「第二浄化塔も」


「侵食されてる」


 ノエル。


「可能性が高いですね」


「水」


「村へ流れてないよな?」


「地形上」


「このままなら」


「東へ」


「村とは逆です」


「なら」


「触るな」


「帰るぞ」


⸻


 その時。


 どん。


 全員。


 止まる。


 山。


 中。


 音。


 どん。


 もう一度。


「何だ」


 ベルン。


『内部衝撃』


 A―07。


「さっきの保守個体?」


『可能性』


 どん。


 石壁。


 わずか。


 震える。


 水。


 揺れる。


「出ようとしてる?」


 ノエル。


『可能性』


「じゃあ」


 ガルド。


「なおさら帰る」


「村」


「備えるぞ」


⸻


 その頃。


 村。


 アルフレッド。


 寝台。


「……」


 目。


 開いている。


「寝てください」


 セルマ。


「寝られない」


「目を閉じてください」


「眠くない」


「昨日」


「私に」


「休むのも仕事だと言いましたね」


「言った」


「今」


「仕事中です」


「……」


「休んでください」


「セルマ」


「はい」


「なんか」


「強くなったね」


「誰のせいでしょう」


「僕?」


「はい」


「……ごめん」


「謝るところではありません」


⸻


「セルマは」


 アルフレッド。


 天井。


 見る。


「これから」


「何したい?」


「何を?」


「傷」


「治ったら」


「ここで」


「何したい?」


 セルマ。


 黙る。


「分かりません」


「そっか」


「奴隷に」


「何をしたいか」


「聞く人はいませんでした」


 アルフレッド。


 セルマ。


 見る。


「じゃあ」


「ゆっくり」


「考えればいいよ」


「……はい」


「畑でも」


「木工でも」


「料理でも」


「剣でも」


「狩りでも」


「何でも」


「できるもの」


「探そう」


「剣」


 セルマ。


 小さく。


 言う。


「え?」


「剣は」


「昔」


「少し」


「習いました」


 アルフレッド。


 目。


 丸い。


「セルマ」


「剣使えるの?」


「使えました」


 左手。


 見る。


「今は」


「分かりません」


「右腕」


「ないから?」


「はい」


「じゃあ」


「左で」


「練習したら?」


 セルマ。


 アルフレッド。


 見る。


「簡単に言いますね」


「難しい?」


「とても」


「じゃあ」


「ゆっくり」


「やればいい」


「……」


「経験」


「積めば」


「少しずつ」


「できること」


「増えると思う」


 セルマ。


 その言葉。


 胸。


 残る。


「経験……」


⸻


 夕方。


 調査隊。


 戻る。


「アル坊!」


 ガルド。


 マルタの家。


 入る。


「起きてるか!」


「起きてる」


「寝てろ!」


「報告しに来たのに!?」


「寝たまま聞け!」


⸻


 地図。


 広げる。


「第二浄化塔」


「見つけた」


「やっぱり!」


「水」


「出てる」


「井戸と関係は?」


「まだ分からん」


「中には?」


「入ってない」


 アルフレッド。


 意外。


 顔。


「入らなかったの?」


「何だその顔」


「ガルドさんなら」


「ちょっと見るくらい」


「お前じゃねえんだぞ!」


「……」


「いや」


「ちょっとだけ」


「考えた」


「やっぱり」


「うるせえ」


⸻


「それと」


 ノエル。


「内部に」


「保守個体が一体」


「反応しています」


「エーナナみたいな?」


「可能性はあります」


「名前は?」


「不明」


「動いてる?」


「おそらく」


「外へ出ようとしているような」


「衝撃音がありました」


 アルフレッド。


 少し。


 考える。


「閉じ込められてる?」


「敵かもしれん」


 ガルド。


「菌糸」


「外へ出てた」


「侵食されてる可能性もある」


「じゃあ」


「先に《清掃》?」


「中へ入れたらな」


「明日?」


「明日は」


 ガルド。


 地図。


 指。


「まず」


「水の流れを調べる」


「第二浄化塔へ」


「入るのは」


「その後だ」


「僕も?」


「体調次第」


「じゃあ」


「今日」


「いっぱい寝る」


「最初からそうしろ!」


⸻


 夜。


 村。


 静か。


 アルフレッド。


 今度こそ。


 眠る。


 セルマ。


 窓。


 外。


 見る。


 左手。


 木の棒。


 握る。


 マルタ。


「何してるんだい」


「……」


「剣の代わりです」


「傷」


「開くよ」


「振りません」


「握るだけです」


「なら」


「少しだけ」


 セルマ。


 棒。


 握る。


 右手。


 ない。


 重心。


 違う。


 姿勢。


 違う。


 昔。


 習った。


 構え。


 できない。


「……」


 でも。


 左。


 一本。


 ある。


 それなら。


 そこから。


 始めればいい。


⸻


 同じ頃。


 第二浄化塔。


 最深部。


 水。


 腰ほど。


 満ちる。


 C―12。


 立つ。


 四脚。


 床。


 踏む。


 どん。


『出口――閉鎖』


 頭部。


 青。


 赤。


 交互。


 明滅。


『保守命令――』


『復旧』


『侵食命令――』


『排除』


『保守命令――』


『管理者保護』


『侵食命令――』


『管理者――排除』


 身体。


 震える。


 菌糸。


 装甲。


 入り込む。


『矛盾』


『矛盾』


『矛盾』


 前脚。


 壁。


 叩く。


 どん。


『管理者――』


 青。


『保護』


 赤。


『殺害』


 青。


『保護』


 赤。


『殺害』


 そして。


 C―12。


 突然。


 動き。


 止まる。


 頭。


 上。


 向ける。


 遠く。


 第一浄化施設。


 方向。


『暫定管理者』


『信号――検知』


 アルフレッド。


 登録された。


 保守波形。


 ほんの。


 微か。


 届いている。


 C―12。


 青い瞳。


 強く。


 光る。


『管理者』


『……救援……』


 菌糸。


 脈打つ。


 赤。


 再び。


 混ざる。


『管理者』


『……来るな……』


 相反する。


 二つの言葉。


 誰にも。


 届かない。


 第二浄化塔。


 暗闇。


 響く。


⸻


第44話 山から来た水 了

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