↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/53

水の行方

第二章 灰境


第43話 水の行方


前書き


一つを直せば、


すべてが元通りになる。


そんなに簡単なら、


きっと誰も苦労しません。


長い年月をかけて壊れたものは、


一つの場所だけが、


壊れているわけではないのです。


けれど。


一つ直したからこそ、


次に直すべき場所が、


見えることもあります。


⸻


 ごぽ。


 灰境の村。


 井戸の底で、


 また泡が弾けた。


「……また下がった」


 リーナが呟く。


 井戸の縁には、


 バルド。


 エッダ。


 ヘルマン。


 ノエル。


 そして村人たちが集まっていた。


「桶を下ろせ」


 バルドが言う。


「一番下までじゃ」


「はい!」


 若者二人が縄を送り出す。


 する。


 する。


 する。


 いつもなら。


 もっと早く。


 水面へ届く。


 だが今日は。


 まだ。


 縄が下りていく。


「……長いな」


 ヘルマン。


「昨日より」


「どれくらい?」


 ノエル。


 井戸の縁へ。


 印。


 見る。


「およそ」


「一メートル半」


「そんなに?」


 エッダの顔が曇る。


 ようやく。


 ぽちゃん。


 桶。


 水面。


「着いた!」


「上げろ」


 縄。


 引く。


 上がってきた水。


 誰も。


 すぐには触れない。


 ノエル。


 覗く。


「……濁りは?」


「さっきより」


 ヘルマン。


「少ない?」


「灰色の糸が」


「見えませんね」


 エッダ。


「水位は下がった」


「でも」


「水はきれいになってる?」


 誰も。


 答えられない。


⸻


「飲むなよ」


 バルド。


「若様たちが戻るまで」


「井戸水は使わん」


「でも」


 村人。


「貯めた水は」


「二日分くらいだろ?」


「二日半です」


 ノエル。


「節約すれば」


「ただし」


「今からさらに」


「配給量を一割減らします」


「一割?」


「井戸が使用不能になった場合に備えます」


 ざわ。


 不安。


 広がる。


 だが。


 昨日までとは違う。


 広場。


 樽。


 並ぶ。


 水。


 ある。


 少なくとも。


 今すぐ。


 喉が渇くわけではない。


「若様」


 バルド。


 小さく。


「先に貯めておいて」


「正解じゃったな」


⸻


 一方。


 地下。


「アル坊!」


 ガルドの声が響く。


「目ぇ開けろ!」


「……開いてる」


「半分だ!」


「半分でも」


「見えてる」


「口答えできるなら」


「まだ大丈夫だな!」


 ガルドの背中。


 アルフレッド。


 乗っている。


 約束通り。


 歩かせてもらえなかった。


「自分で歩けるよ」


「却下」


「でも」


「却下」


「ガルドさん」


「却下」


「まだ何も言ってない」


「どうせ降ろせだろ」


「……はい」


「却下」


⸻


 先頭。


 A―07。


 その後ろ。


 B―03。


 ベルン。


 マルク。


 最後。


 ガルド。


 全員。


 急いでいる。


『第四浄化塔』


『内部圧力――上昇継続』


 A―07。


「危険?」


『判定不能』


「爆発するとか?」


『可能性――低』


「じゃあ何が起きる」


『旧排圧系統へ』


『流路変更中』


 ノエルはいない。


 だから。


 アルフレッド。


 必死。


 覚える。


「旧排圧系統」


「それが第一浄化施設?」


『一部接続』


「一部?」


『複数経路存在』


「どこ?」


『記録欠損』


 ガルド。


「またそれか」


『謝罪』


「いや」


「お前が悪いわけじゃねえ」


⸻


 B―03。


 突然。


 止まる。


「ビーさん?」


『……』


「どうした?」


『水音』


 全員。


 止まる。


 聞く。


 ごおおおお……。


 遠い。


 地下。


 どこか。


 水。


 流れる。


「さっきまで」


「こんな音したか?」


 ベルン。


「いや」


 マルク。


「別の水路が」


「動いた?」


『肯定可能性』


 A―07。


『下層水門閉鎖により』


『休眠流路』


『一部再稼働』


「休眠?」


 アルフレッド。


「使われてなかった道に」


「水が流れ始めたってこと?」


『肯定』


「それ」


「いいこと?」


『不明』


「ですよね……」


⸻


 第一浄化施設。


 制御室。


 戻る。


 ノエル。


 いない。


 地上。


 だから。


 青い表示。


 A―07。


 読む。


『下層水門』


『完全閉鎖』


『第四浄化塔』


『流入量――低下』


「よし」


 ガルド。


「目的は達成だ」


「でも」


 アルフレッド。


「村の井戸」


『地下水位変動可能性』


「やっぱり」


「水門を閉じたから?」


『直接因果――不明』


「調べられる?」


『第一浄化施設』


『水循環記録』


『参照』


 壁。


 光る。


 青い。


 線。


 何本も。


 現れる。


「地図?」


『水系統図』


 アルフレッド。


 ガルドの背中から。


 見る。


「降ろして」


「駄目」


「見えない」


「……」


「ちょっとだけ」


「倒れたら」


「背負う」


「今も背負ってる」


「そうだった」


 ガルド。


 仕方なく。


 アルフレッド。


 椅子。


 座らせる。


「立つな」


「はい」


⸻


 青い線。


 複雑。


 村。


 地下。


 第一浄化施設。


 第四浄化塔。


 さらに。


 遠く。


「これ」


 アルフレッド。


「全部」


「水?」


『肯定』


「川も?」


『一部』


「井戸も?」


『推定接続』


「じゃあ」


 ガルド。


「灰境の水」


「この施設が全部管理してたのか?」


『否定』


「違う?」


『自然水系』


『人工水系』


『複合』


 ベルン。


「分かるように言ってくれ」


 アルフレッド。


 考える。


「もともとの川や地下水に」


「昔の人が」


「水路を足した?」


『概ね肯定』


「概ね」


「便利な言葉覚えたな」


 ガルド。


⸻


「村」


 アルフレッド。


「どこ?」


 A―07。


 青い点。


 表示。


『現居住区――推定位置』


「この線」


「井戸?」


『旧生活用給水枝線』


「生活用」


 ガルド。


「やっぱり」


「施設から来てたのか?」


『一部』


「一部?」


『地下水層へ』


『補助給水』


 アルフレッド。


 理解。


「井戸そのものは」


「地下水」


「でも」


「昔は施設からも」


「水を足してた?」


『肯定』


「それが」


「水門を閉じたから」


「止まった?」


『可能性』


⸻


「でも」


 ベルン。


「それなら」


「水位が下がるだけだろ」


「灰の菌糸が減ったのは?」


 A―07。


『解析』


 表示。


 変わる。


『侵食経路』


『第四浄化塔』


『下層水路』


『地下水層』


「……」


 アルフレッド。


 息。


 止める。


「井戸に」


「菌糸が出てたの」


「第四浄化塔から?」


『可能性――高』


「じゃあ」


 水門。


 閉じた。


 水。


 減った。


 しかし。


 同時に。


 汚染された水も。


 止まった。


「成功してる」


 アルフレッド。


 呟く。


「少なくとも」


「一つは」


 ガルド。


 頷く。


「ああ」


「無駄じゃなかった」


⸻


『警告』


「……今度は何?」


 ガルド。


 疲れた顔。


『第一浄化施設』


『水圧上昇』


「それ」


「さっき言ってた」


『旧排圧経路』


『自動開放』


「どこへ!」


 青い線。


 一つ。


 光る。


 村。


 ではない。


 第一浄化施設。


 北。


 山。


 さらに。


 遠く。


「これ」


「どこ?」


『旧第二浄化塔方面』


 全員。


 黙る。


「第二浄化塔」


 アルフレッド。


 思い出す。


 最初。


 表示。


『第二浄化塔――応答なし』


「動いてないところ?」


『肯定』


「そこへ」


「水を流してる?」


『緊急排圧経路』


『開放中』


「大丈夫なのか」


『不明』


 また。


 それ。


⸻


 青い線。


 第二浄化塔。


 向かう。


 点滅。


 一。


 二。


 三。


 そして。


『接続』


「繋がった」


『流入開始』


 数秒。


『第二浄化塔』


『応答――』


 全員。


 表示。


 見る。


『なし』


「……」


 ガルド。


「だよな」


 しかし。


 次。


『内部水位――上昇』


「待て」


「応答しないのに」


「水は入ってる?」


『肯定』


「それ」


「溢れない?」


『容量』


『記録欠損』


「嫌な予感しかしねえ」


⸻


「地上へ」


 アルフレッド。


「戻ろう」


「やっと」


 ガルド。


「まともなこと言ったな」


「井戸」


「見たい」


「休むためじゃねえのか!」


「井戸見てから休む」


「駄目だ」


「見るだけ」


「駄目」


「一分」


「駄目」


「三十秒」


「値切るな!」


⸻


 階段。


 上。


 光。


 夕方。


 外。


「領主様!」


 村人。


 集まる。


「戻った!」


「若様!」


「アルフレッド!」


 セルマ。


 杖。


 つきながら。


 前。


 出る。


 そして。


 ガルドの背中。


 見る。


「……」


「セルマ」


「ただいま」


「……」


「水門」


「閉じたよ」


「……」


「完全に」


「閉じた」


「……」


「セルマ?」


「約束」


「え?」


「無茶をしない」


「……」


 アルフレッド。


 目。


 逸らす。


「破りましたね」


「いや」


「これは」


「必要な」


「無茶ですか?」


「……」


「そうとも」


「言えるような」


「言えません」


「はい」


 ガルド。


「説教は」


「寝かせてからにしてくれ」


「はい」


 セルマ。


 即答。


「するんだ」


 アルフレッド。


⸻


「若様」


 バルド。


「井戸じゃ」


「水位が」


「下がっておる」


「聞いた」


「でも」


「水」


「見せて」


 ガルド。


「おい」


「これだけ」


「……三十秒」


「やった」


「喜ぶな」


⸻


 井戸。


 桶。


 上。


 水。


 アルフレッド。


 見る。


「きれい」


 朝。


 灰色。


 細い。


 菌糸。


 浮かんでいた。


 今。


 ほとんど。


 見えない。


「エーナナ」


『確認』


「調べて」


 A―07。


 指。


 水。


『侵食因子濃度』


『大幅低下』


 村人。


 ざわ。


「飲める?」


『現時点』


『煮沸後――使用可能範囲』


「……!」


 エッダ。


 口。


 押さえる。


「本当に?」


『肯定』


 バルド。


 目。


 閉じる。


「水は」


「減った」


「でも」


「毒も」


「減った」


 アルフレッド。


 笑う。


「じゃあ」


「成功」


 ガルド。


「半分な」


「半分?」


「水位」


「戻さねえと」


「村は暮らせん」


「……うん」


「だから」


「今日は」


「終わり」


「はい」


「休め」


「はい」


「素直だな」


「頭痛いから」


「早く言え!」


⸻


 マルタの家。


 アルフレッド。


 寝台。


 強制。


「今日は」


「起きるんじゃないよ」


「ご飯は?」


「持ってくる」


「帳面」


「没収」


「村の名簿」


「没収」


「地下の地図」


「ノエルが持ってる」


「じゃあ」


「何すれば?」


「寝ろ」


「暇です」


「寝ろ」


「セルマ」


「何か」


「駄目です」


「まだ何も」


「どうせ仕事でしょう」


「……」


「寝てください」


「はい」


⸻


 夜。


 アルフレッド。


 眠る。


 セルマ。


 隣。


 椅子。


 首輪。


 まだ。


 ある。


 でも。


 以前より。


 光。


 弱い。


「……」


 右腕。


 ない。


 左目。


 ない。


 失われたもの。


 戻らない。


 A―07も。


 最初は。


 そうだった。


 だが。


 代わりの材料。


 あれば。


 修繕。


 組み込める。


 セルマ。


 樽の話。


 思い出す。


 しかし。


 すぐ。


 首。


 振る。


「違う」


 人。


 樽。


 同じではない。


 それに。


 アルフレッド。


 自分へ。


 そんなこと。


 試そうとは。


 絶対。


 しない。


 でも。


 いつか。


 自分自身が。


 強くなれば。


 失ったものとは。


 違う形でも。


 取り戻せるものが。


 あるのかもしれない。


 少女は。


 自分の左手。


 見る。


 握る。


 開く。


 握る。


「経験……」


 戦う。


 働く。


 生きる。


 積み重ねる。


 それで。


 自分が。


 変わる。


 この世界では。


 それを。


 進化と呼ぶ者もいる。


 セルマは。


 まだ。


 知らない。


 自分の身体の奥。


 長い奴隷生活と。


 灰境まで。


 一人で生き延びた経験。


 それらが。


 少しずつ。


 積み上がっていることを。


⸻


 深夜。


 第一浄化施設。


 無人。


 制御室。


『下層水門――完全閉鎖』


『侵食流入量――低下』


『第一浄化施設』


『浄化率――』


 数字。


 変わる。


『13.1%』


 以前。


 12.7%。


 ほんの。


 0.4。


 それでも。


 上がった。


⸻


 そして。


 遠く。


 旧第二浄化塔。


 何百年。


 誰も。


 来ていない。


 石。


 建物。


 半分。


 山。


 埋まる。


 内部。


 暗闇。


 水。


 流れ込む。


 ごおおおお……。


 地下。


 水槽。


 満ちる。


 錆びた。


 水車。


 動かない。


 古い。


 配管。


 軋む。


 そして。


 壁。


 一つ。


 小さな。


 青い光。


『流入確認』


 一文字。


 次。


『非常系統』


『起動試行』


 かち。


 何か。


 動く。


 止まる。


『失敗』


 もう一度。


『起動試行』


 かち。


 かち。


『失敗』


 三度目。


 ご。


 低い。


 振動。


『補助動力――』


『復旧』


 青い。


 光。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 塔。


 下から。


 上へ。


 灯る。


⸻


 そして。


 最深部。


 巨大な。


 水槽。


 底。


 何か。


 沈んでいる。


 人ではない。


 獣でもない。


 金属。


 でも。


 A―07とも。


 B―03とも。


 違う。


 四本。


 脚。


 長い。


 胴。


 頭部。


 丸い。


 その中央。


 青い。


 瞳。


 ぽつ。


 灯る。


『第二浄化塔』


『保守防衛個体――』


『C―12』


『再起動』


 水中。


 四本の脚が。


 ゆっくり。


 動いた。


 だが。


 その身体。


 半分。


 灰色の菌糸。


 覆われている。


『管理者――』


『……照合……』


 青。


 瞳。


 一瞬。


 赤。


 混ざる。


『管理者――不明』


 そして。


 塔の外。


 山中。


 何百年も。


 閉じたままだった。


 巨大な。


 石扉。


 内側から。


 どん。


 音。


 響く。


 もう一度。


 どん。


 鳥。


 一斉。


 飛び立つ。


 三度目。


 どん。


 扉。


 隙間。


 灰色の。


 水。


 一筋。


 流れ出した。


⸻


第43話 水の行方 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。