水を貯めろ
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第二章 灰境
第41話 水を貯めろ
前書き
勇気とは、
危険へ飛び込むことだけではありません。
逃げ道を作ること。
食べ物を残すこと。
水を貯めること。
失敗した時のことを、
先に考えること。
それは時に、
剣を振るうことよりも、
ずっと地味です。
けれど。
守るものが増えた人間ほど、
その地味な準備を、
怠ってはいけないのです。
⸻
夜明け前。
灰境の村に。
鐘が鳴った。
かん。
かん。
かん。
三度。
火事ではない。
魔物でもない。
襲撃でもない。
それでも。
村人たちは次々と家から出てきた。
「何だ?」
「森狼か?」
「また地下か?」
「違う!」
広場の中央。
ガルドが大声を上げる。
「今日は全員、朝飯の前に集まれ!」
「動ける奴だけでいい!」
「怪我人と子どもは無理するな!」
その横。
アルフレッドは。
少し眠そうな顔で立っていた。
「領主様?」
エッダがやってくる。
「何かあったんですか?」
「あります」
「……その顔」
「寝てませんね?」
「寝ました」
「何時間」
「……」
「アルフレッド様」
「四時間くらい」
「少ないです」
「でも昨日よりは」
「比較対象がおかしいです」
すぐ横から。
「三時間半です」
セルマ。
「セルマ!?」
「マルタ様の家を出たのが」
「鐘が鳴る三時間半ほど前でしたので」
「細かい……」
「大事なことです」
「後で寝かせる」
マルタ。
即決。
「はい……」
⸻
全員が集まる。
バルド。
エッダ。
グレゴール。
ベルン。
ヘルマン。
マルク。
ノエル。
旧居住区から来た者たち。
そして。
まだ歩けないダリオやラウルたちは。
家の中。
今日は休ませる。
広場。
中央。
ノエルが。
大きな板へ。
文字を書く。
――水。
「今日は」
アルフレッドが言った。
「水を貯めます」
沈黙。
「……水?」
ベルン。
「はい」
「魔物じゃなく?」
「違います」
「地下探索でもなく?」
「今日はしません」
「第四浄化塔は?」
「行きません」
ガルド。
少しだけ。
口元。
上がる。
昨日なら。
アルフレッドは。
「急がないと!」
と。
自分から地下へ行こうとしていただろう。
だが。
今日は違う。
「今日」
アルフレッド。
村人たちを見る。
「地下の水門を閉じます」
空気。
変わる。
⸻
「水門?」
バルド。
「地下の施設にあるものか」
「はい」
「閉じるとどうなる」
「分かりません」
ざわ。
村人。
声。
「分からんのか?」
「井戸は?」
「川は?」
「水が止まるのか?」
アルフレッド。
逃げない。
「分かりません」
もう一度。
言う。
「だから」
「先に水を貯めます」
ざわめき。
少し。
弱くなる。
「水門を閉じたら」
「村の井戸に影響が出るかもしれません」
「川の水が変わるかもしれません」
「何も起きないかもしれません」
「でも」
「閉じないと」
「地下の灰色の水が」
「もっと広がる可能性が高いです」
グレゴール。
腕。
組む。
「どっちも危険ってことか」
「はい」
「だから」
「閉じる前に」
「失敗しても」
「二日くらいは暮らせるようにしたいです」
⸻
「二日」
バルド。
考える。
「短いのう」
「本当はもっと欲しいです」
ノエル。
答える。
「しかし現在の容器数では」
「飲用可能な状態で保管できる量に限界があります」
「樽」
「いくつある?」
エッダ。
「大樽が十一」
「そのうち二つは穀物」
「一つは塩漬け肉」
「空いているのは八つ」
「小樽は?」
「十七」
「でも三つは底が傷んでます」
アルフレッド。
反応。
「直せ――」
ガルド。
見る。
「……ます」
「何だ」
「いや」
「使っていい?」
「樽三つだけならな」
「やった」
「ただし」
「水門閉鎖に力を残せ」
「うん」
「全部新品みたいにするな」
「……」
「今」
「新品にしようと思っただろ」
「少しだけ」
「駄目だ」
⸻
役割。
決まる。
井戸。
ベルン。
若者たち。
川。
グレゴール。
ヘルマン。
旧居住区の男たち。
煮沸。
マルタ。
村の女たち。
樽の修理。
エッダ。
アルフレッド。
水の配分。
ノエル。
バルド。
そして。
A―07。
地下水。
監視。
B―03。
村外周。
警戒。
「ビーさん」
『確認』
「今日は村をお願い」
『了解』
「地下には行かなくていい」
『了解』
「……」
アルフレッド。
少し。
嬉しそう。
「どうした」
ガルド。
「いや」
「エーナナもビーさんも」
「普通に仕事してるなって」
「普通ではない」
ノエル。
「古代施設の保守管理機を」
「水質調査と村の警備へ使用している時点で」
「極めて異常です」
「便利なのに」
「便利と普通は別です」
⸻
朝。
灰境の村。
これまでにないほど。
忙しくなる。
「縄!」
「こっち!」
「樽転がすぞ!」
「リーナ!」
「そこ危ない!」
「私も手伝う!」
「小さい桶だけ!」
「分かった!」
井戸。
ぎぃ。
ぎぃ。
滑車。
回る。
桶。
上がる。
「まだ灰がある」
ベルン。
水。
見る。
底。
細かい。
灰色。
粒。
「昨日より?」
A―07。
手。
水。
近づける。
『侵食因子濃度』
『前日比――1.08』
「増えてる?」
『肯定』
「やっぱり」
アルフレッド。
顔。
曇る。
「閉じないと」
「まずい」
⸻
川。
グレゴール。
水。
見る。
「こっちは」
「見た目は普通だ」
A―07。
後から。
測る。
『侵食因子――微量』
「あるのか」
『飲用時』
『煮沸推奨』
「煮れば大丈夫?」
『現状濃度では』
『危険性低下』
「じゃあ」
「川の水も貯める」
ノエル。
帳面。
「井戸水と分けましょう」
「飲料用」
「煮沸用」
「洗浄用」
「それから」
「治療用」
マルタ。
「傷口洗う水は」
「一番きれいなの寄越しな」
「はい」
「赤子もだ」
「はい」
「アル坊」
「何?」
「お前の飲む分もだ」
「僕は最後で」
「駄目」
「でも」
「領主が脱水で倒れたら」
「誰が水門閉じるんだい」
「……はい」
⸻
午前。
空の樽。
三つ。
エッダ。
底。
見る。
「ここ」
「板が割れてます」
「こっちは」
「輪が緩んでる」
「三つ目は」
「底板そのものが歪んでます」
「直せる?」
「普通なら」
「半日」
アルフレッド。
手。
置く。
「《修繕》」
淡い。
光。
ぱき。
木。
動く。
割れ。
閉じる。
金属輪。
締まる。
「一つ」
ガルド。
「体調」
「平気」
二つ目。
「《修繕》」
「体調」
「平気」
三つ目。
アルフレッド。
手。
止まる。
「どうした?」
「これ」
「板が足りない」
「腐って落ちたから」
エッダ。
「修繕できますか?」
「……たぶん」
光。
出ない。
「やっぱり」
「ないものは」
「戻せない」
A―07。
右腕。
ない。
セルマ。
右腕。
ない。
アルフレッド。
少し。
黙る。
「材料があれば?」
エッダ。
「え?」
「同じくらいの木」
「持ってきて」
「試したい」
⸻
古い。
樽板。
一本。
別の壊れた容器から。
持ってくる。
「これ?」
「うん」
アルフレッド。
破損した樽。
新しい板。
両方。
触る。
「《修繕》」
光。
広がる。
しかし。
板。
勝手には。
動かない。
「駄目?」
リーナ。
「待って」
アルフレッド。
板。
底。
合うように。
エッダ。
「ここです」
「少し右」
「そう」
「押さえて」
「はい」
「もう一度」
「《修繕》」
かち。
板。
馴染む。
隙間。
閉じる。
「……できた」
アルフレッド。
目。
丸くなる。
エッダ。
樽。
叩く。
「水を入れてみます」
ざば。
待つ。
一分。
二分。
「漏れない」
「やった!」
アルフレッド。
笑う。
⸻
ノエル。
横。
記録。
「重要ですね」
「何が?」
「《修繕》は」
「失われた材料そのものを」
「生成することはできない」
「しかし」
「代替材料を与えれば」
「既存構造へ組み込める可能性がある」
アルフレッド。
A―07。
右肩。
見る。
「じゃあ」
ガルド。
すぐ。
「今は考えるな」
「まだ何も言ってない」
「顔」
「そんなに?」
「かなり」
セルマ。
少し離れたところ。
自分の。
失われた右腕。
見る。
でも。
何も言わない。
今は。
まだ。
その時ではない。
⸻
昼。
村中。
湯気。
大鍋。
三つ。
川水。
煮沸。
「熱っ!」
「触るな!」
「冷ましてから樽!」
「こっちは飲料!」
「印つけろ!」
ノエル。
樽。
木炭。
文字。
――飲。
――煮。
――洗。
――治。
「分かりやすい」
アルフレッド。
「文字が読めない者もいます」
「では」
ノエル。
考える。
飲料。
丸。
治療。
十字。
洗浄。
波。
煮沸。
火。
記号。
追加。
「これなら?」
「うん!」
バルド。
見て。
「よいな」
「文字を知らん子でも」
「分かる」
アルフレッド。
少し。
考える。
「こういうの」
「他にも使えるね」
「何に?」
「倉庫」
「薬」
「危ない場所」
「避難する場所」
ノエル。
筆。
止まる。
「標識」
「うん」
「村の中に」
「作ろう」
「後日」
「うん」
また。
一つ。
仕事。
増える。
⸻
午後。
貯水。
順調。
だが。
「領主様!」
井戸。
声。
「来て!」
アルフレッド。
走ろうとする。
「走るな!」
ガルド。
「はい!」
早歩き。
「それもほぼ走ってる!」
⸻
井戸。
桶。
水。
昨日より。
濁っている。
「……灰」
底だけではない。
水中。
細い。
灰色。
糸。
「菌糸?」
グレゴール。
『侵食因子』
A―07。
『濃度上昇』
「飲める?」
『非推奨』
村人。
ざわつく。
「もう?」
「朝はまだ」
「井戸が駄目になるのか?」
「静かに!」
ガルド。
声。
止める。
アルフレッド。
井戸。
見る。
「ここからは」
「井戸の水」
「飲料用にしない」
「川は?」
『現時点――使用可能』
「じゃあ」
「川優先」
「井戸は」
「洗い物にも?」
マルタ。
「菌糸があるなら」
「傷には使うな」
「服や道具だけ」
「分かった」
⸻
「アルフレッド様」
ノエル。
小声。
「水門」
「予定より早めるべきでは」
「……」
閉鎖率。
『現在――32.6%』
「朝は34くらい」
『肯定』
「早くなってる?」
『開放速度――増加』
「完全開放まで」
『推定――十八時間』
ガルド。
「昨日二十四だったぞ」
『状況悪化』
「今日の夜まで」
アルフレッド。
「待てない?」
『推奨せず』
少年。
樽。
見る。
まだ。
満杯。
ではない。
「今」
「水」
「何日分?」
ノエル。
計算。
「厳格に配給すれば」
「約一日半」
「あと半日分」
「欲しい」
「しかし」
「水門が」
「分かってる」
⸻
バルド。
杖。
つきながら。
来る。
「若様」
「はい」
「全部揃うまで」
「待つつもりか」
「……できれば」
「それは」
「準備ではない」
アルフレッド。
見る。
「準備というのは」
「何もかも揃えることではない」
「間に合うところまで整えて」
「動くことじゃ」
「……」
「完璧を待って」
「手遅れになれば」
「準備した意味がない」
アルフレッド。
水。
見る。
井戸。
灰色。
糸。
浮かぶ。
「分かった」
⸻
「ノエルさん」
「はい」
「今ある水」
「全部数えて」
「食料も」
「水をあまり使わない料理に変える」
「マルタさん」
「治療用」
「どれくらい必要?」
「三日分なら」
「大樽半分」
「確保します」
「エッダさん」
「空き容器」
「あと何個」
「小さいものなら」
「七つ」
「全部使う」
「ガルドさん」
「ああ」
「水門」
「夕方」
「閉じます」
「分かった」
⸻
その言葉。
村中。
伝わる。
「夕方まで!」
「急げ!」
「あと二時間!」
「川組!」
「もう一往復!」
「鍋!」
「火を強く!」
「樽こっち!」
村。
動く。
誰も。
地下。
見えない。
水門。
見えない。
第四浄化塔。
知らない。
それでも。
自分たちの水。
自分たちの生活。
守るため。
動く。
⸻
セルマ。
小さな桶。
左手。
持つ。
「セルマ」
アルフレッド。
「重くない?」
「これくらいなら」
「傷」
「ほぼ塞がっています」
「でも」
「無茶しない約束」
「アルフレッド様にだけは」
「言われたくありません」
「……」
「ですが」
セルマ。
桶。
置く。
「重くなったら」
「頼みます」
アルフレッド。
少し。
笑う。
「うん」
「僕も」
「そうする」
⸻
夕方。
太陽。
山。
沈み始める。
広場。
樽。
並ぶ。
大樽。
八。
小樽。
二十一。
水袋。
十二。
鍋。
桶。
使える容器。
ほとんど。
水。
満たされた。
ノエル。
最終確認。
「最低限」
「二日」
「節約すれば」
「二日半」
「川が使える状態を維持すれば」
「さらに延長可能」
「よし」
ガルド。
「アル坊」
「行くぞ」
「うん」
⸻
第一浄化施設。
地下。
今日は。
大人数ではない。
アルフレッド。
ガルド。
ノエル。
A―07。
そして。
B―03。
「ビーさんも?」
『緊急封鎖時』
『補助動力接続可能』
「必要?」
『推奨』
「じゃあ」
「お願いします」
『了解』
⸻
制御室。
青い。
文字。
『下層水門』
『閉鎖率――30.8%』
「もう三割」
ノエル。
「急ぎましょう」
「エーナナ」
『確認』
「緊急封鎖」
「やる」
『管理者承認要求』
床。
円。
光る。
『注意』
『緊急封鎖実行後』
『下流域水量変化』
『第一浄化施設』
『第二浄化塔』
『第三浄化塔』
『各系統へ影響する可能性』
「分かってる」
『第四浄化塔』
『内部圧力上昇可能性』
「……それは?」
『詳細不明』
ガルド。
「まだやめるか?」
アルフレッド。
目。
閉じる。
村。
思い出す。
水。
樽。
リーナ。
セルマ。
怪我人。
三十五人。
「やる」
目。
開く。
「何もしない方が」
「危ない」
『承認確認』
「はい」
『暫定管理者』
『アルフレッド・ロナ・ヨーレリヒト』
『緊急封鎖命令を』
少年。
息。
吸う。
「下層水門」
「閉じて」
⸻
『命令受諾』
ごおおおおおおおお……。
地面。
震える。
「始まった!」
ノエル。
表示。
『閉鎖率――31%』
『33%』
『37%』
「上がってる!」
『42%』
『48%』
地下。
遠く。
巨大な。
何か。
動く。
『55%』
『61%』
「半分超えた!」
アルフレッド。
拳。
握る。
『68%』
『73%』
そして。
『74%』
停止。
「……」
『74%』
「止まった?」
ガルド。
『異常』
A―07。
「何!」
『緊急封鎖機構』
『動作停止』
「理由!」
『物理障害』
「どこ!」
『下層水門』
『第四浄化塔側』
「菌糸?」
『照合』
一瞬。
『侵食因子――高密度』
「やっぱり」
⸻
その瞬間。
B―03。
赤い瞳。
点灯。
『警告』
「何?」
『過去記録』
『照合一致』
全員。
B―03。
見る。
「過去?」
『当機』
『最終任務』
ノエル。
息。
止める。
『第四浄化塔』
『緊急封鎖』
「……!」
『失敗』
アルフレッド。
目。
見開く。
「ビーさん」
「前にも」
「これを?」
『肯定』
「どうして失敗したの?」
B―03。
沈黙。
数秒。
『物理障害除去のため』
『現地派遣』
「誰が?」
『保守管理班』
「人?」
『肯定』
「何人?」
『十二名』
「戻った?」
B―03。
止まる。
『帰還――』
一瞬。
音。
乱れる。
『ゼロ』
誰も。
声。
出ない。
⸻
「それで」
ガルド。
「お前は?」
『封鎖継続命令』
『現地投入』
「結果」
『右腕損失』
『脚部損傷』
『動力低下』
『任務失敗』
アルフレッド。
B―03。
見る。
あの。
壊れた身体。
右腕。
損傷。
それは。
昔。
同じ水門を。
閉じようとして。
「ビーさん」
『確認』
「ずっと」
「閉じようとしてたんだ」
『……』
「一人で?」
『任務』
「違う」
アルフレッド。
「一人で」
「やってたの?」
長い。
沈黙。
『最終稼働時』
『他保守個体――応答なし』
『人員――応答なし』
『当機のみ』
アルフレッド。
何も。
言えない。
⸻
『警告』
A―07。
『閉鎖率――73.8%』
「下がった!」
『障害物による』
『逆圧』
『封鎖維持困難』
「どれくらい!」
『推定』
『六時間以内に』
『再開放開始』
「六時間」
ガルド。
顔。
険しい。
「現地へ行くしか」
「ないってことか」
ノエル。
「しかし」
「前回十二人が」
「帰らなかった」
「分かってる」
⸻
「僕が行く」
アルフレッド。
言う。
ガルド。
見る。
「……」
「でも」
アルフレッド。
続ける。
「今すぐじゃない」
ガルド。
少し。
目。
変わる。
「エーナナ」
『確認』
「必要なこと」
「教えて」
「何を持っていけばいい」
「何人必要」
「どうやって障害物を取る」
「ビーさん」
『確認』
「前に失敗した時の記録」
「全部見せて」
『了解』
「ノエルさん」
「はい」
「地図」
「ガルドさん」
「ああ」
「行く人」
「一緒に考えて」
「分かった」
アルフレッド。
表示。
見る。
『73.6%』
時間。
六時間。
「今度は」
少年。
静かに。
「ちゃんと準備して」
「行く」
⸻
その頃。
第四浄化塔。
下層。
巨大な水門。
古い金属板。
ゆっくり。
閉じようとしている。
しかし。
その隙間。
灰色の菌糸。
何百。
何千。
束。
絡みつく。
水門。
押し返す。
ぎ。
ぎぎ。
そして。
菌糸の奥。
古い。
金属製。
何か。
埋まっている。
腕。
脚。
兜。
剣。
十二人。
かつて。
水門を閉じるために。
ここへ来た者たち。
その身体。
菌糸。
覆う。
そして。
一人。
目。
開く。
白い。
濁った。
瞳。
続いて。
二人。
三人。
四人。
古い死体が。
次々。
立ち上がる。
水門の向こう。
さらに。
低い声。
『……開……け……』
十二人。
一斉に。
水門へ。
手。
掛ける。
閉じようとする機構を。
反対側から。
押し返し始める。
⸻
『閉鎖率――73.4%』
⸻
第41話 水を貯めろ 了




