帰ってきた父
前書き
帰る場所とは、
建物のことではありません。
屋根があっても。
壁があっても。
そこに、
待っている人がいなければ。
ただの家です。
誰かが待っている。
誰かに、
「おかえり」と言ってもらえる。
だから、
そこは帰る場所になるのです。
⸻
ごん。
地面が、
低く震えた。
「……まただ」
ベルンが足元を見る。
非常排水路。
ようやく掘り抜いた穴の向こう。
フィンの父。
ラウル。
生きている。
だが。
そのさらに下。
第四浄化塔。
『地下振動――再検知』
A―07の青い瞳が明滅した。
『周期性あり』
「何秒だ」
ガルドが尋ねる。
『前回より――七十三秒』
「次も同じくらい?」
『予測――可能』
「なら」
ガルドはラウルを見る。
「話は後だ」
「まずこいつを出す」
「賛成です」
エッダが即答した。
「ここ」
彼女は頭上を見る。
先ほどまで掘っていた土砂。
金属梁で補強したとはいえ。
完全に安全ではない。
「雨も来る」
ぽつ。
その言葉を待っていたかのように。
雨粒が。
ひとつ。
岩へ落ちた。
「最悪だな」
ベルンが空を見る。
「急ぐぞ!」
ガルドが叫ぶ。
「ただし雑にやるな!」
「どっちなんです!」
「急いで丁寧にやれ!」
「無茶言いますね!」
「言ってる場合か!」
⸻
「ラウル」
ガルドが穴の向こうへ入る。
「どこが悪い」
「左脚」
「右じゃないんだな?」
「左」
「感覚は?」
「膝から下」
「ほとんどない」
「いつから」
「……分からん」
十一日。
暗闇。
満足な食料もない。
時間の感覚など。
失って当然だった。
「傷見せろ」
布。
剥がす。
「……ひでぇな」
ベルンが顔をしかめた。
脛。
深い裂傷。
腫れ。
足首。
不自然な角度。
「折れてるか」
「たぶんな」
「よく生きてたな」
「水があった」
「それだけ?」
「それだけだ」
ラウルは。
少し笑った。
「人間」
「水だけでも」
「意外としぶとい」
「笑い事じゃねぇ」
「俺もそう思う」
⸻
『侵食反応――』
A―07の瞳が。
ラウルの脚を走査する。
全員が緊張した。
『検出せず』
「よし」
ガルドが息を吐く。
「先にそれ言え」
『情報伝達順序――改善中』
「まだ改善中なのか」
『肯定』
「頑張れ」
『了解』
⸻
「担架」
エッダが言う。
「穴が狭い」
「普通の担架は無理だな」
ヘルマンが掘り抜いた入口を見る。
人一人。
ようやく通れる幅。
「布と棒」
「簡易で作る」
「引っ張る?」
「いや」
「脚が揺れる」
ガルド。
「最初は俺が背負う」
「穴を抜けてから担架だ」
「できるのか?」
ラウルが尋ねる。
「誰に聞いてる」
「六十三の爺さんに」
「俺は六十三じゃねぇ!」
少し離れたところで。
バルドの年齢と混ざったらしい。
「……何歳だ?」
「今それ大事か!?」
「ちょっと気になった」
「元気じゃねぇか!」
ラウルが。
十一日ぶりに。
少しだけ笑った。
⸻
まず。
脚を固定する。
木片。
布。
縄。
「噛め」
ガルドが布を渡す。
「いらん」
「強がるな」
「大丈夫だ」
「じゃあ」
エッダが。
にこりともせず言った。
「そのままやりますね」
「待て」
「はい?」
「布をくれ」
「素直でよろしい」
「この村の女は強いのか?」
「まだ村じゃねぇぞここ」
ガルドが言う。
「でも」
「帰ったらもっと強い婆さんがいる」
「……怖ぇな」
「覚悟しろ」
⸻
「いきます!」
固定。
「――っ!」
ラウルの身体が。
大きく強張る。
「終わった!」
エッダ。
「……早いな」
「ゆっくり痛いのと」
「短く痛いの」
「どっちがいいです?」
「もう終わった後に聞くな」
⸻
その時。
ごん。
再び。
地下から振動。
今度は。
先ほどより。
強かった。
ぱら。
天井から。
土が落ちる。
「エッダ」
ガルド。
「持つか」
「今は」
エッダが金属梁を見る。
「でも」
「ここへ長居はしたくありません」
『振動強度――前回比112%』
「増えてる?」
『肯定』
「原因は!」
『第四浄化塔関連設備』
「関連って何だよ!」
『詳細記録――欠損』
「そうだった!」
⸻
ガルドが。
ラウルの前へしゃがむ。
「乗れ」
「お前」
「本当に爺――」
「次言ったら置いていくぞ」
「冗談だ」
「余裕あるな」
「フィンに」
ラウルの声が。
少し変わる。
「会うまでは」
「死ねん」
ガルドは。
何も言わず。
背中を向けた。
「なら」
「しっかり掴まれ」
⸻
穴。
狭い。
ガルドが。
四つ這いに近い姿勢で。
少しずつ進む。
ラウルの脚を。
ベルンが後ろから支える。
「右」
「もう少し!」
「頭!」
「分かってる!」
「左脚当たります!」
「上げろ!」
数十秒。
それが。
何分にも感じる。
そして。
「出た!」
穴の外。
ラウル。
救出。
「担架!」
すぐに。
布と棒。
寝かせる。
「よし」
ガルド。
立つ。
「撤収!」
⸻
「道具は?」
ヘルマン。
「持てる分だけ!」
「滑車!」
「回収!」
「支柱は!」
エッダ。
振り返る。
「残す!」
「いいのか?」
「今外したら」
「崩れます!」
「なら置いていけ!」
アルフレッドが直した滑車。
縄。
工具。
持つ。
金属梁。
支柱。
そのまま。
救出路を。
支えてもらう。
「また来る可能性もある」
ガルド。
「三人」
ベルンが言う。
残る。
オルド。
ケイン。
バックス。
「そうだ」
「だから」
「道は残せ」
⸻
担架。
四人。
交代。
ラウルを運ぶ。
A―07。
先頭。
雨。
少しずつ。
強くなる。
「足元!」
「滑るぞ!」
「縄!」
「ここ急だ!」
谷。
川。
水位。
まだ低い。
だが。
『水量増加』
「雨のせい?」
『一部肯定』
「一部?」
A―07が。
川を見る。
『上流からの流入増加』
「普通だろ」
『同時に』
『地下排水量増加』
ガルドが。
立ち止まる。
「地下?」
『第四浄化塔方向』
岩壁。
非常排水口。
彼らが。
たった今。
ラウルを助け出した場所。
そこから。
水。
少しずつ。
流れ出していた。
「おい」
「さっきまで」
「ほとんど出てなかったよな」
『肯定』
水。
透明ではない。
灰色。
「……走査」
『侵食因子――検出』
「全員川から離れろ!」
ガルド。
一斉に。
斜面側へ。
数秒後。
排水口。
どっ。
灰色の水が。
勢いよく。
噴き出した。
「うわっ!」
「触るな!」
水の中。
細い。
灰色の糸。
何百。
何千。
「菌糸……!」
ベルン。
『第四浄化塔侵食因子』
「逃げるぞ!」
⸻
ラウルが。
担架の上。
顔を上げる。
「これだ」
「何が!」
「地下」
「奥で」
「水の音が」
「どんどん増えてた」
「だから」
「三人は」
ガルドが振り向く。
「水を追った?」
「違う」
ラウル。
首を振る。
「水から」
「逃げた」
全員。
言葉を失う。
「最初は」
「出口を探してた」
「でも」
「三日目」
「水が灰色になった」
「それで」
「オルドが」
「上へ行く道を探すって」
「ケインとバックスも」
「ついていった」
「どっちへ」
ラウル。
震える指で。
岩壁の。
さらに北。
「奥だ」
「第四浄化塔の方か」
A―07。
『経路照合』
数秒。
『可能性――高』
⸻
「行くぞ!」
ガルド。
「今はラウル!」
「三人は後!」
ベルン。
一瞬。
奥を見る。
それでも。
「はい!」
担架。
再び。
動く。
⸻
一方。
灰境の村。
「もう一枚!」
アルフレッドが。
空き家の中で叫んでいた。
「毛布?」
リーナ。
「うん!」
「ここ!」
「ありがとう!」
空き家。
ひとつ。
すでに。
ラウル用に。
整えられている。
寝台。
藁。
毛布。
水。
火。
その横。
マルタ。
薬。
「薄いスープ!」
「作ってる!」
ハンナ。
鍋。
「豆?」
「少し」
「濃くしないで!」
「分かってるよ!」
「フィン!」
アルフレッド。
「はい!」
少年。
すぐ。
振り向く。
「お父さんの服」
「ある?」
「……ある」
「どこ?」
「俺の家」
「持ってきて」
「泥だらけかもしれないから」
「うん!」
走る。
「ゆっくり!」
アルフレッドが叫ぶ。
フィン。
途中で。
速度。
少し落とす。
「……」
セルマが。
椅子から見る。
「アルフレッド様」
「なに?」
「今」
「ご自分が言われていることを」
「フィン様へ言いましたね」
「本当だ」
「人は」
「そうやって大人になるのでしょうか」
「僕まだ十二歳」
「存じております」
「最近」
「それを言われすぎてる」
⸻
「雨」
セルマが。
外を見る。
ぽつ。
ぽつ。
「強くなってきた」
「……うん」
アルフレッドも。
北西を見る。
「大丈夫かな」
「大丈夫です」
「今回は」
「無理して言ってる?」
「少し」
「やっぱり」
セルマ。
少しだけ笑う。
「ですが」
「ガルド様たちなら」
「帰ってこられます」
「うん」
その横。
B―03。
村の入口。
巨大な身体。
雨。
受ける。
『北西方向』
『振動反応』
「ビーさん?」
『確認』
「何か分かる?」
『照合中』
一秒。
二秒。
『旧防衛記録』
「覚えてる?」
『断片』
「何?」
B―03の青い瞳。
一瞬。
暗くなる。
『第四浄化塔』
『緊急封鎖』
アルフレッドが。
顔を上げる。
「緊急封鎖?」
『……』
『実行失敗』
「いつ?」
『記録日時――破損』
「何を閉じようとしたの?」
『……』
B―03。
停止。
『下層水門』
「水門」
アルフレッド。
胸。
嫌な感じ。
「それ」
「今の振動と関係ある?」
『可能性――高』
⸻
「ノエルさん!」
アルフレッド。
走る。
今回は。
転ばない程度に。
「ビーさんが!」
「どうしました?」
「第四浄化塔!」
「下層水門!」
「緊急封鎖!」
「失敗したって!」
ノエル。
筆。
止まる。
「B―03」
『確認』
「もう一度」
『旧防衛記録』
『第四浄化塔』
『下層水門緊急封鎖――失敗』
「原因」
『記録欠損』
「現在の状態」
『不明』
「A―07なら?」
『第一浄化施設通信網を介し』
『限定照会可能』
「エーナナいない」
「探索隊と一緒」
アルフレッド。
北西。
見る。
「……」
何も。
できない。
今は。
「待つ」
少年が。
自分で言った。
ノエルが。
少しだけ。
彼を見る。
「はい」
「帰ってきたら」
「エーナナに聞く」
「それまで」
「救護の準備」
「正解です」
アルフレッド。
少し。
胸を張る。
「今の」
「領主っぽかった?」
「今は褒めている時間がありません」
「厳しい!」
⸻
午後。
雨。
本降り。
見張り台。
リーナは。
今日は上がっていない。
代わり。
ベルンではない。
村の男。
一人。
北西を。
見続けている。
「来た!」
声。
「北西!」
「人影!」
アルフレッド。
飛び出す。
「ガルドさん!」
雨。
森の向こう。
人。
担架。
「いる!」
「フィン!」
少年。
家。
飛び出す。
「父さん!?」
⸻
「走るな!」
アルフレッド。
「領主様も走ってる!」
「……!」
「二人とも!」
セルマ。
「ゆっくり!」
二人。
同時。
速度を落とす。
「なんでこんな時まで……」
アルフレッド。
「転んだら」
フィン。
「父さんに会うの遅くなる」
「……そうだね」
二人。
今度は。
転ばない速度で。
走った。
⸻
「父さん!」
担架。
ラウル。
薄く。
目を開ける。
「……フィン?」
フィン。
止まる。
十一日。
いや。
父親にとっては。
もっと長く感じただろう。
顔。
痩せている。
髭。
泥。
傷。
でも。
「父さん……」
「お前」
ラウル。
弱く笑う。
「でかくなったな」
「十一日だよ!」
「そうか」
「十一日か」
「馬鹿!」
「……ああ」
「なんで帰ってこないんだよ!」
「悪かった」
「俺!」
フィン。
泣く。
「俺……」
「ちゃんと」
「薪も!」
「水も!」
「仕事して!」
「待ってたんだぞ!」
ラウル。
手。
伸ばす。
震える。
フィンの。
頭。
触れる。
「……よくやった」
フィン。
父親の手へ。
両手。
重ねる。
「帰ってきてよ……」
「帰ってきた」
「遅い!」
「悪かった」
「もう!」
言葉にならない。
⸻
アルフレッドは。
少し離れて。
見ていた。
「アルフレッド様」
セルマが。
隣へ。
「うん」
「行かないのですか?」
「今は」
「フィンの時間だから」
セルマ。
静かに。
父子を見る。
「……はい」
「それに」
アルフレッド。
笑う。
「ちゃんと」
「帰ってきた」
「そうですね」
⸻
「はいはい!」
そして。
マルタ。
「感動はそこまで!」
「またかよ」
ガルド。
「怪我人!」
「運ぶ!」
「フィン!」
「父親は逃げない!」
「でも!」
「治療終わったらいくらでも泣きな!」
「……はい」
「ラウル!」
「はい」
「その脚!」
「見せる!」
「……この村」
「本当に逆らえない人がいるんだな」
ダリオ。
家の中から。
「諦めろ!」
「お前もか!」
「俺は昨日負けた!」
「何の話してんだ!」
⸻
治療。
左脚。
骨折。
深い傷。
栄養不足。
脱水。
そして。
幸い。
「菌糸は?」
アルフレッド。
「見えない」
マルタ。
A―07がまだ戻ってきたばかり。
『侵食反応――検出せず』
「よかった……」
フィン。
大きく。
息を吐いた。
「ただし」
マルタ。
「熱がある」
「傷も悪い」
「しばらく歩けない」
「どれくらい?」
ラウル。
「治るまで」
「……ダリオ」
「言っただろ」
隣。
ダリオ。
笑う。
「この婆さん」
「それしか言わん」
「聞こえてるよ!」
「はい!」
二人。
同時。
返事。
⸻
夕方。
フィン。
約束。
豆のスープ。
「薄い」
ラウルが。
一口。
「当たり前だ!」
マルタ。
「十一日ほぼ食ってない胃に」
「普通の飯入れる気か!」
「いや」
「文句じゃない」
「懐かしいなと思って」
「何が」
「豆」
フィン。
寝台の横。
「父さん」
「うん」
「これ」
小袋。
出す。
干し豆。
「一緒に食べるって」
「決めてた」
ラウル。
袋を見る。
そして。
少年を見る。
「じゃあ」
「これは」
「元気になってからだ」
「うん」
「その時」
「普通のスープ」
「濃いやつ」
「作ってもらおう」
「うん!」
⸻
村。
人口。
また。
一人。
増えた。
三十一。
ダリオが戻って。
そして。
ラウル。
三十二。
正式に住むかは。
まだ決まっていない。
だが。
今夜。
三十二人が。
同じ村で。
眠る。
⸻
夜。
話し合い。
今度は。
ラウルも。
寝台のまま。
聞く。
「残り三人」
ノエル。
「オルド」
「ケイン」
「バックス」
「はい」
ラウル。
「三日目に」
「俺と別れた」
「理由は?」
「水」
全員。
静かになる。
「排水路の水が」
「灰色になった」
「最初」
「細い糸が」
「一本」
「二本」
「そのうち」
「触れた獣が」
「おかしくなった」
「地下に獣?」
グレゴール。
「小さい奴」
「鼠みたいな」
「それが」
「灰色の糸に触れて」
「俺たちへ」
「襲ってきた」
「それで」
「オルドが」
「ここにいたら全員やられるって」
「上へ出る道を探すため」
「奥へ?」
「ああ」
⸻
「その奥」
A―07。
『経路照合』
床。
青い線。
描く。
非常排水路。
ラウルのいた場所。
さらに。
北東。
『第四浄化塔――外周保守区画』
「やっぱり」
ガルドが。
低く言う。
「三人は」
「第四浄化塔の近くへ」
行った可能性。
「高い」
アルフレッド。
地図。
見る。
「エーナナ」
「今日」
「地下が何度も揺れた」
『記録確認済』
「ビーさんが」
「下層水門の緊急封鎖に失敗した記録があるって」
A―07。
青い瞳。
強く光る。
『照合開始』
一秒。
二秒。
三秒。
『第一浄化施設』
『遠隔監視情報――取得』
全員。
黙る。
『第四浄化塔』
『下層水門』
『状態――』
一瞬。
音が。
乱れる。
『閉鎖率――38%』
「三十八?」
ノエル。
「六割以上」
「開いている?」
『肯定』
「それで」
「灰色の水が排水路へ?」
『可能性――高』
「閉じられる?」
アルフレッド。
『遠隔操作――』
A―07。
停止。
『管理者権限を要求』
視線。
一斉に。
アルフレッドへ。
「僕?」
『肯定』
「閉じれば」
「侵食止まる?」
『不明』
「閉じたら」
「残り三人に」
「何か起きる?」
『不明』
「水の流れは?」
『大幅変化を予測』
「どこへ?」
『記録不足』
「……」
アルフレッド。
黙る。
押せば。
何かが。
変わる。
でも。
何が。
変わるのか。
分からない。
⸻
『暫定管理者』
A―07。
『第四浄化塔』
『緊急封鎖要求』
『承認』
『または』
『保留』
アルフレッドの前へ。
二つ。
青い文字。
「今」
決めないと駄目?
『要求継続中』
「時間は?」
『不明』
「保留できる?」
『可能』
ガルド。
アルフレッドを見る。
ノエル。
セルマ。
バルド。
全員。
待っている。
以前なら。
アルフレッドは。
「閉じた方が良さそう」
そう言って。
押したかもしれない。
だけど。
「保留」
少年は言った。
『確認』
「分からないことが」
「多すぎる」
『……』
「三人が」
「その近くにいるかもしれない」
「水の流れも」
「どう変わるか分からない」
「だから」
「今は押さない」
『第四浄化塔』
『緊急封鎖要求――保留』
青い文字。
消える。
⸻
「明日」
アルフレッド。
地図を見る。
「もっと調べる」
「何を」
ガルド。
「三人の場所」
「水門」
「第四浄化塔」
「閉じたら」
「どこに水が行くのか」
「全部?」
「できるだけ」
「その後」
「決める」
ガルド。
少しだけ。
笑った。
「今回は」
「少しじゃねぇな」
「え?」
「何でもねぇ」
「今褒めた?」
「寝ろ」
「絶対褒めた!」
⸻
深夜。
村。
ほとんどの灯りが。
消えている。
ラウル。
眠る。
その手を。
フィンが。
椅子に座ったまま。
握っている。
ダリオ。
クララ。
ルゥ。
ミア。
新しく。
戻ってきた人。
待っていた人。
それぞれ。
眠る。
⸻
地下。
第四浄化塔。
『緊急封鎖要求――保留』
表示。
赤。
点滅。
『下層水門』
『閉鎖率――38%』
ごん。
巨大な機構が。
再び。
動こうとする。
『自動閉鎖――失敗』
ごん。
『再試行』
ごん。
灰色の水。
その向こう。
古い。
保守通路。
三つの。
小さな。
生命反応。
一つ。
『……』
二つ。
『……』
三つ。
『……』
微弱。
だが。
消えてはいない。
そのうち。
一つが。
ゆっくり。
第四浄化塔の中心へ。
近づいていた。
⸻
第38話 帰ってきた父 了




