↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/53

帰ってきた父



前書き


帰る場所とは、


建物のことではありません。


屋根があっても。


壁があっても。


そこに、


待っている人がいなければ。


ただの家です。


誰かが待っている。


誰かに、


「おかえり」と言ってもらえる。


だから、


そこは帰る場所になるのです。


⸻


 ごん。


 地面が、


 低く震えた。


「……まただ」


 ベルンが足元を見る。


 非常排水路。


 ようやく掘り抜いた穴の向こう。


 フィンの父。


 ラウル。


 生きている。


 だが。


 そのさらに下。


 第四浄化塔。


『地下振動――再検知』


 A―07の青い瞳が明滅した。


『周期性あり』


「何秒だ」


 ガルドが尋ねる。


『前回より――七十三秒』


「次も同じくらい?」


『予測――可能』


「なら」


 ガルドはラウルを見る。


「話は後だ」


「まずこいつを出す」


「賛成です」


 エッダが即答した。


「ここ」


 彼女は頭上を見る。


 先ほどまで掘っていた土砂。


 金属梁で補強したとはいえ。


 完全に安全ではない。


「雨も来る」


 ぽつ。


 その言葉を待っていたかのように。


 雨粒が。


 ひとつ。


 岩へ落ちた。


「最悪だな」


 ベルンが空を見る。


「急ぐぞ!」


 ガルドが叫ぶ。


「ただし雑にやるな!」


「どっちなんです!」


「急いで丁寧にやれ!」


「無茶言いますね!」


「言ってる場合か!」


⸻


「ラウル」


 ガルドが穴の向こうへ入る。


「どこが悪い」


「左脚」


「右じゃないんだな?」


「左」


「感覚は?」


「膝から下」


「ほとんどない」


「いつから」


「……分からん」


 十一日。


 暗闇。


 満足な食料もない。


 時間の感覚など。


 失って当然だった。


「傷見せろ」


 布。


 剥がす。


「……ひでぇな」


 ベルンが顔をしかめた。


 脛。


 深い裂傷。


 腫れ。


 足首。


 不自然な角度。


「折れてるか」


「たぶんな」


「よく生きてたな」


「水があった」


「それだけ?」


「それだけだ」


 ラウルは。


 少し笑った。


「人間」


「水だけでも」


「意外としぶとい」


「笑い事じゃねぇ」


「俺もそう思う」


⸻


『侵食反応――』


 A―07の瞳が。


 ラウルの脚を走査する。


 全員が緊張した。


『検出せず』


「よし」


 ガルドが息を吐く。


「先にそれ言え」


『情報伝達順序――改善中』


「まだ改善中なのか」


『肯定』


「頑張れ」


『了解』


⸻


「担架」


 エッダが言う。


「穴が狭い」


「普通の担架は無理だな」


 ヘルマンが掘り抜いた入口を見る。


 人一人。


 ようやく通れる幅。


「布と棒」


「簡易で作る」


「引っ張る?」


「いや」


「脚が揺れる」


 ガルド。


「最初は俺が背負う」


「穴を抜けてから担架だ」


「できるのか?」


 ラウルが尋ねる。


「誰に聞いてる」


「六十三の爺さんに」


「俺は六十三じゃねぇ!」


 少し離れたところで。


 バルドの年齢と混ざったらしい。


「……何歳だ?」


「今それ大事か!?」


「ちょっと気になった」


「元気じゃねぇか!」


 ラウルが。


 十一日ぶりに。


 少しだけ笑った。


⸻


 まず。


 脚を固定する。


 木片。


 布。


 縄。


「噛め」


 ガルドが布を渡す。


「いらん」


「強がるな」


「大丈夫だ」


「じゃあ」


 エッダが。


 にこりともせず言った。


「そのままやりますね」


「待て」


「はい?」


「布をくれ」


「素直でよろしい」


「この村の女は強いのか?」


「まだ村じゃねぇぞここ」


 ガルドが言う。


「でも」


「帰ったらもっと強い婆さんがいる」


「……怖ぇな」


「覚悟しろ」


⸻


「いきます!」


 固定。


「――っ!」


 ラウルの身体が。


 大きく強張る。


「終わった!」


 エッダ。


「……早いな」


「ゆっくり痛いのと」


「短く痛いの」


「どっちがいいです?」


「もう終わった後に聞くな」


⸻


 その時。


 ごん。


 再び。


 地下から振動。


 今度は。


 先ほどより。


 強かった。


 ぱら。


 天井から。


 土が落ちる。


「エッダ」


 ガルド。


「持つか」


「今は」


 エッダが金属梁を見る。


「でも」


「ここへ長居はしたくありません」


『振動強度――前回比112%』


「増えてる?」


『肯定』


「原因は!」


『第四浄化塔関連設備』


「関連って何だよ!」


『詳細記録――欠損』


「そうだった!」


⸻


 ガルドが。


 ラウルの前へしゃがむ。


「乗れ」


「お前」


「本当に爺――」


「次言ったら置いていくぞ」


「冗談だ」


「余裕あるな」


「フィンに」


 ラウルの声が。


 少し変わる。


「会うまでは」


「死ねん」


 ガルドは。


 何も言わず。


 背中を向けた。


「なら」


「しっかり掴まれ」


⸻


 穴。


 狭い。


 ガルドが。


 四つ這いに近い姿勢で。


 少しずつ進む。


 ラウルの脚を。


 ベルンが後ろから支える。


「右」


「もう少し!」


「頭!」


「分かってる!」


「左脚当たります!」


「上げろ!」


 数十秒。


 それが。


 何分にも感じる。


 そして。


「出た!」


 穴の外。


 ラウル。


 救出。


「担架!」


 すぐに。


 布と棒。


 寝かせる。


「よし」


 ガルド。


 立つ。


「撤収!」


⸻


「道具は?」


 ヘルマン。


「持てる分だけ!」


「滑車!」


「回収!」


「支柱は!」


 エッダ。


 振り返る。


「残す!」


「いいのか?」


「今外したら」


「崩れます!」


「なら置いていけ!」


 アルフレッドが直した滑車。


 縄。


 工具。


 持つ。


 金属梁。


 支柱。


 そのまま。


 救出路を。


 支えてもらう。


「また来る可能性もある」


 ガルド。


「三人」


 ベルンが言う。


 残る。


 オルド。


 ケイン。


 バックス。


「そうだ」


「だから」


「道は残せ」


⸻


 担架。


 四人。


 交代。


 ラウルを運ぶ。


 A―07。


 先頭。


 雨。


 少しずつ。


 強くなる。


「足元!」


「滑るぞ!」


「縄!」


「ここ急だ!」


 谷。


 川。


 水位。


 まだ低い。


 だが。


『水量増加』


「雨のせい?」


『一部肯定』


「一部?」


 A―07が。


 川を見る。


『上流からの流入増加』


「普通だろ」


『同時に』


『地下排水量増加』


 ガルドが。


 立ち止まる。


「地下?」


『第四浄化塔方向』


 岩壁。


 非常排水口。


 彼らが。


 たった今。


 ラウルを助け出した場所。


 そこから。


 水。


 少しずつ。


 流れ出していた。


「おい」


「さっきまで」


「ほとんど出てなかったよな」


『肯定』


 水。


 透明ではない。


 灰色。


「……走査」


『侵食因子――検出』


「全員川から離れろ!」


 ガルド。


 一斉に。


 斜面側へ。


 数秒後。


 排水口。


 どっ。


 灰色の水が。


 勢いよく。


 噴き出した。


「うわっ!」


「触るな!」


 水の中。


 細い。


 灰色の糸。


 何百。


 何千。


「菌糸……!」


 ベルン。


『第四浄化塔侵食因子』


「逃げるぞ!」


⸻


 ラウルが。


 担架の上。


 顔を上げる。


「これだ」


「何が!」


「地下」


「奥で」


「水の音が」


「どんどん増えてた」


「だから」


「三人は」


 ガルドが振り向く。


「水を追った?」


「違う」


 ラウル。


 首を振る。


「水から」


「逃げた」


 全員。


 言葉を失う。


「最初は」


「出口を探してた」


「でも」


「三日目」


「水が灰色になった」


「それで」


「オルドが」


「上へ行く道を探すって」


「ケインとバックスも」


「ついていった」


「どっちへ」


 ラウル。


 震える指で。


 岩壁の。


 さらに北。


「奥だ」


「第四浄化塔の方か」


 A―07。


『経路照合』


 数秒。


『可能性――高』


⸻


「行くぞ!」


 ガルド。


「今はラウル!」


「三人は後!」


 ベルン。


 一瞬。


 奥を見る。


 それでも。


「はい!」


 担架。


 再び。


 動く。


⸻


 一方。


 灰境の村。


「もう一枚!」


 アルフレッドが。


 空き家の中で叫んでいた。


「毛布?」


 リーナ。


「うん!」


「ここ!」


「ありがとう!」


 空き家。


 ひとつ。


 すでに。


 ラウル用に。


 整えられている。


 寝台。


 藁。


 毛布。


 水。


 火。


 その横。


 マルタ。


 薬。


「薄いスープ!」


「作ってる!」


 ハンナ。


 鍋。


「豆?」


「少し」


「濃くしないで!」


「分かってるよ!」


「フィン!」


 アルフレッド。


「はい!」


 少年。


 すぐ。


 振り向く。


「お父さんの服」


「ある?」


「……ある」


「どこ?」


「俺の家」


「持ってきて」


「泥だらけかもしれないから」


「うん!」


 走る。


「ゆっくり!」


 アルフレッドが叫ぶ。


 フィン。


 途中で。


 速度。


 少し落とす。


「……」


 セルマが。


 椅子から見る。


「アルフレッド様」


「なに?」


「今」


「ご自分が言われていることを」


「フィン様へ言いましたね」


「本当だ」


「人は」


「そうやって大人になるのでしょうか」


「僕まだ十二歳」


「存じております」


「最近」


「それを言われすぎてる」


⸻


「雨」


 セルマが。


 外を見る。


 ぽつ。


 ぽつ。


「強くなってきた」


「……うん」


 アルフレッドも。


 北西を見る。


「大丈夫かな」


「大丈夫です」


「今回は」


「無理して言ってる?」


「少し」


「やっぱり」


 セルマ。


 少しだけ笑う。


「ですが」


「ガルド様たちなら」


「帰ってこられます」


「うん」


 その横。


 B―03。


 村の入口。


 巨大な身体。


 雨。


 受ける。


『北西方向』


『振動反応』


「ビーさん?」


『確認』


「何か分かる?」


『照合中』


 一秒。


 二秒。


『旧防衛記録』


「覚えてる?」


『断片』


「何?」


 B―03の青い瞳。


 一瞬。


 暗くなる。


『第四浄化塔』


『緊急封鎖』


 アルフレッドが。


 顔を上げる。


「緊急封鎖?」


『……』


『実行失敗』


「いつ?」


『記録日時――破損』


「何を閉じようとしたの?」


『……』


 B―03。


 停止。


『下層水門』


「水門」


 アルフレッド。


 胸。


 嫌な感じ。


「それ」


「今の振動と関係ある?」


『可能性――高』


⸻


「ノエルさん!」


 アルフレッド。


 走る。


 今回は。


 転ばない程度に。


「ビーさんが!」


「どうしました?」


「第四浄化塔!」


「下層水門!」


「緊急封鎖!」


「失敗したって!」


 ノエル。


 筆。


 止まる。


「B―03」


『確認』


「もう一度」


『旧防衛記録』


『第四浄化塔』


『下層水門緊急封鎖――失敗』


「原因」


『記録欠損』


「現在の状態」


『不明』


「A―07なら?」


『第一浄化施設通信網を介し』


『限定照会可能』


「エーナナいない」


「探索隊と一緒」


 アルフレッド。


 北西。


 見る。


「……」


 何も。


 できない。


 今は。


「待つ」


 少年が。


 自分で言った。


 ノエルが。


 少しだけ。


 彼を見る。


「はい」


「帰ってきたら」


「エーナナに聞く」


「それまで」


「救護の準備」


「正解です」


 アルフレッド。


 少し。


 胸を張る。


「今の」


「領主っぽかった?」


「今は褒めている時間がありません」


「厳しい!」


⸻


 午後。


 雨。


 本降り。


 見張り台。


 リーナは。


 今日は上がっていない。


 代わり。


 ベルンではない。


 村の男。


 一人。


 北西を。


 見続けている。


「来た!」


 声。


「北西!」


「人影!」


 アルフレッド。


 飛び出す。


「ガルドさん!」


 雨。


 森の向こう。


 人。


 担架。


「いる!」


「フィン!」


 少年。


 家。


 飛び出す。


「父さん!?」


⸻


「走るな!」


 アルフレッド。


「領主様も走ってる!」


「……!」


「二人とも!」


 セルマ。


「ゆっくり!」


 二人。


 同時。


 速度を落とす。


「なんでこんな時まで……」


 アルフレッド。


「転んだら」


 フィン。


「父さんに会うの遅くなる」


「……そうだね」


 二人。


 今度は。


 転ばない速度で。


 走った。


⸻


「父さん!」


 担架。


 ラウル。


 薄く。


 目を開ける。


「……フィン?」


 フィン。


 止まる。


 十一日。


 いや。


 父親にとっては。


 もっと長く感じただろう。


 顔。


 痩せている。


 髭。


 泥。


 傷。


 でも。


「父さん……」


「お前」


 ラウル。


 弱く笑う。


「でかくなったな」


「十一日だよ!」


「そうか」


「十一日か」


「馬鹿!」


「……ああ」


「なんで帰ってこないんだよ!」


「悪かった」


「俺!」


 フィン。


 泣く。


「俺……」


「ちゃんと」


「薪も!」


「水も!」


「仕事して!」


「待ってたんだぞ!」


 ラウル。


 手。


 伸ばす。


 震える。


 フィンの。


 頭。


 触れる。


「……よくやった」


 フィン。


 父親の手へ。


 両手。


 重ねる。


「帰ってきてよ……」


「帰ってきた」


「遅い!」


「悪かった」


「もう!」


 言葉にならない。


⸻


 アルフレッドは。


 少し離れて。


 見ていた。


「アルフレッド様」


 セルマが。


 隣へ。


「うん」


「行かないのですか?」


「今は」


「フィンの時間だから」


 セルマ。


 静かに。


 父子を見る。


「……はい」


「それに」


 アルフレッド。


 笑う。


「ちゃんと」


「帰ってきた」


「そうですね」


⸻


「はいはい!」


 そして。


 マルタ。


「感動はそこまで!」


「またかよ」


 ガルド。


「怪我人!」


「運ぶ!」


「フィン!」


「父親は逃げない!」


「でも!」


「治療終わったらいくらでも泣きな!」


「……はい」


「ラウル!」


「はい」


「その脚!」


「見せる!」


「……この村」


「本当に逆らえない人がいるんだな」


 ダリオ。


 家の中から。


「諦めろ!」


「お前もか!」


「俺は昨日負けた!」


「何の話してんだ!」


⸻


 治療。


 左脚。


 骨折。


 深い傷。


 栄養不足。


 脱水。


 そして。


 幸い。


「菌糸は?」


 アルフレッド。


「見えない」


 マルタ。


 A―07がまだ戻ってきたばかり。


『侵食反応――検出せず』


「よかった……」


 フィン。


 大きく。


 息を吐いた。


「ただし」


 マルタ。


「熱がある」


「傷も悪い」


「しばらく歩けない」


「どれくらい?」


 ラウル。


「治るまで」


「……ダリオ」


「言っただろ」


 隣。


 ダリオ。


 笑う。


「この婆さん」


「それしか言わん」


「聞こえてるよ!」


「はい!」


 二人。


 同時。


 返事。


⸻


 夕方。


 フィン。


 約束。


 豆のスープ。


「薄い」


 ラウルが。


 一口。


「当たり前だ!」


 マルタ。


「十一日ほぼ食ってない胃に」


「普通の飯入れる気か!」


「いや」


「文句じゃない」


「懐かしいなと思って」


「何が」


「豆」


 フィン。


 寝台の横。


「父さん」


「うん」


「これ」


 小袋。


 出す。


 干し豆。


「一緒に食べるって」


「決めてた」


 ラウル。


 袋を見る。


 そして。


 少年を見る。


「じゃあ」


「これは」


「元気になってからだ」


「うん」


「その時」


「普通のスープ」


「濃いやつ」


「作ってもらおう」


「うん!」


⸻


 村。


 人口。


 また。


 一人。


 増えた。


 三十一。


 ダリオが戻って。


 そして。


 ラウル。


 三十二。


 正式に住むかは。


 まだ決まっていない。


 だが。


 今夜。


 三十二人が。


 同じ村で。


 眠る。


⸻


 夜。


 話し合い。


 今度は。


 ラウルも。


 寝台のまま。


 聞く。


「残り三人」


 ノエル。


「オルド」


「ケイン」


「バックス」


「はい」


 ラウル。


「三日目に」


「俺と別れた」


「理由は?」


「水」


 全員。


 静かになる。


「排水路の水が」


「灰色になった」


「最初」


「細い糸が」


「一本」


「二本」


「そのうち」


「触れた獣が」


「おかしくなった」


「地下に獣?」


 グレゴール。


「小さい奴」


「鼠みたいな」


「それが」


「灰色の糸に触れて」


「俺たちへ」


「襲ってきた」


「それで」


「オルドが」


「ここにいたら全員やられるって」


「上へ出る道を探すため」


「奥へ?」


「ああ」


⸻


「その奥」


 A―07。


『経路照合』


 床。


 青い線。


 描く。


 非常排水路。


 ラウルのいた場所。


 さらに。


 北東。


『第四浄化塔――外周保守区画』


「やっぱり」


 ガルドが。


 低く言う。


「三人は」


「第四浄化塔の近くへ」


 行った可能性。


「高い」


 アルフレッド。


 地図。


 見る。


「エーナナ」


「今日」


「地下が何度も揺れた」


『記録確認済』


「ビーさんが」


「下層水門の緊急封鎖に失敗した記録があるって」


 A―07。


 青い瞳。


 強く光る。


『照合開始』


 一秒。


 二秒。


 三秒。


『第一浄化施設』


『遠隔監視情報――取得』


 全員。


 黙る。


『第四浄化塔』


『下層水門』


『状態――』


 一瞬。


 音が。


 乱れる。


『閉鎖率――38%』


「三十八?」


 ノエル。


「六割以上」


「開いている?」


『肯定』


「それで」


「灰色の水が排水路へ?」


『可能性――高』


「閉じられる?」


 アルフレッド。


『遠隔操作――』


 A―07。


 停止。


『管理者権限を要求』


 視線。


 一斉に。


 アルフレッドへ。


「僕?」


『肯定』


「閉じれば」


「侵食止まる?」


『不明』


「閉じたら」


「残り三人に」


「何か起きる?」


『不明』


「水の流れは?」


『大幅変化を予測』


「どこへ?」


『記録不足』


「……」


 アルフレッド。


 黙る。


 押せば。


 何かが。


 変わる。


 でも。


 何が。


 変わるのか。


 分からない。


⸻


『暫定管理者』


 A―07。


『第四浄化塔』


『緊急封鎖要求』


『承認』


『または』


『保留』


 アルフレッドの前へ。


 二つ。


 青い文字。


「今」


 決めないと駄目?


『要求継続中』


「時間は?」


『不明』


「保留できる?」


『可能』


 ガルド。


 アルフレッドを見る。


 ノエル。


 セルマ。


 バルド。


 全員。


 待っている。


 以前なら。


 アルフレッドは。


「閉じた方が良さそう」


 そう言って。


 押したかもしれない。


 だけど。


「保留」


 少年は言った。


『確認』


「分からないことが」


「多すぎる」


『……』


「三人が」


「その近くにいるかもしれない」


「水の流れも」


「どう変わるか分からない」


「だから」


「今は押さない」


『第四浄化塔』


『緊急封鎖要求――保留』


 青い文字。


 消える。


⸻


「明日」


 アルフレッド。


 地図を見る。


「もっと調べる」


「何を」


 ガルド。


「三人の場所」


「水門」


「第四浄化塔」


「閉じたら」


「どこに水が行くのか」


「全部?」


「できるだけ」


「その後」


「決める」


 ガルド。


 少しだけ。


 笑った。


「今回は」


「少しじゃねぇな」


「え?」


「何でもねぇ」


「今褒めた?」


「寝ろ」


「絶対褒めた!」


⸻


 深夜。


 村。


 ほとんどの灯りが。


 消えている。


 ラウル。


 眠る。


 その手を。


 フィンが。


 椅子に座ったまま。


 握っている。


 ダリオ。


 クララ。


 ルゥ。


 ミア。


 新しく。


 戻ってきた人。


 待っていた人。


 それぞれ。


 眠る。


⸻


 地下。


 第四浄化塔。


『緊急封鎖要求――保留』


 表示。


 赤。


 点滅。


『下層水門』


『閉鎖率――38%』


 ごん。


 巨大な機構が。


 再び。


 動こうとする。


『自動閉鎖――失敗』


 ごん。


『再試行』


 ごん。


 灰色の水。


 その向こう。


 古い。


 保守通路。


 三つの。


 小さな。


 生命反応。


 一つ。


『……』


 二つ。


『……』


 三つ。


『……』


 微弱。


 だが。


 消えてはいない。


 そのうち。


 一つが。


 ゆっくり。


 第四浄化塔の中心へ。


 近づいていた。


⸻


第38話 帰ってきた父 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。