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男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

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38/40

帰ってきた父



前書き


帰る場所とは、


建物のことではありません。


屋根があっても。


壁があっても。


そこに、


待っている人がいなければ。


ただの家です。


誰かが待っている。


誰かに、


「おかえり」と言ってもらえる。


だから、


そこは帰る場所になるのです。



 ごん。


 地面が、


 低く震えた。


「……まただ」


 ベルンが足元を見る。


 非常排水路。


 ようやく掘り抜いた穴の向こう。


 フィンの父。


 ラウル。


 生きている。


 だが。


 そのさらに下。


 第四浄化塔。


『地下振動――再検知』


 A―07の青い瞳が明滅した。


『周期性あり』


「何秒だ」


 ガルドが尋ねる。


『前回より――七十三秒』


「次も同じくらい?」


『予測――可能』


「なら」


 ガルドはラウルを見る。


「話は後だ」


「まずこいつを出す」


「賛成です」


 エッダが即答した。


「ここ」


 彼女は頭上を見る。


 先ほどまで掘っていた土砂。


 金属梁で補強したとはいえ。


 完全に安全ではない。


「雨も来る」


 ぽつ。


 その言葉を待っていたかのように。


 雨粒が。


 ひとつ。


 岩へ落ちた。


「最悪だな」


 ベルンが空を見る。


「急ぐぞ!」


 ガルドが叫ぶ。


「ただし雑にやるな!」


「どっちなんです!」


「急いで丁寧にやれ!」


「無茶言いますね!」


「言ってる場合か!」



「ラウル」


 ガルドが穴の向こうへ入る。


「どこが悪い」


「左脚」


「右じゃないんだな?」


「左」


「感覚は?」


「膝から下」


「ほとんどない」


「いつから」


「……分からん」


 十一日。


 暗闇。


 満足な食料もない。


 時間の感覚など。


 失って当然だった。


「傷見せろ」


 布。


 剥がす。


「……ひでぇな」


 ベルンが顔をしかめた。


 脛。


 深い裂傷。


 腫れ。


 足首。


 不自然な角度。


「折れてるか」


「たぶんな」


「よく生きてたな」


「水があった」


「それだけ?」


「それだけだ」


 ラウルは。


 少し笑った。


「人間」


「水だけでも」


「意外としぶとい」


「笑い事じゃねぇ」


「俺もそう思う」



『侵食反応――』


 A―07の瞳が。


 ラウルの脚を走査する。


 全員が緊張した。


『検出せず』


「よし」


 ガルドが息を吐く。


「先にそれ言え」


『情報伝達順序――改善中』


「まだ改善中なのか」


『肯定』


「頑張れ」


『了解』



「担架」


 エッダが言う。


「穴が狭い」


「普通の担架は無理だな」


 ヘルマンが掘り抜いた入口を見る。


 人一人。


 ようやく通れる幅。


「布と棒」


「簡易で作る」


「引っ張る?」


「いや」


「脚が揺れる」


 ガルド。


「最初は俺が背負う」


「穴を抜けてから担架だ」


「できるのか?」


 ラウルが尋ねる。


「誰に聞いてる」


「六十三の爺さんに」


「俺は六十三じゃねぇ!」


 少し離れたところで。


 バルドの年齢と混ざったらしい。


「……何歳だ?」


「今それ大事か!?」


「ちょっと気になった」


「元気じゃねぇか!」


 ラウルが。


 十一日ぶりに。


 少しだけ笑った。



 まず。


 脚を固定する。


 木片。


 布。


 縄。


「噛め」


 ガルドが布を渡す。


「いらん」


「強がるな」


「大丈夫だ」


「じゃあ」


 エッダが。


 にこりともせず言った。


「そのままやりますね」


「待て」


「はい?」


「布をくれ」


「素直でよろしい」


「この村の女は強いのか?」


「まだ村じゃねぇぞここ」


 ガルドが言う。


「でも」


「帰ったらもっと強い婆さんがいる」


「……怖ぇな」


「覚悟しろ」



「いきます!」


 固定。


「――っ!」


 ラウルの身体が。


 大きく強張る。


「終わった!」


 エッダ。


「……早いな」


「ゆっくり痛いのと」


「短く痛いの」


「どっちがいいです?」


「もう終わった後に聞くな」



 その時。


 ごん。


 再び。


 地下から振動。


 今度は。


 先ほどより。


 強かった。


 ぱら。


 天井から。


 土が落ちる。


「エッダ」


 ガルド。


「持つか」


「今は」


 エッダが金属梁を見る。


「でも」


「ここへ長居はしたくありません」


『振動強度――前回比112%』


「増えてる?」


『肯定』


「原因は!」


『第四浄化塔関連設備』


「関連って何だよ!」


『詳細記録――欠損』


「そうだった!」



 ガルドが。


 ラウルの前へしゃがむ。


「乗れ」


「お前」


「本当に爺――」


「次言ったら置いていくぞ」


「冗談だ」


「余裕あるな」


「フィンに」


 ラウルの声が。


 少し変わる。


「会うまでは」


「死ねん」


 ガルドは。


 何も言わず。


 背中を向けた。


「なら」


「しっかり掴まれ」



 穴。


 狭い。


 ガルドが。


 四つ這いに近い姿勢で。


 少しずつ進む。


 ラウルの脚を。


 ベルンが後ろから支える。


「右」


「もう少し!」


「頭!」


「分かってる!」


「左脚当たります!」


「上げろ!」


 数十秒。


 それが。


 何分にも感じる。


 そして。


「出た!」


 穴の外。


 ラウル。


 救出。


「担架!」


 すぐに。


 布と棒。


 寝かせる。


「よし」


 ガルド。


 立つ。


「撤収!」



「道具は?」


 ヘルマン。


「持てる分だけ!」


「滑車!」


「回収!」


「支柱は!」


 エッダ。


 振り返る。


「残す!」


「いいのか?」


「今外したら」


「崩れます!」


「なら置いていけ!」


 アルフレッドが直した滑車。


 縄。


 工具。


 持つ。


 金属梁。


 支柱。


 そのまま。


 救出路を。


 支えてもらう。


「また来る可能性もある」


 ガルド。


「三人」


 ベルンが言う。


 残る。


 オルド。


 ケイン。


 バックス。


「そうだ」


「だから」


「道は残せ」



 担架。


 四人。


 交代。


 ラウルを運ぶ。


 A―07。


 先頭。


 雨。


 少しずつ。


 強くなる。


「足元!」


「滑るぞ!」


「縄!」


「ここ急だ!」


 谷。


 川。


 水位。


 まだ低い。


 だが。


『水量増加』


「雨のせい?」


『一部肯定』


「一部?」


 A―07が。


 川を見る。


『上流からの流入増加』


「普通だろ」


『同時に』


『地下排水量増加』


 ガルドが。


 立ち止まる。


「地下?」


『第四浄化塔方向』


 岩壁。


 非常排水口。


 彼らが。


 たった今。


 ラウルを助け出した場所。


 そこから。


 水。


 少しずつ。


 流れ出していた。


「おい」


「さっきまで」


「ほとんど出てなかったよな」


『肯定』


 水。


 透明ではない。


 灰色。


「……走査」


『侵食因子――検出』


「全員川から離れろ!」


 ガルド。


 一斉に。


 斜面側へ。


 数秒後。


 排水口。


 どっ。


 灰色の水が。


 勢いよく。


 噴き出した。


「うわっ!」


「触るな!」


 水の中。


 細い。


 灰色の糸。


 何百。


 何千。


「菌糸……!」


 ベルン。


『第四浄化塔侵食因子』


「逃げるぞ!」



 ラウルが。


 担架の上。


 顔を上げる。


「これだ」


「何が!」


「地下」


「奥で」


「水の音が」


「どんどん増えてた」


「だから」


「三人は」


 ガルドが振り向く。


「水を追った?」


「違う」


 ラウル。


 首を振る。


「水から」


「逃げた」


 全員。


 言葉を失う。


「最初は」


「出口を探してた」


「でも」


「三日目」


「水が灰色になった」


「それで」


「オルドが」


「上へ行く道を探すって」


「ケインとバックスも」


「ついていった」


「どっちへ」


 ラウル。


 震える指で。


 岩壁の。


 さらに北。


「奥だ」


「第四浄化塔の方か」


 A―07。


『経路照合』


 数秒。


『可能性――高』



「行くぞ!」


 ガルド。


「今はラウル!」


「三人は後!」


 ベルン。


 一瞬。


 奥を見る。


 それでも。


「はい!」


 担架。


 再び。


 動く。



 一方。


 灰境の村。


「もう一枚!」


 アルフレッドが。


 空き家の中で叫んでいた。


「毛布?」


 リーナ。


「うん!」


「ここ!」


「ありがとう!」


 空き家。


 ひとつ。


 すでに。


 ラウル用に。


 整えられている。


 寝台。


 藁。


 毛布。


 水。


 火。


 その横。


 マルタ。


 薬。


「薄いスープ!」


「作ってる!」


 ハンナ。


 鍋。


「豆?」


「少し」


「濃くしないで!」


「分かってるよ!」


「フィン!」


 アルフレッド。


「はい!」


 少年。


 すぐ。


 振り向く。


「お父さんの服」


「ある?」


「……ある」


「どこ?」


「俺の家」


「持ってきて」


「泥だらけかもしれないから」


「うん!」


 走る。


「ゆっくり!」


 アルフレッドが叫ぶ。


 フィン。


 途中で。


 速度。


 少し落とす。


「……」


 セルマが。


 椅子から見る。


「アルフレッド様」


「なに?」


「今」


「ご自分が言われていることを」


「フィン様へ言いましたね」


「本当だ」


「人は」


「そうやって大人になるのでしょうか」


「僕まだ十二歳」


「存じております」


「最近」


「それを言われすぎてる」



「雨」


 セルマが。


 外を見る。


 ぽつ。


 ぽつ。


「強くなってきた」


「……うん」


 アルフレッドも。


 北西を見る。


「大丈夫かな」


「大丈夫です」


「今回は」


「無理して言ってる?」


「少し」


「やっぱり」


 セルマ。


 少しだけ笑う。


「ですが」


「ガルド様たちなら」


「帰ってこられます」


「うん」


 その横。


 B―03。


 村の入口。


 巨大な身体。


 雨。


 受ける。


『北西方向』


『振動反応』


「ビーさん?」


『確認』


「何か分かる?」


『照合中』


 一秒。


 二秒。


『旧防衛記録』


「覚えてる?」


『断片』


「何?」


 B―03の青い瞳。


 一瞬。


 暗くなる。


『第四浄化塔』


『緊急封鎖』


 アルフレッドが。


 顔を上げる。


「緊急封鎖?」


『……』


『実行失敗』


「いつ?」


『記録日時――破損』


「何を閉じようとしたの?」


『……』


 B―03。


 停止。


『下層水門』


「水門」


 アルフレッド。


 胸。


 嫌な感じ。


「それ」


「今の振動と関係ある?」


『可能性――高』



「ノエルさん!」


 アルフレッド。


 走る。


 今回は。


 転ばない程度に。


「ビーさんが!」


「どうしました?」


「第四浄化塔!」


「下層水門!」


「緊急封鎖!」


「失敗したって!」


 ノエル。


 筆。


 止まる。


「B―03」


『確認』


「もう一度」


『旧防衛記録』


『第四浄化塔』


『下層水門緊急封鎖――失敗』


「原因」


『記録欠損』


「現在の状態」


『不明』


「A―07なら?」


『第一浄化施設通信網を介し』


『限定照会可能』


「エーナナいない」


「探索隊と一緒」


 アルフレッド。


 北西。


 見る。


「……」


 何も。


 できない。


 今は。


「待つ」


 少年が。


 自分で言った。


 ノエルが。


 少しだけ。


 彼を見る。


「はい」


「帰ってきたら」


「エーナナに聞く」


「それまで」


「救護の準備」


「正解です」


 アルフレッド。


 少し。


 胸を張る。


「今の」


「領主っぽかった?」


「今は褒めている時間がありません」


「厳しい!」



 午後。


 雨。


 本降り。


 見張り台。


 リーナは。


 今日は上がっていない。


 代わり。


 ベルンではない。


 村の男。


 一人。


 北西を。


 見続けている。


「来た!」


 声。


「北西!」


「人影!」


 アルフレッド。


 飛び出す。


「ガルドさん!」


 雨。


 森の向こう。


 人。


 担架。


「いる!」


「フィン!」


 少年。


 家。


 飛び出す。


「父さん!?」



「走るな!」


 アルフレッド。


「領主様も走ってる!」


「……!」


「二人とも!」


 セルマ。


「ゆっくり!」


 二人。


 同時。


 速度を落とす。


「なんでこんな時まで……」


 アルフレッド。


「転んだら」


 フィン。


「父さんに会うの遅くなる」


「……そうだね」


 二人。


 今度は。


 転ばない速度で。


 走った。



「父さん!」


 担架。


 ラウル。


 薄く。


 目を開ける。


「……フィン?」


 フィン。


 止まる。


 十一日。


 いや。


 父親にとっては。


 もっと長く感じただろう。


 顔。


 痩せている。


 髭。


 泥。


 傷。


 でも。


「父さん……」


「お前」


 ラウル。


 弱く笑う。


「でかくなったな」


「十一日だよ!」


「そうか」


「十一日か」


「馬鹿!」


「……ああ」


「なんで帰ってこないんだよ!」


「悪かった」


「俺!」


 フィン。


 泣く。


「俺……」


「ちゃんと」


「薪も!」


「水も!」


「仕事して!」


「待ってたんだぞ!」


 ラウル。


 手。


 伸ばす。


 震える。


 フィンの。


 頭。


 触れる。


「……よくやった」


 フィン。


 父親の手へ。


 両手。


 重ねる。


「帰ってきてよ……」


「帰ってきた」


「遅い!」


「悪かった」


「もう!」


 言葉にならない。



 アルフレッドは。


 少し離れて。


 見ていた。


「アルフレッド様」


 セルマが。


 隣へ。


「うん」


「行かないのですか?」


「今は」


「フィンの時間だから」


 セルマ。


 静かに。


 父子を見る。


「……はい」


「それに」


 アルフレッド。


 笑う。


「ちゃんと」


「帰ってきた」


「そうですね」



「はいはい!」


 そして。


 マルタ。


「感動はそこまで!」


「またかよ」


 ガルド。


「怪我人!」


「運ぶ!」


「フィン!」


「父親は逃げない!」


「でも!」


「治療終わったらいくらでも泣きな!」


「……はい」


「ラウル!」


「はい」


「その脚!」


「見せる!」


「……この村」


「本当に逆らえない人がいるんだな」


 ダリオ。


 家の中から。


「諦めろ!」


「お前もか!」


「俺は昨日負けた!」


「何の話してんだ!」



 治療。


 左脚。


 骨折。


 深い傷。


 栄養不足。


 脱水。


 そして。


 幸い。


「菌糸は?」


 アルフレッド。


「見えない」


 マルタ。


 A―07がまだ戻ってきたばかり。


『侵食反応――検出せず』


「よかった……」


 フィン。


 大きく。


 息を吐いた。


「ただし」


 マルタ。


「熱がある」


「傷も悪い」


「しばらく歩けない」


「どれくらい?」


 ラウル。


「治るまで」


「……ダリオ」


「言っただろ」


 隣。


 ダリオ。


 笑う。


「この婆さん」


「それしか言わん」


「聞こえてるよ!」


「はい!」


 二人。


 同時。


 返事。



 夕方。


 フィン。


 約束。


 豆のスープ。


「薄い」


 ラウルが。


 一口。


「当たり前だ!」


 マルタ。


「十一日ほぼ食ってない胃に」


「普通の飯入れる気か!」


「いや」


「文句じゃない」


「懐かしいなと思って」


「何が」


「豆」


 フィン。


 寝台の横。


「父さん」


「うん」


「これ」


 小袋。


 出す。


 干し豆。


「一緒に食べるって」


「決めてた」


 ラウル。


 袋を見る。


 そして。


 少年を見る。


「じゃあ」


「これは」


「元気になってからだ」


「うん」


「その時」


「普通のスープ」


「濃いやつ」


「作ってもらおう」


「うん!」



 村。


 人口。


 また。


 一人。


 増えた。


 三十一。


 ダリオが戻って。


 そして。


 ラウル。


 三十二。


 正式に住むかは。


 まだ決まっていない。


 だが。


 今夜。


 三十二人が。


 同じ村で。


 眠る。



 夜。


 話し合い。


 今度は。


 ラウルも。


 寝台のまま。


 聞く。


「残り三人」


 ノエル。


「オルド」


「ケイン」


「バックス」


「はい」


 ラウル。


「三日目に」


「俺と別れた」


「理由は?」


「水」


 全員。


 静かになる。


「排水路の水が」


「灰色になった」


「最初」


「細い糸が」


「一本」


「二本」


「そのうち」


「触れた獣が」


「おかしくなった」


「地下に獣?」


 グレゴール。


「小さい奴」


「鼠みたいな」


「それが」


「灰色の糸に触れて」


「俺たちへ」


「襲ってきた」


「それで」


「オルドが」


「ここにいたら全員やられるって」


「上へ出る道を探すため」


「奥へ?」


「ああ」



「その奥」


 A―07。


『経路照合』


 床。


 青い線。


 描く。


 非常排水路。


 ラウルのいた場所。


 さらに。


 北東。


『第四浄化塔――外周保守区画』


「やっぱり」


 ガルドが。


 低く言う。


「三人は」


「第四浄化塔の近くへ」


 行った可能性。


「高い」


 アルフレッド。


 地図。


 見る。


「エーナナ」


「今日」


「地下が何度も揺れた」


『記録確認済』


「ビーさんが」


「下層水門の緊急封鎖に失敗した記録があるって」


 A―07。


 青い瞳。


 強く光る。


『照合開始』


 一秒。


 二秒。


 三秒。


『第一浄化施設』


『遠隔監視情報――取得』


 全員。


 黙る。


『第四浄化塔』


『下層水門』


『状態――』


 一瞬。


 音が。


 乱れる。


『閉鎖率――38%』


「三十八?」


 ノエル。


「六割以上」


「開いている?」


『肯定』


「それで」


「灰色の水が排水路へ?」


『可能性――高』


「閉じられる?」


 アルフレッド。


『遠隔操作――』


 A―07。


 停止。


『管理者権限を要求』


 視線。


 一斉に。


 アルフレッドへ。


「僕?」


『肯定』


「閉じれば」


「侵食止まる?」


『不明』


「閉じたら」


「残り三人に」


「何か起きる?」


『不明』


「水の流れは?」


『大幅変化を予測』


「どこへ?」


『記録不足』


「……」


 アルフレッド。


 黙る。


 押せば。


 何かが。


 変わる。


 でも。


 何が。


 変わるのか。


 分からない。



『暫定管理者』


 A―07。


『第四浄化塔』


『緊急封鎖要求』


『承認』


『または』


『保留』


 アルフレッドの前へ。


 二つ。


 青い文字。


「今」


 決めないと駄目?


『要求継続中』


「時間は?」


『不明』


「保留できる?」


『可能』


 ガルド。


 アルフレッドを見る。


 ノエル。


 セルマ。


 バルド。


 全員。


 待っている。


 以前なら。


 アルフレッドは。


「閉じた方が良さそう」


 そう言って。


 押したかもしれない。


 だけど。


「保留」


 少年は言った。


『確認』


「分からないことが」


「多すぎる」


『……』


「三人が」


「その近くにいるかもしれない」


「水の流れも」


「どう変わるか分からない」


「だから」


「今は押さない」


『第四浄化塔』


『緊急封鎖要求――保留』


 青い文字。


 消える。



「明日」


 アルフレッド。


 地図を見る。


「もっと調べる」


「何を」


 ガルド。


「三人の場所」


「水門」


「第四浄化塔」


「閉じたら」


「どこに水が行くのか」


「全部?」


「できるだけ」


「その後」


「決める」


 ガルド。


 少しだけ。


 笑った。


「今回は」


「少しじゃねぇな」


「え?」


「何でもねぇ」


「今褒めた?」


「寝ろ」


「絶対褒めた!」



 深夜。


 村。


 ほとんどの灯りが。


 消えている。


 ラウル。


 眠る。


 その手を。


 フィンが。


 椅子に座ったまま。


 握っている。


 ダリオ。


 クララ。


 ルゥ。


 ミア。


 新しく。


 戻ってきた人。


 待っていた人。


 それぞれ。


 眠る。



 地下。


 第四浄化塔。


『緊急封鎖要求――保留』


 表示。


 赤。


 点滅。


『下層水門』


『閉鎖率――38%』


 ごん。


 巨大な機構が。


 再び。


 動こうとする。


『自動閉鎖――失敗』


 ごん。


『再試行』


 ごん。


 灰色の水。


 その向こう。


 古い。


 保守通路。


 三つの。


 小さな。


 生命反応。


 一つ。


『……』


 二つ。


『……』


 三つ。


『……』


 微弱。


 だが。


 消えてはいない。


 そのうち。


 一つが。


 ゆっくり。


 第四浄化塔の中心へ。


 近づいていた。



第38話 帰ってきた父 了

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