B―03
第二章 灰境
第30話 B―03
前書き
同じ場所で作られたものでも、
同じように生き残るとは限りません。
片方は壊れ、
片方は侵され、
片方はまだ、
自分の役目を覚えている。
けれど。
もし壊れたものが、
「自分はまだ正常だ」と思い込んでいたら。
それを止めるのは、
とても難しいことなのかもしれません。
⸻
ごん。
地下通路の奥。
巨大な何かが、一歩。
ごん。
もう一歩。
石壁へ響く。
低い。
重い。
足音というより。
岩そのものが歩いているような音だった。
「下がれ」
ガルドが剣を構える。
「全員、壁際へ!」
「生存者を中央に!」
ベルンとマルクが、救出した六人を囲む。
グレゴールは弓を構えたまま。
だが。
暗闇の奥を見て、舌打ちした。
「矢が効く相手か?」
『推定――低』
A―07が答える。
「やっぱりか」
『B―03』
『保守路防衛機構』
「お前みたいなもんか?」
『類似』
「大きさは?」
『全高――2.84メートル』
「でけぇな」
『重量――推定1.7トン』
「もっと嫌な情報出すな」
ガルドの声が低くなる。
そのとき。
暗闇の中で。
赤い光が動いた。
左右。
二つの目。
そこから。
少しずつ。
巨大な身体が現れる。
⸻
最初に見えたのは。
肩だった。
広い。
人間二人が並んでも足りないほど。
装甲は黒。
いや。
本来は別の色だったのかもしれない。
表面のほとんどが。
灰色の菌糸に覆われている。
右腕。
巨大な盾。
左腕。
太い杭のような金属槌。
脚は短く。
分厚い。
全体として。
壁をそのまま人型にしたような姿だった。
「……あれが保守用?」
ベルンが呟く。
『防衛機構』
「防衛って言えば何でも許されると思うなよ」
B―03が止まる。
赤い瞳。
A―07へ。
『……A……07……』
「喋った」
『通信受信』
A―07が前へ出る。
『B―03』
『管理者権限照会』
一瞬。
B―03の赤い瞳が。
青へ変わりかけた。
だが。
すぐ。
灰色の菌糸が。
胸部装甲の隙間から膨れ上がる。
『……侵……入……』
声が乱れる。
『汚染……対象……』
『排除……』
「駄目か!」
ガルドが叫ぶ。
『侵食率――』
A―07の瞳が走査する。
『72.4%』
「高いのか?」
『危険』
「それで分かる!」
⸻
B―03が。
左腕を上げた。
「来るぞ!」
巨大な槌が。
横薙ぎに振られる。
「伏せろ!」
ガァァン!!
石壁が砕ける。
衝撃。
破片。
「うわっ!」
救出された少年が悲鳴を上げる。
ベルンが身体を覆う。
「全員無事か!」
「こっちは!」
「こっちも!」
A―07が。
B―03へ走った。
『防衛行動』
「待て!」
ガルドの声。
だが。
A―07は。
左腕でB―03の槌を受け止めた。
がんっ!
小さな銀色の身体と。
巨大な黒い機体。
あまりにも差がある。
A―07の足元。
石床が。
ひび割れた。
『左腕負荷――83%』
「無茶するな!」
『居住者生命保護――第一優先』
「アル坊の命令か……!」
ガルドが舌打ちする。
⸻
「右へ!」
グレゴールが叫ぶ。
A―07が。
身体を沈める。
B―03の盾。
突進。
どんっ!
A―07が壁へ吹き飛ばされる。
「エーナナ!」
ベルンが叫ぶ。
『損傷率――36%』
「さっきより増えてるじゃねぇか!」
『稼働継続可能』
「そういう問題じゃない!」
B―03が。
救出者たちを見る。
『未登録……生命……』
『汚染……可能性……』
『排除』
「こっち来るぞ!」
ガルドが前へ出る。
「俺が引きつける!」
「隊長!」
「グレゴール!」
「胸を狙え!」
「菌糸が集中してる場所だ!」
「了解!」
矢。
一発。
二発。
胸部。
灰色の菌糸へ刺さる。
B―03が。
一瞬だけ止まった。
「効いた?」
『表層損傷のみ』
「全然駄目じゃねぇか!」
⸻
そのとき。
救出した女性。
ミアの姉が。
震える声で言った。
「この道……」
「何だ!」
「奥に」
「小さい部屋があります!」
ガルドが振り返る。
「知ってるのか!」
「子どもの頃」
「一度だけ入りました」
「父に連れられて」
「どこだ!」
女性が。
右側の壁を指す。
「この先!」
「扉があります!」
「隠れる場所になる?」
「分かりません!」
「十分だ!」
「マルク!」
「全員連れて行け!」
「はい!」
マルク。
ベルン。
生存者六人。
移動開始。
「A―07!」
『確認』
「俺たちも下がる!」
『了解』
しかし。
B―03が。
通路中央へ立つ。
進路を塞ぐ。
「くそ!」
『代替経路――なし』
「またそれか!」
⸻
ガルドは。
B―03を見る。
正面。
巨大な盾。
突破は無理。
右。
壁。
左。
細い排水溝。
背後。
菌糸に侵された旧居住区。
「A―07」
『確認』
「こいつ」
「止められるか?」
一瞬。
『現戦力では困難』
「だよな」
『ただし』
「何だ」
『侵食因子除去後』
『停止命令有効化の可能性』
「清掃が必要ってことか」
『肯定』
アルフレッド。
頭に浮かぶ。
だが。
ここにはいない。
「……あいつがいれば」
ガルドが呟く。
そして。
自分で首を振る。
「いや」
「いなくて正解だ」
こんな場所へ。
十二歳の少年を。
連れてくるべきではなかった。
⸻
「エーナナ」
ガルドが言う。
「菌糸だけ剥がせねぇのか」
『適切な工具――欠損』
「右腕」
『肯定』
「……ちくしょう」
A―07の失われた右腕。
切断器。
固定具。
保守用工具。
もし。
残っていれば。
「代わりになるもんは?」
『検討』
A―07が周囲を見る。
ガルドの剣。
ベルンの槍。
グレゴールの矢。
その視線が。
壁際。
古い金属管で止まった。
『代替工具候補』
「どれ!」
『壁面配管』
「引っこ抜けるか?」
『可能』
A―07が。
左腕を伸ばす。
壁へ。
太い金属管を掴む。
ぐっ。
石壁が。
ぎし。
「おいおい」
べきっ!
金属管が。
壁から抜けた。
先端。
斜めに割れ。
槍のようになっている。
「それで?」
『穿孔可能』
「菌糸を刺すのか」
『侵食中枢推定位置――胸部』
「よし」
ガルドが笑った。
「少しだけ勝ち目出たな」
⸻
「俺が盾をどかす!」
「無茶だ!」
グレゴールが言う。
「無茶じゃねぇ!」
「仕事だ!」
「アル坊みたいなこと言ってるぞ!」
「誰があいつみたいだ!」
ガルドが。
B―03へ走る。
「こっちだデカブツ!」
剣。
盾へ。
がんっ!
意味はない。
だが。
B―03の視線が。
ガルドへ向く。
『排除』
「そうだ!」
「俺だ!」
槌。
上から。
「隊長!」
どんっ!
ガルドが。
横へ転がる。
石床へ。
槌がめり込む。
「今!」
A―07が。
走る。
金属管を。
左手一本で構える。
B―03の胸。
菌糸が。
密集している場所。
『穿孔』
どすっ!
金属管が。
灰色の塊へ突き刺さる。
きぃぃぃぃぃぃ!!
甲高い音。
「鳴いた!」
『侵食因子反応――上昇』
菌糸が。
一斉に。
A―07の腕へ絡みつく。
『警告』
「離れろ!」
A―07が。
金属管を離さない。
『穿孔深度――不足』
「もういい!」
『任務未完了』
「壊れるぞ!」
『第二優先順位』
『自己保全』
一瞬。
A―07が止まる。
アルフレッドの命令。
自分も壊れないように。
『撤退』
A―07が。
管を手放す。
後退。
直後。
B―03の盾が。
横から来た。
ごんっ!
銀色の身体が。
床を転がる。
『損傷率――48%』
「おい!」
『稼働継続――可能』
「帰ったらアル坊に殺されるぞ俺!」
『暫定管理者は殺害行動を――』
「そういう意味じゃねぇ!」
⸻
しかし。
B―03の様子が。
変わっていた。
胸に刺さった金属管。
その周囲から。
灰色の菌糸が。
黒く変色し始める。
「何だ?」
『侵食因子――局所損傷』
A―07が起き上がる。
『制御系反応低下』
B―03の赤い瞳が。
ちら。
青へ。
また赤。
『……管……理……』
声。
『……認……証……』
「効いてるぞ!」
「もう一度!」
グレゴールが。
矢へ布を巻く。
油。
火。
「燃やす!」
火矢。
胸部へ。
ひゅっ!
命中。
ぼっ!
菌糸が。
燃える。
B―03が。
大きく身体を反らす。
『侵食……』
『排……』
『管理……』
赤。
青。
赤。
青。
「エーナナ!」
『確認』
「今なら!」
『停止命令実行』
A―07が。
立ち上がる。
『B―03』
『第一浄化施設』
『暫定管理者権限を提示』
B―03が。
止まる。
『……権……限……』
『管理者――アルフレッド』
青い光。
わずか。
『命令』
『戦闘停止』
数秒。
永遠にも感じる。
B―03の槌が。
ゆっくり。
下がる。
『……命令……』
『受……』
だが。
胸部。
菌糸が。
さらに膨れた。
赤。
『拒否』
「駄目か!」
B―03が。
再び槌を上げる。
「逃げろ!」
⸻
そのとき。
がしゃん。
右の壁。
古い扉が。
開いた。
「こっちです!」
ミアの姉。
「部屋がありました!」
「全員入ったか!」
「はい!」
「グレゴール!」
「行け!」
「隊長は!」
「最後!」
「エーナナ!」
『撤退』
A―07が。
後退する。
ガルド。
グレゴール。
A―07。
三人。
いや。
二人と一機が。
扉へ走る。
B―03が追う。
足音。
ごん。
ごん。
「早く!」
ガルドが扉を通る。
グレゴール。
A―07。
「閉めろ!」
石扉。
押す。
B―03の盾。
隙間へ。
ごん!
「うおおおっ!」
全員で。
扉を押す。
「エーナナ!」
『補助』
左腕。
石扉へ。
力。
『負荷率――71%』
「閉まれぇ!」
ごごご。
B―03の盾が。
少しずつ。
外へ押し戻される。
最後。
がんっ!
石扉が閉じた。
直後。
どごん!!
外側から。
B―03が。
扉を殴る。
部屋全体が揺れた。
「これ持つのか?」
『構造強度――』
A―07が確認。
『現状――問題なし』
どごん!!
石の粉が。
天井から落ちる。
『訂正』
『継続攻撃時――問題あり』
「そうだと思ったよ!」
⸻
部屋。
狭い。
石造り。
壁際に。
古い棚。
壊れた箱。
床には。
何かの金属部品。
「ここ何だ?」
ガルドが尋ねる。
A―07の青い目が。
周囲を走査。
『旧保守倉庫』
その言葉に。
全員が止まった。
「保守?」
『肯定』
A―07が。
壁際の棚へ近づく。
灰。
埃。
壊れた箱。
その奥。
一つ。
金属製の長い箱。
『識別』
『B系列交換部品』
「B―03の?」
『肯定』
「武器あるか?」
『確認』
箱。
A―07が左手で開ける。
ぎぎ。
中。
金属部品。
工具。
装甲。
そして。
一本。
太い筒のようなもの。
「何だ?」
『侵食除去器』
全員が。
A―07を見る。
「それ」
「最初から欲しかったやつじゃねぇか?」
『肯定』
「おい!」
『当該倉庫情報――記録欠損』
「便利な言葉だな記録欠損!」
『謝罪』
「謝るな!」
⸻
A―07が。
侵食除去器を持ち上げる。
だが。
問題。
両手で使う構造。
「……お前」
「片腕だよな」
『肯定』
ガルド。
器具を見る。
A―07を見る。
「俺が持つ」
『使用には保守管理権限必要』
「じゃあ無理か」
『代替』
「ある?」
『当機へ外部固定』
A―07の右肩。
何もない接続部。
そこへ。
器具の基部を当てる。
『規格不一致』
「付かないじゃねぇか!」
『一時固定可能』
「どうやって」
『縄』
沈黙。
ベルンが。
思わず笑った。
「古代文明も最後は縄か」
『縄――汎用固定具として有効』
「妙に説得力あるな」
⸻
縄。
革帯。
金属片。
全員で。
A―07の右肩へ。
侵食除去器を固定する。
不格好。
完全に。
応急処置。
「アル坊が見たら」
ガルドが言う。
「絶対直したがるな」
『推定――肯定』
「エーナナまで分かってきたか」
『暫定管理者行動傾向――学習済』
「可哀想に」
『評価不能』
⸻
どごん!!
扉。
さらに亀裂。
「時間ないぞ!」
『装着完了』
右肩。
太い筒。
先端には。
三本の金属爪。
『動作確認』
ぶぅん。
低い音。
青い光。
「それ何するんだ」
『侵食因子を分離』
「菌糸を剥がす?」
『肯定』
「B―03を壊さずに?」
『成功率――61%』
「微妙だな!」
『現状では最高値』
「それで行く!」
⸻
作戦。
単純。
扉を開ける。
B―03を引き込む。
A―07が。
侵食除去器を胸へ当てる。
それだけ。
「簡単だな」
ベルンが言う。
「失敗したら?」
「死ぬ」
ガルド。
「簡単じゃないですね」
「だろ」
⸻
「生存者は」
「奥へ」
「子どもを守れ」
「老人は動かすな」
「グレゴール」
「矢」
「ガルド」
「剣」
「A―07」
『準備完了』
「右肩」
「大丈夫か」
『外部固定強度――46%』
「低くねぇ?」
『一撃運用推奨』
「一回しか使えんってことか」
『概ね肯定』
ガルドが。
息を吐く。
「いくぞ」
⸻
扉。
少し。
開ける。
どん!
B―03の腕。
隙間へ。
「来た!」
「開けろ!」
扉を。
一気に引く。
B―03。
巨大な身体。
入ってくる。
「右!」
ガルド。
剣。
盾へ。
誘導。
「エーナナ!」
A―07。
走る。
右肩の装置。
青い光。
『侵食除去器――起動』
B―03。
胸。
菌糸。
「今だ!」
装置。
押し当てる。
ぶぅぅぅぅぅん!!
青い光が。
灰色の菌糸へ。
走る。
きぃぃぃぃぃ!!
菌糸が。
引き剥がされる。
一本。
十本。
百本。
B―03の胸。
肩。
首。
全身。
「効いてる!」
『侵食率』
『72%』
『61%』
『49%』
「もっと!」
『出力上昇』
『41%』
『32%』
B―03が。
暴れる。
槌。
上がる。
「ガルド!」
「分かってる!」
身体ごと。
槌へ。
剣で受ける。
「ぐっ……!」
「隊長!」
「続けろ!」
『21%』
『18%』
右肩。
固定縄。
切れ始める。
『固定強度――17%』
「持て!」
『12%』
「あと少し!」
『9%』
A―07の右肩から。
装置が。
ずれる。
「エーナナ!」
ベルンが。
装置を。
両手で押さえる。
「俺が支える!」
『保守権限――』
「知らん!」
「支えるだけだ!」
『了解』
青い光。
さらに。
『侵食率――4%』
『2%』
『0.8%』
『0』
ぶつっ。
灰色の菌糸が。
一斉に。
B―03から剥がれた。
床へ。
落ちる。
「火!」
グレゴール。
火矢。
放つ。
ぼっ!
菌糸が燃える。
B―03。
動かない。
赤い目。
消える。
一秒。
二秒。
青。
点灯。
『……システム……再起動』
ガルドが。
剣を構えたまま。
「来るか?」
B―03。
巨大な盾を。
床へ下ろす。
槌も。
下げる。
『保守路防衛機構』
『個体識別――B―03』
『状態――正常』
A―07が。
一歩。
前へ。
『暫定管理者権限提示』
『管理者――アルフレッド』
B―03の青い目。
明滅。
『認証』
『暫定管理者――登録』
巨大な身体が。
ゆっくり。
片膝をついた。
ごん。
『命令待機』
沈黙。
ガルド。
ベルン。
グレゴール。
マルク。
全員。
A―07を見る。
『当機は管理者代理権限なし』
「じゃあ命令できねぇの?」
『肯定』
「どうする!」
『暫定管理者へ接続後』
『正式命令受領可能』
ガルドが。
天井を見る。
「アル坊」
「また増えたぞ……」
⸻
それから。
一行は。
地下保守路を進んだ。
B―03も。
後ろからついてくる。
「……圧迫感すげぇな」
ベルンが振り返る。
巨大な黒い番人。
青い目。
どし。
どし。
『適正距離を保持』
「近い」
『距離――二メートル』
「もう少し離れて」
『三メートルへ変更』
「通じるんだ……」
⸻
二時間。
長い。
暗い。
地下道。
途中。
何度か分岐。
A―07が案内する。
そして。
「水の音」
グレゴールが言う。
前。
明るい。
『第一浄化施設』
『接続区画到達』
「村の地下か?」
『肯定』
全員。
息を吐く。
「帰れる……」
救出された女性が。
泣き出した。
「本当に……」
「帰れる……」
「まだだ」
ガルドが言う。
「階段上がるまでが仕事だ」
「あと少しだ」
⸻
その頃。
地上。
アルフレッドは。
見張り台の下で。
何度目か分からないほど。
北西を見ていた。
「まだかな」
「まだです」
セルマ。
「今何回目?」
「十五回ほど」
「そんなに?」
「はい」
「エーナナの反応は?」
「地下に入ったので分からないってノエルさんが」
「そうでしたね」
「……」
「セルマ」
「はい」
「大丈夫かな」
「大丈夫です」
今回は。
少しだけ。
自然に言えた。
アルフレッドが。
セルマを見る。
「本当に?」
「分かりません」
「やっぱり」
「ですが」
「帰ってくると」
「思っています」
「……うん」
⸻
その時。
村の井戸。
ではなく。
少し離れた。
点検口。
ごん。
音。
「何?」
アルフレッドが振り返る。
ごん。
石蓋。
動く。
「誰かいる!」
村人たち。
武器を持つ。
「待って!」
ノエルが叫ぶ。
「地下からです!」
石蓋が。
持ち上がる。
「手伝え!」
下から。
聞き慣れた声。
「ガルドさん!」
アルフレッドが走る。
「走るな!」
セルマ。
「今は無理!」
「アルフレッド様!」
石蓋。
開く。
最初。
ガルド。
泥。
血。
傷。
でも。
立っている。
「ただいま」
アルフレッドの顔が。
一気に明るくなる。
「おかえり!」
次。
ベルン。
マルク。
グレゴール。
そして。
知らない人たち。
一人。
二人。
三人。
四人。
五人。
六人。
「六人!」
「全員です」
ガルドが答える。
「本当に?」
「ああ」
「全員生きてる?」
「ああ」
アルフレッドが。
大きく息を吐く。
「よかった……」
⸻
そして。
次。
A―07。
身体は。
傷だらけ。
左肩。
胸。
脚。
損傷。
「エーナナ!」
『暫定管理者』
「ボロボロじゃない!」
『稼働可能』
「そういう問題じゃないよ!」
A―07が。
一瞬。
停止した。
『……了解』
アルフレッドが。
泣きそうな顔で。
A―07の傷を見る。
「また直すから」
『修繕を要求』
「うん」
「でも今日は休んでから」
『……命令を受諾』
ガルドが。
笑う。
「成長したな」
「ガルドさんも休んで!」
「はいはい」
⸻
「ところで」
ベルンが。
点検口を見る。
「まだ一体います」
「一体?」
アルフレッドが首を傾げる。
ごん。
地下。
「何の音?」
ごん。
大きい。
石蓋。
完全に。
開く。
そして。
巨大な黒い頭が。
地上へ。
ぬっ。
「……」
アルフレッド。
口を開けたまま。
固まる。
肩。
盾。
槌。
二メートルを超える。
巨大な機械。
村人たちが。
一斉に武器を構える。
「待て!」
ガルドが叫ぶ。
「味方だ!」
「……たぶん!」
「たぶん!?」
アルフレッドが叫ぶ。
B―03。
地上へ。
どん。
立つ。
A―07が言う。
『保守路防衛機構』
『個体識別――B―03』
『侵食除去済』
『暫定管理者認証済』
B―03が。
アルフレッドを見る。
青い目。
走査。
『暫定管理者』
「……はい」
『命令を』
村。
静まり返る。
アルフレッドは。
B―03を見上げた。
大きい。
怖い。
A―07とは比べものにならない。
そして。
最初に。
少年が言ったのは。
「怪我してない?」
ガルドが。
額を押さえた。
「やっぱりお前だな……」
B―03は。
数秒。
停止。
『損傷率――14%』
「怪我してるじゃない!」
『任務遂行可能』
「エーナナと同じこと言ってる!」
セルマが。
小さく。
口元を緩めた。
片腕の番人。
巨大な番人。
そして。
壊れたものを見ると。
どうしても直したくなる。
十二歳の領主。
灰境の村に。
また。
少し妙な住人が。
増えた。
⸻
だが。
喜んでいる時間は。
長くは続かなかった。
「アル坊」
ガルドが。
声を落とす。
「話がある」
「何?」
「旧居住区」
「うん」
「もう住めねぇ」
アルフレッドの表情が。
変わる。
「どうして?」
「侵食されてる」
「どれくらい?」
「村全体だ」
「……」
「それと」
ガルドは。
救出した六人を見る。
「この人たちだけじゃないかもしれん」
「え?」
「旧居住区で」
「人が暮らした痕跡があった」
「別の場所へ逃げた奴がいるかもしれない」
「何人?」
「分からん」
「どこへ?」
「それも」
「分からん」
アルフレッドは。
北西を見る。
灰の森。
谷。
その向こう。
この土地には。
まだ。
自分たちが知らない人が。
残っているのかもしれない。
⸻
その夜。
灰境の村。
人口。
二十二人。
そこへ。
ミア。
赤子。
そして。
旧居住区から救出された六人。
合計。
三十人。
正式な住民になるかは。
まだ分からない。
けれど。
村には。
初めて。
人を受け入れるための。
新しい寝床が。
使われた。
⸻
その一方。
第一浄化施設。
地下機構。
『登録居住区』
『生命反応――30』
『前回――22』
『増加確認』
表示。
『最低運用人口――120』
『現在――30』
『復旧条件――未達』
だが。
少しだけ。
別の機構が。
動いた。
『居住者増加を確認』
『補助機能――第一段階解放』
ごとん。
地下深く。
一つの弁が。
開く。
水。
流れが。
少し変わる。
そして。
村の井戸。
底。
灰色の粒が。
ほんのわずかに。
減少し始めた。
⸻
第30話 B―03 了




