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男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

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七つの生命反応



第二章 灰境


第28話 七つの生命反応


前書き


地図に、


誰も住んでいないと書かれていても。


本当に、


誰もいないとは限りません。


道が消え。


村の名前が忘れられ。


誰も訪れなくなったとしても。


そこにはまだ、


生きている人がいるかもしれないのです。



 翌朝。


「アル坊」


「はい」


「起きろ」


「……起きてます」


「目を開けろ」


「開いてます」


「閉じてる」


「心の目で……」


「寝ろ」


「起こしたのガルドさんですよね?」


 毛布の中から、アルフレッドが顔を出した。


 髪は完全に寝癖で跳ねている。


 昨夜。


 セルマに帳面を取り上げられた後も、しばらく天井を眺めながら考え事をしていたらしい。


「朝飯だ」


「もう?」


「日が出てる」


「……本当だ」


「領主様」


 隣からセルマの声。


「おはようございます」


「おはよう……」


 アルフレッドは目を擦る。


 セルマはすでに身支度を終えていた。


 とはいえ、まだ怪我は治っていない。


 右腕はない。


 左目には眼帯。


 歩く時には杖が必要だ。


 それでも。


 灰境へ辿り着いた時と比べれば、顔色はかなり良くなっている。


「セルマは早いね」


「普通です」


「僕も普通だよ」


「普通の方は、毛布を頭から被ったまま会話しません」


「寒いから」


「起きれば暖かくなります」


「セルマ」


「はい」


「マルタさんに似てきた?」


「不本意です」


 台所から。


「聞こえてるよ!」


 マルタの声が飛んできた。


「申し訳ありません!」


 セルマが即座に謝った。


 アルフレッドが笑う。


「やっぱり似てる」


「アルフレッド様」


「起きます」



 朝食は。


 薄い麦粥。


 昨日の残りの豆。


 少量の干し肉。


 決して豪華ではない。


 けれど。


 数日前までの村と比べれば、かなりまともな食事だった。


 アルフレッドが匙を口へ運んでいると。


 外から。


 がしゃ。


 金属音がした。


「エーナナ?」


 窓を見る。


 A―07が。


 家の前に立っていた。


『暫定管理者』


「おはよう」


『おはよう』


「どうしたの?」


『報告事項あり』


「報告?」


『肯定』


 アルフレッドは匙を置こうとした。


「食べな」


 マルタ。


「でもエーナナが」


「報告は逃げない」


『肯定』


「エーナナまで……」


『食事行動継続を推奨』


「誰から覚えたの?」


『居住者マルタ』


「でしょうね」


 マルタが満足そうに頷いた。


「賢い子じゃないか」


『評価を受領』


「ほら」


 マルタがアルフレッドを見る。


「エーナナの方が聞き分けがいい」


「僕、機械に負けてる……」


 セルマは黙々と麦粥を食べていた。


 ただし。


 口元が少しだけ緩んでいた。



 朝食後。


 村の中央へ。


 ガルド。


 ノエル。


 バルド。


 グレゴール。


 エッダ。


 アルフレッド。


 そしてA―07が集まった。


 セルマは少し離れた椅子に座っている。


「それで」


 ノエルが帳面を開く。


「報告とは?」


『昨夜』


『第一浄化施設補助機構より情報受信』


 ノエルの筆が止まる。


「補助機構?」


『肯定』


「地下施設はまだ動いているのですか?」


『部分稼働』


「どの程度?」


『不明』


「またか」


 ガルドが呟く。


『謝罪』


「いや、謝んな」


「話が進まなくなる」


『了解』


「学習してるな……」


 ガルドが感心した。



『旧居住区を確認』


 A―07が続ける。


「旧居住区?」


 アルフレッドが尋ねる。


『肯定』


『登録居住区――三』


『第一旧居住区』


『生命反応――零』


『第二旧居住区』


『生命反応――零』


『第三旧居住区』


 そこで。


 一拍。


『生命反応――七』


 沈黙。


「……七?」


 アルフレッドが聞き返す。


『肯定』


「人?」


『種族判別不能』


「生き物ってこと?」


『肯定』


「魔物の可能性は?」


 グレゴールが尋ねる。


『可能性あり』


「人間の可能性も?」


『可能性あり』


「亜人は?」


『可能性あり』


「つまり何も分からん」


 ガルドがまとめた。


『肯定』


「そこは肯定すんなよ」



「場所は?」


 ノエルが尋ねる。


『第三旧居住区』


『第一浄化施設より――』


 A―07の青い瞳から。


 細い光が地面へ落ちる。


 光は線となり。


 簡単な図形を描いた。


「地図?」


 アルフレッドがしゃがみ込む。


『簡易位置情報』


 中央。


 第一浄化施設。


 その少し北。


 現在の村。


 そして。


 北西。


 山と森の境界付近。


 小さな光。


「遠い?」


『直線距離――約11.4キロメートル』


「きろ……?」


 アルフレッドが首を傾げる。


 ノエルも。


「聞いたことのない距離単位です」


「エーナナの時代の単位かな」


『旧標準単位』


「今の距離にすると?」


 A―07が停止した。


『現行単位――情報不足』


「歩くとどれくらい?」


『地形考慮』


『成人男性』


『推定移動時間――四時間から六時間』


「遠いな」


 グレゴールが地図を見る。


「しかも北西か」


「何かあるんですか?」


 アルフレッドが尋ねる。


「あの辺りは谷が多い」


 グレゴールは地面へ枝で線を描く。


「昔は道があったらしい」


「行ったことは?」


「途中まで」


「その先は?」


「崖崩れで道が消えてる」


「いつ?」


「俺が子どもの頃にはもうなかった」


 アルフレッドは驚いた。


「そんなに昔から?」


「悪かったな」


「あ」


「今、俺を爺さんだと思っただろ」


「思ってません」


「顔に書いてある」


「最近そればっかり言われる……」



「行くのか?」


 バルドが尋ねた。


 全員が。


 アルフレッドを見る。


「……僕?」


「領主じゃろう」


「そうだった」


「忘れるでない」


「忘れてません」


「今忘れておったじゃろ」


 アルフレッドは地面の光を見る。


 七つ。


 生きている何か。


「行きたい」


 すぐに答えた。


「理由は?」


 ガルドが尋ねる。


「人かもしれないから」


「魔物かもしれんぞ」


「うん」


「菌糸に侵された獣かもしれん」


「うん」


「追手の仲間かもしれん」


「……それもあるの?」


「可能性の話だ」


 アルフレッドは考える。


 それでも。


「確認したい」


「だろうな」


 ガルドは最初から分かっていたようだった。


「ただし」


「僕一人では行きません」


 ガルドが止まった。


「……」


「どうしたの?」


「いや」


「言う前に言われるとは思わなかった」


「成長したでしょう?」


「そこだけはな」


「そこだけ?」


「調子に乗るな」



「問題があります」


 ノエルが言う。


「現在の村には、優先すべき作業が多数あります」


 見張り台。


 屋根。


 食料。


 薪。


 水。


 畑。


 冬支度。


 捕虜。


 地下施設。


 そして。


 森の侵食。


「七つの生命反応を確認するためだけに」


「主力を半日以上、村から離すのは危険です」


「往復なら一日か」


 ガルドが呟く。


「場合によっては野営になる」


「俺が行く」


 グレゴールが言った。


「駄目じゃ」


 バルドが即答した。


「なぜだ」


「脚」


「歩ける」


「歩けることと」


「十一キロ先の谷まで行って戻れることは違う」


 グレゴールが黙る。


 古傷のある左脚。


 昨日より状態は良い。


 だが。


 長距離を歩けるほどではない。


「なら俺と護衛二人」


 ガルドが言う。


「エーナナも連れて行く?」


 アルフレッドが尋ねる。


「こいつが場所を知ってるなら、その方がいい」


『案内可能』


「じゃあ僕も」


「駄目だ」


「まだ最後まで言ってない」


「言わなくても分かる」


「領主として確認を――」


「村にいろ」


「でも」


「お前まで行けば」


「誰が村を見る」


 その言葉に。


 アルフレッドが止まった。


「……僕?」


「領主だろ」


「そうだった」


「また忘れたな」


「忘れてません!」



「それに」


 ガルドは続ける。


「俺たちが行ってる間」


「村でやることがある」


「何?」


「見張り台」


「鍛冶場」


「捕虜」


「水場」


「それと」


 A―07の右肩を見る。


「こいつの腕」


「エーナナ連れて行ったら作れないよ」


「だから寸法を先に取る」


「なるほど」


「お前は村で」


「ヘルマンとエッダを手伝え」


「《修繕》は?」


「必要なら一回」


「二回」


「一回」


「じゃあ一回半」


「どうやって半分使うんだ!」


 ガルドの怒鳴り声。


 村人から笑いが起きる。



 その日の探索は。


 翌朝に決まった。


 ガルド。


 護衛兵マルク。


 ベルン。


 そしてA―07。


 四名。


「四名?」


 リーナが数える。


「エーナナも一人なの?」


『個体数――一』


「じゃあ一人!」


『分類上――』


「一人!」


『……』


 A―07が停止した。


『了解』


「諦めた」


 エッダが苦笑する。



 出発前に。


 A―07の右肩。


 接続部の寸法が取られた。


 ヘルマンが木片へ記録する。


「ここ」


「三本爪」


「中心軸」


「外周……」


「エーナナ」


『確認』


「昔の腕の重さは?」


『標準右腕ユニット――42.6キログラム』


「よんじゅう……」


 アルフレッドが固まる。


「腕だけで?」


『肯定』


 セルマも。


 自分の右肩を見る。


 そして小さく呟いた。


「……それは要りません」


 アルフレッドが吹き出した。


「セルマには重すぎるね」


「重すぎます」


 A―07がセルマを見る。


『生体装着不可』


「分かっています」


『骨格損傷を予測』


「詳しく説明しなくて結構です」


『了解』


 以前なら。


 身体の欠損について触れられただけで。


 セルマは黙り込んでいただろう。


 今は。


 少しだけ。


 言い返せるようになっていた。



 そして。


 その日の昼。


 アルフレッドたちは。


 見張り台の作業を進めていた。


 横木。


 床板。


 梯子。


 まだ完全ではない。


 けれど。


 少しずつ。


 村が村らしくなっていく。


「アルフレッド様!」


 エッダが下から叫ぶ。


「そこへ乗らないでください!」


「大丈夫!」


「まだ固定してません!」


「え?」


 みし。


「アル坊!」


「アルフレッド様!」


 床板が傾く。


「わっ!」


 少年の身体が滑った。


 その瞬間。


 左手が。


 腕を掴んだ。


「……セルマ?」


 杖を放り出し。


 セルマが。


 アルフレッドの手首を掴んでいた。


 片腕で。


「アルフレッド様」


「はい」


「無茶をしないと」


「約束しましたよね」


「……しました」


「降りてください」


「はい」


「今すぐ」


「はい!」


 エッダが頭を抱える。


「どうして怪我人に止められているんですか!」


「面目ありません……」


 セルマも。


 自分が杖を放り出したことに気づく。


 その場へ座り込んだ。


「セルマ!?」


「大丈夫です」


「それはマルタさんが――」


「決める!」


 遠くから声が飛んできた。


「二人ともこっちへ来な!」


「……はい」


 二人同時に答える。



 その日の午後。


 アルフレッドとセルマは。


 二人並んで。


 マルタの家の前へ座らされていた。


「反省中?」


 リーナが尋ねる。


「うん」


 アルフレッド。


「私は違います」


 セルマ。


「セルマも怒られてたよ?」


「アルフレッド様を助けただけです」


「杖を投げ捨てて飛び出したね」


 マルタが後ろから言う。


「……はい」


「二人とも同じだよ」


「似た者同士!」


 リーナが笑う。


「違います」


 セルマが即答した。


「最近ちょっと似てきたと思う」


 アルフレッドが言う。


「否定いたします」


「そこも似てる」


「アルフレッド様」


「はい」


「黙って反省してください」


「はい」



 夕暮れ。


 村の西。


 A―07は。


 一人。


 空を見ていた。


 明日の経路を。


 内部で計算している。


『第三旧居住区』


『生命反応――七』


 青い瞳が明滅する。


『生命反応再照合』


『七』


 数秒。


『六』


 A―07の頭部が。


 わずかに動いた。


『再照合』


『六』


 さらに。


『個体一――消失』


 それまで。


 一定間隔で存在していた。


 七つ目の反応。


 それが。


 突然。


 消えていた。


 A―07は。


 村の中央を見る。


『暫定管理者へ――』


 報告しようとする。


 だが。


 その瞬間。


 反応が変わった。


『第三旧居住区』


『生命反応――六』


『移動反応――一』


『方角――南東』


 南東。


 つまり。


 こちら。


『移動速度――上昇』


 A―07の青い瞳が。


 細くなる。


『推定到達時間――』


 計算。


『四時間十一分』


 その個体は。


 村へ向かっていた。



 夜。


 アルフレッドは。


 A―07から報告を聞いていた。


「一人減った?」


『肯定』


「死んだの?」


『判定不能』


「残り六人は?」


『生命反応継続』


「こっちへ来てる一人は?」


『移動継続』


「人?」


『判別不能』


「魔物?」


『判別不能』


「怪我してる?」


『判別不能』


 アルフレッドは。


 少し考えた。


「エーナナ」


『暫定管理者』


「その人」


「こっちに来られそう?」


『現在速度維持の場合』


『夜半前に到達』


「……ガルドさん!」


 アルフレッドが叫ぶ。


「今度は何だ!」


 家の外から返事。


「来る!」


「何が!」


「分からない!」


「それが一番困るんだよ!」



 再び。


 村へ緊張が走った。


 柵。


 松明。


 弓。


 槍。


 見張り台は。


 まだ未完成。


 それでも。


 使える高さまでは組み上がっている。


 グレゴールが梯子を上る。


「北西!」


 ガルドが叫ぶ。


「全員!」


「殺すな!」


「正体を確認するまで射るな!」


 アルフレッドも。


 柵の内側にいた。


「お前は家へ戻れ!」


「嫌です!」


「領主命令だ!」


「僕が領主です!」


「今だけ俺だ!」


「そんなのあり!?」


「ありだ!」


 アルフレッドはノエルを見る。


「どうなの?」


「緊急時の護衛判断としては妥当です」


「そんな……」


「家へ」


「はい……」


 肩を落とす。


 だが。


 その時。


 見張り台から。


「動いた!」


 グレゴールの声。


「北西!」


「森の境!」


 全員が。


 そちらを見る。


 暗闇。


 木々。


 風。


 松明の光が届かない場所。


 何かが。


 歩いてくる。


「一人か?」


 ガルドが剣を抜く。


「一つだ!」


 グレゴールが答える。


「人影!」


 アルフレッドが止まる。


 人。


 やがて。


 暗闇から。


 小さな影が現れた。


「……子ども?」


 誰かが呟く。


 背が低い。


 ふらふらと。


 歩いている。


 服はぼろぼろ。


 裸足。


 髪は長く。


 顔が見えない。


「止まれ!」


 ガルドが叫ぶ。


 影は。


 止まらない。


「そこで止まれ!」


 さらに。


 一歩。


 また一歩。


 近づく。


 グレゴールが弓を引く。


「隊長」


「待て」


「でも」


「待て」


 影が。


 松明の光へ入った。


 小さな少女だった。


 年齢は。


 リーナと同じくらいか。


 あるいは。


 少し上。


 頬は痩せ。


 衣服は泥と血で汚れている。


 両腕には。


 何かを抱えていた。


「……?」


 アルフレッドが目を凝らす。


 布。


 いや。


 毛布。


 その中から。


 小さな手が見えた。


「赤ちゃん?」


 少女は。


 赤子を抱えていた。


「助け……」


 声。


 掠れている。


「助けて……」


 ガルドの表情が変わる。


「武器を下げろ!」


 少女が。


 さらに一歩。


 進む。


「お母さんが……」


「みんな……」


 そこで。


 膝が折れた。


「おい!」


 ガルドが走る。


 少女は。


 赤子だけは離さなかった。


 倒れる寸前まで。


 両腕で。


 必死に守っている。


「マルタ!」


「今行くよ!」


 村人たちが駆け寄る。


 アルフレッドも。


 もう止められなかった。


「アル坊!」


「赤ちゃん!」


「分かってる!」


 少女の身体を。


 ガルドが抱き起こす。


 アルフレッドは。


 毛布の中を覗いた。


 赤子。


 生きている。


 小さく。


 弱々しく。


 呼吸していた。


「生きてる……」


 その瞬間。


 少女が。


 アルフレッドの服を掴んだ。


「お願い……」


「うん」


「村……」


「うん」


「まだ……」


 少女の目から。


 涙が落ちる。


「六人……」


 アルフレッドの顔から。


 笑みが消えた。


「助けて……」


「お母さん……」


 少女の手から。


 力が抜けた。


「マルタさん!」


「死んじゃいない!」


 マルタが少女の首へ指を当てる。


「気を失っただけだ!」


「赤ん坊は!」


「こっちへ!」


 村が。


 一気に動き始める。



 A―07が。


 少女を見ていた。


『生命反応照合』


『第三旧居住区』


『移動個体――一致』


「エーナナ」


『暫定管理者』


「残りは?」


『六』


「場所は?」


『第三旧居住区』


「生きてる?」


『現時点――肯定』


 アルフレッドは。


 ガルドを見る。


 ガルドも。


 少年を見る。


 今度は。


 誰も。


「村の仕事がある」


 とは言わなかった。


 そこに。


 生きている人がいる。


 助けを求める人が。


 まだ六人。


「夜は危険だ」


 ガルドが言った。


「……うん」


「森へ入れば」


「俺たちまで戻れなくなる可能性がある」


「うん」


「だから」


 ガルドは。


 東の空を見る。


「夜明けと同時に出る」


 アルフレッドが。


 すぐに頷く。


「僕も行く」


「駄目だ」


「どうして!」


「今度は本当に危険だからだ」


「でも僕は――」


「アル坊」


 ガルドの声が。


 いつもより低かった。


「助けたいなら」


「自分が助けに行くことだけ考えるな」


「……」


「ここで」


「連れて帰った人間を受け入れる準備をしろ」


「食い物」


「寝床」


「薬」


「水」


「怪我人がいるかもしれん」


「子どもがいるかもしれん」


「動けない奴がいるかもしれん」


「俺たちが連れて帰った時」


「ここが何も準備できてなかったらどうする」


 アルフレッドは。


 少女が抱えていた赤子を見る。


「……分かった」


「よし」


「僕はここで待つ」


「ただし」


「うん?」


「絶対」


 アルフレッドはガルドを見る。


「連れて帰ってきて」


 ガルドが。


 少しだけ笑った。


「努力する」


「絶対」


「戦場で絶対は――」


「絶対」


「……」


 ガルドは頭を掻く。


「面倒な領主だな」


「知ってる」


「誰に教わった」


「皆」


「俺も入ってるのか?」


「もちろん」


「なら仕方ねぇ」


 老人は。


 剣の柄を叩いた。


「連れて帰る」



 深夜。


 保護された少女は。


 高熱を出していた。


 赤子は。


 マルタが作った薄い山羊乳を。


 少しずつ飲んでいる。


 アルフレッドは。


 眠らず。


 家の外へ座っていた。


 セルマが。


 隣へ来る。


「寝てください」


「今日は無理」


「……そうですね」


 珍しく。


 セルマも強く言わなかった。


「六人」


 アルフレッドが呟く。


「はい」


「助かるかな」


「分かりません」


「セルマ」


「はい」


「こういう時くらい」


「大丈夫って言ってくれてもいいのに」


 セルマは。


 少しだけ考える。


「では」


「大丈夫です」


「……無理して言ってる?」


「かなり」


「やっぱり」


 アルフレッドは笑った。


「でもありがとう」


 二人の前。


 A―07が。


 静かに立っている。


『第三旧居住区』


『生命反応――六』


 青い瞳が。


 明滅した。


『生命反応――六』


 まだ。


 消えていない。


 六人。


 生きている。


 けれど。


 その時。


 A―07だけが。


 もう一つの変化を検知していた。


『第四浄化塔方面』


『侵食反応――上昇』


『第三旧居住区への接近を確認』


 青い瞳が。


 一瞬。


 赤く変わる。


『危険度――上昇』


『推定接触時間――』


 計算。


『日の出より前』


 六つの生命反応へ。


 何かが。


 近づいていた。



第28話 七つの生命反応 了

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