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男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

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28/53

七つの生命反応



第二章 灰境


第28話 七つの生命反応


前書き


地図に、


誰も住んでいないと書かれていても。


本当に、


誰もいないとは限りません。


道が消え。


村の名前が忘れられ。


誰も訪れなくなったとしても。


そこにはまだ、


生きている人がいるかもしれないのです。


⸻


 翌朝。


「アル坊」


「はい」


「起きろ」


「……起きてます」


「目を開けろ」


「開いてます」


「閉じてる」


「心の目で……」


「寝ろ」


「起こしたのガルドさんですよね?」


 毛布の中から、アルフレッドが顔を出した。


 髪は完全に寝癖で跳ねている。


 昨夜。


 セルマに帳面を取り上げられた後も、しばらく天井を眺めながら考え事をしていたらしい。


「朝飯だ」


「もう?」


「日が出てる」


「……本当だ」


「領主様」


 隣からセルマの声。


「おはようございます」


「おはよう……」


 アルフレッドは目を擦る。


 セルマはすでに身支度を終えていた。


 とはいえ、まだ怪我は治っていない。


 右腕はない。


 左目には眼帯。


 歩く時には杖が必要だ。


 それでも。


 灰境へ辿り着いた時と比べれば、顔色はかなり良くなっている。


「セルマは早いね」


「普通です」


「僕も普通だよ」


「普通の方は、毛布を頭から被ったまま会話しません」


「寒いから」


「起きれば暖かくなります」


「セルマ」


「はい」


「マルタさんに似てきた?」


「不本意です」


 台所から。


「聞こえてるよ!」


 マルタの声が飛んできた。


「申し訳ありません!」


 セルマが即座に謝った。


 アルフレッドが笑う。


「やっぱり似てる」


「アルフレッド様」


「起きます」


⸻


 朝食は。


 薄い麦粥。


 昨日の残りの豆。


 少量の干し肉。


 決して豪華ではない。


 けれど。


 数日前までの村と比べれば、かなりまともな食事だった。


 アルフレッドが匙を口へ運んでいると。


 外から。


 がしゃ。


 金属音がした。


「エーナナ?」


 窓を見る。


 A―07が。


 家の前に立っていた。


『暫定管理者』


「おはよう」


『おはよう』


「どうしたの?」


『報告事項あり』


「報告?」


『肯定』


 アルフレッドは匙を置こうとした。


「食べな」


 マルタ。


「でもエーナナが」


「報告は逃げない」


『肯定』


「エーナナまで……」


『食事行動継続を推奨』


「誰から覚えたの?」


『居住者マルタ』


「でしょうね」


 マルタが満足そうに頷いた。


「賢い子じゃないか」


『評価を受領』


「ほら」


 マルタがアルフレッドを見る。


「エーナナの方が聞き分けがいい」


「僕、機械に負けてる……」


 セルマは黙々と麦粥を食べていた。


 ただし。


 口元が少しだけ緩んでいた。


⸻


 朝食後。


 村の中央へ。


 ガルド。


 ノエル。


 バルド。


 グレゴール。


 エッダ。


 アルフレッド。


 そしてA―07が集まった。


 セルマは少し離れた椅子に座っている。


「それで」


 ノエルが帳面を開く。


「報告とは?」


『昨夜』


『第一浄化施設補助機構より情報受信』


 ノエルの筆が止まる。


「補助機構?」


『肯定』


「地下施設はまだ動いているのですか?」


『部分稼働』


「どの程度?」


『不明』


「またか」


 ガルドが呟く。


『謝罪』


「いや、謝んな」


「話が進まなくなる」


『了解』


「学習してるな……」


 ガルドが感心した。


⸻


『旧居住区を確認』


 A―07が続ける。


「旧居住区?」


 アルフレッドが尋ねる。


『肯定』


『登録居住区――三』


『第一旧居住区』


『生命反応――零』


『第二旧居住区』


『生命反応――零』


『第三旧居住区』


 そこで。


 一拍。


『生命反応――七』


 沈黙。


「……七?」


 アルフレッドが聞き返す。


『肯定』


「人?」


『種族判別不能』


「生き物ってこと?」


『肯定』


「魔物の可能性は?」


 グレゴールが尋ねる。


『可能性あり』


「人間の可能性も?」


『可能性あり』


「亜人は?」


『可能性あり』


「つまり何も分からん」


 ガルドがまとめた。


『肯定』


「そこは肯定すんなよ」


⸻


「場所は?」


 ノエルが尋ねる。


『第三旧居住区』


『第一浄化施設より――』


 A―07の青い瞳から。


 細い光が地面へ落ちる。


 光は線となり。


 簡単な図形を描いた。


「地図?」


 アルフレッドがしゃがみ込む。


『簡易位置情報』


 中央。


 第一浄化施設。


 その少し北。


 現在の村。


 そして。


 北西。


 山と森の境界付近。


 小さな光。


「遠い?」


『直線距離――約11.4キロメートル』


「きろ……?」


 アルフレッドが首を傾げる。


 ノエルも。


「聞いたことのない距離単位です」


「エーナナの時代の単位かな」


『旧標準単位』


「今の距離にすると?」


 A―07が停止した。


『現行単位――情報不足』


「歩くとどれくらい?」


『地形考慮』


『成人男性』


『推定移動時間――四時間から六時間』


「遠いな」


 グレゴールが地図を見る。


「しかも北西か」


「何かあるんですか?」


 アルフレッドが尋ねる。


「あの辺りは谷が多い」


 グレゴールは地面へ枝で線を描く。


「昔は道があったらしい」


「行ったことは?」


「途中まで」


「その先は?」


「崖崩れで道が消えてる」


「いつ?」


「俺が子どもの頃にはもうなかった」


 アルフレッドは驚いた。


「そんなに昔から?」


「悪かったな」


「あ」


「今、俺を爺さんだと思っただろ」


「思ってません」


「顔に書いてある」


「最近そればっかり言われる……」


⸻


「行くのか?」


 バルドが尋ねた。


 全員が。


 アルフレッドを見る。


「……僕?」


「領主じゃろう」


「そうだった」


「忘れるでない」


「忘れてません」


「今忘れておったじゃろ」


 アルフレッドは地面の光を見る。


 七つ。


 生きている何か。


「行きたい」


 すぐに答えた。


「理由は?」


 ガルドが尋ねる。


「人かもしれないから」


「魔物かもしれんぞ」


「うん」


「菌糸に侵された獣かもしれん」


「うん」


「追手の仲間かもしれん」


「……それもあるの?」


「可能性の話だ」


 アルフレッドは考える。


 それでも。


「確認したい」


「だろうな」


 ガルドは最初から分かっていたようだった。


「ただし」


「僕一人では行きません」


 ガルドが止まった。


「……」


「どうしたの?」


「いや」


「言う前に言われるとは思わなかった」


「成長したでしょう?」


「そこだけはな」


「そこだけ?」


「調子に乗るな」


⸻


「問題があります」


 ノエルが言う。


「現在の村には、優先すべき作業が多数あります」


 見張り台。


 屋根。


 食料。


 薪。


 水。


 畑。


 冬支度。


 捕虜。


 地下施設。


 そして。


 森の侵食。


「七つの生命反応を確認するためだけに」


「主力を半日以上、村から離すのは危険です」


「往復なら一日か」


 ガルドが呟く。


「場合によっては野営になる」


「俺が行く」


 グレゴールが言った。


「駄目じゃ」


 バルドが即答した。


「なぜだ」


「脚」


「歩ける」


「歩けることと」


「十一キロ先の谷まで行って戻れることは違う」


 グレゴールが黙る。


 古傷のある左脚。


 昨日より状態は良い。


 だが。


 長距離を歩けるほどではない。


「なら俺と護衛二人」


 ガルドが言う。


「エーナナも連れて行く?」


 アルフレッドが尋ねる。


「こいつが場所を知ってるなら、その方がいい」


『案内可能』


「じゃあ僕も」


「駄目だ」


「まだ最後まで言ってない」


「言わなくても分かる」


「領主として確認を――」


「村にいろ」


「でも」


「お前まで行けば」


「誰が村を見る」


 その言葉に。


 アルフレッドが止まった。


「……僕?」


「領主だろ」


「そうだった」


「また忘れたな」


「忘れてません!」


⸻


「それに」


 ガルドは続ける。


「俺たちが行ってる間」


「村でやることがある」


「何?」


「見張り台」


「鍛冶場」


「捕虜」


「水場」


「それと」


 A―07の右肩を見る。


「こいつの腕」


「エーナナ連れて行ったら作れないよ」


「だから寸法を先に取る」


「なるほど」


「お前は村で」


「ヘルマンとエッダを手伝え」


「《修繕》は?」


「必要なら一回」


「二回」


「一回」


「じゃあ一回半」


「どうやって半分使うんだ!」


 ガルドの怒鳴り声。


 村人から笑いが起きる。


⸻


 その日の探索は。


 翌朝に決まった。


 ガルド。


 護衛兵マルク。


 ベルン。


 そしてA―07。


 四名。


「四名?」


 リーナが数える。


「エーナナも一人なの?」


『個体数――一』


「じゃあ一人!」


『分類上――』


「一人!」


『……』


 A―07が停止した。


『了解』


「諦めた」


 エッダが苦笑する。


⸻


 出発前に。


 A―07の右肩。


 接続部の寸法が取られた。


 ヘルマンが木片へ記録する。


「ここ」


「三本爪」


「中心軸」


「外周……」


「エーナナ」


『確認』


「昔の腕の重さは?」


『標準右腕ユニット――42.6キログラム』


「よんじゅう……」


 アルフレッドが固まる。


「腕だけで?」


『肯定』


 セルマも。


 自分の右肩を見る。


 そして小さく呟いた。


「……それは要りません」


 アルフレッドが吹き出した。


「セルマには重すぎるね」


「重すぎます」


 A―07がセルマを見る。


『生体装着不可』


「分かっています」


『骨格損傷を予測』


「詳しく説明しなくて結構です」


『了解』


 以前なら。


 身体の欠損について触れられただけで。


 セルマは黙り込んでいただろう。


 今は。


 少しだけ。


 言い返せるようになっていた。


⸻


 そして。


 その日の昼。


 アルフレッドたちは。


 見張り台の作業を進めていた。


 横木。


 床板。


 梯子。


 まだ完全ではない。


 けれど。


 少しずつ。


 村が村らしくなっていく。


「アルフレッド様!」


 エッダが下から叫ぶ。


「そこへ乗らないでください!」


「大丈夫!」


「まだ固定してません!」


「え?」


 みし。


「アル坊!」


「アルフレッド様!」


 床板が傾く。


「わっ!」


 少年の身体が滑った。


 その瞬間。


 左手が。


 腕を掴んだ。


「……セルマ?」


 杖を放り出し。


 セルマが。


 アルフレッドの手首を掴んでいた。


 片腕で。


「アルフレッド様」


「はい」


「無茶をしないと」


「約束しましたよね」


「……しました」


「降りてください」


「はい」


「今すぐ」


「はい!」


 エッダが頭を抱える。


「どうして怪我人に止められているんですか!」


「面目ありません……」


 セルマも。


 自分が杖を放り出したことに気づく。


 その場へ座り込んだ。


「セルマ!?」


「大丈夫です」


「それはマルタさんが――」


「決める!」


 遠くから声が飛んできた。


「二人ともこっちへ来な!」


「……はい」


 二人同時に答える。


⸻


 その日の午後。


 アルフレッドとセルマは。


 二人並んで。


 マルタの家の前へ座らされていた。


「反省中?」


 リーナが尋ねる。


「うん」


 アルフレッド。


「私は違います」


 セルマ。


「セルマも怒られてたよ?」


「アルフレッド様を助けただけです」


「杖を投げ捨てて飛び出したね」


 マルタが後ろから言う。


「……はい」


「二人とも同じだよ」


「似た者同士!」


 リーナが笑う。


「違います」


 セルマが即答した。


「最近ちょっと似てきたと思う」


 アルフレッドが言う。


「否定いたします」


「そこも似てる」


「アルフレッド様」


「はい」


「黙って反省してください」


「はい」


⸻


 夕暮れ。


 村の西。


 A―07は。


 一人。


 空を見ていた。


 明日の経路を。


 内部で計算している。


『第三旧居住区』


『生命反応――七』


 青い瞳が明滅する。


『生命反応再照合』


『七』


 数秒。


『六』


 A―07の頭部が。


 わずかに動いた。


『再照合』


『六』


 さらに。


『個体一――消失』


 それまで。


 一定間隔で存在していた。


 七つ目の反応。


 それが。


 突然。


 消えていた。


 A―07は。


 村の中央を見る。


『暫定管理者へ――』


 報告しようとする。


 だが。


 その瞬間。


 反応が変わった。


『第三旧居住区』


『生命反応――六』


『移動反応――一』


『方角――南東』


 南東。


 つまり。


 こちら。


『移動速度――上昇』


 A―07の青い瞳が。


 細くなる。


『推定到達時間――』


 計算。


『四時間十一分』


 その個体は。


 村へ向かっていた。


⸻


 夜。


 アルフレッドは。


 A―07から報告を聞いていた。


「一人減った?」


『肯定』


「死んだの?」


『判定不能』


「残り六人は?」


『生命反応継続』


「こっちへ来てる一人は?」


『移動継続』


「人?」


『判別不能』


「魔物?」


『判別不能』


「怪我してる?」


『判別不能』


 アルフレッドは。


 少し考えた。


「エーナナ」


『暫定管理者』


「その人」


「こっちに来られそう?」


『現在速度維持の場合』


『夜半前に到達』


「……ガルドさん!」


 アルフレッドが叫ぶ。


「今度は何だ!」


 家の外から返事。


「来る!」


「何が!」


「分からない!」


「それが一番困るんだよ!」


⸻


 再び。


 村へ緊張が走った。


 柵。


 松明。


 弓。


 槍。


 見張り台は。


 まだ未完成。


 それでも。


 使える高さまでは組み上がっている。


 グレゴールが梯子を上る。


「北西!」


 ガルドが叫ぶ。


「全員!」


「殺すな!」


「正体を確認するまで射るな!」


 アルフレッドも。


 柵の内側にいた。


「お前は家へ戻れ!」


「嫌です!」


「領主命令だ!」


「僕が領主です!」


「今だけ俺だ!」


「そんなのあり!?」


「ありだ!」


 アルフレッドはノエルを見る。


「どうなの?」


「緊急時の護衛判断としては妥当です」


「そんな……」


「家へ」


「はい……」


 肩を落とす。


 だが。


 その時。


 見張り台から。


「動いた!」


 グレゴールの声。


「北西!」


「森の境!」


 全員が。


 そちらを見る。


 暗闇。


 木々。


 風。


 松明の光が届かない場所。


 何かが。


 歩いてくる。


「一人か?」


 ガルドが剣を抜く。


「一つだ!」


 グレゴールが答える。


「人影!」


 アルフレッドが止まる。


 人。


 やがて。


 暗闇から。


 小さな影が現れた。


「……子ども?」


 誰かが呟く。


 背が低い。


 ふらふらと。


 歩いている。


 服はぼろぼろ。


 裸足。


 髪は長く。


 顔が見えない。


「止まれ!」


 ガルドが叫ぶ。


 影は。


 止まらない。


「そこで止まれ!」


 さらに。


 一歩。


 また一歩。


 近づく。


 グレゴールが弓を引く。


「隊長」


「待て」


「でも」


「待て」


 影が。


 松明の光へ入った。


 小さな少女だった。


 年齢は。


 リーナと同じくらいか。


 あるいは。


 少し上。


 頬は痩せ。


 衣服は泥と血で汚れている。


 両腕には。


 何かを抱えていた。


「……?」


 アルフレッドが目を凝らす。


 布。


 いや。


 毛布。


 その中から。


 小さな手が見えた。


「赤ちゃん?」


 少女は。


 赤子を抱えていた。


「助け……」


 声。


 掠れている。


「助けて……」


 ガルドの表情が変わる。


「武器を下げろ!」


 少女が。


 さらに一歩。


 進む。


「お母さんが……」


「みんな……」


 そこで。


 膝が折れた。


「おい!」


 ガルドが走る。


 少女は。


 赤子だけは離さなかった。


 倒れる寸前まで。


 両腕で。


 必死に守っている。


「マルタ!」


「今行くよ!」


 村人たちが駆け寄る。


 アルフレッドも。


 もう止められなかった。


「アル坊!」


「赤ちゃん!」


「分かってる!」


 少女の身体を。


 ガルドが抱き起こす。


 アルフレッドは。


 毛布の中を覗いた。


 赤子。


 生きている。


 小さく。


 弱々しく。


 呼吸していた。


「生きてる……」


 その瞬間。


 少女が。


 アルフレッドの服を掴んだ。


「お願い……」


「うん」


「村……」


「うん」


「まだ……」


 少女の目から。


 涙が落ちる。


「六人……」


 アルフレッドの顔から。


 笑みが消えた。


「助けて……」


「お母さん……」


 少女の手から。


 力が抜けた。


「マルタさん!」


「死んじゃいない!」


 マルタが少女の首へ指を当てる。


「気を失っただけだ!」


「赤ん坊は!」


「こっちへ!」


 村が。


 一気に動き始める。


⸻


 A―07が。


 少女を見ていた。


『生命反応照合』


『第三旧居住区』


『移動個体――一致』


「エーナナ」


『暫定管理者』


「残りは?」


『六』


「場所は?」


『第三旧居住区』


「生きてる?」


『現時点――肯定』


 アルフレッドは。


 ガルドを見る。


 ガルドも。


 少年を見る。


 今度は。


 誰も。


「村の仕事がある」


 とは言わなかった。


 そこに。


 生きている人がいる。


 助けを求める人が。


 まだ六人。


「夜は危険だ」


 ガルドが言った。


「……うん」


「森へ入れば」


「俺たちまで戻れなくなる可能性がある」


「うん」


「だから」


 ガルドは。


 東の空を見る。


「夜明けと同時に出る」


 アルフレッドが。


 すぐに頷く。


「僕も行く」


「駄目だ」


「どうして!」


「今度は本当に危険だからだ」


「でも僕は――」


「アル坊」


 ガルドの声が。


 いつもより低かった。


「助けたいなら」


「自分が助けに行くことだけ考えるな」


「……」


「ここで」


「連れて帰った人間を受け入れる準備をしろ」


「食い物」


「寝床」


「薬」


「水」


「怪我人がいるかもしれん」


「子どもがいるかもしれん」


「動けない奴がいるかもしれん」


「俺たちが連れて帰った時」


「ここが何も準備できてなかったらどうする」


 アルフレッドは。


 少女が抱えていた赤子を見る。


「……分かった」


「よし」


「僕はここで待つ」


「ただし」


「うん?」


「絶対」


 アルフレッドはガルドを見る。


「連れて帰ってきて」


 ガルドが。


 少しだけ笑った。


「努力する」


「絶対」


「戦場で絶対は――」


「絶対」


「……」


 ガルドは頭を掻く。


「面倒な領主だな」


「知ってる」


「誰に教わった」


「皆」


「俺も入ってるのか?」


「もちろん」


「なら仕方ねぇ」


 老人は。


 剣の柄を叩いた。


「連れて帰る」


⸻


 深夜。


 保護された少女は。


 高熱を出していた。


 赤子は。


 マルタが作った薄い山羊乳を。


 少しずつ飲んでいる。


 アルフレッドは。


 眠らず。


 家の外へ座っていた。


 セルマが。


 隣へ来る。


「寝てください」


「今日は無理」


「……そうですね」


 珍しく。


 セルマも強く言わなかった。


「六人」


 アルフレッドが呟く。


「はい」


「助かるかな」


「分かりません」


「セルマ」


「はい」


「こういう時くらい」


「大丈夫って言ってくれてもいいのに」


 セルマは。


 少しだけ考える。


「では」


「大丈夫です」


「……無理して言ってる?」


「かなり」


「やっぱり」


 アルフレッドは笑った。


「でもありがとう」


 二人の前。


 A―07が。


 静かに立っている。


『第三旧居住区』


『生命反応――六』


 青い瞳が。


 明滅した。


『生命反応――六』


 まだ。


 消えていない。


 六人。


 生きている。


 けれど。


 その時。


 A―07だけが。


 もう一つの変化を検知していた。


『第四浄化塔方面』


『侵食反応――上昇』


『第三旧居住区への接近を確認』


 青い瞳が。


 一瞬。


 赤く変わる。


『危険度――上昇』


『推定接触時間――』


 計算。


『日の出より前』


 六つの生命反応へ。


 何かが。


 近づいていた。


⸻


第28話 七つの生命反応 了

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