表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家四男の辺境開拓記 ~不遇スキル《修繕》と《清掃》で、みんなの帰る場所を作ります~  作者: 和泉發仙
第二章 灰境

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/36

地下の番人

第二章 灰境


第23話 地下の番人


前書き


遺跡は、


長い年月を眠ります。


誰にも見つからず、


誰にも壊されず、


静かに。


けれど、


眠り続けるものには、


目覚める理由があります。


その理由を知らない者だけが、


不用意に扉を開けるのです。



 地下水路。


 石壁へ揺れる松明の火が、長い影を描いていた。


 ガルドたちは足を止め、闇の奥を見つめる。


 ――カラン。


 再び金属音が響く。


 今度は先ほどより近い。


 水路を流れる水音とは違う。


 誰かが歩いているような音だった。


「……聞こえたな。」


 ベルンが槍を構える。


「ああ。」


 ガルドは腰の剣へ手を掛けた。


 グレゴールは静かに弓へ矢を番える。


 エリックは松明を高く掲げ、闇を照らした。


 しかし。


 そこには誰もいない。


 石造りの通路が、奥へ真っ直ぐ続いているだけだった。



 地上では、ノエルが緊張した面持ちで縄を握っていた。


「何かありましたか!」


 地下へ向かって声を張る。


「まだ分からん!」


 ガルドの声が返ってくる。


「何か動いてる!」


 アルフレッドは点検口の縁へ近寄った。


 約束どおり中へは入らない。


 だが胸の奥がざわついていた。


「動いてる……」


 思わず呟く。


「何がです?」


 ノエルが振り向く。


「壊れてるもの。」


「また分かるのですか?」


「少し。」


 アルフレッドは目を閉じた。


 見えるわけではない。


 聞こえるわけでもない。


 それでも地下深くから、


 壊れた何かがゆっくり動いているような感覚だけが伝わってくる。


「でも。」


 首を傾げる。


「生き物じゃない。」


「……?」


「何だろう。」



 地下。


 ガルドはゆっくり歩き始めた。


 壁には古い彫刻。


 床は磨かれた石。


 水路の水は驚くほど澄んでいる。


「排水路じゃねぇな。」


「ええ。」


 ベルンも頷く。


「これだけ綺麗な造りなら、王都にも負けません。」


「王都以上かもしれねぇ。」


 壁の継ぎ目は紙一枚入らないほど精密だった。


 崩落した跡もない。


 何百年も放置されていた建造物とは思えない。



「隊長。」


 エリックがしゃがみ込む。


「これ。」


 床に残る跡。


 丸い傷が、一定の間隔で続いている。


 車輪ではない。


 靴跡でもない。


「何だこれは。」


 グレゴールが指でなぞる。


「何か重い物を引いた跡か?」


「違う。」


 ガルドが首を振る。


「左右が揃いすぎてる。」


 丸い跡は二列。


 寸分違わぬ間隔で並んでいる。


「馬車じゃない。」


「生き物でもない。」


 誰も見たことのない痕跡だった。



 その時。


 奥の闇で、


 ぼうっ。


 小さな光が灯った。


「!」


 全員が武器を構える。


 青白い光。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 ゆっくりこちらへ近付いてくる。


「魔物か?」


 ベルンが呟く。


「いや……」


 ガルドは目を細めた。


「浮いてる。」


 光だけが動いている。


 身体が見えない。



 やがて光が松明の届く距離まで来た。


 その正体を見た四人は息を呑んだ。


「……何だ、これは。」


 人型だった。


 高さは大人ほど。


 しかし全身は銀色の金属。


 関節は球体。


 顔には口も鼻もない。


 左右の目だけが青く光っている。


 身体のあちこちには錆。


 肩は崩れ。


 片腕は途中で失われていた。


 それでも、


 ゆっくりと歩いてくる。


 ぎ……。


 ぎ……。


 関節が軋む音だけを響かせながら。



「人形……?」


 エリックが息を呑む。


「違う。」


 ガルドは低く言った。


「動いてる。」


 銀色の存在は四人の前で止まった。


 青い目が一人ずつを見つめる。


 そして。


 胸の奥から、


 かすれた声が響いた。


『……認……証……』


 誰も動けない。


『……管理……者……』


 言葉だった。


 壊れかけてはいるが、


 確かに人の言葉。


『……権限……確認……』


 青い光が一瞬だけ強くなる。


『……該当者……不在……』


 その瞬間。


 青い光が赤へ変わった。


『警……告……』


 ぎぎぎぎ……


 失われていた右腕の断面から、


 折れた刃のような金属がせり出す。


『……侵……入……者……』


 ガルドが叫ぶ。


「下がれ!」


 次の瞬間。


 銀色の人形が、


 信じられない速さで飛び出した。



 地上。


 アルフレッドは突然胸を押さえた。


「っ!」


「どうしました!」


 ノエルが支える。


「……壊れてる。」


「何がです!」


「違う。」


「壊れてるのに。」


「動いてる。」


 アルフレッドの顔が青ざめる。


「すごく苦しそう。」


「え?」


「直してって言ってる。」


 その言葉と同時に。


 地下から、


 激しい金属音が響いた。


 ガァァン!!


 石壁を震わせる衝撃。


 続いてガルドの怒鳴り声。


「総員戦闘!」



 アルフレッドは点検口を見つめた。


 約束。


 絶対に降りるな。


 ガルドとの約束が頭をよぎる。


 けれど。


 胸の奥では、


 あの壊れた何かが、


 必死に助けを求めていた。


「……どうしよう。」


 少年の拳が、小さく震えた。



第23話 地下の番人 つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ