村を歩こう
第二章 灰境
第11話 村を歩こう
前書き
領主とは、
命令する人ではありません。
まず知る人です。
土を知り、
水を知り、
人を知る。
知らなければ、
守ることもできないのです。
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「まずは村を見て回ります。」
握手を終えたアルフレッドは、そう言った。
その言葉に、バルドは少し目を細める。
「荷物はどうする。」
「あとで運べばいいですよ。」
「今日は皆さんも疲れてるでしょう?」
護衛兵たちは顔を見合わせた。
十一日間。
ほとんど休まず馬車を走らせてきた。
確かに疲れている。
だが普通なら、新しい領主はまず屋敷へ入り、荷物を運ばせ、部屋を整えさせるものだ。
この少年は違った。
まず村だった。
「バルドさん。」
「なんだ。」
「一番困ってる場所から見たいです。」
老人は少し考えた。
「全部だ。」
「え?」
「全部困っとる。」
アルフレッドは苦笑した。
「そうですよね。」
「じゃあ、一番危ない場所から。」
その答えに、バルドは少しだけ笑った。
「……なら、こっちだ。」
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二人は村の中を歩き始めた。
ガルドも後ろからついてくる。
護衛兵たちは荷車を降り、周囲を警戒していた。
村人たちは遠巻きに見ている。
「アル坊。」
ガルドが声を掛けた。
「護衛は連れて行け。」
「大丈夫ですよ?」
「駄目だ。」
「ここは王都じゃねぇ。」
「森狼くらいなら村まで来る。」
「分かった。」
アルフレッドは素直に頷いた。
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最初に案内されたのは井戸だった。
村の中央。
石積みの古い井戸。
縁は欠け、
木製の滑車は片方が折れ、
縄は擦り切れている。
アルフレッドはしゃがみ込んだ。
「水は?」
「出る。」
バルドが答える。
「だが毎日修理しながら使っとる。」
「なるほど……。」
アルフレッドは木材へ触れた。
割れている。
腐っている。
縄も限界だった。
「《修繕》」
淡い光が滑車を包む。
兵士たちが息を呑む。
ぱき。
ぱき。
木が元へ戻っていく。
割れ目が消える。
縄のほつれも消え、
滑車が静かに回転した。
きぃ……
驚くほど滑らかだった。
「……。」
村人たちは声も出なかった。
「直った。」
アルフレッドが笑う。
「これで少し使いやすくなるかな?」
バルドは滑車を回した。
軽い。
今までの半分ほどの力で桶が下りていく。
「これは……。」
老人は思わず井戸を見つめた。
「新品じゃ。」
「新品?」
「いや。」
「新品以上かもしれん。」
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すると後ろから、
小さな女の子が近寄ってきた。
七歳くらいだろうか。
ぼろぼろの服。
裸足。
アルフレッドを見上げる。
「おにいちゃん。」
「うん?」
「ほんとに直したの?」
「たぶん。」
「すごい。」
少女は滑車を回してみた。
「軽い!」
嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、
アルフレッドも笑った。
「よかった。」
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「リーナ!」
少し離れた家から女性が飛び出してくる。
「勝手に近付いちゃ駄目でしょう!」
少女は慌てて母親の後ろへ隠れた。
「申し訳ございません!」
女性は深く頭を下げる。
「子どもが失礼を……。」
「全然大丈夫ですよ。」
「でも……。」
「名前、リーナちゃん?」
少女がこくりと頷く。
「井戸、使ってね。」
「うん!」
元気よく返事をした。
母親は驚いていた。
貴族が、
自分の娘へ笑い掛けている。
それだけで信じられなかった。
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その様子を見ていたガルドは、
腕を組みながら笑う。
「やっぱり面白ぇ。」
「何がです?」
アルフレッドが振り返る。
「普通なら屋敷を直す。」
「お前は井戸だった。」
「だって皆さん使うでしょう?」
「そういうところだ。」
ガルドは豪快に笑った。
バルドは静かに井戸へ触れる。
(この坊主……。)
(本当に違うかもしれん。)
そう思った。
⸻
しかし、その時だった。
村の見張り台から若者の叫び声が響く。
「村長ーっ!!」
全員が振り向く。
「森だ!」
「森狼だ!!」
空気が一変した。
女たちが子どもを抱き寄せる。
男たちは慌てて槍を掴む。
ガルドが剣の柄を握った。
「来やがったか。」
アルフレッドも森の方を見る。
木々の奥。
灰色の影が、
一つ、
二つ、
三つ――。
ゆっくりと村へ近づいてきていた。
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第11話 村を歩こう 了




