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EP 9

Love & Moneyと貧乏神の賽銭箱 ~深淵の魔獣を物理で解体スクラップする~

「ギョシャァァァァァァッ!!」

 ポポロ村の広場に落下してきた深淵のキメラ魔獣『キング・マグローザ』が、巨大な尾びれを叩きつけ、大地を揺らす。

 空の亀裂の奥から響く炎上神ワイズの下劣な笑い声が響く中、赤城鷹人はPAミキサーの電源を蹴り飛ばし、最前線へと歩み出た。

「フェイト! キャルル! アイツをステージに近づけるな! 俺が『足場トラップ』を組む!」

「了解だぜ、現場監督!」

「任せて、鷹人!」

 鷹人は脳内のインターフェースを解放し、【ヤクザの押収品】と【産業廃棄物】のカテゴリーを同時に起動した。

 ――【廃品召喚:極太のワイヤーロープ束 & 廃車トラック(10トン)】

 ズガンッ! と、広場の四方に巨大な廃車トラックが杭のように出現し、それらを繋ぐように極太の鋼鉄ワイヤーが張り巡らされる。

「グルァッ!?」

 突進しようとしたキング・マグローザの巨体がワイヤーに絡まり、一時的に動きが鈍る。

「そこだァッ! ――『双連・閃』!」

 フェイトがA級の機動力を活かし、魔獣の死角であるエラ蓋めがけて神速の双剣を叩き込む。魔法を反射する厄介な鱗の隙間を縫う、精密な剣撃。

「私も行くわッ! せぇぇいッ!!」

 キャルルが特注安全靴の鉄芯に月兎族の闘気を込め、魔獣の横っ腹に強烈な回し蹴りを叩き込んだ。

 ゴガァァッ! という鈍い音が響き、キング・マグローザの分厚い装甲ウロコにピキリとヒビが入る。

「ギョロロロォォォッ!!」

 だが、深海の覇者は止まらない。

 怒り狂った魔獣は、周囲一帯に『深淵の絶望』と呼ばれる強力な呪いと水圧のオーラを放った。触れる者の体力と精神力を削り取り、不運と死をもたらす範囲デバフ攻撃だ。

「くっ……体が重い……!」

 フェイトとキャルルが膝をつく。

 その絶望の波動は、ステージの上に立つえんじ色の芋ジャージの美少女――リーザにも襲いかかった。

 だが。

「……は? 絶望? 不運?」

 リーザは、冷たい潮風を顔面に受けながら、鼻でふんと笑った。

「毎日パンの耳と茹で卵で食い繋ぎ、野良犬と廃棄弁当を争い、交番前で反復横跳びをしているこの私に……『不幸のオーラ』が効くとでも思ってまして!?」

 そう、彼女が持つユニークスキルは【貧乏神】。

 運が良くなることは永遠にないが、その代わり『悪運耐性MAX』を誇る、どん底のサバイバー。深海のバケモノが放つ呪いなど、ポポロ村での月末の家賃の取り立て(土下座)に比べれば、そよ風のようなものだった。

「私のファン達の時間を奪うバケモノは、私が許しませんわ! 私は運命、私は物語……! だから、貴方達の全てをちょうだい!!」

 リーザはマイクスタンドを力強く握り締め、大きく息を吸い込んだ。

 腐っても、彼女は海中国家シーランの人魚姫。その本気の歌声は、空間の法則すら書き換える絶大な魔力アイドルバフを秘めている。

「ミュージック、スタートですわ!!」

『All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ! (Fu Fu!)』

『All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ! (Yeah!!)』

 突如、PAスピーカーから爆音で流れ出す、ポップで強欲極まりないイントロ。

 リーザがステップを踏み、こぶしを突き上げて熱唱し始める。

『今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)』

『愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)』

『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)』

『貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)』

「な、なんだこれ……!? 体の中から、力が無限に湧いてきやがる!」

「すごい……さっきまでの疲れが、全部吹っ飛んだわ!」

 フェイトとキャルルの体を、眩い黄金色のオーラが包み込んだ。

 人魚姫の歌声がもたらす、全ステータスの超絶強化バフ。さらに、ダメージの回復と状態異常の完全無効化という奇跡の力。

「いっくぜぇぇっ!!」

 復活した二人が、再び魔獣へと特攻をかける。

 だが、リーザのターンはこれだけでは終わらない。

「私のライブを邪魔した迷惑料、たっぷり払っていただきますわよ! 出番です、【お賽銭箱型掃除機】!!」

 リーザが虚空に手をかざすと、木製の立派な『神社のお賽銭箱』に、なぜか『最新型のサイクロン式掃除機のノズル』が合体した、あまりにも奇天烈な魔導具が出現した。

「ダイ○ンも真っ青の吸引力で、貴方の全てを没収しますぅぅっ!!」

 リーザが掃除機のスイッチを入れた瞬間。

 ギュイィィィィィンッ!!!

 という凄まじいモーター音が鳴り響き、お賽銭箱型掃除機のノズルが、キング・マグローザめがけて強力な竜巻を発生させた。

「ギョ、ギョアァァァッ!?」

 魔獣の体が宙に浮くわけではない。

 だが、掃除機が吸い込んでいるのは『物理的な肉体』ではなく、『概念』だった。

「相手の能力、運気、全財産、電子マネー、ついでに海底に隠してるへそくり(真珠)まで、全部没収ですわーっ!!」

 ズボボボボボッ!!

 キング・マグローザを覆っていた絶対防御の魔力バリアが剥がれ落ち、お賽銭箱に吸い込まれていく。そればかりか、魔獣のステータス(攻撃力・防御力)そのものがみるみるうちに低下し、巨体のハリが失われていく。

 ジャラジャラジャラッ! と、謎の金貨や財宝の幻影までが掃除機に吸い込まれていく。

(……ああっ! せめてそのお金、私の懐に入ってくれればいいのに……全額虚空に消えるなんて、悲しすぎますぅぅっ!)

 リーザは血の涙を流しながらも、一切容赦なく吸引を続けた。

 能力、運気、そして財産を根こそぎ奪われたキング・マグローザは、もはやただの『でかいだけの的(魚)』へと成り下がっていた。

「……上出来だ、ポンコツアイドル。お前の強欲、確かに現場に届いたぜ」

 PAミキサーの横で、鷹人がニヤリと口角を吊り上げた。

 バフによって強化されたフェイトとキャルルが、ワイヤーに絡まった魔獣の四肢ヒレを完全に押さえ込んでいる。

 防御力はリーザの掃除機によって紙切れ同然になっている。

 これ以上ない、完璧な『解体』の条件が揃った。

「トドメだ」

 鷹人はゴールデンバットを空に向かって吐き出し、最後の大規模召喚を起動した。

(カテゴリー:重機用アタッチメント。……空から降ってきた生ゴミには、一番重てえ『鉄の塊』をぶつけてやる)

 ――【廃品召喚:クローラークレーン用 巨大フックブロック(重量50トン)】

 ゴゴゴゴゴゴォォォッ!!

 上空。炎上神ワイズが開けた次元の亀裂のすぐ下、数十メートルの虚空に、真っ黒に汚れた超巨大な鉄のフックが出現した。

 鷹人は、地上に召喚していた廃車トラックのワイヤーと、その巨大フックを空間的につなぎ合わせ、巨大な『振り子』を形成した。

「そら、現場の王様のお通りだ。ペシャンコになりな」

 鷹人が指を鳴らす。

 50トンという規格外の質量を持った巨大フックが、重力に従って落下し、ワイヤーを支点にして凄まじいスピードで振り抜かれた。

「ギョ……ア……」

 抵抗する力すら奪われたキング・マグローザの脳天に、巨大な鉄の塊が、時速100キロ近い速度で直撃した。

 ――ズッッッドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 ポポロ村全体が跳ね上がるような轟音。

 魔法の光などない。ただの圧倒的すぎる『物理法則(質量)』の暴力。

 深淵のキメラ魔獣の巨体は、一瞬にしてひしゃげ、文字通り原形を留めないミンチ(スクラップ)と化して地面に沈み込んだ。

 静寂。

 爆風が収まり、土煙が晴れた後には、巨大なクレーンのフックの下敷きになった魔獣の残骸だけが残されていた。

『な……な、なんだとぉ!? 深淵の覇者が、あんな鉄の塊一つで……!?』

 空の亀裂の奥から、炎上神ワイズの狼狽する声が響く。

「……おい、三流スポンサー」

 鷹人は、ゆっくりと歩み出た。

 ポケットから100円ライターを取り出し、新しいタバコに火をつける。

 カチッ。

 その顔は、一切の感情を排した、冷酷な工作員プロの目になっていた。

「テメェが落とした生ゴミは、俺たちの現場チームがキッチリ解体してやったぞ。……次はテメェの番だ。首洗って待ってろ」

 鷹人は、空の亀裂に向かって、中指を真っ直ぐに突き立てた。

 その圧倒的な威圧感と、理不尽に対する宣戦布告に、空の亀裂は怯えたようにピシリと音を立て、逃げるように閉ざされていった。

「……プロデューサー……!!」

 ステージの上から、リーザがマイクを握りしめたまま、ボロボロと涙をこぼしていた。

「終わったぞ、アイドル」

 鷹人が振り返り、フッといつものように呆れた笑みを浮かべる。

「あいつのせいでお前のライブ、一曲で終わっちまったな」

「い、いいんです! 私の歌で、みんなを守れましたから……っ!」

 リーザがステージを駆け下り、鷹人に向かって飛び込んでくる。

 フェイトとキャルルも、泥だらけになりながら、満面の笑みでこちらへ歩いてくる。

 一人では決して勝てない理不尽。だが、知恵と、悪知恵と、仲間への絶対の信頼があれば、神のヤラセすらも物理で粉砕できるのだ。

「さて……現場の片付け(撤収)と、打ち上げといこうぜ」

 ポポロ村の夜空に、勝利の紫煙が静かに立ち上っていった。

読んでいただきありがとうございます。

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