↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりの名を持つ君へ  作者: そらいろは
第5部 灰の向こう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/60

第58章 排除

第5部 灰の向こう

 灯は。


 もう見えなかった。


 イロハは。


 地下への入口があった方を。


 一度だけ振り返った。


 灰。


 低い壁。


 崩れた建物。


 どこにあったのか。


 もう分からない。


「行くぞ」


「うん」


 二人は。


 また歩き始めた。


     *


 灰嵐の後は。


 静かだった。


 静かすぎるくらいに。


 風も弱い。


 足音だけが続く。


 イロハは。


 金属板を見ない。


 次の給水地点がある方向だけ。


 覚えている。


「ねえ」


「何だ」


「さっきの機械」


「ああ」


「ほんとに、あそこ避けてたと思う?」


「そう見えた」


「何でだろ」


「知らん」


「やっぱり」


「分からんものは分からん」


「うん」


 少し間。


「でも、気になる」


「勝手に気にしていろ」


「気にする」


 イロハは。


 前を見る。


     *


 少しして。


 音。


 低い。


 遠い。


 クルムが止まる。


 イロハも止まった。


「灯?」


「ああ」


 今度は。


 隠れる場所がない。


 左右。


 崩れた壁。


 でも。


 どれも低い。


「どうする?」


「動くな」


「隠れないの?」


「間に合わん」


 音が近づく。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 白い灯。


 灰の向こうから現れる。


 五機。


 以前と同じ。


 丸い胴体。


 四つの輪。


 三本の脚。


 ただ。


 今度は。


 真っ直ぐ。


 二人の方へ来る。


「……こっち来てる」


「ああ」


 一機が。


 高度を下げる。


 イロハは。


 足を止めたまま。


 見上げる。


 白い光。


 顔。


 胸。


 足。


 順番に。


 なぞる。


『――人――』


 聞いたことのある声。


 イロハは。


 少しだけ肩の力を抜く。


『――確認――』


「前と同じ」


 小さく言う。


 次。


 光が。


 クルムへ向いた。


     *


 首。


 胸。


 腕。


 赤い瞳。


 牙。


 白い光が。


 何度も。


 クルムをなぞる。


 長い。


 イロハが。


 機械を見る。


「……遅くない?」


 答えはない。


 光。


 止まる。


 短い音。


 今までと違う。


 高い。


 鋭い。


『――人――確認――』


 イロハ。


 もう一度。


『――対象――』


 クルム。


 機械の灯が。


 白から。


 強い赤へ変わった。


 イロハの顔から。


 笑みが消える。


「クルム」


「ああ」


 残りの四機も。


 同時に。


 向きを変えた。


 全部。


 クルムを見る。


『――対象――確認――』


 短い音。


『――危険――』


 イロハが。


 一歩。


 クルムの前へ出た。


「待って」


「下がれ」


「でも」


「下がれ」


 声が。


 低い。


 イロハは。


 一歩だけ下がる。


     *


 先頭の機械が。


 開いた。


 胴体の下。


 細い棒。


 一本。


 伸びる。


「何するの」


 返事の代わりに。


 光。


 今度は。


 白ではない。


 強い。


 青白い。


 閃光。


「っ!」


 クルムが腕で顔を覆う。


 皮膚。


 わずかに。


 焼けるような音。


 イロハの目が見開く。


「クルム!」


「見るな!」


 イロハは顔を背ける。


 光。


 もう一度。


 クルムの肩。


 腕。


 白い肌が。


 赤くなる。


「やめて!」


 イロハが。


 機械へ石を投げる。


 当たる。


 小さな音。


 何も変わらない。


「イロハ!」


「だって!」


 機械の一つが。


 今度は。


 イロハへ向いた。


 白い光。


『――人――』


 赤い灯。


 消える。


『――保護――』


 イロハが。


 息を止めた。


「……保護?」


 その間にも。


 別の機械が。


 クルムへ光を向ける。


     *


 クルムが。


 動いた。


 一瞬。


 地面を蹴る。


 機械の横。


 手。


 掴む。


 そのまま。


 叩き落とす。


 金属。


 地面へ。


 大きな音。


 一機。


 壊れる。


「クルム!」


「走れ!」


「一緒に!」


「先に行け!」


 残り四機。


 散る。


 上。


 左右。


 囲む。


 細い音。


 何かが。


 飛ぶ。


 クルムが。


 イロハを押す。


 直後。


 地面へ。


 細い杭のようなものが突き刺さった。


「何これ」


「止まるな!」


 イロハは走る。


 クルムも続く。


 後ろ。


 機械の音。


 追ってくる。


     *


 崩れた建物。


 狭い隙間。


 イロハが。


 先に入る。


「こっち!」


 クルムも。


 身体を滑らせる。


 その瞬間。


 背後。


 光。


 青白い閃光。


「っ……!」


 クルムの身体が。


 壁へぶつかる。


「クルム!」


「行け」


「無理」


「行け!」


 イロハは。


 戻った。


 クルムの腕を掴む。


「一緒に行く」


「足手まといだ」


「今それ言う?」


 引く。


 ほとんど。


 動かない。


 それでも。


 離さない。


 クルムが。


 イロハを見る。


「手を離せ」


「嫌」


 短い間。


 また。


 機械の音。


 近い。


 クルムが舌打ちする。


「なら走れ」


「うん」


     *


 二人で。


 狭い通路を抜ける。


 外。


 低い広場。


 逃げ場。


 少ない。


 イロハが。


 左を見る。


 崩れた高架。


 その下。


 暗い穴。


「あそこ!」


「行くぞ」


 走る。


 その時。


 機械が。


 上から降りる。


 一機。


 イロハの前。


 白い光。


『――人――保護――』


 進路を塞ぐ。


「どいて!」


 機械は動かない。


 後ろ。


 別の機械。


 クルムへ。


 赤い灯。


『――危険――排除――』


 光。


 クルムが。


 イロハを掴む。


 引く。


 位置を入れ替える。


 閃光。


 今度は。


 背中。


 直撃した。


 クルムの身体が。


 前へ倒れる。


「クルム!」


 イロハが。


 支える。


 重い。


「立てる?」


「ああ」


「嘘」


「走れる」


「それも嘘」


「なら担ぐか?」


「無理」


「なら走れ」


 イロハは。


 歯を食いしばる。


「分かった」


     *


 機械。


 三機。


 まだ動いている。


 一機は。


 イロハを追う。


 二機は。


 クルムを狙う。


 違う。


 同じように追っているわけではない。


 イロハが。


 走りながら気づく。


「クルム!」


「何だ!」


「私には撃ってこない!」


「ああ!」


「じゃあ」


 足を止める。


「何をしている!」


 イロハが。


 クルムの前へ出た。


 両手を広げる。


「イロハ!」


 機械。


 止まる。


 赤い光。


 クルム。


 白い光。


 イロハ。


 狙いが。


 揺れる。


『――人――』


『――保護――』


『――対象――』


 音。


 重なる。


 機械が。


 撃たない。


「……やっぱり」


 イロハが。


 一歩。


 クルムと機械の間に入る。


「私が邪魔なら撃てない」


「馬鹿か」


「でも止まった」


「次もそうとは限らん」


「じゃあ早く行って!」


 クルムが。


 イロハを見る。


「今度は私が前」


「調子に乗るな」


「今だけ!」


     *


 イロハが。


 前。


 クルムが。


 そのすぐ後ろ。


 少しずつ。


 高架の下へ。


 機械は。


 追う。


 でも。


 撃たない。


『――人――保護――』


『――対象――危険――』


 繰り返す。


 イロハの背中。


 汗。


 足。


 震える。


 それでも。


 止まらない。


 高架まで。


 あと少し。


 その時。


 一機が。


 横へ回った。


「右!」


 クルムが。


 イロハを引く。


 細い杭。


 飛ぶ。


 クルムの脇腹へ。


 刺さる。


「っ……」


「クルム!」


 クルムが。


 杭を掴む。


 抜く。


 血。


 赤い。


 服へ広がる。


 イロハの顔が。


 固まる。


「血」


「見るな」


「でも」


「行くぞ」


     *


 高架の下。


 暗い。


 狭い。


 機械が。


 入りにくい。


 二人は。


 奥へ。


 さらに。


 崩れた壁の間へ。


 音が。


 遠くなる。


 それでも。


 赤い灯が。


 外。


 行き来している。


 イロハは。


 クルムを見る。


「座って」


「平気だ」


「座って」


 今度は。


 強く言う。


 クルムが。


 少し見る。


 それから。


 壁へ背を預ける。


 イロハが。


 脇腹を見る。


 血。


 まだ。


 止まっていない。


「治らないの?」


「治る」


「遅い」


「少しな」


「何で」


 クルムは答えない。


 イロハが。


 顔を見る。


「クルム」


「何だ」


「何で遅いの」


 少し沈黙。


「血が足りん」


 イロハの表情が変わる。


     *


 外。


 機械の声。


 遠く。


『――対象――』


『――捜索――』


 イロハは。


 息を止める。


「まだ探してる」


「ああ」


「私じゃなくて」


「ああ」


 クルムを見る。


 赤い瞳。


 白い肌。


 血。


「吸血鬼だから?」


「そうだろうな」


「昔から?」


「分からん」


「でも」


 イロハは。


 外を見る。


「人は守る」


「ああ」


「クルムは排除する」


「ああ」


 その言葉が。


 妙に。


 嫌だった。


 イロハは。


 膝を抱える。


「そんなの」


「何だ」


「勝手じゃん」


「機械に言え」


「言ってる」


 外へ向かって。


 小さく。


「勝手」


 クルムが。


 少しだけ。


 笑った。


「聞こえんぞ」


「いいの」


     *


 しばらく。


 二人とも。


 黙る。


 機械の音。


 遠く。


 近く。


 また遠く。


 イロハは。


 クルムの脇腹を見る。


 血は。


 少しずつ。


 減っている。


 でも。


 傷は。


 まだ閉じない。


「クルム」


「何だ」


「血が足りないって」


「ああ」


「いつから?」


「少し前から」


「何で言わなかったの」


「言う必要がない」


「ある」


「ない」


「ある」


 クルムが。


 イロハを見る。


「お前に言えば、何が変わる」


 イロハは。


 すぐには答えなかった。


 自分の腕を見る。


 包帯。


 その下。


 あの夜。


 自分の血を差し出した時のことを。


 思い出す。


「……変わるよ」


「何が」


「私が知る」


「それだけだ」


「それでいい」


 クルムは。


 何も言わなかった。


     *


 外で。


 突然。


 大きな音。


 機械。


 一機。


 高架の縁へ。


 赤い灯。


 差し込む。


『――対象――確認――』


 クルムが立とうとする。


 イロハが。


 先に立った。


「待って」


「退け」


「また私の後ろ」


「イロハ」


「撃てないんでしょ」


「確実ではない」


「でも今は」


 赤い光。


 白い光。


 イロハをなぞる。


『――人――保護――』


 機械が。


 一瞬。


 止まる。


 イロハは。


 そのまま。


 一歩。


 前へ。


「クルムに近づかないで」


 通じない。


 分かっている。


 それでも言う。


「私が一緒にいる」


 機械。


 沈黙。


 短い音。


『――保護対象――』


 白い光。


 イロハ。


『――分離――』


 イロハの顔が。


 変わる。


「……分離?」


 機械の横。


 細い腕が開く。


 クルムへ。


 もう一度。


 赤い灯。


『――危険対象――』


『――分離――』


 クルムが。


 イロハの肩を掴む。


「下がれ」


「嫌」


「今度は何だ」


「これ」


 機械を見る。


「私を助けるんじゃない」


 白い灯。


 赤い灯。


 二つ。


「クルムから離そうとしてる」


 次の瞬間。


 高架の奥で。


 何かが。


 大きく崩れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。