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島津人は小麦色に輝く農地をこの時初めて見た。

 目を見張るような黄金は、米の収穫時期の姿によく似ていた。


「お天道様(おてんとう様)ん、お授け(おさづけ)にごあす!!(神からの恵みだ!!)」


彼らの行為は決して褒められたものではなかったが、女子供まで飢えていく状況であったために、その、食に対する執着というのはすさまじいものがあった。のちの異世界人の記録では、地獄からオーガが現れたのだ、とそう付け加えられたほどだった。

 薩摩人は喜んで畑に侵入して懐深くにその種もみを入れる。


 薩摩地方の大部分を占めるのは水はけのいいシラス台地であった。水はけがよいということは、水が土壌へと急速に吸い取られてしまう構造というわけだ。そのため作物が育つための水分を保つのが困難であった。

 よって大規模な麦畑というのはある種、異様であり、幻術のようなあまりにも華やかな光景として彼らには映った。


 異世界人は麦を主食とする文化で、主にそれらを臼で引き、粉にしてから水とこね、焼き上げることでパンを作って食べていた。硬く焼しめればビスケットとして日持ちしたため、多くの冒険者がこれを最初に手に取るとまで言われたくらいだ。


 一方で魔物や他国から見ても、高カロリーで群生している田畑というのは絶好の攻撃目標である。

 敵を屈服させるには、まずその食料をつぶせばいい。士気は低くなり、子供は病気に、老人は死に至る。

 ゆえに、異世界人は砦を用意していた。


 モット・アンド・ベイリーは異世界で一般的な防御陣地であった。盛り土の上に棟を立て、その周囲に木を切り倒して作った巨大な策で囲った簡易的な城である。敵の襲来を知らされた農民たちは家畜と一緒にこの柵の中に逃げ込んだ。


 そう逃げ込んだ。


 これがまずかった。

 薩摩による降伏した農民に対しての扱いは当時の基準で言えば手厚い。それは自分の領地に連れて行き仕事をさせるという物だったが、わざわざ自分たちの土地での名前を与える一方で、彼らのルーツである名前を使用することも、習慣を維持することも認めていた。


 その一方で戦場から逃げ出す者には容赦がなかった。


 異世界人はこの時、大事な農耕馬や騎士階級が使う立派な白馬を連れて逃げた。さらには家財道具として狩猟につかう弓を持った者もいれば、短剣を携えたものもいた。これは事前に決められた避難計画に沿ったもので、砦に逃げるのである。その結果、非戦闘員との区別がつかなくなっていた。そのため、降伏してとらわれる以外に助かる道はなかったと言える。


 さらには島津からしてみれば、逃がした敵が、後にゲリラとして抵抗することが経験としてあったため、なで切りコースとなる。


 砦の上では煙が上がり始めた。

 大きな窯に煮え湯を作って砦の上から薩摩へ落そうというのである。皮鎧に身を包んだ兵士や、一部きらりと光るヘルメットを身に着けた兵士らが、危険を察知した働き蜂のように動き回る。


 島津の有志らは、まず鋭い先端を持つ木製の柵にとりついた。

 その一本の木の太いこと。島津の大人と比較しても、胴体が優に二人分は入ってしまいそうな太い木にしがみついて小さな日本人が登るさまは、どこか滑稽で敵陣営から笑い声が上がった。


 さらに異世界人は柵の上にこしらえた足場から盛んに投石や弓矢による攻撃を行い、ついに一人の薩摩人が落ちる。


 数度空中で手をばたつかせた彼が大きなけがをするのは明確に思えた。異世界人の顔にもホッと落ち着きが戻る。


 高さにして数メートル。たとえ鎧を着ていても無傷では済まないだろうと思われた。落ちた先は岩だらけの斜面である。高く突き出た剣山のような岩が、背中を強かに殴る。


「もし!しかとしちょっか!(おい!大丈夫か!)」

「おいにかまうな!おまん(お前)どんがさきけ!(俺にかまうな!先に越えろ!)」


 話している間にも、なん十本と矢が飛んでくる。

 それが空中で互いにぶつかり合ってカチカチと音が鳴る。


圧倒的に異世界人が優位だった。


「なんだ。たった5人か。追い詰めて倒してしまえ!」


薩摩人は5人でバラバラに動いてまるでパニックになっているかのようだった。


 一人が仲間にぶつかり、ひっくり返って転ぶなどの動きを見せたため、また笑い声が上がる。両手を上げて逃げるさまは、明らかにどう見ても、戦闘の素人だった。


「よし。門を開けてあいつらを倒してこい!」


 こういう話になる。


 しかしこれこそが島津お得意のお家芸、「釣り野伏せ」の始まりであった。

 

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