遭遇
突然現れた見慣れない格好の島津領民に驚いた異世界人は、他国から攻められたのだと考えた。斥候は日本刀を腰に帯びて武装していたためだ。異世界人はためらいながらも弓を射てしまう。それは魔法で強化された弓だった。さらに不運なことには、それが軍人、警察、農家を兼ねる武士の頬に当ってしまったことだ。頬骨が砕けたことで軌道が反れ、致命傷には至らなかったが、顔に深手を負った斥候は、同行していた相棒に引きずられる形で島津領内へと戻った。
敵は3人だった。東の方角から警告なしに弓矢を放った。
負傷者は最寄りの番所に担ぎ込まれ小頭(現場指揮官)へ矢継ぎ早に報告して判断にゆだねることとなる。
即断即決で殺意の非常に高い攻撃と判断。
事の重大さから早馬が使われることになった。情報は火急、直接家老に伝達される。
島津家がこれほど急いだのには訳があった。「島津の者が他領で顔を砕かれた」という事実は、一族全体の「面目」に関わる一大事であったからだ。上の判断を待たずして近隣の武士たちは即時出陣可能な状態へと移行を始めた。
この問題を戦争にするのか、賠償で済ませるのかを決めるのは島津義弘や島津家久であった。しかし、タイミングが悪い。敵はまだその場に居座っていた。ついで、賠償に関して話し合うため戻した斥候に対しても弓を射る行為が見られたため、謝罪と賠償の要求は不可能と判断。
島津家は軍を行うことに決した。
「惟新公の、軍をあそばすと決められたげな(島津義弘さんが戦争することを決めたそうだな)」
「おんの、あなずられたまま、黙っちょれっか!(当たり前だ。舐められたままではいられない)」
集められた先兵の士気も異様に高かった。
なぜならば斥候がもたらした情報として、敵対してきた馬鹿者は、黄金に輝く米を田畑にたたえたすぐそばから攻撃してきたという話だった。利益率がかなり高い。
まして、先に向こうから仕掛けられた軍である。
こちらに何の非もない状態である。
漆黒の当世具足に身を包んだ集団は、座禅陣を敵の目の前で組んでいつも通りの戦準備である。
座禅陣とは島津特有の戦儀式のようなもので、これから戦うというときに、敵前であろうが、弓矢が飛んでこようがお構いなしに円になって座禅を組んで、精神を落ち着かせる行為であった。
弓と魔法を主とし、ゴブリンやスライムを相手にしてきた異世界人とってそれがどれだけ異様だったかは分からない。おそらく言いようのない不気味さを感じ、弓を射た事であろう。
島津は戦闘民族である。家のために死ぬのを良しとし、戦場で死ぬことを誉としていた。
畑をゴブリンから守っていた冒険者たち一行が相手にするには、あまりにも酷な話である。
「チェストーっ!」
島津側からはそのような叫び声が聞こえたかと思うと、数十メートルはあろうかという距離を身の丈よりはるかに長い長槍を携えて駆け出した。その身長は150cmほどであったが槍の長いこと、3~4mはあろうかという長槍を槍衾にして近づいて、頭上に掲げ、一気に振り下ろし、ビタン!と大きな音が鳴った。
島津家が初めて遭遇した異世界人は不運にも頭や肩を打ち叩かれて粉砕され、皮鎧までぺちゃんこにならされて沈黙した。
薩摩人が奉公人(小者)を呼び寄せて言うことには
「こん三っあ、おいの分ど! 首ば取っちょけ!(この3人は俺がやった、首を取っておけ)」
島津では戦場での自分の手柄を数で証明する「数首」という制度が導入されていた。
これは残虐性への執着ではなく、打ち取ったことを証明するためのハンコのようなものであった。
それを知った異世界人はまた震えることになる。
それは自分たちがゴブリンの耳をクエスト報告のために切り落とす作業に酷似したためだった。
そしてその認識はそれほど逸脱していなかった。




