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島津

天正19年(1591年)島津領(現在の鹿児島県、宮崎県のほぼ全域、および熊本県の一部)


ちょうどこの時期、島津家は秀吉による九州平定(1587年)を経て、翌年(1592年)から始まる「文禄の役(朝鮮出兵)」に向けた軍備と動員に追われていた。まさに「嵐の前」の時期にあった。


有名なサツマイモはまだなく、領民の多くは、わずかな米、麦、あわ、ヒエ、ソバなどの雑穀を主食していた時代。物語は、この九州の埃っぽいあぜ道から始まる。


 シラス台地特有の急峻な崖に囲まれ、細く、曲がりくねった道は大規模な物流には不向きで、大抵の場合、人は歩いて目的地まで行かなければならなかった。路面状況は舗装などされておらず、雨が降れば泥のようになった路面が足を取り、一方で乾けば、激しく埃が舞うような環境だった。


当時の島津の一般的な家屋と言えば、かやぶき屋根の昔ながらの作りの家で、現代日本の家屋に比べれば、文字通り風が吹けば屋根が飛ぶような粗末な作りの家に住んでいた。


 歴史的に見て島津家が最も戦闘能力を有していたとされるこの時期にありながら、同時に領民の生活は切迫していた。

 領内で秀吉の命による検地が行われていたためである。これは隠した田んぼを摘発して徴税を厳格化するための政策であり、島津家も従わなければならなかったのだ。加えて、朝鮮出兵のため軍艦の建造、武器の整備、食料の備蓄などが最優先された結果、領民の多くは飢餓に近い状態で島津家を支えていた。


 島津家はこの数年前まで九州の覇者として事実上の支配者であった。プライドの高い薩摩武士にとって、領地を取り上げられ、秀吉の命令で縁もゆかりもない海外へと出兵させられようとしていることがどんなに煮え湯を飲む状況だったかは想像するに難くない。


 状況を表す言葉を選ぶならば、残り時間の迫った時限爆弾のような状態だった。苦しい税で飢えて死ぬのならば、いっそ戦場で死のうと言うような者まで出始める有様である。


 彼らは追い込まれ、すきっ腹とストレスと膨大な武器をそろえた最も残虐に戦える状況にあったと言っていいだろう。


 その時、巨大な揺れが領地を襲う。

 城の石垣が巨大な音と共に揺れ、あるいはドスンドスンと音を立てて道に転がる物もあれば、何軒の映画軒並み梁を折って中にいる家族もろとも潰れるような大災害が発生した。


「桜島ん、腹っ掻っちょっか?(桜島が怒っているのか?)」


 島津領民にとって桜島という火山は単なる景観ではなく、日常的に灰を降らせ、地鳴りを響かせる愛着を持った脅威であった。地面が揺れるならば、まずそれは桜島の巨大な噴火を予測する。

 当時桜島はツクヨミを祭る宗教対象であって、遠征に対する不吉な予兆として彼らは受け取ることとなる。


「何いごっな!(何事だ!)」


 しかし、おかしいのであった。桜島からの噴煙が見えない。日常が大きく揺さぶられているような揺れであったにも関わらずである。


 最初に異変に気が付いたのは領地の境界線を守っていた外城の武士であった。


 肥後(現熊本)に続く道が見られぬ原っぱに代わっていたために、まず彼らは即座に武器を取り、斥候を放った。

 外城の武士というのは現代で言う所の軍人であり、警察官であり、行政であり、地主という島津における重要な役割を担う集団のことである。さらに島津には自ら命令をしておいて自分が手を汚さないという考えがこの時なかった。外城の武士は必要があれば自分で領地を耕し、土にまみれるような気持ちのいい農家でもあった。

 土地を知り、自給自足に基づいた生活をしていた彼らが一番先に周囲の変化に気が付いたのは通りであろう。彼らがこの時有していた武芸は剣術、槍術、そして鉄砲であった。これらを厳しい肉体労働の合間に稽古するという現代人から考えて頭のおかしい集団がまず動いたのだ。


 彼らは斥候を送ると同時にその場を守り、かつ伝令として次の拠点へと情報を流した。

 もちろん電話やメールなどはない。人間による物理的な伝達情報のみである。


 彼らはただのガードマンではない。日常的に山野を走り回っていたアスリートであり、軍人であった。


「たいげなこっいなった!たいげなこっいなった!(大変なことになった!大変なことになった!)」

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