三十二話
担任の話が終わった後、エマは校舎の玄関に向かった。すると、そこにはアンジェラがいた。
「アンジェラ」
「待ってた」
アンジェラは少しだけ微笑んで、こちらに駆けてくる。目の前で止まると、そう言った。
「…先に帰ってよかったのに」
「最近危ないから一人にできない、実際一度危ない目にあってる」
「…そうだけど」
「帰ろう」
手を取られた。アンジェラの手は温かくて、なんだか涙が出そうだった。それは担任にひどく責められたからもあるかもしれなかった。
「…アンジェラはいいこだね」
「何?急に」
「なんでもなーい」
アンジェラのことが気になる。何をしているのか、何者なのか、男と二人暮らししているのは本当なのか…。
疑問は尽きない。
だけど、信じるって言ったのは私だ。だから、アンジェラの事を信じたい。
アンジェラの事は、アンジェラが話したくなるまで待とう。そう決めた。
そして、二人が校舎から出てくるのを誰かが見ていた。
◇◇◇◇◇◇
「あのガキども…。」
ブリジットは校舎の中から自分の受け持つ生徒達が出ていくのを見ていた。
エマとアンジェラ。二人とも美しくて、それだけでブリジットは気にくわなかった。
ブリジットは自分が十代の、一番美しいはずの時でさえ美しいと言われなかったし、今もそれは変わらない。親の言うままに教師になり、生徒をいじめるのが楽しみだ。
アンジェラ。特にあの生徒は気に入らなかった。
淫売の代名詞に瓜二つのその顔や、なのに堂々としたその姿。せめて申し訳なさそうにすればいいのに。
気に入らない。何もかも。
エマが変な方向に行かないように忠告してやったのに、言うことを聞かなかった事も気に入らない。
ブリジットはいらいらして、髪をかきむしった。
いらいらすると髪をかきむしるのはもう子供の頃の癖だ。そのせいで癇癪持ちのブリジットと呼ばれていた。
好きな男の子にもそうからかわれて…、いや、その事は思い出したくない。
でも、今のブリジットは違うのだ。なんだって…。
思い出してブリジットはほくそ笑んだ。
「まあいいわ、今はね」
窓の外から校門の辺りを見ると、もうアンジェラもエマもいなかった。それを確認すると、ブリジットはそのまま教室を出た。




