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アヤメと町で……

「ナツキ。傷の具合はいいのか?」

 空になったグラスが三つ。

 四つめのグラスのトマトジュースを飲んでいるカエデは、随分と食欲がある様子だった。

「うん。ヒスイさんに手当てしてもらったから」

「そうか。ユズハは拒否したんだってな」

「え……?」

「手当ては受けた。レイから。だがあいつの回復魔法は種類が少なく、体力を消費するものしかない。まだ、医務室で寝ていた」

 候補生用の医務室は俺とカエデがいる西館のカフェと同じ一階にある。

 俺はカフェを後にし、医務室に向かった。

「おお。見舞いに来てくれたのか」

 部屋を見て少し驚く。

 意外だったから。

 コウヨウはいないだろうと思ったけど(私室にさっきいたし)アヤメの姿もない。

 セツナがせっせと医務室の道具を使って、薬草を煎じており、レンがぼけっとユズハの近くに座っていた。

「大変だったんだな」

「まあな。MPが切れてから、ハンターに追い掛け回されて、攻撃をくらいながら走って逃げ回った。四時間近く」

「ヒスイさんが援護に来てくれないと危なかった」

 ユズハはセツナの言葉に、顔をしかめる。

 ヒスイが苦手らしい。

「どうして?」

 俺はヒスイの治療を拒んだ理由が聞きたかったけど、違うふうに解釈された返事がきた。

「アヤメはストレスがたまったみたいだ。ガードを連れて町に服を見に出かけた。元の世界でも買い物できないし、最近辛いんだろ。それでも治療が終わるまでは一緒だったぜ」

「そっか」

 そこでふと気が付く。

 これって、アヤメと個人的に会うチャンスじゃないか?

 俺はユズハの慰問もほどほどに、町に向かう事にした。

 長居して看病するほど悲惨な感じでもないし。


 赤毛の少女が、民族衣装風の服をあれこれ手にとって眺めている。

 近くでは鎧の騎士がどっしりと立っていた。

「どうして? どうして?」

 ぶつぶつと独り言を呟いている。

「アヤメ」

「あ、ナツキ。ここのお洋服、可愛くないの!!」

「えっと……うん」

 俺にはどんな女の子の服がかわいいのかよく分からなかった。

 けれど、相槌を打ってみる。

「向こうの世界ではお買い物できないし、こっちの世界のは可愛くないし……」

「そうだね」

 ユズハがアヤメはストレスがたまっていると言っていってたけど、金切り声を出して嘆く様子からして、相当らしい。

「こっちの世界にきてから、樹が血まみれになって大怪我をするし、人間に襲われて戦わないといけないし、もうこんなのイヤーー!!」

 泣き叫ぶアヤメを抱きしめたりできるほど、俺は大人ではなかった。

 ただおろおろして、アヤメを見ていることしかできない。

 相手の距離感のはかり方とか、よく分からないんだ。

 そんなにアヤメと親しい気がしないし。

「アリスモールに行きたい!! アリスモールに行きたいのー!!」

 アリスモールまで、交通費すら、かなりの料金がかかる。

 あのファンシーなバスが異様に高かった。

 雲が空の月を隠した。

 世界は真っ暗になる。

 こんな時、何もできない自分の無力さが悲しかった。

 俺は小さな存在でしかない。

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