Chapter7 閑話と呼ばれたもう一つ
晴翔に腕を引っ張られたままコンビニへと向かう。嬉しそうなこいつは、今にでもスキップし始めそうだった。
「何がそんなに楽しいわけ?」
「いやあ、だってあの明吉先輩がさ! あの人間嫌いの明吉先輩が、るきちーと仲良くしてんだぜ!」
「……人間嫌い? あの人そもそも何者なの?」
あーとかえーとか口ごもった晴翔は、ややあって口を開いた。
「俺佐学に通ってるっつったろ? で、まあ結構荒れてたんだけど。そん時にお世話になった人、です、ハイ」
「何それ詳しく聞かせて」
「目輝かせんなよ……俺だってちょっとまあいろいろあったんだって。行けって言われてた学校落ちて佐学に入ったわけだし。イライラ溜まってたっつーか、抑えきれなかったっつーか。んで、髪染めてピアス開けてさ、やっぱし先生にキレられて。そん時に退学にならないですんだのは明吉先輩のおかげっつーか……うん。俺の人生の恩人かな」
「……晴翔、今カッコつけたね?」
「うるせぇよ」
風が頬を撫でていく。ポツンポツンと建っている街灯が晴翔の顔を照らしていた。人通りが少ないこの通りにはやはり明かりも少なく、全体的に暗い。微妙に欠けた月が、ぼんやりと道を照らしていた。
ふと、何故晴翔が合コンに来たのかという疑問が浮かんだ。昔は気が弱くて目立つのが嫌いだった晴翔が、まさか合コンなんかに来るとは思わなかった。私自身クラスメイトの子に誘われるきを引きずって参加した、初めての合コンだったわけだけど。……晴翔は、慣れているのだろうか。
しばらく見ないうちに背の伸びた彼を、なんとなく見つめる。髪も染めてるしピアスも開けてる。昔の晴翔ならピアスなんて泣き叫んで嫌がっただろうに。
「……真紀はさ、」
ぽつり、彼が呟くように口を開いた。
「合コンとか、慣れてんの」
「……初めてだって。晴翔こそどうなの」
「俺も初めて。いい加減猩々さんに彼女作ってほしくてさ」
そこまで言って溜息をつく晴翔に少し面白くなる。
「丁度ダチに誘われたし、まァ猩々さんが上手くいけば儲けもんだと思って。……上手く行っちまったのは俺なんだけどな」
ガシガシと頭をかきながら彼は笑った。変わらないその笑顔に安心する。
「私も、まさか晴翔がいるとは思わなかった。相模くんと付き合うの!? ってるきにめちゃくちゃ聞かれたからね」
「いや俺は真紀がこっちにいることにオドロキだったわ」
音を立てて、コンビニの自動ドアが開いた。冷たい空気が髪を掬って抜けていく。
「んー、明吉先輩には甘そうなヤツで……真紀はどれにすんの。あ、ついでにるきちーのヤツも選んで」
「自分のくらい自分で買うわよ。るきには後で金払わせればいいし」
なんとなくるきの好きそうなチョコレートのロールケーキを二つ選ぶ。私もこれでいいや。飲み物はいらないか。どうせ余す。
そんなことを考えていると、ひょいっと私の手からロールケーキが奪われる。慌ててその手の主を見れば、彼はニヤリと笑っていた。
「少しくらいカッコつけさせてくれよ」
「……晴翔の癖に」
「くせにってなんだくせにって」
やけに愛想のいい店員さんに手渡されたビニール袋をぶらぶら揺らし、私たちは暗い道を戻っていく。行きよりも、少しだけ口元を緩めながら。




