Chapter4 最悪、再会、災難
とりあえず、本でも読もうか。ペンを走らせるお隣にチラチラと視線をやりながら、私は自分の手元にある本に集中しようとする。しかしどうも気になってしまい、もう諦めて猩々さんをガン見することにした。
合コンの時着ていたオシャレな服ではなく、パーカーにジーンズだ。メガネもかけてるし髪もところどころ跳ねている。描くときはメガネ派だったりするんだろうか。そんなことどうでもいいけど。全く知りたくないけど!
……超集中してる。この人の集中力半端ないな。店内は決して静かなわけではないのに、彼は静寂を纏っている。まだ手を付けていないミルフィーユの皿に、猩々さんが移動させた絵が触れた。なんとなく目を通して、でもやっぱり気になる。思わず手を伸ばした。
手元の紙を覗けば、綺麗なイラストが描かれていた。どうやら設定資料のようだ。
……この絵。すっごく好み。キリッとした切れ長の瞳。肩上で一本に結ばれた長髪。一瞬でキャラに心を奪われる。慌てて上からもう一度読み直した。
「……え、」
「おい! なんで君が僕の資料を持っているんだ!」
突然話しかけられ、しかしうまく答えることもできずに、あー、えっと、と言葉にならない声を漏らす。
「何なんだよその顔は」
舌打ちをしながら猩々さんが私の手から紙を奪い取った。いやいや、だって。
「いや、あの、この人サブキャラなんだなって思って。この人と比べちゃったらメインの男のキャラ薄すぎません?」
「薄くない」
「それってどんだけ濃いキャラなんですか……あの、メインの男のキャラ設定って」
「これだ」
紙を手渡されて、描かれた絵に感嘆する。黒髪で人のよさそうな笑みをたたえる美少年。設定欄には、イケメン。モテる。という情報と、基本のプロフィールのみ。
「……あー」
「なんだよその反応は」
溜息をついて紙を猩々さんに返す。何というか、うん。確かにイケメンだったらモテるだろう。この容姿なら確実にモテるだろう。でもさ、サブキャラ君がエリートでイケメンで主人公と幼馴染なのに、その主人公と最終的にくっつくであろう男キャラがイケメンなだけってどうよ。それ話続くの?
「なんかイケメンなだけで、これじゃあ確実に上辺のモテっぷりを披露するだろうなと」
「なんだ、じゃあ君は本当にモテる男がどういうものかわかっているのか? それをキャラとして描きだすことはできるのか? 出来もしないのに文句を言わないでくれ」
「文句っていうか……はぁ、すみません。でもせっかく顔はいいのに、比べちゃうとキャラ薄すぎて、あれじゃあこの子が可哀想だなって」
「君はキャラじゃないだろ」
「いやそうですけど! そうですよ、私はキャラじゃない! そんなこと再確認しなくてもわかることですよね面倒くさいなあ!」
「なんだって? 君が僕の設定画を盗んだ挙句知ったかぶった文句しか言っていないから、それを教えてやってるんだよ。まったく失礼な女だな!」
「盗んでなんかないです! ちょっと見せてもらっただけでしょ! 最近の大人はあんぐらいの意見でもう傷ついちゃうんですか? うわー軟弱」
馬鹿にしたように笑う。……言いすぎた、かも。ハッとして黙りこくる彼の方を見る。
「……君も人としてどうかと思うぞ! 何が顔はいいのに性格が残念すぎて、だ! キャラが可哀想? 君は可哀想と言えるだけのスペックでも持っているのか!? 持っているんだろうな、お偉い君のことだから!」
そこまで一息でまくしたてられ、私何か悪いことしたっけ、と頭を巡らせる。じわりと涙が浮かんできた。馬鹿か、ここで泣いたらまた嫌味言われるだけに決まってる。
「私もアンタのこと人としてどうかと思います! なんでこんなに怒られなきゃいけないんですか!? それともあれですか、いたいけな少女を言葉責めする性癖でもお持ちですかうわあ気持ち悪い。もう会わないことを祈ります!」
自分の出しうる最大のスピードで席を立ち、会計を済ませてCaféポルトを出る。目をかっぴらいて涙をひっこめた。何なんだ、せっかくの休みだったのに! ミルフィーユだって残してきちゃったし! あの男のせいで最悪じゃないか。全部全部あの男のせいだ。そう考えると、少しだけ落ち着くような気がした。




