Chapter3 偶然という名の企み、必然という名の事件
<どうせまた溜息ついてんでしょ。アンタの気晴らしに付き合ってあげる。十二時にポルト。おごるから来なさいよ>
そんなメッセージがチャットアプリで届いたのは、ついさっきだった。慌てて髪を整えて、鞄を持って家を出た。真紀が自分から奢ると言い出すなんて珍しい。珍しすぎる。熱でもあるんじゃないだろうか。昨日の嫌な出来事は忘れることにして、目前の楽しみに気を向けた。
なのに。
<ごめん! ちょっと晴翔に頼まれちゃって、今日無理になった! 今度行こう。ごめんね>
なんてメッセージに溜息。真紀のドタキャンはよくあることだ。彼女は私よりも友達が多いし、私よりもいろいろ忙しい。付き合いの食事とかもあるんだろうし、真紀のドタキャンは次遊ぶときの飯の奢りで許している。
それにしても、晴翔って相模君のことか。昨日の合コンに来てたあの金髪くんだろう。真紀と親しげに話してたし、もしかしたらもしかするのかもしれない。明日散々問い詰めてやろう。
ニヤニヤしながら、ポルトの扉を開く。せっかく来たのだから、何か食べていきたい。ドアベルの音にこちらを向いた店員さんがにこりとほほ笑んでくれた。いつも思うけれど、ダンディーなおじさまだなぁ。
「お客様、あちらのカウンター席へどうぞ」
割と美人な店員さんに言われ、指された席へと向かう。あの店員さん、『トウィンクル・シグナル』の水葉ちゃんに似てたな。きっとあれで天然だったらもっとキャラが立つっていうか、まあ完璧水葉ちゃんなんだろうけど。
メニューの中からオレンジジュースとミルフィーユを注文する。窓際のカウンターだから日射しが入って気持ちいい。その日差しに目を細めながら、私はメニューを閉じた。その瞬間、視界の端に何かが映った。……うわあすごい。一心不乱に絵描いてるよお隣さん。ポルトには、意外とこういうお客さんが多いように思う。PCで仕事をしている人とか、宿題をやっている学生もたまにいる。それにしても、よく集中してるなぁ。ボケっとその様子を見ながら考えた。と、突然お隣さんは頭をかきむしり、ペンを置く。そしてなんだかめちゃくちゃ甘そうな飲み物をすすった。うえ、甘そう。あれホットチョコレート? 生クリームの量ヤバいでしょ。一気に飲み干して、再びペンを取る。その拍子に、消しゴムがカウンターの下へと転がり落ちた。
「……あの、消しゴム落ちましたよ」
おそるおそる声を駆ければ、甘党さんはこちらに視線を向ける。
「すみません、ありがとうございま……」
「……」
お互いに無言で視線を逸らした。……なんでこの男がここにいる。楽しかった気分が台無しだ。猩々さんを視界から外しながら、私は思い切りオレンジジュースをすすった。
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