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僕たちは一目で恋に落ちない  作者: 吉須賀 陽子
ちっぽけな世界ですら広すぎる
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Chapter23 馬鹿正直は馬鹿ではない

 助け出した彼、恋をした彼女、呼吸をやめた先生、好きだった君。魔法をかけよう。僕の世界で生きる人が、もっと幸せに生きれるように。僕の魔法はどこにある?


 その響きが好きだった。創作について書かれたであろうこの文章に、俺はなんとなく惹かれてしまった。元々読書が生活の一部と化していた俺は、学校祭で初めて見に行った文芸部の展示にてこの部誌を手に入れたのだ。もちろん、一年の初めに入部は考えていた。読むのは好きだし、お話を考えたことがないわけじゃない。自分も書いてみたいと考えるのは、読書好きの人間が誰しも通る道だと俺は思っている。しかし、仮入部する勇気はなかった。顧問も誰だかわからないし、顧問がわからなければ入部届けも出しようがない。困り果てた結果、俺は入部を諦めたのである。


 一年の学祭は、なんだかんだ忙しく文芸部の展示に近づくことはできなかった。……入部したい、の一言も言えない自分が後ろめたかった、というのもある。意識的に近づかなかったのかもしれない。二年になって、後輩たちの出し物を見に行ってやれと言われ暇をもらってしまった俺は、悩みに悩んで、ひっそりと文芸部の展示を見に行った。その時にもらった部誌に、これが書かれていたのだ。夜月さんのこの文章が、なんとなく好きだった。友人に見せたらわけわかんねーと一蹴されてしまったけれど。でも俺は、書きたいと思えた。俺の世界で生きる人に、ちゃんと魔法をかけてあげられれば。今思えば大分恥ずかしいが、その時はそう思ったのだ。


 そこからの行動は早かった。担任に顧問を聞きだして見学に押しかけて、次の年一年と一緒に入部。何でこんな簡単な事、俺は躊躇っていたんだろう。そう考えるほどあっさりことは進んだ。予想外だったのは、作者である夜月さんが卒業してしまっていたことだ。何の根拠もなく同じ学年だと思い込んでいた俺は、その事実に驚愕した。夜月さんと直接議論がしたかったのに。それを聞いた時はショックで、手に持っていた部誌を破いてしまったのを覚えている。


 そうしてようやく。ようやく今日、彼女に会うことができたのであった。考えていたより気さくで明るい彼女は、その笑みをひきつらせて俺を見上げていた。何を考えているのかとても分かりやすい人で、ケーキ屋の前を通った時も、ケーキ食べたいという考えが顔にありありと浮かんでいた。寄らないかと提案すれば、不思議そうに目を泳がせて、けれどそれを悟られないようにか小さく笑った。何でわかったのとでも言いたそうな顔だ。


 せっかくほかの部員が二人っきりにしてくれたんだし、作品について思いっきり談義しなければと考えていた俺には、彼女のその考えは好都合だった。多少強引ではあったが夜月さんとその店に入ることに成功する。俺の言葉に慌てる夜月さん。その姿は、なんだか先輩らしくなかった。


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