Chapter20 思い違いと想いの違い
汽車に乗るまでよりもだいぶ涼しい風に、ぶるりと鳥肌が立つ。
「ごめんね、今お父さんが車使っちゃってるから迎えに行けないのよ。自力で帰ってきて」
「はぁ~?」
「本当ごめん。それじゃ」
軽いトーンで切られた母からの電話に溜息。重い荷物を抱えなおしつつ、家までどう帰ろうかと考える。電車が一番安いが、駅で降りてから少し歩かなきゃいけない。バスに乗るっていうのも一つの選択肢だけど、時刻表を確認しなきゃいけないし。私時刻表見るの苦手なんだよね。この大荷物を背負ったまま、よくわからないバスに乗るのは怖すぎる。大人しく電車に乗ろうか。
「……先輩?」
電停に向かおうとしたその時。聞き覚えのある声が聞こえて、思わず声の方へ振り向いた。
「夜月先輩、ですよね?」
「もしかして倉間!?」
「はいっす!」
変わらない様子の彼女は、一年前と同じ様に笑っていた。部活は上手くいっているのか、立花は上手く皆をまとめられているのか、新入部員は入ったのか。それから……。聞きたいことが多すぎて言葉にならない。はくはくと口を動かして、あの、えっと、と繰り返す私を倉間は笑って見ていた。
「部活はどう?」
「問題なく楽しめてます」
「立花はしっかり部長やってる?」
「……まあ、新しく入った子がまともなんで。周りの力もあるっすけどね」
ああ、新入部員入ってくれたんだ。少人数の部活は廃部になると聞いていたから、私の題で四人だった部が続いていることにほっと息をつく。
「……倉間は、立花に告白した?」
「は?」
「え?」
何だその反応は。彼女、倉間莉久は現部長の立花が好きである。もちろんライクではなくラブで。これは本人から聞いた話であるし、彼女から何度か相談も受け受けている。
「倉間、もう好きじゃないの?」
「……好き、ですよ。何言わせてんすか先輩」
「えっじゃあ告白は? したの!?」
「……しましたよ」
ムッとしたまま彼女は言った。もしかして、フラれてしまったんだろうか。……私、最低なこと聞いたかもしれない。そんな考えが顔に出たのか、彼女はフッと表情を和らげる。
「流されたんっす。……俺もお前らの事仲間だと思ってるぞって」
「……仲間? 倉間、それなんて告白したわけ?」
「別にフツーっすよ、先輩の事ずっと想ってますって」
思わず溜息。この子はどこかズレているのを忘れていた。というか立花も立花である。何だ仲間って。
「あの鈍感立花にそんな遠回りな告白で伝わるわけないでしょ。ちゃんと好きって言わなきゃ」
「なっなっ、言えるわけないっすよそんなこと! 何恥ずかしいこと言ってんすか先輩!」
真っ赤に顔を染めた彼女に呆れる。そんな純情じゃいつまでたっても付き合えないっつーの。というかむしろ立花なら、好きですと告白したところで俺も好きだぞ、友達だもんな! とか返って来そうで怖い。……そんなキャラもいいかもな。猩々さんに提出しておこう。
あいつは、立花は。何を考えているかわからないのだ。明らかに見た目は体育会系の癖に、何で文芸部に入ったんだろう。しかも奴の描く小説は繊細な純愛ストーリーである。生み出したキャラたちにその繊細な感情、全部持っていかれてるんじゃないのか。
「先輩?」
「あっ、ごめん考え事してた」
「ああそうっすか。あの、先輩。明日も部活あるんす。もしよかったら、明日部活見に来てくれませんか」
もちろん断る理由などなかった。倉間と立花の新作も気になるし、新入部員も見てみたいし。
「え、良いなら是非」
「本当っすか! 待ってますからね、明日の部活は十時から昼過ぎまでなんで」
それじゃ、明日! 笑顔でそう言った彼女は、私に向かって小さく頭を下げて遠ざかっていった。予定のできた明日を嬉しく思いつつ、今まで地面に置いていた重たい荷物を持ち上げる。ああ、ここから家まで帰らなきゃいけないのか。憂鬱を背負い直して、私は大人しく電停へと向かった。




