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僕たちは一目で恋に落ちない  作者: 吉須賀 陽子
ちっぽけな世界ですら広すぎる
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Chapter19 被れない猫もある

「うっわーあの子可愛いな」

「ホントだ。モデルかなんかか?」


 ……そんなことわざわざ、私に聞こえるように言わなくたっていいのに。私が可愛いのなんてわかりきってるんだから。こんなこと言うと嫌味に聞こえるかもしれない。でも散々可愛いと言われ続けてみろ、だんだんそれしか言うことねーのか、なんて思うようになってくるから。今日もそれなりに繁盛しているCaféポルト。私はトレイ片手に愛想を振り巻きながら、周りの声に鼻を鳴らした。


「さっすが桜木さん! 可愛いは正義ですねぇ?」

「……栄、余計な事言ってるとその口縫い付けるわよ」

「これ角のボックス五番にお願いしまーす」


 同じホールバイトである栄にトレイを手渡される。へらへら笑いやがって、腹立つなぁ。この男、私にケンカ売ってるのかしら。ケンカなら買うけど。ギッと奴を睨んでから、私は営業スマイルを浮かべてボックス席五番へ向かった。女一人に男二人……修羅場かしら。野次馬根性丸出しで、耳をそばだてる。


「るきちーもいれば、明吉先輩も……おっと」

「お待たせしました、こちらアイスココアとケーキのセットになります」


 手渡してにこりと微笑めば、金髪の男は感心したように私を見つめた。そのまま背を向けると、聞こえてくる言葉。


「可愛い子でしたねぇ」


 まったく、男ってそれしか言えないのかしら。隣のボックス席の食器を片づけながら、私は小さく溜息をついた。


「君は女の趣味が悪いな?」

「はァ!?」


 私も同じように大声を出しそうになって、さっきの溜息をのみこむように息を吸い込んだ。


「どう考えても……」


 声を背後に流しながら、私は慌ててその場を去る。なっ、なっ、なんなのよあの男! キッチンへ皿を任せ、トイレにこもる。鏡を見つめれば、いつもと変わらない私がいた。うん、いつも通り可愛いじゃん。あの男が変なだけよね、そうそう。

 ……それか、あの男に彼女がいるのよ。そうだ、さっきだって女の人らしき名前が会話に出てたじゃない。るきちーだっけ? あの人はその彼女を溺愛してるんだわ。一人必死で頷いて、鏡に向かってにっこりスマイル。よし、可愛い。


「何ですか急にこもって。何かありましたぁ?」

「なにもないしあっても栄には言わない」


 出た途端栄に絡まれる。最悪だ。音を立てた入口に目を向ければ、さっきの男が一人外へ出ていくところで、思わずぐるんと目をそらした。


「……もしかして桜木さん、あの男に惚れちゃってたり?」

「は? なにバカな事言ってんのよ。仕事に戻らないと先輩にどやされるわよ。私がどやそうか?」

「……つまんねぇの」


 ふいっといなくなった栄。さて、私も切り替えて仕事に戻ろうかな。


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