Chapter18 お世辞のボキャブラリー
昼過ぎ。穏やかな空気の流れるポルトで、向かいに座る相模と南。僕は頬杖を突きながらヤツらを見た。毒々しい色のメロンソーダをすする相模は、僕の視線に気が付いたのか小さく咳払いをする。
「あんまり見つめないで下さいよ、明吉先輩」
「気持ち悪いことを言うな。おい、今日わざわざ僕を呼び出した理由はなんだ」
「理由、ねえ。仲良くしたかったからじゃダメですか?」
笑いながら南は目の前のコーヒーに口をつける。何が仲良くしたかっただ。ふざけてる。そんなこと微塵も思っていないくせに。二人セットで来るくらいならもっとイチャイチャしてるところを見せろ。ネタにならないカップルは死ね。
「いや、本当はるきちーも呼ぶつもりだったんスよ? そのほうが明吉先輩もいいっしょ? 漫画のネタとか話せるし、執筆も進むかもって」
「残念だけど、るきは今地元に帰ってるのよ。まあ夏休みだし当然っちゃあ当然だけど」
地元? 夜月はここ生まれじゃないのか。いらん情報を手に入れたな。
「るきちーもいれば、明吉先輩も……おっと」
「お待たせしました、こちらアイスココアとケーキのセットになります」
若い女の店員が僕の分のアイスココアとケーキを運んでくる。何の理由もないのにわざわざ僕を呼び出したんだ、ここは相模に払わせよう。そんなことを考えながらケーキを口に運んだ。その考えがバレたのか、相模は突然溜息をつく。
「可愛い子でしたねぇ」
「誰がだ」
「さっきの女の店員さんっスよ。それこそ漫画の主人公みたいじゃないスか?」
ちらりと店員に視線を向けながら相模は言う。僕はその店員の背中をまじまじと見つめた後、先の相模と同じように溜息をついた。
「君は女の趣味が悪いな?」
「はァ!?」
「どう考えても雪乃のほうが美人だろ」
「二次元と三次元を比べちゃダメでしょう、猩々さん」
呆れたように南は呟いた。二次元だろうと三次元だろうと、僕の言う美人の基準が変わる予定などないがな。
「でもあんな美少女あんまりいないじゃないスか!」
「そうか? お前が周りを見ていないだけだろう。南だって十分整った顔をしていると思うが」
鼻で笑いながらからかうように言えば、思いっきりメロンソーダをすする相模。おいそれ炭酸だろう。
「ゲホッゲホゲホッ」
ああ言わんこっちゃない。
「……なんて反応して良いかわからないんですけど。えーっと、まぁ、ありがとうございます?」
「別に褒めたわけじゃない」
「ああそう」
そんな会話をかわす。南の横で、相模はいじけたようにストローを齧っていた。おいやめろ、みっともない。
「……るきちーがいたらうまく言い返してくれただろうなぁ」
「どうせあの子は鳴海さんのほうがカッコイイよ! としか言わないわよ」
「それもそうか……」
ココアを飲み干して、僕は咳払い一つ立ち上がった。
「用事がないなら僕は帰らせてもらうぞ。ああ相模、デートの口実に僕を使うのはいいが、イチャイチャする気がないならハナから呼ぶんじゃない」
「……は? はあ!? ちょっ明吉先輩!」
慌てたような相模の声は無視だ、無視。




