Chapter17 それはまるで楽園のような
四方をビルに囲まれているはずなのに、どこから響いて来るセミの声。喧しいほどではないが、確かに夏を叫んでいる彼ら。ギラギラ、私を射殺そうとするかのような日差しは鋭い。汗を垂れ流したサラリーマンとすれ違う。このうだるような暑さの中、外へ出るのは嫌なのだろう。やけに歩みの遅い犬は、電柱の陰から動こうとしていなかった。
一方で、帰路をたどる私の足取りは軽い。なんてったって、今日でテストが終わったのだ。レポートもこの間出したので終わり。つまり、期末のミッションはすべてこなしたことになる。明日からは講義も休み。
そう、夏休みがやってくるのだ。
夏休み。学生ならば誰でもときめく言葉。大学に夏休みの宿題なんてものはないし、その期間はほぼ一か月半。私には十分である。一か月半もあったらなんだってできる気がする。
「機嫌いいわね」
「だって明日から夏休みだし!」
隣を歩いている真紀が、面白そうにこちらを見た。
「夏休みってことは、洗濯も風呂掃除もしなくていいんだよ? もう超楽じゃん!」
「……どういうこと? アンタどっか泊まるの?」
「あ、言ってなかったっけ。私明日から夏休み終わるギリギリまで実家にいるんだ~」
「実家って、あんた家こっちじゃなかったんだ」
初めて知った、と続ける真紀。あれ、自己紹介する時に言った気がするんだけどなあ。でも真紀が知らないってことは言ってないんだろう。何か考えているような真紀は放っておいて、明日からの生活に思いを馳せる。
漫画読んで、アニメ見て、ゲームやって、小説書いて……やりたいことはたくさんある。
「じゃあこっちでは一日も夏休み過ごさないってこと?」
「そうだけど?」
「……一週間くらい早く帰ってこない? 私だってるきと遊びたいのよ」
照れたような彼女に、私は思わず寒気を覚えた。何をして遊ぶ気だこの女。私相手に一緒に遊ぼうだなんて口にしたことなんてないくせに。いや、でもこれが本心だったりするのか? いやいや、どうせまたデートみたいなのをさせられるに決まってる。ここは断らなきゃ、うん。
「ほら、夏休み終わる一週間前に、こっちで『マジカルリリースかりんちゃん』のオフィシャルファンブックが先行発売するわよ」
「了解! 一週間早く帰ってくるね!」
かりんちゃんの為なら夏休みくらい削ろう。たったの一週間じゃないか。真紀とだって遊びまくろう、うん。
「じゃあ私こっちだから」
いつも通りの別れ道でひらりと手を振る真紀を見送って、私は再び夏に踏み出した。




