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僕たちは一目で恋に落ちない  作者: 吉須賀 陽子
ちっぽけな世界ですら広すぎる
17/24

Chapter17 それはまるで楽園のような

 四方をビルに囲まれているはずなのに、どこから響いて来るセミの声。喧しいほどではないが、確かに夏を叫んでいる彼ら。ギラギラ、私を射殺そうとするかのような日差しは鋭い。汗を垂れ流したサラリーマンとすれ違う。このうだるような暑さの中、外へ出るのは嫌なのだろう。やけに歩みの遅い犬は、電柱の陰から動こうとしていなかった。


 一方で、帰路をたどる私の足取りは軽い。なんてったって、今日でテストが終わったのだ。レポートもこの間出したので終わり。つまり、期末のミッションはすべてこなしたことになる。明日からは講義も休み。

そう、夏休みがやってくるのだ。


 夏休み。学生ならば誰でもときめく言葉。大学に夏休みの宿題なんてものはないし、その期間はほぼ一か月半。私には十分である。一か月半もあったらなんだってできる気がする。


「機嫌いいわね」

「だって明日から夏休みだし!」


 隣を歩いている真紀が、面白そうにこちらを見た。


「夏休みってことは、洗濯も風呂掃除もしなくていいんだよ? もう超楽じゃん!」

「……どういうこと? アンタどっか泊まるの?」

「あ、言ってなかったっけ。私明日から夏休み終わるギリギリまで実家にいるんだ~」

「実家って、あんた家こっちじゃなかったんだ」


 初めて知った、と続ける真紀。あれ、自己紹介する時に言った気がするんだけどなあ。でも真紀が知らないってことは言ってないんだろう。何か考えているような真紀は放っておいて、明日からの生活に思いを馳せる。

 漫画読んで、アニメ見て、ゲームやって、小説書いて……やりたいことはたくさんある。


「じゃあこっちでは一日も夏休み過ごさないってこと?」

「そうだけど?」

「……一週間くらい早く帰ってこない? 私だってるきと遊びたいのよ」


 照れたような彼女に、私は思わず寒気を覚えた。何をして遊ぶ気だこの女。私相手に一緒に遊ぼうだなんて口にしたことなんてないくせに。いや、でもこれが本心だったりするのか? いやいや、どうせまたデートみたいなのをさせられるに決まってる。ここは断らなきゃ、うん。


「ほら、夏休み終わる一週間前に、こっちで『マジカルリリースかりんちゃん』のオフィシャルファンブックが先行発売するわよ」

「了解! 一週間早く帰ってくるね!」


 かりんちゃんの為なら夏休みくらい削ろう。たったの一週間じゃないか。真紀とだって遊びまくろう、うん。


「じゃあ私こっちだから」


 いつも通りの別れ道でひらりと手を振る真紀を見送って、私は再び夏に踏み出した。


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