Chapter15 やましいことはしてません
「明吉先輩、今るきちーと一緒にいます? 真紀の携帯からも全然連絡つかなくて」
スマホを耳に当てれば、心配そうな相模の声が雑踏に交じって聞こえてきた。どうやら向こうも探していたみたいだ。
「さっき合流した」
「あ、そうなんスか。ならよかった。えーっと、今どこら辺にいます?」
自分たちの居場所を伝えようとして、思い出す。僕が今日ここに来た理由を。そうだ、僕は相模と南を漫画のネタにするために来たんだ。それなら、ネタにするまでは帰れないじゃないか。
「そっちこそ、今どこにいるんだ」
「俺らっスか? 花火見るとこの近くの……クレープ屋の前らへんです」
「そうか。こっちは――あ、おい夜月! やめろ馬鹿、おいっ!」
大声を上げて通話を切れば、目前の夜月が目を見開いていた。僕はそれを無視して立ち上がる。酔いは醒めたようだ、気分も悪くない。
「な、なんですか。私何もしてませんよ!?」
「ようやくネタにありつける……! おい夜月、行くぞ。クレープの屋台の前だ!」
何が何だかわからないといった顔をしながらも付いてくる夜月。芝居だ、それくらい気付け馬鹿。花火が見れるスポットは、きっと逆だろう。さっきは人の波に逆らってきたからな。となると、こっちに進んでいけば……あった、クレープ屋台。
「おい夜月、隠れろ!」
木の影へと夜月を引きずり込む。クレープ屋台の前で、きょろきょろと周りを見回す相模がそこにはいた。
「痛いんですけど! 突然何するんですか!?」
「静かにしていろ、相模にバレる」
「……相模くん?」
人混みの中でも、あのチャラチャラした金髪は目立つ。残念ながら側に南はいないようだった。何か買いに行ってるんだろうか。ひっそりと奴を見つめていると、その周りに少しの変化が生じた。
「し、猩々さん……あれ、相模くん逆ナンされてません?」
若干笑いをこらえたような夜月の声が、後ろから聞こえてくる。相模や声をかけた女が何を喋っているのかはわからない。だが相模は困ったような顔をしている一方、女はにこにこヘラヘラしているし。確かに、ナンパされている可能性は大いにある。
「あっ真紀、」
するり、と。南が相模の腕に自身の腕を絡める。そうして、なんでもないように周りの女たちに微笑んで見せた。つまらなそうに去っていく女たち。相模の赤い頰。南の勝ち誇ったような顔。――これは、すごい。夜月に手を握られる。その手は少し震えていた。いや、震えているのは僕の方かもしれない。わからない。わからないほどに、興奮していた。
「すごい……すごい『流れ星回線』みたい……!」
「まんまマイと誠司じゃないか……!」
「ホントそれな! 逆ナンから庇うマイちゃんマジかっけーッス!」
「照れる誠司の気まずさといったら!」
「マイちゃんの男気が!」
手を握り合ったまま、『流れ星回線』について語り合う。頭には『流れ星回線』のことしかなかったのだ。だから、いつもなら気が付くはずの人の気配にも全く気がつかなかった。そう言い訳させてほしい。
「二人とも、こんな暗がりで何やってんの?」
降って来たのは南の声。ピタリと停止した僕ら二人。さまよわせた視線が、バッチリ夜月と合う。
「はっ、離れろ!」
「はっ、離してください!」
思いっきり手を放して、互いに飛び退った。
「こんな所で手ェ繋ぎ合って何やってたんスか?」
「初デートでもう……なんて、るきは積極的だなあ」
それに笑いながらも、相模がさらに爆弾を落とす。それにニヤニヤしながら南がノる。……最低な悪循環だ。
「で、デートじゃないし! 猩々さんのことは好きじゃないですよこんな強引暴力男! 鳴海さんみたいなこと言いやがって!」
「……それはこっちのセリフだ、考えなしの馬鹿女。雪乃みたいな言葉は、君がどう頑張っても似合わないだろうさ」
睨みあって、次は何と言い返してやろうかと考えているうち。相模が口をはさんできた。
「で結局、こんな所に二人で何を――」
その瞬間である。大きな音をたてて、花火が上がり始めたのは。……花火なんて、何年振りだろうか。ぎゃあぎゃあ騒いでいる三人の声が、なんだか遠くに聞こえる。ガラじゃあないが、今だけは。この夏の風物詩に酔いしれていたかった。誰だ現実逃避とか言った奴。




