Chapter14 夢を見ている場合ではない
泣きそうな顔をした夜月がなんだかうっとおしくて、買ったわたあめを押し付けた。本当は自分の為に購入したのだが仕方がない。というか勝手にはぐれたこの女が悪いんだろ。うるさい、代金くらい払え。
「……君のせいで相模と南を見失った」
「そんなら手でもつないでくれりゃ良かったじゃないですか」
「はぁ? 僕と君がか? 何でそんな少女漫画みたいなことをしなければいけないんだ、絶対やだねキモチワルイ」
「そこまで言います!? それにこっちの台詞ですからねそれ!」
溜息をつくと同時、めまいがして思わず眉間を押さえる。若干の吐き気に襲われて、さっきわたあめを食べていなくて良かったななんてぼんやり考えた。
「……猩々さん? どうしたんですか? 傷つきました?」
誰が傷つくか! 言い返したくても言い返せない言葉が喉の奥で呻き声に変わる。夜月が困ったようにきょろきょろしはじめた。うっとおしいからやめろ馬鹿。
「猩々さん、具合悪いんですか? あの、歩けます? 歩けそうならあっちに移動しましょう、そこすっごく邪魔ですから」
グイグイと腕を引かれながら暗い木の影へと向かう。
「別に、大丈夫だ」
「顔色あんまりよくないですよ。具合悪いなら悪いって言えばいいのに」
「……人に酔っただけだ。いいから離せ」
「ごちゃごちゃ言わないで座っててくださいよ」
私何か買ってきます、わたあめだけじゃ足りないので。そんな言葉を残して、屋台へ向かう夜月。その背が完全に消えたのを確認して、僕は木の根元に腰を下ろした。さっきの人混みよりも全然涼しい。
人酔いなんて何年ぶりだ。……ポルトに初めて入った時以来か? 普段は家かポルト以外の場所には殆どいかないし、しかも漫画に集中しているからな。そんな言い訳じみたことを考えて、僕は顔を伏せる。
やっぱりこんな所になんか来なきゃよかったのだ。ネタ欲しさについてきたが、考えてみれば相模と南は付き合っている風ではなかった。この間家に来た時だって――と思い出そうとして、とっさにフラッシュバックしたのは、あの女の髪と冷めたココアの味。ああ、なんだかココアが飲みたくなってきた。屋台の方をちらりと見るが、さすがにココアなんて売っていないだろうな。
「……頭冷えました?」
「っ、」
「何ビックリしてんですか。あー、これ」
押し付けられた缶を覗く。……ココアだ。しかもホット。
「このクソ暑い中何でホットココアなんだと言う顔ですかそれは。嫌がらせですよ、いらなくても貰ってください」
私甘い飲み物飲めないんで。そっぽ向いてそんなことを零した夜月に、少しだけ面白くなる。
「いや、丁度ココアが飲みたいと思っていたんだ、もちろんホットでな。いい仕事をしたよ君は」
「……嫌味ですか?」
「本心さ」
夜月はイライラした様子で僕の隣に腰かけた。といっても地べただが。ん? そういやこの女、何か屋台で買ってくるって言ってなかったか。その手に握られているのはペットボトルのお茶だけだ。ココアと一緒に自動販売機で買って来たんだろう。
「おい君、屋台を見てくるんじゃなかったのか?」
疑問をそのままぶつける。夜月は答えずにそっぽを向いた。全く、腹が立つ女である。こんな時に雪乃がいてくれたら。そうだ、もしも隣にいるのが雪乃なら。そんな妄想が頭をよぎる。ありえないことではあるが、まあもしも。もしも雪乃なら何て返答するだろうか。頬を染めながら、明吉くんが心配で忘れてた、なんて言ってくれるんだろうか。
「猩々さんが心配で忘れてました……」
「……は?」
「元気になっちゃったらもうでかい顔できないじゃないですか。猩々さんが言い返してこないとか珍しいのに、って痛い! アンタついに手を出したな!? この暴力男!」
思わず拳を振りかぶった僕が悪いとは言わせないぞ。……脳内の雪乃と同じセリフを言うなんて、この女にはそんな役目勤まらない。役不足だ今すぐやめろ。記憶から消えろ、永遠に!
「暴力男……猩々さん? まだ具合悪いんですか? 私もうそろそろ看病飽きてきました」
もう一発殴ってやろうか。次は顔だ。




