Chapter11 vs負けず嫌い
「……相模くんが、真紀を好き?」
待ち合わせ場所である公園のベンチで、私は猩々さんに相談を受けていた。時刻は待ち合わせの十五分前だ。黒いパーカーにジーンズという真っ黒な格好で声をかけてきた猩々さんに、私は驚きつつも聞き返した。
「好きかどうかはわからない。ふざけて言っていたからな。しかし、相模自身の口から女とデートがしたい、という話を聞くのは初めてなんだ。それに僕はネタが欲しい!」
ニヤニヤと歪む口元を隠しもせずに、猩々さんは言った。真紀と相模くんが……あの二人本当に付き合ってなかったんだ。なるほど……私たちを無理矢理デートさせて、二人は二人でラブラブデートという訳か。ふぅん。
「……面白そうじゃないですかソレ。いいですよ、乗ります。真紀の方は任せてください」
「よし! まずはお化け屋敷だな」
ほうほう、お化け屋敷か。確かに、少女漫画の王道ではある。夏祭りと言えば金魚すくいとかも挙げられるが、金魚はすくったところですぐに死んでしまうから虚しい。
「お二人さん! お待たせ~」
「おっ、遅いよ二人とも!」
作戦がばれないように、猩々さんとは何も話していなかったように振る舞う。私は不機嫌そうに二人を睨んだ。猩々さんは何も話さないでムスッとしている。
「……るき、何で浴衣着てないの」
「明吉先輩もっスよ!着てきてっつったのに!」
「服装くらい僕の好きにさせてくれ」
「俺らだけ浴衣って……なんか浮くじゃないスか」
「大丈夫だよ相模くん! きっと浴衣の人たくさんいるよ!」
歩きながら、チラチラと出店を確認する。うわあ出店も結構高いなあ、今月の本は我慢しなきゃいけないかもしれない。ちらり、彼の方を見てアイコンタクト。まずはお化け屋敷だ。
「……うわ、すごい並んでるね。お化け屋敷かぁ。私怖いのは嫌だなし、ここは並ばなくていいよね?」
「え? でもるき、アンタホラー系好きじゃなかった?」
「っ、ほら! お化け屋敷とかって突然出てくるじゃん! ああいうのダメでさ。だからお化け屋敷はやめよう?」
あっぶねー真紀さん怖えー。必死で弁解すれば、相模くんが真紀に何かを耳打ちする。そうしてにっこりと笑ったまま言った。
「よっし、じゃあ行こうか! お化け屋敷!」
「えーやだってば!」
作戦通り……! しっかし、この長蛇の列に並ばなきゃいけないのか。面倒だなあ。スマホで漫画でも読んでようかな。いやでも、一応デートなわけだし。いくら気に食わないからと言って、一人でスマホとかいじってたら失礼にあたる気もする。猩々さんは相変わらず真顔だった。この人本当に楽しくなさそう。楽しくないか、そうか。後ろを見れば、真紀と相模くんが楽しそうに喋っている。うん、お似合いのカップルだ。二人とも示し合わせたかのように浴衣だし。
「猩々さん、暇なんですけど」
「うるさい」
うるさいと来たかこの男。何だ瞑想でもしてんのか?
「……い、いから構ってくださいよ」
「よく聞け、僕はうるさいと言ったんだ」
「だ、だ……だって帰りたいですよ私もう」
「ウザい」
「い……いやもうやめましょうコレ。あの、猩々さん。漫画、進んでますか?」
会話しりとりを打ち切って、私は猩々さんに尋ねた。というかこの人、意外にも乗ってくれた。びっくりしたよ私。
「描き続けてはいる。しかし少女漫画的イベントがあまり浮かばなくてな。今回こいつらのデートに同行したわけだ。まあ夏祭りと言えば定番中の定番だろう」
「うーん、デートネタですか……。でもヒロインたち学生ですよね? だったらまだ学校行事のイベントとかありそうじゃないですか? どこかにお泊り、なんてのも」
「もうそこらは一通り考えたんだ。でも高校生だけで泊りなあ……」
猩々さんの話にうんうん頷きながら、イベントについて考える。この時私は少女漫画の事しか考えていなかった。だから、後ろの話声が止まっていることにも、彼女らの視線がこちらへ向いていることにも気が付かなかったのである。




