Chapter10 済み印はしっかりどうぞ
「明吉先輩、デートするつもりありません?」
「……僕は今忙しい。戯言は一人で頼むよ」
戯言って明吉先輩、流石に酷くないっスか。ペンを走らせる先輩を横目で眺めながら、パラパラと部屋にある少女漫画を眺める。別に俺は少女漫画が好きなわけじゃないぞ。そもそもこの部屋には少女漫画と絵のサンプルの本しかないんだ。
「大体、早く帰れよ。何で僕の部屋に入り浸ってるんだ君は」
……それは。それは、真紀の考えたとある作戦のせいである。あいつはどうしてもるきちーに恋愛をさせたいみたいで、そのためにとにかく明吉先輩とデートをさせたいんだとか。まあ俺も、明吉先輩がるきちーとくっついてくれればすごく嬉しい。先輩も先輩で若干人間不信気味なところがあるから、そんな先輩に彼女の一人や二人――二人もいたらダメか。とにかく、彼女を作ってほしいのだ。というかこの歳になってもお付き合い一切ナシ、っていうのは問題アリだと思う。少女漫画家を目指す人としても、男としても。
「先輩。でも少女漫画においてデートって結構重要じゃないですか。そういう重要な行事は経験しといた方が良いっしょ?」
「……経験済みだ」
「はあ!?」
ちょっと予想外な返事である。明吉先輩が、デートをしたことあるだって? ということは彼女がいるってことか? 嘘だ!
「なんで明吉先輩みたいなヤツに彼女ができて、俺にできないんスか!」
「とんだ暴言だな! いいから君は帰れ、執筆の邪魔だ!」
「明吉先輩! 彼女紹介してくださいよ!」
「うるさいな、今はもういない! いいから君は帰れ、執筆の邪魔だ!」
……ってーことは、元カノってことか? いやそれでも羨ましい。チクショー、俺だってちょっと頑張れば彼女の一人や二人……。
「……明吉先輩、今元カノについて詳しく聞かれるのと、今週の土曜日ちょーっと女子とどこか行くの。どっちいいっスか?」
拳を握りながら尋ねる。俺だって……俺だって彼女くらい……!
「どっちも断る。大体な、この間の合コンもそうだが、僕は当分女と関わりたくはないんだ。あんな身勝手で面倒な生き物、こっちから願い下げだね」
「でもるきちーと漫画のネタ練ってる時は楽しそうでしたよね?」
「あれは……あの女が予想外に話についてこられたからだ。女だろうと男だろうと、ネタになりそうな話ができるのであれば利用する」
……うーん。この任務、難しそうだ。スマン真紀、最後の切り札使わせてもらう。
「お願いします、明吉先輩。このデート、真紀も来るんス」
「それがどうした」
「先輩とるきちーがデートすれば、真紀と俺もデートするってことになるっしょ。俺、真紀と夏祭りデートしたいな~」
先輩の筆が止まる。俺はしめたと思いながら、顔を伏せた。演技は上手い方じゃないけど、とりあえずこのまま貫き通そう。明吉先輩が、椅子ごとこちらを向く。俺は手元の少女漫画に目線を落としたまま。でも、何となく先輩の口角が上がるのがわかった。
「……ふん、いいだろう。丁度ネタに詰まっていたところだ。君たちのデート、ネタにさせてもらうぞ」
ニタリと笑った先輩に冷や汗をかく。……真紀、本当、申し訳ない。お前は巻き込んだが、この任務成功しそうだ。




