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その3

「交換条件?」

「はい。先輩が3日後の卒業式の日に、京介先輩に告白することができたら、僕はこの部活をやめるのをやめて再来年の卒業まで存続させてあげます。どうです?」

「却下」

「はあっ!? 良い条件ではないですか!! 先輩は京介先輩に思いのたけをぶつけられて気持ちよく卒業、部活は存続! それから僕だって……」

「僕だって……何よ」


 黙り込む絢也。蓋があけられたプレートから、餃子の香ばしい香りが漂ってくる。


「な、なんでもないです。と・に・か・く!! この好条件を飲んでくれないことには――」

「だから、却下!」


 良い具合に焦げ目のついた餃子が皿に綺麗に並べられていく。後は食べるだけ!


「だからどうしてなんですかっ!?」


 珍しく声を荒げて立ち上がる絢也に、私は少し驚きつつも言葉を返す。


「だって」


 その先、言ってもいいのかな?

 まあ、いいか。言ってしまえ。


「それは――――」

「それはさ、今この場に俺がいるからなんじゃないの?」


 さえぎるようにして聞こえてきた低い声。やっとしゃべったか、この無口。

 私は正面に座る人物に顔を向ける。


「そうなのよ。たった今会話の中で告白まがいのことを本人の前で堂々としちゃった手前、卒業式後に再告白なんてありえない」


 そうなのよね。ずっと正面にいたのよね。あんまりしゃべらないものだから、あんたの存在なんて忘れてやったわ。


「それもそうですね」


 絢也も納得したように大きく息をつき着席する。

 そう。初めから京介はこの場に、私の正面にどーんと座っていたのです。

 餃子を並べるまでが私と絢也の仕事。そして脂まみれの私達に代わり、火をつけて、油をひいて、水を入れて、蓋をして、焼き加減を確かめて、蓋をあけて、盛り付ける。それが彼の仕事。

 黙々と作業をする京介の存在なんて、誰が気にするっていうのかしら。もちろん私と絢也は知ってたわけだけど。まあ、今の話は当てつけみたいなものよね。校舎裏というあの神聖な場所であんなことをした彼への仕返し。どうだ、こんなシチュエーションで告白されて!!


「ん……? ってことはこの部活、続けないといけないんですか? 僕は料理研究部をやめるのをやめないといけないんですか?」

「そういうことね。あとは任せた絢也部長」

「うぐぐ……」


 最終的に勝ったのは私のようで。


「ほれ、二人ともとっとと手を洗ってきなさい。餃子が冷める」

「はーい」


 立ち上がった二人の返事が重なって食堂に響く。


「あ、ちょっと待った」


 ちょっと、早く手を洗いたいんだから、話しかけるな。呼びとめるな。


「なに?」

「あのさ、綾子。今の答えは卒業式が終わったらでもいいか?」

「別にいいけど、なんで?」

「いや、なんででも」

「ん?? まあ、いいけど」


 何か企んでいるんじゃないか、この男。


「それと絢也」

「なんでしょう」

「さっきの『僕だって』の続き、俺が当ててやろうか」

「どうぞ?」


 どこまでもふてぶてしく絢也は答える。


「ねえねえが京介先輩みたいな素敵な人と付き合えば、弟の僕としてはこの先安心、じゃないの?」

「ふん。どうだか。ねえね……綾子先輩なんかのことを、なんで僕が心配しないといけないんです」


 うわぁ。ちょっと絢也。今「ねえねえ」って。

 弟とは言え学校でそんな呼ばれ方したら恥ずかしいから、先輩呼びするように言ったのに。こんなとこでぼろをだすなよ!!

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