その4
そして3日後。桜も芽吹き始めた3月吉日卒業式。
私達は今日、新たな節目を迎えます。
今日で最後の制服の胸元には小ぶりのコサージュをつけて。校庭に体育館、古びた校舎。今まで当たり前にそこにあった何もかもが、明日からは思い出になってしまう。
後輩達から花束を受け取って涙する卒業生。後輩女子にボタンをもぎ取られ、見るも無残な野球部エース。教え子からの寄せ書きを手に目頭を熱くする熱血教師。
その中を一人すり抜けて、私はあの校舎裏へと向かう。
心臓が飛び出てしまいそう、とはこういう時に使うのが正しいのだろうか。
そこで私を待っているのはもちろん――。
待っているのはもちろん――――。
もちろん――――――。
「ちょっと待て。なんであんたがそこにいるのよ」
そこにいたのは、まぎれもなく、我が弟絢也であった。
「えーと」
「おい。アレはどこへ行った」
「あー。うん。ちょっと、ね」
どう見ても挙動不審な絢也。
「何? 何か知ってるなら言いなさいよ」
「う……うん」
歯切れの悪すぎる絢也は、下がった前髪の隙間から上目づかいに姉の私の顔色ををちらちらとうかがってくる。そんな仕草で見られても、可愛いなんて思わないから。私はブラコンじゃない!
「あのさ、ねえねえ。言いづらいけど、いってもいい?」
誰もいないからって「ねえねえ」とかいつもの呼び方で呼ぶんじゃない。若干照れるでしょうが。
「だからもったいぶらずに言えって言ってんの。早く吐け」
私に睨みつけられ、絢也は一呼吸置いてから意を決したように口を開いた。
「京介先輩なんだけど、返事するのやっぱやめるってよ」
「はあっ!? なんなのそれ! どういうこと!?」
またやられた。やられたのか?
え? もしかするとこれが答え? いや違うだろう。
その証拠とばかりに、絢矢が腹を抱えて笑っている。
「いや。京介先輩がさ、内密な話だからここでって」
「んなことは聞いてない! あんた達いい加減にしなさいよ!!」
「いい加減にって、僕は伝言を伝えたまでで……」
「うるさい。あとで、覚えてなさいよ。京介ともどもおろし金にかけて、餃子の薬味にしてやるんだから!!!」
おかしな捨て台詞を吐いて、私はその場からクラウチングスタートからの猛ダッシュ。
勿論めざすは彼のいるところ。
どこにいたって追いかけて探し出して、校舎裏に引きずり出してやるんだから。
そしてしっかりきっちりこの場所で言わせてやるんだから。
首を洗って待ってろよ。
そんなこんなで最終話。続きそうですが、続きません。
言うべき時には言わない京介。言う場じゃないのに言ってしまう綾子。
続きはご想像にお任せします。
これを読んだ友人に「綾子って結衣(仮名)ちゃんじゃん」と言われてしまったのですが、私はあんなんじゃありません(笑)
お読みいただきありがとうございました。




