↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
序幕 出会いは森の中

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/27

シーン2:盗賊退治

街道では、オーディビルへ向かう定期馬車が、十人ほどの野盗に行く手を阻まれていた。



乗客たちは馬車から引きずり降ろされ、突きつけられた剣に怯えながら、財布や装飾品を差し出している。



粗暴な野盗:「おい。お前も出ろ」



幌馬車の荷台へ、二本の剣が向けられた。



リーア:「……」



その間を縫うように、深くフードを被った女がゆっくりと降りてくる。



小柄な野盗:「有り金、全部出しな」



小柄な野盗が剣を突きつけ、空いた手を差し出した。



リーアは、その手へちらりと目を向ける。



小柄な野盗:「なっ……」



男の足が、わずかに後ろへ下がった。



リーア:「なんだい。あたしから金を取ろうっていうのかい」



リーアは懐から小さな酒瓶を取り出し、何事もないように一口あおった。



粗暴な野盗:「な、何だと」



小柄な野盗:「な、なんだ……こ、この女……」



二人の手が震える。



それでも、剣だけはリーアへ向けたままだった。



リーア:「持ってけ。全財産だ」



懐から取り出した革袋を、二人の足元へ放り投げる。



チャリン。



袋の中で、硬貨が乾いた音を立てた。



二人はしばらく動かなかった。



やがて粗暴な野盗が袋へ飛びつき、ひったくるように拾い上げる。



リーアを睨みつけたまま、小柄な野盗と共に仲間のもとへ戻っていった。



その時だった。



子供:「わああん!」



大柄な野盗:「うるせぇガキだな!」



子供の泣き声に、野太い怒鳴り声が重なる。



リーア:「……」



リーアがそちらへ目を向ける。



戦斧を担いだ大柄な野盗が、幼い子供を抱く母親の前に立ちはだかっていた。



母親:「や、やめてください」



母親は青ざめた顔で、泣き叫ぶ子供を胸へ抱き寄せる。



だが、子供はますます激しく声を上げた。



大柄な野盗:「とっとと黙らせろ。耳障りなんだよ」



大柄な野盗が戦斧を振り上げる。



母親は子供を庇うように背を丸め、固く目を閉じた。



その前へ、リーアが滑り込む。



大柄な野盗:「なんだぁ、お前……うぐっ」



リーアの手が、男の喉を掴んだ。



そのまま片腕で持ち上げる。



大柄な野盗の両足が、地面から離れた。



リーア:「うるせぇのは、あんただよ」



大柄な野盗:「がっ……」



男は顔を歪め、リーアの腕を掴む。



だが、その身体はびくともしない。



野盗のリーダー:「なんだ。どうした!」



野盗のリーダーが駆け寄り、残る野盗たちも次々とリーアを取り囲む。



リーア:「……」



リーアは男の喉を掴んだまま、リーダーへ視線を向けた。



野盗のリーダー:「ぐっ……」



リーダーの足が止まる。



野盗のリーダー:「なんだ、この女……」



リーアはリーダーから視線を外し、吊り上げた男へ戻す。



そして、男の喉を掴む指に力を込めようとした――その瞬間。



ガシッ。



リーア:「……」



横から伸びた手が、リーアの手首を掴んでいた。



野盗のリーダー:「てめぇ、いつの間に……」



リーアがフードの奥から目を向ける。



いつの間にか、その隣にはレックスが立っていた。



レックス:「もう、そのくらいにしとけ」



リーア:「……」



レックス:「こいつを殺す気か」



リーアはレックスを一瞥し、鼻を鳴らした。



リーア:「ふん。別にいいだろ」



レックス:「させねぇよ」



レックスの指が、リーアの手首へ食い込む。



リーア:「……」



二人の視線がぶつかった。



その時だった。



ヴィヴィン――。



静かなリュートの音色が、張り詰めた空気の中へ流れ込む。



レックス:「……ん?」



リーア:「……何?」



二人が同時に音の方へ顔を向ける。



リュートを爪弾きながら、ミアラが野盗たちの間を歩いてきた。



野盗のリーダー:「また、変な奴が……」



ミアラはリーダーの横を素通りし、泣き続ける子供の前へ向かう。



柔らかな音色に包まれ、子供の泣き声が少しずつ小さくなっていった。



子供:「うああぁ……ぁ……」



やがて子供はしゃくり上げながらも、母親の胸元で静かになる。



父親:「お前たち!」



野盗たちの背後から、父親が飛び出してきた。



子供:「パパ!」



母親:「あなた!」



父親は二人のもとへ駆け寄ると、妻と子供を抱き寄せる。



そして、三人で身を寄せ合いながら、野盗たちから離れていった。



ミアラ:「もう、ダメだよ。二人とも」



ミアラが腰に手を当て、レックスとリーアを交互に見上げる。



ミアラ:「みんな、怖がってるじゃないか」



レックス:「そうだね。悪かったよ」



レックスはあっさりとリーアの手首を離した。



リーア:「……」



リーアもしばらくレックスを見ていたが、やがて大柄な野盗の喉から手を離す。



大柄な野盗:「ひっ……!」



地面へ落とされた男は尻もちをつき、そのまま慌てて仲間のもとへ逃げていった。



野盗のリーダー:「て、てめぇは……」



リーダーがレックスの顔を見て、目を見開く。



レックス:「ん? なんだよ」



野盗のリーダー:「昨日は、よくもやってくれたな!」



リーダーが剣先をレックスへ向ける。



周囲の野盗たちもざわめきながら集まり、レックスたちを取り囲んだ。



レックス:「ああ。昨日の奴らか」



レックスは耳をほじりながら、野盗たちを細い目で見回す。



レックス:「まだ、こんなことやってんのか。暇な奴らだな」



ミアラ:「知り合いなの?」



レックス:「昨日、ぶちのめした奴らだよ」



ミアラ:「へえ。そうなんだ」



ミアラは興味なさそうに答えた。



野盗のリーダー:「今日は昨日みてぇにはいかねぇぞ」



リーダーがレックスを睨みつける。



それを合図に、取り囲んでいた野盗たちが一斉に武器を構えた。



レックス:「やれやれ」



レックスは呆れたように野盗たちを見回す。



レックス:「結局、またぶちのめされたいわけね」



左の拳を、右の手のひらへ打ちつけた。



リーア:「手伝ってやろう」



レックス:「えっ?」



レックスは思わずリーアを見た。



フードに隠れて表情はよく見えない。



だが、その口元はわずかに笑っているようだった。



レックス:「変な子だな……」



小さく呟き、再び野盗たちへ視線を戻す。



レックス:「いいよ。すぐに片付くから」



リーア:「あんたの意見は聞いてない」



リーアはレックスの隣へ並ぶ。



レックス:「ああ、そうですか」



少しむっとした様子で、レックスは眉を寄せた。



レックス:「じゃあ、ちゃんと手加減してくださいよ」



リーア:「努力はしてみる」



野盗のリーダー:「てめぇら、なめてんじゃねぇ!」



リーダーが長剣を振りかぶり、レックスへ斬りかかる。



だが――。



振り下ろされた刃を、レックスは二本の指で挟み込んだ。



ピタリ。



野盗のリーダー:「なにっ!」



リーダーが両腕に力を込める。



しかし、刃はびくともしない。



レックス:「そう慌てなさんな」



レックスは剣を挟んだまま、ミアラへ顔を向けた。



レックス:「ミアラさん。一曲頼むよ」



ミアラ:「あいよ」



ミアラがリュートを構える。



レックス:「さあ、始めようか」



ヴェヴェヴェヴェン――。



軽やかな音色が街道に響き渡る。



ミアラは弦を爪弾きながら、楽しげに歌声を重ねた。



野盗のリーダー:「野郎ども! やっちまえ!」



野盗たちが一斉に襲いかかる。



レックスとリーアは左右へ踏み出し、降り注ぐ刃の間をすり抜けた。



リュートの調べに合わせるように、二人の身体が軽やかに舞う。



拳がうなり、短剣が閃く。



街道を舞台に、二人と野盗たちの大立ち回りが始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。