シーン1:森の中の出会い
ロールブレア王国の王都、オーディビルへと続くアーカストの森。
木々の隙間から陽光が差し込む小道に、リュートの音色が響いていた。
ミアラ:「それっ!」
赤毛の三つ編みを揺らし、小人族の少女が弦を強くかき鳴らす。
リュートから放たれた音の波が、飛びかかってきた魔物を正面から吹き飛ばした。
魔物は地面を転がり、道端の木にぶつかって動かなくなる。
ミアラ:「ふう……」
ミアラ・リードは額の汗を拭い、リュートを背負い直した。
小さな身体には、パンパンに膨れ上がった大きなリュックも背負われている。
後ろから見れば、まるでリュックが一人で歩いているようだった。
レックス:「君、強いんだね」
突然、背後から声をかけられ、ミアラは振り返った。
ミアラ:「えっ?」
振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。
大柄な体格をしているが、その顔立ちは穏やかで、どこか人懐こい笑みを浮かべている。
ミアラ:「こんにちは」
ミアラが軽く頭を下げる。
青年もにっこりと笑い、同じように頭を下げた。
レックス:「こんにちは」
ミアラ:「さっきの、見てたんだ」
レックス:「ああ。ちょうど後ろからね」
レックスは地面に倒れている魔物と、ミアラの持つリュートを交互に見た。
レックス:「でも、楽器を使って魔物を倒す冒険者なんて、初めて見たよ」
ミアラ:「そりゃ、そうだよ」
ミアラは得意げに胸を張る。
ミアラ:「そんなことができる吟遊詩人は、わたしくらいだからね」
レックス:「へえ、そうなんだ」
感心しているのか、呆れているのか。
レックスは額にうっすら汗を浮かべながら、苦笑した。
ミアラ:「その顔、信じてないでしょ」
レックス:「いや、信じてるよ。実際に見たからね」
ミアラ:「なら、よし」
ミアラは満足そうに頷いた。
レックス:「ところで、俺はオーディビルへ行くところなんだけど……君も同じ方向なら、一緒にどうだい?」
ミアラ:「いいよ。わたしもオーディビルへ行くところだから」
迷う様子もなく、ミアラは答えた。
そして右手を差し出す。
ミアラ:「わたしはミアラ・リード。あなたは?」
レックス:「レックス・アーポットだ。よろしく、ミアラさん」
レックスは差し出された手を握った。
ミアラ:「よろしく、レックス君」
レックス:「……へえ」
手を離したあとも、レックスはどこか不思議そうにミアラを見ていた。
ミアラ:「ん? 何か変だった?」
レックス:「いや。君は、ほかの人とはずいぶん違うんだなと思ってさ」
ミアラ:「そう? 普通だと思うけど」
ミアラはきょとんと首を傾げる。
レックス:「俺の両親は、結構有名な冒険者なんだ」
ミアラ:「知ってるよ。アーポット夫妻でしょ」
レックス:「なんだ。知ってたのか」
レックスは少し拍子抜けしたように眉を下げる。
レックス:「それにしては、ずいぶん反応が薄いね」
ミアラ:「だって、わたし、そういうのに興味ないんだよ」
ミアラはあっさりと答え、肩をすくめた。
レックス:「吟遊詩人がそれでいいのか?」
ミアラ:「いいんだよ」
ミアラはにっこりと笑う。
ミアラ:「興味がなくても、吟じればお金になるでしょ」
レックス:「そういうもんかね」
そのときだった。
森の向こうから、馬の甲高い鳴き声が響いてきた。
二人は同時に顔を上げる。
続いて、何かが倒れるような鈍い音と、人々の叫び声がかすかに聞こえてきた。
レックス:「向こうの街道からだ」
レックスの表情から笑みが消える。
レックス:「何かあったな」
ミアラ:「行ってみよう」
レックス:「ああ」
二人は顔を見合わせて頷くと、声の聞こえた方角へ駆け出した。




