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カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭  作者: 春夏かなた
第7幕 幕が下りた、その後に

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シーン3:新たなる旅へ

ソフィは短剣の柄を固く握り締め、自分を取り囲む四人へ鋭い視線を巡らせた。


ソフィ:(ただ者じゃない……! 一筋縄ではいかない連中よ)


百戦錬磨の風格を漂わせる、エルフの大剣戦士。


小柄な身体に凄まじい破壊力を秘めた、小人族の格闘家。


端正な執事服をまとい、隙なく槍を構える男。


そして、大気を震わせるほどの魔力を静かに滾らせる魔術師。


種族も得物も、立ち振る舞いさえ異なる傭兵たち。


その誰に背を向けることもできず、ソフィは身構えたまま動けずにいた。


ホッパー:「おや、どうやらあんたらの大将はやられちまったようっすね」


エルフの大剣戦士が、ソフィの背後へ目を向ける。その口元には、薄い笑みが浮かんでいた。


ソフィは四人を警戒しながら、わずかに顔を後ろへ向けた。


遠くに、黒い煙が立ち昇っている。


ソフィ:「……隊長」


かすかな呟きが、唇から漏れた。


サーレイン:「それで……あなた、これからどうするおつもりかしら?」


後方に佇む魔術師が、冷ややかに問いかける。


ソフィ:「……どうするつもり、ですって」


ソフィは再び正面へ向き直った。


短剣を握る手に、力がこもる。


ソフィ:「ロールブレアに仕えろとでも」


ウィリアム:「ロールブレアではない」


ソフィ:「!」


ホッパーの背後から、大柄な男が姿を現した。


上等な服を着込んでいるが、その顔には見覚えがある。


ソフィ:「あんたは、確かウィリアム……」


ウィリアム:「ゼクレス。ウィリアム・ゼクレスだ」


ソフィ:「……ゼクレス」


その名を口にしたソフィの目が、大きく見開かれた。


ソフィ:「……大貴族様が、私に何の用なの」


額に冷たい汗を浮かべながら、ソフィはウィリアムを睨みつけた。


ウィリアム:「そんな怖い顔するな。スカウトだよ」


ウィリアムは両手を軽く上げ、にやりと笑う。


ソフィ:「スカウト?」


ウィリアム:「君にガイザー・インの一つを任せたいんだ。悪い話ではないだろ」


ソフィ:「任せたいって……私は暗殺者よ」


ウィリアム:「だから、いいのさ。君くらい腕の立つ人間を探していたんだよ」


ソフィ:「……」


ソフィは言葉を詰まらせ、顔を伏せた。


ウィリアムはしばらくその姿を見つめていたが、やがて軽く肩をすくめる。


ウィリアム:「まあ、無理強いするつもりはないよ」


そう言って、踵を返した。


ウィリアム:「気が向いたら、ガイザー・インまで来てくれ。歓迎するよ」


返事を待たず、ウィリアムは歩き出す。


ソフィを囲んでいた四人も武器を収め、彼の後に続いた。


ソフィ:「……」


その場に立ち尽くしたまま、ソフィは遠ざかる背中を見送っていた。


背後が、にわかに騒がしくなる。


ソフィは顔を上げた。


そして、ウィリアムたちを追って駆け出した。


                ♢

赤茶けた荒野に広がる、ロールブレア軍の駐屯基地。


絶対的な支柱であったヴィクター・アーツマンを失い、失意に沈む「エルーデの残党」たちが、ここに集められていた。


基地の最奥にある一室で、リーアは冷たい壁に背を預け、膝を抱えて座り込んでいた。


静寂の中、鍵を開ける金属音が響く。


重い扉が軋みながら開き、クインが足を踏み入れた。


リーアは顔を上げない。項垂れたまま、床の一点を見つめている。


クイン:「食わないのか」


卓上に残された手つかずの料理へ目をやり、クインが静かに声をかける。


リーア:「……」


リーアはゆっくりと顔を上げ、虚ろな目を向けた。


リーア:「……いつまでここにいるつもりだ」


長く黙っていたせいか、その声は掠れている。


リーア:「ロールブレアに連れていくんだろ」


投げやりに言い、抱えた膝に顎を埋める。


クイン:「そのことなんだが……」


クインは言い淀み、背後の扉へと視線を送った。


クイン:「実は、君に会いたいという人が来ている」


リーア:「あたしに……会いたい人?」


膝を抱えていた腕が、わずかに緩む。


リーア:「まさか、あいつが……」


再び、扉が軋んだ。


リーアは顔を上げ、クインの向こうへ目を凝らす。


胸の鼓動が、急に速くなっていた。


だが、入ってきた人物を目にした途端、その肩ががくりと落ちる。


クリス:「やあ……僕じゃ、期待外れだったかな」


クリスは入口に立ったまま、申し訳なさそうに苦笑した。


リーア:「……別に。誰も期待なんてしてないし」


リーアは再び膝を抱え直すと、わずかに赤くなった頬を隠すように、ぷいっと横を向いた。


クインはクリスに軽く頭を下げると部屋から出ていった。


リーア:「……何の用だよ。王子様」


頑なに横を向いたまま、棘のある声で吐き捨てる。


クリス:「ロールブレアへ向かうのは、やはり気が進みませんか?」


クリスは穏やかな笑みをたたえ、柔らかい声で問いかけた。


リーア:「……嫌ってわけじゃない」


抱え込んだ膝の上で両手を開き、その手のひらをじっと見つめる。


リーア:「ただ……もう二度と、国のためにこの力を使いたくないんだ」


その言葉を受け止め、クリスは深く静かに頷いた。


クリス:「ええ。一つの国家が独占するには、あまりにも大きすぎる力ですから」


リーア:「え……?」


予想外の返答に、リーアは思わず顔を上げた。


クリス:「これからは、あなたの大切な人のために使ってください。……例えば、レックスさんとか」


クリスは悪戯っぽく目を細める。


リーア:「なっ……! な、なにいってるんだよ、お前は!」


頬が一気に朱に染まり、リーアはわかりやすくうろたえた。


クリス:「我が王ジョッシュ・ロールブレアは、エルーデを解き放ちました。だから、あなたが誰のために力を使うかは、もうあなたの自由なのです」


リーア:「……本当にいいんだな。それで」


クリス:「もちろんです。その代わり、我々があなた方を不当に縛ることも、過剰に庇護することもしません」


クリスは穏やかだが力強い眼差しで、まっすぐにリーアを見つめ返す。


クリス:「すべての人間が自由であること。それこそが、あなたのお祖父様が何よりも望んでいた世界ではありませんか?」


リーア:「……」


息を呑んだリーアは固く唇を結び、やがて、ゆっくりと立ち上がった。


クリス:「他の方々は、すでにそれぞれの道を歩み始めています。残っているのは、あなただけですよ」


リーア:「……」


リーアは自嘲めいた笑みを浮かべ、うつむいた。


クリス:「ひとりで歩き出すのが、怖いですか?」


リーアははっと顔を上げる。


しばらくクリスを見つめたあと、わずかに目を伏せた。


リーア:「……ずっと、大勢の仲間に囲まれて生きてきたからな」


クリス:「それなら、心配いりません。僕たちがいます」


リーア:「僕たち……?」


そのとき、背後で扉が開いた。


振り返ったリーアの目に、ミアラとワードックの姿が映る。


ミアラ:「リーアちゃん」


ミアラはぱっと顔を輝かせると、駆け寄ってリーアをぎゅっと抱きしめた。


リーア:「あ、あんたたち、なんでここに……」


抱きしめられたまま、リーアは戸口に立つワードックへ目を向ける。


それから、戸惑うようにクリスを見た。


クリス:「僕たち、旅に出ることにしたんです。この広い世界を、自分たちの目で知るために」


クリスは微笑み、リーアへ手を差し出す。


クリス:「一緒に来てくれますか、リーア・オルディル」


リーア:「……」


リーアは差し出された手を見つめた。


何か言いかけた唇が、かすかに震える。


それでも、やがて口元に笑みがこぼれた。


リーアはミアラの背にそっと片手を添え、もう片方の手をクリスへ伸ばす。


その手を握り、深く、頷いた。



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