エピローグ
あれから、二年半の月日が風のように過ぎ去っていきました。
旅の終わりと新たな始まりを告げるように、僕たちはロールブレアの地に帰ってきました。
今、僕たちの視線の先にあるのは、数多の冒険者たちが集う活気あふれる街、レクリコスです。
クリス:「結構、大きな街ですね」
ワードック:「ふむ、このレクリコスはのう、ロールブレアが築かれる遥か昔から、数多の猛者を受け入れてきた歴史ある街なんじゃ」
クリス:「へえ! ワードックさんは以前にも来られたことがあるんですか?」
ワードック:「もちろんじゃとも。わしがまだ青く、血気盛んだった頃の昔話じゃがな」
楽しそうに会話を弾ませる二人の背後で、リーアはだるそうに大きなあくびを噛み殺しながら歩いていた。
ふと気になって隣を確かめると、いつもすぐ側にいたはずのミアラの姿がない。
足を止めて振り返ると、ミアラは大通りから少し外れた場所で佇み、吸い寄せられるように何かを見上げていた。
リーア:「どうしたんだよ、ミアラ? 何か珍しいものでもあるのか?」
ミアラ:「あ……リーアちゃん、見て!」
ミアラはパッと表情を明るくさせ、リーアの方へ振り返った。
リーア:「早くしないと置いてくぞ」
視線をやると、クリスとワードックの背中はすでに人ごみの先へと遠ざかっている。
二人は昔話に花を咲かせるのに夢中で、こちらが遅れていることにまるで気づいていないようだ。
ミアラ:「ねえ、リーアちゃん! あれ見てよ!」
ミアラは興奮を隠せない様子で、小道の奥に佇む古い建物の看板を指さした。
年月にさらされ味わいを増した木の看板には、力強い字で『アーポット亭』と刻まれていた。
リーア:「……アーポット……」
その名を目にした瞬間、リーアは気まずそうに呟いた。
ミアラはそんなリーアの顔を覗き込み、表情の変化を見逃さなかった。
ミアラ:「ちょっと近くまで行ってみない?」
ミアラは優しく微笑みかける。
リーア:「あ……うん、そうだな」
どこか戸惑いと躊躇いを滲ませながらも、リーアは小さくうなずいた。
二人は足早に通りを横切り、静まり返った店の前へと近づいていく。
しかし、重厚な木製の玄関ドアの前に立った瞬間、二人の足がぴたりと止まった。
堅く閉ざされた扉には、『閉店』の札が冷ややかにつるされていた。
ミアラ:「……なんだ、閉店だって」
リーア:「……みたいだな」
失望の声とは裏腹に、リーアの瞳には密やかな安堵の情が浮かんでいた。
リーア:「さ、行こうぜ」
ミアラ:「う、うん……」
気落ちしたミアラは、わかりやすく肩を落とし、うつむいてしまった。
ミアラはちらりと呼び鈴へ目を向けた。
その様子にリーアは目を細めた。
リーア:「だいたいあいつの親父さんは、名だたる大冒険者なんだぞ? こんなところで宿屋なんてやってないだろ」
リーアは苦笑いを浮かべながら、ミアラの肩をぽんと優しく叩いた。
リーア:「それにさ……」
そう言いかけて、リーアは年季の入った建物を見上げた。
リーア:「仮にここがやっていたとしても、あいつが今もここに居るとは限らないんだから」
言い聞かせるようなリーアの横顔を見つめ、ミアラの表情にふっと明るさが戻る。
ミアラ:「ふふ、そっか。うん、そうだよね!」
リーア:「ほら、早く行こう! モタモタしてると、あの二人に酒を全部飲まれちまう!」
ミアラ:「あはは、リーアちゃんったら結局それなんだから!」
和やかな笑い声を響かせながら、二人はアーポット亭をあとにした。
遠ざかっていく二人の後ろ姿を怪訝そうに見送りながら、一人のすらりと背の高いエルフが玄関へと歩み寄る。
セドウィック:「おや……閉まっているな。留守なのだろうか?」
セドウィックは困ったように呟くと、金色の髪をかき上げた。
ダメ元で、彼はドアの脇にある呼び鈴をそっと鳴らしてみる。
澄んだ鈴の音が響いたあと、静寂を破るように奥から足音が近づき、ガチャリと鍵が解除される音がした。
ゆっくりと開いた扉の隙間から顔を出したのは――紛れもなく、レックスだった。
レックス:「おや、お久しぶりですね、セドウィックさん」
カーテン・コール/冒険者の宿屋アーポット亭 完




